近年、採用活動において「カジュアル面談」を取り入れる企業が増えています。カジュアル面談の目的、面接との違い、活用されている理由、実施メリット、事前準備、進め方、運用のポイントなどについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
カジュアル面談とは
企業が面談を行う目的は、求職者と企業が対等な立場で相互理解を深めることにあります。多くの場合、企業が求職者に対して、事業内容や組織、仕事内容、待遇、福利厚生、募集背景などを説明した上で求職者からの質問に答えるという形がとられます。
応募前に行われる面談は「カジュアル面談」と呼ばれることもあり、企業と求職者がお互いにリラックスした状態で、相互理解を深める場として活用されます。
採用活動における「面接」と「面談」の違いは「選考するかどうか」という点にあり、必要に応じて面談を選考の途中段階で設けることもあります。
カジュアル面談の目的・ゴール
カジュアル面談は、前述の通り求職者と企業が相互理解を深め、「互いにマッチするかどうか」を確認し合うことを目的としています。企業側としては、自社をアピールすることで興味や好印象を持ってもらい、応募へと促します。
一方、選考の途中段階で面談を実施する場合、求職者の懸念や不安点を解消することを目的とするケースが多く見られます。
カジュアル面談と面接との違いは?
選考前に行われる「カジュアル面談」と選考の一つとして行われる「面接」。双方の異なるポイントは以下の通りです。
履歴書・職務経歴書は不要
カジュアル面談では、求職者に対して履歴書・職務経歴書の提出を求めないのが一般的です。求職者としては、履歴書・職務経歴書を準備しなければならないとなると手間がかかり、カジュアル面談参加へのハードルが高くなってしまいます。また、「選考」感が出て身構えてしまい、リラックスして話せなくなる可能性があります。
服装は自由
カジュアル面談では、求職者に自由な服装で参加してもらうことが多いようです。面接は企業の面接担当者も求職者も、実際に働く服装で臨むケースが見られますが、カジュアル面談の場合は、よりリラックスした状態で参加できるように、オフィスカジュアルなど双方自由な服装で臨むようにしてもいいでしょう。
選考の合否判定がない
面接は「選考」であり、応募者に対し、「採用ポジションの業務を遂行するための経験・スキルを持っているか」「自社の社風になじめるか」などを見極めて採否の判断をします。一方、カジュアル面談では、「企業と求職者が相互理解をする」ことを目的とし、採否の判断はしません。
多様なポジションの人が担当する
面接の場合、ある程度担当者が決まっていることが一般的です。例えば、一次面接~二次面接は人事担当者や採用部門の役職者、最終面接は企業規模によって、採用部門の責任者(部長クラスや担当役員など)や経営陣が行うケースが見られます。
一方、カジュアル面談では、求職者の経歴や志向に合わせて多様なポジションの人が担当します。
カジュアル面談が近年注目されている背景
近年、労働人口の減少に伴い、人材獲得競争が激化しています。そこで、少しでも多くの求職者と接点を持つため、従来とは異なる方法で求職者にアプローチすることが重要になっています。選考を伴わない面談は、求職者にとって面接よりも参加のハードルが下がるものです。企業によっては、応募前に気軽に自社を知ってもらう機会の一つとしてカジュアル面談を活用しています。
また、面接の限られた時間内では、自社にマッチする人材かどうかを見極めるのは難しいケースも少なくありません。入社後にミスマッチに気付くような事態を避けるためにも、面接を補完するために面談が活用されています。
カジュアル面談のメリット
カジュアル面談を行うメリットをご紹介します。うまく活用することで次のような効果を得られることが期待できます。
企業と求職者双方のミスマッチを防止できる
カジュアル面談というスタイルであれば、面接のような緊張感がなく、お互いにリラックスして対話することができます。それによって求職者の「本音」「率直な気持ち」を引き出しやすくなるため、その後の選考や採用後にミスマッチが生じにくくなるでしょう。
優秀人材やハイクラス層にアプローチできる
市場価値が高く転職先の選択肢が豊富にある人材やハイクラス層を採用ターゲットとしている場合、自社に応募してもらう難度が高い場合もあります。しかし、カジュアル面談を提案することによって対話の機会を得られれば、自社の魅力や入社するメリットをアピールし、興味を持ってもらえる可能性があります。
転職潜在層にもアピールできる
今すぐ転職するつもりはないものの「チャンスがあれば転職してもいい」と考えている「転職潜在層」に対するアプローチが可能です。「応募」はハードルが高くても、カジュアル面談であれば比較的気軽に応じてもらいやすく、自社をアピールするチャンスを得られます。
カジュアル面談を実施することが有効なケース
次のようなケースでは、カジュアル面談が効果を発揮する可能性があります。
ダイレクトリクルーティングを行う場合
スカウトサービスの活用、リファラル採用、ソーシャルリクルーティングといった「ダイレクトリクルーティング」を行う場合、対象となるのは転職意思が固まっていない「転職潜在層」であるケースも少なくありません。
上記のような転職潜在層に対しては、選考前にカジュアル面談を活用して自社を知ってもらい、興味を持ってもらうことで応募意欲を高められる可能性があります。
選考辞退・内定辞退が予測される場合
選考が進んでいる応募者に対しても、面談は有効です。面接で高く評価し「ぜひ入社してほしい」と考えている応募者について、自社への理解がまだまだ不十分で次の選考へ進む意欲が落ちている場合、面談を行ってフォローすることができます。
また、応募者が何らかの不安を感じている場合、属性やバックグラウンドが近いメンバーとの面談をセッティングすることで、懸念点を解消できる可能性があります。
カジュアル面談の事前準備
カジュアル面談で効果を得るためには、事前の準備が重要です。面談当日までに行うべき準備についてお伝えします。
募集部署に求める人材の経験やスキルについてヒアリング
募集部署にヒアリングを行い、どのような経験・スキルを持つ人材を求めているのか、どのような役割を期待しているのかを把握しておきましょう。それを踏まえて求職者と対話すれば、双方のニーズがマッチするかどうかを判断できますし、求職者から質問を受けた場合にも適切な回答がしやすくなります。
求職者への質問内容を用意しておく
求職者に合わせて質問内容を用意しておきます。「カジュアル面談に応じた理由・目的」「現職の状況」「キャリア観」「転職への意向」など。ただし、面接でするような質問を投げかけると、求職者は選考・評価されているような気分になり、本音を話しづらくなる可能性がありますので注意が必要です。
事前に自社を紹介する資料を渡しておく
カジュアル面談前に、メールなどで自社サイトのアドレスや自社を紹介する資料などを送っておきましょう。自社の基本的な情報を理解しておいてもらえれば、面談当日は資料にはない詳細な情報の説明や気になるポイントの確認に時間を使うことができます。アピール用の動画などを用意するのも有効です。
カジュアル面談の進め方
カジュアル面談当日の進め方は、以下を参考にしてください。
アイスブレイク・自己紹介
カジュアル面談とはいえ、お互いに緊張していることも多いため、アイスブレイクの会話や自己紹介などで場を和ませましょう。趣味の話題なども交えることで、リラックスした雰囲気をつくることができます。
面談の目的共有
カジュアル面談の目的を共有します。選考ではないこと、相互理解を深めるのが目的であることを明確に伝えておきましょう。
求職者の状況・ニーズなどをヒアリング
求職者の現在の状況を確認します。「転職活動を進めている」「転職に関する情報収集をしている」「いずれ転職を視野に入れているが、すぐには考えていない」など。求職者の状況によって提供するべき情報が異なるため、現在の状況を踏まえ、このカジュアル面談に参加した意図や求めている情報を確かめてください。
求職者のニーズに合った企業説明
「事業戦略」「労働環境」「キャリアパス」など、求職者の希望や興味の対象に合わせ、自社の説明を行います。途中で不明点がないかを確認しながら、求職者の反応に合わせて情報を提供しましょう。
求職者との質疑応答
求職者から質問を受け、回答します。「気になることがあれば何でも聞いてください」と投げかけ、質問しやすいようにしましょう。
今後のスケジュール確認
面談後、求職者が応募する意向を示したら、応募の手続きや選考のスケジュールを伝えます。
カジュアル面談を運用する際のポイント
カジュアル面談を運用する際には、次のポイントを意識することが重要です。
求職者の質問に答えられる同席者のアサイン
求職者のニーズに合わせて面談の担当者を選定します。例えば、「事業戦略や今後のビジョンについて聞きたい」求職者には経営陣、「仕事に関する具体的な内容や進め方を知りたい」求職者には採用部署の責任者、「人事評価や働き方の制度が気になる」求職者には人事担当者といったように、求職者の質問に答えられる人をアサインしましょう。
特にエンジニアなど専門性が高い職種については、具体的な仕事内容の説明や専門用語への対応ができる採用部門の社員が対応することが重要です。
事前準備をしっかり行う
求職者が「企業の説明を受けても魅力を感じ取れない」「質問をしても納得のいく答えが得られない」となると、応募する気にはなれないでしょう。せっかくの機会を損なわないためにも、先に挙げた「事前準備」をしっかりと行ってください。
志望動機を聞かない
企業側の面談担当者がカジュアル面談の意義や目的を理解していないと、選考を行う面接と同様の質問をしてしまうことがあります。特に「志望動機」を尋ねると、求職者は面接を受けているような気分になり、心証を損ねる可能性があるため、注意が必要です。
選考や合否と受け取られるような発言をしない
求職者の経験や志向性などが自社にマッチするのではないかと感じた面談でも、求職者理解が進んだことへの所感を述べるに留めます。面談後に応募するかしないかの判断は、求職者に委ねるようにしましょう。
カジュアル面談の負荷を最小限にするための工夫が大切
カジュアル面談の実施が増えれば、採用担当者や現場部門の面談担当者なども負荷が増します。次のような工夫により、なるべく負荷を最小限に抑えつつ応募につなげましょう。
- カジュアル面談の時間は短めに設定する(15分~30分など)
- 現場社員による面談・面談同席が多くなった場合は、業務負荷とならないように、上位役職・重要ポジションなどの採用に限定するなどの調整を行う
- Webで共有できるスライド資料や動画などを作成し、求職者には事前に見てもらうように伝え、面談当日は基本情報の説明を省略できるようにする
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。