フレックスタイム制

働き方改革、コロナ禍でのテレワーク拡大に伴い、フレックスタイム制を導入する企業が多数見られます。フレックスタイム制度の仕組み、導入するメリット・デメリット、向いている業種・職種、勤怠管理のポイントなどについて、社会保険労務士・岡佳伸氏が解説します。 

フレックスタイム制とは 

フレックスタイム制とは、「一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度」を指します(厚生労働省による定義)。 

例えば、1カ月の所定労働時間が160時間と定められている場合、「今日は10時間勤務、明日は5時間勤務」といったバラつきがあっても、1カ月間の労働時間の合計が160時間になればよいのです。 

フレックスタイム制は、労働者が日々の都合に合わせ、仕事とプライベートに時間を自由に配分できるようにし、ワーク・ライフ・バランスを取りやすくすることを目的としている制度です。労働時間制度には、以下のように他にもさまざまな種類があります。  

  • 固定時間制:労働基準法第四章に定められている原則的な労働者の働き方。働く曜日・時間が固定されています。 
  • 変形労働時間制:繁忙期・閑散期など一定時期の業務量に応じ、労働時間を柔軟に調整できる制度です。 
  • みなし労働時間制:実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間分の労働をしたとみなす制度。営業職など事業所外で働く職種や専門性が高い職種に適用されており、「事業場外みなし労働時間制」「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」などの種類があります。 

フレックスタイム制の仕組み 

フレックスタイム制では、一般的に「コアタイム」「フレキシブルタイム」を設定します。その仕組みをご紹介します。 

コアタイム 

1日の中で必ず勤務しなければならない時間帯を設けている場合は、その時間帯を「コアタイム」と呼びます。例えば「10時~15時」「11時~14時」など、コアタイムの長さや時間帯の設定は企業によってさまざまです。 

フレキシブルタイム

コアタイムの前後の数時間を「フレキシブルタイム」とし、この時間内で従業員は出勤・退勤の時間を自由に選択することができます。 

スーパーフレックス制 

労働時間をすべて「フレキシブルタイム」とし、労働者の裁量にゆだねる企業もあります。このようにコアタイムを設けないフレックスタイム制は、「スーパーフレックス制」と呼ばれています。 

フレックスタイム制の労働時間イメージ

参考:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf 

フレックスタイム制のメリット 

フレックスタイム制を導入するメリットとしては、次のようなものが挙げられます。 

残業時間の削減 

フレックスタイム制では、3カ月を上限とする「清算期間」が設けられています。これは労働者が働く時間を調整できる期間を指します。3カ月の内に所定労働時間を超過した月があっても、その他の2カ月で労働時間を抑制し、総労働時間を超過しないようコントロールすれば、残業時間の削減が可能となります。 

ワーク・ライフ・バランスの実現

「子どもの保育園の送り迎えに合わせて出勤・退勤時間を調整したい」など、育児あるいは介護などの家庭事情により時間に制限がある人も、自身のスケジュールに合わせて働くことができます。また、趣味の活動やスクール通いなど、プライベートの時間を充実させることもできます。 

生産性の向上

労働者が自身の裁量によって働く時間を効率的に配分するため、「忙しいときには集中して働き、余裕があるときは早く帰る」といったように、メリハリがある働き方ができます。タイムマネジメントの能力がつき、生産性の向上につながります。 

優秀な人材の確保

近年テレワークやフレックスタイム制をはじめとして、「柔軟な働き方」を希望する人が増えています。労働者それぞれが抱える事情に寄り添って働きやすい環境を整えることで、優秀な人材の採用や定着が期待でできます。 

フレックスタイム制のデメリット 

フレックスタイム制にはデメリットもあります。導入・運用する際は、以下のような点に注意する必要があるでしょう。 

職場のコミュニケーション不足 

職場のメンバーの出勤・退勤時間がバラバラになるため、コミュニケーションが不足することが懸念されます。情報共有や意見交換、関係構築の仕組みを工夫することが重要です。 

時間管理がルーズになる 

タイムマネジメント能力がある従業員にとっては生産性向上につながる制度ですが、勤務時間が定められていない分、時間にルーズになり、生活リズムを崩す従業員も出てくる可能性があります。 

勤怠管理の煩雑化 

従業員の勤務時間帯がバラバラであるため、勤怠管理が煩雑になります。給与計算や人事評価にも影響が及ぶ可能性があるでしょう。 

時間外の顧客対応 

顧客から問い合わせがある時間帯に、出勤している従業員がいないといった状況にもなり得るため、顧客対応の体制を整える必要があります。 

フレックスタイム制を導入している企業の特徴 

フレックスタイム制を導入し、効果的に運用できているのはどのような企業なのでしょうか。向いている業種・職種の特徴をお伝えします。 

フレックスタイム制に向いている業種 

IT・通信・インターネット業界は、オンラインで進められる業務も多いため、フレックスタイム制を活用した柔軟な働き方が浸透しています。また、コンサルティング業界や人材業界など、人材採用に積極的な業界では、応募者の獲得のためにフレックスタイム制を導入しているケースが見られます。 

フレックスタイム制に向いている職種 

時間や場所にしばられずに作業ができ、自身のペースで業務を進められるような職種でフレックスタイム制が導入されていることが多いようです。 

また、外部の顧客や取引先と接する機会が少ない職種も、導入しやすい傾向にあるでしょう。具体的には、ITエンジニア、デザイナー、企画職、事務職などが挙げられます。 

フレックスタイム制の勤怠管理ポイント 

フレックスタイム制を導入した場合の勤怠管理について、注意しておきたいポイントをお伝えします。 

遅刻・早退・欠勤の扱い 

コアタイムを設けている場合、コアタイム開始時間までに出勤していなければ遅刻となり、コアタイム中に勤務を終えれば早退となります。一方、コアタイムがない場合は遅刻・早退にはなりません。 

なお、コアタイムを設けていて遅刻・早退があった場合、人事評価に反映することは可能ですが、賃金控除はできません。フレックスタイム制では「清算期間内」での労働時間が所定の総労働時間を満たしていれば、遅刻・早退は賃金控除の対象となりません。 

また、フレックスタイム制では、清算期間内で定めている1日の標準労働時間に達しなくても欠勤扱いにはなりません。 

コアタイムの設定 

コアタイムの設定については、「平日の10時~15時」といったように、勤務してほしい時間帯を設定します。なお、週1日のみコアタイムを設けることも可能です。例えば、必ず勤務して欲しい曜日・時間帯がある場合は「月~木はコアタイムなし、金曜日のみ10時~15時をコアタイム」とし、コアタイム内に定例を入れるなどすることもできます。 

ただし、例えば「9時」を始業時間に設定している企業において、コアタイムを「9時~」とすることはできません(※1)。出勤時間の選択の自由がないためです。9時が始業時間の企業であれば、「10時~」をコアタイムとしているケースが多く見られます。 

なおコアタイムは、必要な場合を除いて、22時以降には設定しない方が良いでしょう。22時以降の業務には割増賃金が発生するほか、深夜業(※2)とみなされ、従事する労働者は「特定業務従事者」に対して、6カ月以内に1回の健康診断が必要となります。 

(※1)『改正労働基準法』によると、「フレックスタイム制を採用する場合には、就業規則その他これに準ずるものにより、始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねる旨を定める必要があるものであること。その場合、始業及び終業の時刻の両方を労働者の決定にゆだねる必要があり、始業時刻又は終業時刻の一方についてのみ労働者の決定にゆだねるのでは足りないものであること」「フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねたこととはならず、フレックスタイム制の趣旨には合致しないものであること」(昭63.1.1 基発1号、平11.3.31 基発168号)とされています。 

(※2)深夜業:午後10時から午前5時までの勤務を常態的に行なう(週に1回以上または1ヵ月に4回以上)業務のこと 

残業・休日出勤の場合 

労働者自身が日々の労働時間を決めるフレックスタイム制では、「1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超えて働いても、ただちに時間外労働とはみなされません。 

清算期間内で実際に労働した時間のうち、法定労働時間の総枠を超えた時間数を時間外労働とし、残業代を支払うことになります。 

休日出勤については、所定労働日ではない日の出勤を禁止することも可能ですし、申請・許可制にすることも可能です。 

今後フレックスタイム制導入はどう進化する? 

副業・兼業も拡大していくと見られる今後は、フレックスタイム制の導入は有効といえるでしょう。「スーパーフレックス制」として、所定労働日の労働義務も免除すれば、「1日10時間・週4日」勤務も可能になります。今後はその流れが加速していくと見込まれます。 

現在、フレックスタイム制をうまく運用している企業では、「月末月初は忙しいので、月の半ばは自由に休む」「テレワークと組み合わせてワーケーションする」といったように活用されています。 

ただし、フレックスタイム制のデメリットとして前述したように、社員同士のすれ違いは生じやすくなるため、定例ミーティングを設定して出席を要請するなど、コミュニケーションの機会を確保する工夫も大切です。 

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この記事の監修者

岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。