ジョブローテーション

社員の部署異動や職種転換を戦略的に実施する「ジョブローテーション」。その目的、「人事異動」との違い、実施するメリット・デメリット、実際に効果を上げている導入事例、導入フロー、導入の注意点、効果的に行うポイントなどについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

ジョブローテーションとは

ジョブローテーションとは、人事戦略に基づき、従業員の所属部署や担当職務を定期的に変更する制度を指します。

ジョブローテーションの目的

ジョブローテーションにはさまざまな目的があります。大きな目的の一つが「部署間のコミュニケーションの活性化」です。複数部署で人間関係を構築することで社内でのネットワークが築かれ、連携や協業がスムーズになります。

また、さまざまな部署の業務を経験すれば、会社の事業構造や各部署の位置付け・役割などへの理解が深まり、視野が広がります。異動を機に、新たな能力が開発され、成長につながる期待もあります。

ジョブローテーションの期間・頻度

ジョブローテーションの期間や頻度は、企業の方針によって異なります。半年程度の短期スパンで行うケースもあれば、一つの部署で数年間経験させるケースもあります。

労働政策研究・研修機構が2017年に行った「企業の転勤の実態に関する調査(※)」において、ジョブローテーションを行っている企業では、人事異動の頻度を「3年ごと」としている企業の割合がもっとも多く(約3割弱)、次いで「5年ごと」(2割弱)というデータが示されています。

※出典:調査シリーズNo.174『企業の転勤の実態に関する調査』|労働政策研究・研修機構(JILPT)(P7)

ジョブローテーションと人事異動・社内公募制度との違い

ジョブローテーションは「人事異動」や「社内公募」などと混同されることがあります。どのような違いがあるかを把握しておきましょう。

人事異動との違い

ジョブローテーションが個々の従業員の能力開発・育成を重視しているのに対し、「人事異動」は組織全体の生産性向上や活性化を目的として、配置転換・転勤・出向・転籍・昇格・降格・解雇などを行うものです。

企業として強化したい部署、業務量が増えた部署、退職などで欠員が出た部署などに従業員を配置し、組織運営の円滑化を図ります。

社内公募制度との違い

社内公募制度とは、人員を必要とする部署が社内に向けて募集情報を公開し、その部署への配属を希望する従業員が手を挙げて立候補する仕組みです。

ジョブローテーションは会社側の意向で配置転換を主導するのに対し、社内公募制度は従業員が自らの意思で配置転換への行動を起こします。

ジョブローテーションを行うメリット

ジョブローテーションによってもたらされるメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

部署間のネットワークの構築

従業員がさまざまな部署を経験する中で、各部署での人間関係が築かれ、異動後もつながりが続きます。部署間の連携が強化され、複数部署が協働するプロジェクトなどが円滑に進むことが期待できます。

業務の効率化・生産性向上

担当者が固定化されると、業務が属人化し、担当者の不在時に業務が停滞したり不測の事態に対応できなかったりするリスクがあります。ジョブローテーションによって複数の従業員が対応できる体制を築いておくと業務の停滞を防ぐことができます。

また、他部署から来た従業員が客観的な視点で業務を見ることで、非効率なやり方などに気付き、業務の見直し・改善につながることもあります。

異動してきたメンバーを早期に戦力化するため、仕事の進め方を見直したりチーム編成を工夫したりして業務効率化が進むケースもあります。

人材育成

複数の部署でさまざまな人と一緒に働く中で、コミュニケーション能力や人間関係構築力が高まることが期待できます。新たな業務の経験を通じ、興味・関心が湧いたり、認識していなかった能力に気付いたりすることもあります。

「適材適所」の実現

異動を機に新たな能力が開発されたり、適性を発見したりすることで、「適材適所」の人材配置が進みます。結果、全体の組織力強化につながるでしょう。

社内の活性化

ジョブローテーションによって新しいメンバーと交流することで、これまでにない考え方や視点に気付くなど、お互いに刺激を与え合うことができます。組織の考え方が偏ったり、固定観念に縛られたりすることを防ぎ、組織の活性化につながります。

新たな事業企画・アイデアの創出

イノベーションを起こすためには、「知の探索(Exploration)」と「知の深化(Exploitation)」が重要であると言われています。ジョブローテーションでさまざまな人が交流することにより、社内に眠っていた知識や使われていなかった技術が発掘され、イノベーション創出につながる可能性があります。

ジョブローテーションを行うデメリット

ジョブローテーションにはデメリットの側面もあります。理解しておき、対策を打つことが大切です。

社員の離職につながる可能性がある

ジョブローテーションによって、「これまで意欲高く取り組んでいた仕事から離れることになった」「異動先の業務に興味が持てない」「異動先の組織になじめない」といった不満やストレスを抱えることがあります。

また、長期間にわたるプロジェクトに参加している場合など、これまで取り組んできた仕事で成果が出ていない状態で異動になると、成功体験を得られずにモチベーションが下がることも考えられます。

こうした状況から離職につながる恐れがあるため、面談などでフォローし、本人の考えや希望を理解して対応する必要があります。

受け入れ側の部署に教育の手間やコストがかかる

ジョブローテーションで異動してきた人を受け入れた部署では、教育のための時間と手間がかかります。場合によっては教育のためのコストも発生するでしょう。受け入れ側の部署に負担がかかり、生産性が低下する可能性もあります。

スペシャリスト育成に不向き

定期的に異動を繰り返すと、幅広い知識や業務スキルを得られますが、一つのことを深めることがしづらくなります。専門性が高い人材が育ちにくくなるため、専門スキルが必要な部署や職種においては導入を避けた方がよいこともあります。

ジョブローテーションの導入事例

ジョブローテーションの活用によって、実際に効果があがっている企業の取り組みをご紹介します。

次世代リーダーの育成を図るジョブローテーション

人材サービス企業・A社では、選抜したマネジャー層に対し、「国内外の拠点立ち上げ経験を積ませる」「グループ会社の経営補佐経験を積ませる」「専門外の別部門の経験を3つ以上経験させる」など複数のコースを設定しました。

より多角的な視野、経営人材としての視座、「修羅場」の経験、多様性の本質的な理解などを獲得させることで次世代リーダーを育成しています。3~5年で事業本部長としての抜擢を目指すと同時に、選抜した人材の中での競争によってさらなる成長を実現しています。

従業員満足度向上につながるジョブローテーション

IT企業・B社では、開発部門の新入社員や中途入社の若手社員を対象に、基本3年間の間で2つ以上の複数の部署の経験を積ませることで、適性の見極め、キャリアプランの構築につなげています。

顧客先常駐の部署もあり、またコロナ禍の影響でエンゲージメントや社内人脈の形成への懸念があった中、社内人脈の構築やコミュニケーションの活性化、個々の従業員の適性(仕事内容や能力、上司・同僚との相性)を見出す助けになり、従業員満足度向上や離職率低下などの効果が表れています。

ジョブローテーションの導入フロー

ジョブローテーションを導入するにあたっての基本的なフローをご紹介します。

【1】導入目的の明確化

何のためにジョブローテーションを導入するのか、ジョブローテーションによってどのような効果を得たいのか、目的を明確にします。

【2】対象者の選定

異動の対象となる従業員を選定します。これまでのケースを参考に、ジョブローテーションによってプラスの効果が期待できる人物特性を考え、そのタイプに合致する人を選ぶといいでしょう。本人にもキャリアへの考え方やプランを確認しておいてください。

【3】配属先の検討・決定

配属先と期間を決定します。本人の意向・希望を確認すると同時に、配属先部署が求めている人材条件も踏まえて検討しましょう。

【4】ジョブローテーションの実施

ジョブローテーションを実施する際には、異動先の部署・異動する本人、両方に対して異動の目的や期待していることを丁寧に説明します。不安や疑問も聴き、解消に努めましょう。
異動後も定期的に面談を行い、状況確認やフォローを行います。

導入の際の注意点

ジョブローテーションを行う目的があいまいだと、従業員のモチベーション低下、ひいては離職につながることもあります。今回の異動が今後のキャリアにどのようにつながっていくのか、本人がポジティブなイメージを描けるように説明することが大切です。

本人のキャリアプランを尊重しつつ、本人と会社の双方にとって有意義かどうかを検討しましょう。

ジョブローテーションを効果的に行うためのポイント

ジョブローテーションでプラスの効果が得られるかどうかは、企業によって異なります。自社の業務領域、社員の志向タイプや価値観、風土といったものがジョブローテーションに適しているのかを見極めることが大切です。

また、従業員自身のキャリアプランはもちろん、ライフイベントなどプライベートの状況も考慮し、適切なタイミングをはかることをお勧めします。

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。