リスキリング

事業環境の急激な変化を受け、従業員のリスキリングに注力する企業が増えています。今回は、リスキリングのメリットや進め方などを組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

リスキリングとは?

リスキリングとは具体的に何を指すのか解説するとともに、似たような意味で使われることの多い言葉との違いをご説明します。

リスキリングの定義

経済産業省では、リスキリングの定義を「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」としています。(※1)

ポイントは、新しい知識やスキルを学ぶだけでなく、「新しい職業に就く」までを指すという点。企業が主体となって推進する場合には、従業員がこれからも仕事で価値を発揮し続けるために必要なスキルの習得を支援して、時代に合った新しい仕事に就くまでをサポートすることが求められます。

(※1)経済産業省:第2回 デジタル時代の人材政策に関する検討会「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」

リカレント教育、アンラーニングとの違い

同じような場面で使われる言葉に、「リカレント教育」「アンラーニング」がありますが、いずれもリスキリングとは意味合いが異なります。

「リカレント教育」とは、社会人が仕事で求められる能力を学び直すこと。リカレント(recurrent)とは、「繰り返す」「循環する」という意味で、自分で「必要だ」と思うタイミングで学び、それを活かして再び仕事に従事する…というサイクルを繰り返すことを指します。
基本的には、働く個人が自分で時間と費用を捻出して学び直すという、個人主体に行われるものであり、企業主体のリスキリングとは異なります。

「アンラーニング」とは、 仕事を通して身につけてきた知識やスキルなどを取捨選択し、新しい知識やスキルを身につけること。
変化が激しく先行き不透明な環境下では、変化に柔軟に対応するためには、アンラーニングで固定観念を捨て、自ら変革していくことも必要とされています。
英語のunlearningは学習解除、学習棄却などと訳されるように、既存の知識やスキルを「捨てる」ことが目的ですが、リスキリングは「新しい知識やスキルを習得する」ことであり、目的が大きく異なります。

リスキリングが今注目されている理由

事業環境がめまぐるしく変化し、多くの企業がビジネスモデルや事業戦略の変革を迫られています。それに伴い、従業員も新しいビジネスモデルや事業戦略に合った技術やスキルを身に付ける必要があります。
例えば、AIやDXに関わる職種が増える一方で、既存職種の中には役割が減りニーズが縮小していくものもあります。そんな社内の不均衡をなくし、企業として成長を続けるためには、既存の社員に新しいスキルを習得して職種転換させることが重要。厚生労働省が人材開発支援助成金の中に「事業展開等リスキリング支援コース」を設けるなど、国も企業のリスキリング支援に注力しており、各企業において「リスキリングはしなければならないもの」という意識が徐々に高まっています。

なお、世界経済フォーラムが発表した「Future of Jobs Report 2023」によると、2027年までに約23%の仕事が変化し、現在の雇用の約1/4である1400万件の雇用が純減すると予測されています。社内の職種の不均衡をなくし「社内失業」を出さないためにも、リスキリングは必要不可欠となりつつあるのです。

企業がリスキリングを推進するメリット

企業が主体となって推進するリスキリングのメリットについて、具体的に解説します。

社員のモチベーションアップによる生産性向上が期待できる

まず、リスキリングにより従業員のモチベーションが向上すると考えられます。時代に合い、かつ社内で求められる知識やスキルを習得することで自身の活躍の場が広がれば、アウトプットの質も量も高まり、評価される機会が増えるでしょう。それにより仕事に対する意欲も高まり、さらに成果が上がる…という好循環が生まれると期待されます。組織へのエンゲージメントも高まるでしょう。

イノベーションの創出

新しい知識やスキルを習得し、従業員の視野が広がることで、これまでにない発想やアイディアが生まれる可能性が高まります。
このような人材が増えれば、従業員同士が互いに刺激し合うことができ、相乗効果でより斬新かつ革新的な事業創出につながる可能性もあります。利益拡大による企業業績向上も期待できるでしょう。

採用コストの削減

既存組織では役割が減り、十分に力を発揮できていなかった人材が、リスキリングでより重要な役割を担えるようになれば、外部から人材を採用する必要がなくなり、採用コストの削減が見込まれます。
特に、専門性の高いDX人材は採用競争が激しく、それだけ採用コストも高い傾向にあります。リスキリングにより社内でDX人材を育成できれば、採用コストの大幅縮小も予想されます。
また、社内人材の異動や組織の再編成が活発化することで、組織の柔軟性が高まり、変化対応力が高まるとも期待されます。

企業がリスキリングを行う際のステップ

企業が新たにリスキリングに着手する際には、以下のステップに沿って取り組むといいでしょう。

ステップ1:自社の経営戦略と組織・人材戦略に基づき、必要なスキルを抽出・設定する

リスキリングに取り組む前に、まずは自社の経営戦略と連動した人事戦略を決めることが大切。そのうえで、その人事戦略を行うためにはどのような人材とスキルが必要なのかを抽出します。「現状」と「理想」の人材要員計画から、ギャップ分析を行って洗い出すといいでしょう。
その結果、「今後必要になると考えられるものの、現状では足りない部分」をリスキリングの対象として設定しましょう。

ステップ2:リスキリングの必要性を周知させる

リスキリングは、既存業務に臨みながら新たな知識・スキルを習得することになるため、従業員に少なからず負荷をかけます。そのため、従業員にリスキリングに取り組むことで自身のキャリア展望が開けることをあらかじめ理解してもらい、従業員本人に「前向きに取り組みたい」と思ってもらうことが大切です。
経営陣から必要性を訴えてもらったり、人事などから実施する理由やメリットなどを具体的に周知したりしましょう。

ステップ3:リスキリングに必要なプログラムやコンテンツを提供する

リスキリングを成功させるためには、従業員が効率良くスキルを習得できるようなプログラムやコンテンツ作りが何より重要。コンテンツの質の高さだけでなく、習熟度を高められるような構成や順番を考慮しましょう。

リスキリングの方法には、研修やオンライン講座の提供などさまざまな種類があります。自社でコンテンツを用意できない場合は、外部の人材を講師にしたり、外部ベンダーのコンテンツを利用したりする方法を検討するといいでしょう。幅広い学習方法を用意することで、従業員一人ひとりが自分に合ったコンテンツや習得方法を選べるようになり、学習意欲も高まります。

ステップ4:獲得したスキルを活かせるよう環境整備を行う

リスキリングで学習して習得したスキルはそのままにせず、実務で実践してもらうようにします。そして実践で得られたノウハウや教訓は組織内で共有し、従業員同士でも定期的に相互フィードバックが行える環境にすることが大切です。
なお、リスキリングで得たスキルを評価に加味する、活かせる仕事をアサインするなどの情報は、事前の周知段階で伝えておきましょう。

ステップ5:スキル向上やスキルの活用状況などをモニタリングする

リスキリングを継続するには、従業員一人ひとりのリスキリングの状況をモニタリングして、組織・個人にフィードバックすることも重要です。モニタリング結果をデータベース化して、身に付けた知識・スキルを活かせる場を定期的に提供したり、各々に合ったリスキリングテーマを提示したり、人事評価と連動させたりすることで、継続的にリスキリングに取り組む風土を醸成することができます。

リスキリングを行う際の注意点

企業の中には、「AIやDXがトレンドだから、それを勉強してもらおう」などという発想でリスキリングテーマを決めているところもあるようです。しかし、やみくもにテーマを設定していては、自社にとって必要性が低いリスキリングを進めてしまう恐れがあります。トレンドに流されるのではなく、自社の経営課題は何か、それを解決するための人事戦略とは何かを十分に考えることが大切。そのうえで、自社にとって必要なテーマを抽出しましょう。

また、リスキリングを行うには、教育研修プログラムや学習コンテンツの開発・導入・運用、外部研修の導入など、少なからずコストがかかります。コンサルティング会社や研修会社にリスキリングを委託すると、さらに多大なコスト負担になるでしょう。とはいえ、ここまで説明してきた通り、変化の激しい環境下で企業が成長し続けるためには、従業員が時代に合った新たな知識やスキルを身につけることは必須と言えます。国の助成金などを活用しながら、計画的にリスキリングに臨むことが大切です。

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。