人事戦略

ビジネス環境の変化のスピードが速い昨今、人事戦略も環境変化に応じて常にアップデートしていく必要があります。労働力人口の減少に伴って採用競争が激しくなっている今、採用戦略に加え、限られた人材を最大限に活かす施策の重要性も増しています。
人事戦略の概念、「戦略人事」との違い、人事戦略の立て方、役立つフレームワーク、成功のポイントなどについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

人事戦略とは

人事戦略とは、経営戦略に基づき、人事業務全般を遂行していくにあたっての基盤となる戦略を指します。人材の採用・育成、各種人事制度の運用、労務管理にいたるまで、現状の課題をつかみ、解決・改善に向けた施策を立案・実行します。

人事戦略の立て方

人事戦略をどのような流れで策定するかについては、以下を参考にしてみてください。

人事課題の洗い出し

人事にまつわる状況を確認し、課題の洗い出しを行います。会社が掲げる中長期目標や将来ビジョンの実現に向け、適切な人材の確保・配置がなされているかという観点で検討します。
具体的には、例えば採用計画が未達成の場合、ターゲティング・採用手法・選考プロセス・内定者フォローなど、どこに問題あるのかを検証し、課題を明らかにします。

人事戦略の立案

課題を明確化したら、解決・改善に向けての施策を検討します。テーマとしては、「採用」「報酬」「等級」「評価」「異動」「育成」「代謝」などが挙げられます。
例えば、自社内に足りていない知見・スキルについて「採用」「内部育成」「アウトソーシング」などどのような形で獲得していくか、個々の従業員の成長を促進するためにどのような評価・報酬・等級制度が有効かなどを検討します。

近年、採用活動やタレントマネジメントにおいて多様な手法やツールが生まれています。自社の方針にマッチするものを選ぶことも重要です。

経営層、現場への確認

人事戦略を策定したら、経営層および現場の責任者に確認し、理解を得ます。ただし、現場の責任者やメンバーによっては、これまでの仕組みが変わることに抵抗感を抱くケースもあります。現場が動いてくれなければ人事施策は効果を発揮しません。施策の目的ともたらされるメリットを現場にもしっかりと伝え、協力体制を築く必要があります。

新たな人事制度の実施

施策が決定したら実行段階に移ります。運用体制の構築、システムの導入、評価シートなどの作成、現場のリーダーに対するガイダンスやトレーニングなどを実施します。

施策の実行と振り返り

施策の内容によっては、効果が表れるまでに長い時間を要することもあります。途中途中で振り返って効果測定を行い、想定通りに運んでいない場合は要因を分析し、対策を講じます。
また、一定の効果があがっていたとしても、いつの間にか市場環境や働く人々の価値観などが変化していて、時代にそぐわないものになってしまう可能性もあります。変化をとらえ、常にブラッシュアップしていくことが重要です。

人事戦略の立案に役立つフレームワーク

人事戦略の策定にあたり、現状の認識・分析、解決策の検討を行う際には、以下のようなフレームワークが役立ちます。これらのフレームワークを活用し、人事戦略の立案を進めましょう。

SWOT分析

マーケティングで使われているフレームワークに「SWOT分析」があります。自社の状況を縦軸(内部環境/外部環境)と横軸(プラス要因/マイナス要因)の4象限に分けて整理することで、客観的に把握しやすくなります。

S=強み(Strength)……内部環境×プラス要因
W=弱み(Weakness)……内部環境×マイナス要因
O=機会(Opportunity)……外部環境×プラス要因
T=脅威(Threat)……外部環境×マイナス要因

プラス要因マイナス要因
内部環境強み(Strength)
自社が有する経営資源
※人材・ノウハウ・ブランド力・資金・設備・ネットワークなど
弱み(Weakness)
自社に不足している経営資源
※人材・ノウハウ・ブランド力・資金・設備・ネットワークなど
外部環境機会(Opportunity)
成長が期待できる分野、新たなマーケットニーズなど
脅威(Threat)
景気や市場環境の悪化、競合の台頭、法律などによる規制など
SWAOT分析のフォーマットと記入例

ロジックツリー分析

「ロジックツリー分析」は、一つの課題や目標に対し、枝分かれしていくように要素を分解することで、課題の原因や解決手段を網羅的に出す手法です。例えば、組織の増員・強化を課題とする場合、「採用」「離職防止」といった観点に分解でき、それぞれについてどのような施策が考えられるかを検討していきやすくなります。

ロジックツリー分析

PEST分析

マーケティングなどにおける分析の対象は、「マクロ環境(自社を取り巻く外部環境)」と「ミクロ環境(自社の内部環境)に大別されます。「PEST分析」においては、マクロ環境(外部環境)について4つの要因に分類して情報収集を行い、自社に与える影響を分析します。

P=政治的要因(Politics)政治動向、法改正、規制緩和・強化、税制、公的支援制度、国際情勢など
E=経済的要因(Economy)経済成長・減退、為替・金利変動、デフレ・インフレ、雇用情勢など
S=社会的要因(Society)人口動態、社会問題、世論、災害、文化、流行、ライフスタイルなど
T=技術的要因(Technology)ITインフラ整備、新たなテクノロジーの開発・普及など

外部環境をコントロールすることはできないため、動向を観察・予測することで、対策を立てておくことが重要です。

戦略人事との違い

人事戦略と混同されやすい言葉に「戦略人事」があります。
人事戦略とは一般的に、人材ポリシー(人材マネジメントポリシー)に基づき、採用・配属・育成など各種人事制度・施策を実行していくことを指すのに対し、「戦略人事」は、戦略的な人事を実行するに際しての「あり方・考え方」「体制」を意味します。具体的には、1997年にデイビッド・ウルリッチ教授によって提唱された「戦略的人的資源管理論(Strategic Human Resources Management)」に基づいており、
経営戦略の実現に向け、経営と人的マネジメントのつながりを強化し、人的資源を最大限に活用していく取り組みを指します。

人事戦略を成功させるポイント

人事戦略を成功に導くためには、次のポイントを意識して進めましょう。

経営層・現場との認識を揃える

人事部門内だけで課題の認識ができていても、経営層や現場責任者と共有できていなければ、施策実行への協力を得ることができません。経営陣に提言を行って承認を得る一方、現場で施策を主導する責任者やメンバーにも課題と施策の意義を伝え、会社全体で認識を統一することが大切です。

発信や振り返りを徹底する

企業にもよりますが、人事戦略の考え方を組織全体に浸透させるには、総じて時間がかかるものです。理解度・遂行度は、部署や従業員によって差が開いてくることもあります。人事部門の「自己満足」とならないよう、全社への発信、進捗状況の振り返りを継続し、徹底していきましょう。
従業員に分かりやすいスローガンやキャッチフレーズを作っておき、人事から頻繁に発信するのも有効です。

人事・現場などの体制や工数を考慮する

施策の実行にあたり、人事部門や現場のメンバーに負荷がかかり過ぎていると、人事戦略がスムーズに運ばなくなります。特に現場に負荷をかけすぎると業務を圧迫し、業績にもマイナス影響を及ぼす恐れがあります。負荷がかかり過ぎないよう定期的にヒアリングを行い、運用体制や工数を考慮して組み立てましょう。

リクルートダイレクトスカウトをご利用いただくと、日々の時間をかけなくても候補者を確保できたり、独自のデータベースから他では出会えない即戦力人材を採用できる可能性が高まります。初期費用も無料ですので、ぜひご検討ください。
この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。