採用 稟議

採用活動を開始する際、一般的には採用計画について社内決裁をとる必要があります。スタートアップなど小規模企業であれば口頭やメールのみで完結することもありますが、多くの企業では「採用稟議書」の提出が求められます。採用稟議書を出すタイミング、記載項目、記載例、作成のポイント、承認されない場合の対処法などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。 

採用稟議書とは? 

採用稟議書とは、採用活動を進めるうえで必要な社内決裁を得るための書類を指します。そもそも「稟議」とは、担当者(起案者)の権限では決定できない事項について、案を作成して関係者や上長に提出し、承認を求めることを意味します。 

採用活動においては、各種採用サービスの利用コストがかかるほか、配属予定部門に採用説明会の時間を設けたり、面接への協力を依頼したりなどの必要もあるため、関係各所への稟議が必要となります。また「その人材を採用する必要性・妥当性」を検討し、採用目的を共有するための材料としても重要です。 

稟議書は、企業ごとに定められたフォーマットが用意されていることも多いものです。採用稟議書を作成する際にはまず規定のフォーマットがあるかどうかを確認しましょう。 

採用稟議書が必要なタイミング 

採用活動のどの段階で採用稟議書の提出が求められるかは、企業によって異なります。一般的には、次の2つのタイミングで作成・提出します。 

採用活動開始時 

採用活動を開始する際には、まず「人材を採用する必要性」についての納得・合意を得る必要があります。また、採用活動の手法は、求人メディアへの広告出稿、転職エージェントへの紹介依頼、スカウトサービスの利用、採用イベントの実施など多様であり、それぞれにコストがかかります。採用する人材や人数などと照らし合わせ、採用予算が妥当かどうかを判断するためにも稟議書が必要となります。 

採用決定・内定時

応募者の最終選考を終えた後、内定を出すかどうかの判断をする際にも、改めて稟議が必要となることがあります。対象者について「採用要件を満たしているか」「給与・待遇・配属先は妥当か」「入社時期はいつか」といった事項を確認する手続きとも言えます。稟議を通すことで、例えば「現場は◯月は多忙で受け入れられないから、入社を△月にしてほしい」「複数名の入社時期を一緒にして研修を新卒と同時に対応しよう」「教育担当として◯さんをリーダーにして育成しよう」などの話が出てくる可能性があるため、入社後の教育・研修といった受け入れ体制の整備につなげる役割も含んでいます。 

内定後に企業から内定取り消しを申し出ることは、正当な理由を除いて難しくなっています。そのため、内定を出すことを慎重に判断するためにも、稟議が必要となるでしょう。 

採用稟議書に必要な項目と記載例 

採用稟議書を作成する際の記載項目は以下のとおりです。既存フォーマットがなく、採用稟議書を新たに作成する場合は記載例も参考にしてください。

採用活動開始時

採用活動開始時の稟議書においては、採用計画の全体像を分かりやすく伝えること、かかるコストを明確に提示することが大切です。

主な記載項目

・採用目標(職種/配属予定部署/入社時期/採用人数など) 
・採用の背景 
・人材要件 
・募集手段および選定理由 
・募集・選考スケジュール 
・採用コストの概算および詳細 

採用決定・内定時

採用決定・内定時の稟議書においては、内定予定者についての情報を伝えます。 

主な記載項目

・内定予定者情報(職務経歴・保有資格など) 
・合格の理由 
・雇用条件(雇用形態、給与・待遇、勤務地など) 
・入社時期 

採用稟議書の書き方のポイント 

決裁者が判断しやすい採用稟議書に仕上げるために、次のポイントを意識しましょう。 

数値を交えて客観的に書く 

採用計画については、感覚的な書き方は避けて数値を交えて客観的に書くことが大切です。採用予定人数、募集時期、入社時期・選考スケジュール、採用予算など、大雑把な記載は避けて実績などをもとに根拠を交えて明記しましょう。なお、採用の必要性やコストへの納得を得るには、採用市場環境・市場相場を示すデータを添えるのも有効です。 

採用の必要性とメリットを意識する 

採用稟議書に説得力を持たせるために、作成者自身が「この人材を採用する必要がある」「採用するメリットがある」という根拠を持っておくことが大切です。「売上の拡大」「業務改善」「組織風土変革」「新規事業の創出」など、背景はさまざまですが、その人材を迎えることでどのような課題解決、成長につながるのか、決裁者に説明できるレベルまでイメージしましょう。 

場合によっては事前調整をしておく 

決裁者が複数人存在する場合、内定を出す段階で「担当役員はOKだが、社長がNG」「当初はなかった反論が出た」など、全員の合意に至らないことがあります。こうした事態を防ぐためには、採用計画を立てる段階でルールを策定しておいたり(決裁者5名中3名が承認すれば通す、など)、事前調整により合意形成をしておいたりするといいでしょう。 

場合によっては、選考中に決裁者に個別で説明したり、引っかかっているポイントを聞いたりして、積極的に課題の解消に努めることが大切です。 

採用稟議書が承認されない場合の対処法

採用稟議書は「いかに時間をかけずに早く通すか」も重要です。特に、多くの企業からオファーを受けるようなハイクラス人材に対しては、スピーディな対応が必要となります。最終面接からなかなか内定通知が来ないとなれば、「本当に自分を必要としているのだろうか」「年収額などの希望が通らないのでは」といった疑念や不信感が生まれ、入社意欲が落ちて他社を選択する可能性があるためです。 

採用稟議書が承認されない代表的なケースについて対処法をご紹介します。 

決裁者の対応が遅い 

決裁者の採用に対する優先順位が低いと、なかなか対応してくれないことがあります。この場合は、採用に関する会議や稟議承認の場を定期的に設定しましょう。採用の必要性、採用競合状況などの説明も行って、関係者の認識を揃えることが重要です。 

採用予算オーバー 

予算オーバーについては、事前の対策が必要です。採用予算をオーバーしてしまう可能性を踏まえ、予算取りの段階でバッファを設けておく、経営層や人事責任者に対して「妥当額」と「最大額」の事前確認をしておくなどの対策をしておきましょう。 

経営状況の変化 

会社の業績見通しの悪化や株主からの圧力など、人事担当者が把握していないところで変化があり、採用がトーンダウンすることもあります。採用活動の現場だけではなく、経営情報についても共有してもらう場を設け、情報をアップデートできるようにしておくことも重要です。 

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この記事の監修者

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。