中途採用で即戦力となる人材を採用したいと考えても、履歴書・職務経歴書と数回の面接だけで、求める能力を有しているかどうかを判断するのは難しいものです。即戦力として期待できる人材を見極める方法、即戦力採用を実現するためのポイント、即戦力採用に向いている手法、うまくいかない場合の対処法などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
即戦力採用の特徴
中途採用において、何をもって「即戦力」と見なすかは企業によって異なります。ここでは、「業務遂行に必要な知識・スキル・経験・資格を持ち、早期に仕事を任せられる人材」と定義します。
即戦力人材を採用すれば、入社後の教育・研修・フォローなどに費やす時間やコストを抑えることが可能です。そして入社後の早い段階で活躍し、成果を挙げられることが期待できます。ただし、即戦力として求める要件を細かく設定するほど、要件を満たす対象者の数は少なくなり、採用難易度が上がります。採用活動にかける期間が長引き、採用コストが高くつくことも覚悟する必要があります。
また、即戦力となり得る経験・スキルを持っている人物でも、転職によって新しい環境に入れば、社内ルールや職場の人間関係など、慣れるまでに時間がかかるものです。そうした点で教育やフォローが必要であり、期待したほど早く成果を挙げられない可能性もあるでしょう。
即戦力となる人材を見極める方法
採用選考において、即戦力となる人材を見極めるためにはどうすればいいのでしょうか。確実といえる方法はありませんが、次のポイントを意識してみてください。
募集職種を理解する面接担当者を設定する
応募者本人の「できます」という言葉を鵜呑みにするのではなく、募集ポジションの職種を理解し、対話を通じて本当に求めるレベルのスキルを持っているかどうかを判断できる人物を面接担当者として選定しましょう。
応募者としても、自身の経験・スキルを的確に評価し、価値を理解してくれる企業に入社したいと考えるものです。その意味でも、応募者と面接担当者が目線を合わせて話ができ、応募者が「この人は自分のことを分かってくれている」と感じられることが重要です。
スキルだけでなく社風との相性も確認する
経験・スキルが求める要件を満たしていたとしても、仕事に取り組む姿勢や価値観によっては、職場になじめず、力を発揮できないこともあります。
社風との相性を確認するために、「物事の判断基準」「課題の捉え方・解決手法」「周囲の人との関わり方」などにもフォーカスした質疑応答を行いましょう。
目指すキャリアの方向性を確認する
応募者本人が目指すキャリアビジョンと自社が提供できるキャリアパスが一致しているかどうかを確認しておくことも重要です。入社直後は即戦力として活躍できても、目指す方向性にギャップがあると分かると早期離職につながる可能性があります。
転職理由を聞くと、応募者の転職の目的・目標が自社で叶えられるかどうか判断がつくこともあります。
即戦力採用を実現するためのポイント
即戦力採用の成功率を高めるために、押さえておきたいポイントを解説します。
情報提供を徹底する
即戦力となり得る人材であれば、他社からのオファーも受け、転職先の選択肢が豊富である可能性が高いといえます。つまり、採用競合が多い状況です。そこで、「自社のことを調べて研究してください」ではなく、企業側から自社の情報を積極的に提供し、魅力を伝えて入社意欲を喚起する必要があります。
ターゲット人材にとって魅力的に映る自社の情報を抽出して言語化・可視化し、求人情報やプレゼン資料、動画などを作成しておきましょう。面接担当者に対しても、自社のことを分かりやすく説明し、自社の魅力をプレゼンテーションできるようにトレーニングを行っておくといいでしょう。
人材要件を明らかにする
自社が求める「即戦力人材」とは、どのような経験・スキルを持つ人を指すのか、要件を明確にしておく必要があります。その要件を1次・2次~最終面接の担当者の間で共有できていないと、評価の基準がぶれてしまい、即戦力となるか判断できない可能性があります。
現場責任者と認識を合わせておく
求める要件を完璧に満たす人材とは、なかなか出会えるものではありません。「最低限、○○の経験とスキルがあれば早期戦力化できる。△△の経験・スキルについては他のメンバーがフォローできるので必須とはしない」など、要件面で譲歩できるラインを設定しておきましょう。
また、「スキルマッチ」と「カルチャーマッチ」のどちらを重視するか、方針を決めておくことも大切です。
場合によっては面談を実施する
選考過程で応募者が不安に感じていたり迷っていたりする様子が見えたら、「選考のための面接」とは別に、面談を設けるのも有効な手段です。
一緒に働くメンバー、あるいは同様のバックグラウンドを持つ中途入社者など、応募者の不安や疑問を払しょくできそうな相手との面談をセッティングしましょう。
即戦力採用に向いている手法
求人にはさまざまな手法がありますが、即戦力採用に比較的向いているのは次の手法です。ただし、職種やポジションによって最適な手法は異なるため、自社のターゲット人材に合わせて選びましょう。
人材紹介(転職エージェント)
自社が求める人材像に合致しているかどうか、転職エージェントがある程度見極めたうえで紹介を受けられるため、一次スクリーニングの手間を大きく省くことができます。
スカウトサービス
スカウトサービスのデータベースに登録されている人材の中から、自社の採用要件にマッチしそうな人材を探し出し、直接アプローチができる手法です。
ヘッドハンティング
ヘッドハンティング会社が、企業の採用要件に合わせて人材をスカウトします。ヘッドハンティング会社独自のネットワークやノウハウによって、経験・スキルを備えた即戦力人材を発見しやすいというメリットがあります。
リファラル採用
自社社員に友人や知人を紹介してもらう採用方法です。自社を理解している社員が人材を選ぶため、スキル要件のほか、社風にもマッチしている可能性が高いと期待できます。
アルムナイ採用
自社から「卒業した人(アルムナイ)」を再度雇用する採用手法です。過去に自社に所属していた経験があるため、即戦力の獲得が可能です。
即戦力採用がうまくいかない場合の対処法
即戦力採用が思うように運ばない場合は、対処法として下記を試してみてください。
募集要件を緩和する
求める人材からの応募がない場合、要件のハードルが高すぎて、該当する人材が転職市場に少ないことが考えられます。要件を緩和し、対象層を広げることにより、応募者が集まりやすくなるかもしれません。
雇用条件・待遇を見直す
求める要件を満たす人材が転職市場にいたとしても、採用競合となる他社と比較し、給与条件などの待遇が低いと応募や内定承諾してもらえない可能性があります。求める人材の給与相場を把握し、適切な待遇を提示することで応募数アップが期待できます。
募集方法を見直す
例えば、求人広告を掲載しているメディアがターゲット人材像に合っていないなど、募集方法が適切でないことも考えられます。上に挙げた「即戦力採用に向いている手法」を参考に、募集手段を変えてみるといいでしょう。
選考方法を見直す
即戦力人材の応募があっても入社に至らない場合は、選考の方法やプロセスを見直しましょう。面接回数を減らしたり選考期間を短縮したりするほか、1次面接の段階から応募者が魅力を感じるような役職者と話してもらう、選考とは切り離した「カジュアル面談」を設定するといった工夫により、入社意欲が高まる可能性があります。
また、面接担当者が不適切な対応をしているケースも考えられるため、場合によっては面接担当者の研修・トレーニングも必要です。
即戦力化には採用後のフォローも重要
求める経験・スキルを持つ人材を採用できたとしても、即戦力としてすぐに成果を出すことを過度に期待しないようにしましょう。本人がプレッシャーや焦りを感じ、本来の力を発揮できないこともあります。入社後の評価は中長期で判断することを前提に、困っていること・悩んでいることがないかどうか面談によって確認し、解決を図るようにしましょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。