採用に成功しても、早期に離職されてしまうケースは少なくありません。入社後にミスマッチに気づくことは、企業にとっても入社者にとっても時間のロスとなり心理的負担も大きいため、選考プロセスでの工夫によって防ぎたいものです。
採用ミスマッチについて、発生する原因、与える影響、防ぐ方法などを組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
採用ミスマッチとは?
ミスマッチとは「釣り合わないこと」「適合しない」ことを指します。採用においての「ミスマッチ」とは、企業側と入社者との間で認識にギャップがあり、お互いのニーズが合致しない状況を指します。
例えば、企業側の視点では「○○スキルを活かしてほしいと思ったが、期待したような活躍をしてもらえない」、入社者側の視点では「業務内容や役割、仕事の進め方などがイメージと違っていた」「社風になじめない」といったケースが挙げられます。
採用ミスマッチが発生する原因
採用ミスマッチが発生する原因として、代表的なパターンをご紹介します。
企業側の情報提供不足
企業側から提供する情報が不足している、あるいは「メリットを中心に伝え、デメリットを伝えていない」「自社の業務内容だけ伝え、環境・風土を伝えていない」など情報に偏りがある場合、応募者が十分に理解しないまま入社に至り、ミスマッチに気づくケースです。
企業側は、「メール」「採用ピッチ資料」「動画」「SNS」「会社説明会」「面接」「面談」など、多様な情報伝達の手段・機会を活用し、自社の情報を網羅的に提供することが重要です。
選考時の確認不足
企業は、応募者の情報を「履歴書」「職務経歴書」および「面接」を通じて把握します。しかし、経験や実績について、どのようなレベルで、自社でも再現できるのかを確認しておかないと、入社後に業務を開始した際にミスマッチが起こることがあります。
入社者側もスキルが活かせず成果を挙げられないことに対してプレッシャーや居心地の悪さを感じ、早期離職につながることもあります。
採用担当者は応募書類だけで判断せず、面接の質疑応答で経験・スキルや強み等の適正や今後のキャリアについてどう考えているか確認する必要があります。応募者が自社で何をやりたいのか、どのようなキャリアを目指すのかも確認しておかないと、配属への不満が生じる可能性があります。
また、「応募者側から質問する機会」を設けていないことも、ミスマッチを生む要因の1つです。企業側が一方的に質問するだけでなく、「疑問や不安を感じる点はありますか」などと投げかけ、「逆質問」を通じて応募者の意向や疑問点などを確認することが重要です。選考時に応募者の不安をクリアにすることができれば、入社後のミスマッチ防止だけでなく「内定辞退」の防止効果も期待できます。
入社後のオンボーディング体制の欠如・フォロー不足
「オンボーディング」とは、航空機や船に乗り込むことを意味する「on board(オンボード)」から生まれた人事用語で、入社者が早く仕事や職場になじんで活躍できるように支援することを指します。
「オリエンテーション」「研修」「コミュニケーション促進」「定期面談」「メンター制度」といった方法がありますが、オンボーディング体制が整っていないと、入社者がミスマッチを感じたときに適切なフォローができず、早期離職につながることがあります。
採用ミスマッチが与える影響
採用ミスマッチが生じた場合、組織にどのような影響を与える可能性があるのでしょうか。考えられる4つの影響を解説します。
早期離職が発生する可能性がある
入社者がミスマッチを感じると、早期離職に至る可能性があります。採用担当者は再び採用活動を行う必要があり、余分な時間と労力を費やすことになります。また、「離職率」が上昇すれば、それを知った求職者に不安を抱かれるなど、今後の採用活動への影響も考えられます。
組織のモチベーションが低下する
選考時のミスマッチによって入社者が力を発揮できないと、周囲の社員の業務が増えたり指導に時間を取られたりと、配属先に負荷がかかる可能性があります。もし入社者が早期に辞めてしまった場合は、組織全体のモチベーション低下を招く恐れもあります。
追加のコストが発生する
入社後に、経験・スキルとのミスマッチが発覚すると、「教育する」あるいは「採用活動をやり直す」といった必要が生じ、教育研修や採用活動の追加のコストが発生することになります。
事業戦略の遂行が滞る
事業戦略において重要な役割を担うポジションで採用した人にミスマッチが生じた場合、事業戦略の遂行が停滞することにもなりかねず、業績にマイナス影響を及ぼす可能性があります。
採用ミスマッチを防ぐ方法
採用ミスマッチは、採用計画や選考の段階で防止することができます。採用フローに沿って対策をご紹介します。
人材要件やミッションなどの適正化
採用においての「ターゲット人材像」「任せたいミッション」をより具体化しましょう。
その際、「スキルフィット」と「カルチャーフィット」の観点に注目します。「スキルフィット」とは、採用ポジションのミッションを遂行するために必要な経験・スキル・資格などの要件。「カルチャーフィット」は、自社の文化や社風との相性です。
面接担当者の主観によって評価が分かれることもあるため、定量・定性の両面で「採用基準」を明文化し、統一した基準で判断できるようにすることも大切です。
選考方法やフローの見直し
選考においては、応募者の経験・スキルを適正に評価できる人を面接担当者として選定しましょう。また、人事担当者・部門長・役員クラスだけでなく現場のメンバーと話す機会を設けると、働くイメージがつかめるため、入社後のミスマッチが起きにくくなります。
面接では応募者からの質問を受けつける時間を設けるなど、応募者が懸念点を解消できるようなコミュニケーションを図りたいものです。
カジュアル面談などの面談実施
「選考」を目的とする「面接」とは別に、カジュアル面談などの「面談」を設定するのも有効です。応募者と企業がお互いにリラックスした状態で対話することにより、相互理解を深められるでしょう。
面談の担当者は目的によって選定します。ミスマッチ防止を目的とするなら、応募者と属性やバックグラウンドが近い従業員と面談を行うことで、懸念点を払しょくできる可能性があります。
RJPを導入する
RJPとは「Realistic Job Preview」の略であり、直訳は「現実的な仕事情報の事前開示」です。
求職者に対して仕事や組織に関するポジティブな情報を伝えるだけにとどまらず、あえてネガティブな情報も率直に開示し、納得して応募した人を選考・採用するという考え方です。
リアルな情報開示を受けた求職者は、自身がその企業にマッチしそうかどうかを判断し、応募の意思決定ができます。「自身で判断して選んだ」という意識を持てるため、入社後も納得して働くことができるでしょう。
リファラル採用の強化
リファラル採用とは、自社の社員から推薦された友人や知人などを採用する採用手法を指します。推薦する社員は自社の業務内容、カルチャー、組織を構成するメンバーの特徴などを理解した上で、「自社に合いそう」と判断した友人・知人に声をかけるため、ミスマッチが起こりにくいでしょう。
リファレンスチェックの導入
リファレンスチェックサービスを提供している企業を活用し、導入を検討する企業もあるようです。リファレンスチェック(Reference Check)とは、企業が応募者のこれまでの仕事ぶりや人物像などを確認することを目的に、応募者と一緒に働いたことがある第三者(一般的には現職や前職の上司・同僚)に対して行う調査です。ミスマッチ防止の参考になる情報が得られる可能性がある一方、やり方次第では個人情報保護法の違反につながったり、トラブルに発展することもありえます。そのため、行う場合は慎重に取り扱う必要があるでしょう。
採用ミスマッチを防ぐために、スカウトサービスの活用も有効
スカウトサービスを活用すると、自社が求める要件にマッチした人材にダイレクトにアプローチができるため、採用ミスマッチが生じにくくなることが期待できます。
スカウトメールの送付時には、求人の詳細や採用ピッチ資料、動画などを活用して詳細な情報提供をしておきましょう。スカウトを受けた求職者側も自身にマッチするかどうかを判断したうえで応じる可能性が高く、マッチングの精度が高まるでしょう。
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。