「雇われる側」の心理、「雇う側」の論理

「雇われる側・雇う側」の利害相反

何かを買う時は「できるだけ安く買いたい」、何かを売る時には「できるだけ高く売りたい」というのは、当たり前の心理です。そしてこの2つの欲望は、重要なものであればあるほど簡単には一致しません。

雇用する側の企業と雇用される側の労働者の関係においても、これに似た傾向があります。


転職市場でいうと、

求職者サイド:「自分はこれだけの経験や実績があるのだから、もっと高い報酬をもらってもいいはずだ」

企業サイド:「他の会社でいくら活躍したといっても自社で活躍できるかどうかは不透明。リスクがある以上、最初から高い報酬は支払えない」

という、心理と論理のぶつかり合いが起こります。


選考過程でどれだけ相思相愛になっても、最終段階の年収提示でかみ合わず、破談になってしまうこともしばしばあります。

現職よりも収入を上げることを目的に転職活動を始める求職者も多いため、やむを得ない側面もあるのですが、雇用する側からすると、

① これまで長く働いてきてくれている既存社員の給与水準との公平感
② 活躍度が読めない段階で高報酬を確約することへのリスク
③ いくら期待外れでも現実的に入社後に給与を下げることの難しさ

など、高報酬で受け入れることを躊躇してしまう背景には、やはりそれなりの合理的な理由があります。

そのため、経営者が雇用することを決断し、報酬を決定する際の視点は、「この人は今後(未来)に、いくら稼いでくれそうなのか?」という、現在から未来を見る投資的な観点になりやすいのです。

求人企業の視点

  • 「今後の成果予測をもとに、いくらまでなら投資できる人材か?」(未来 × 適応変化の可能性 × 予測収益)

一方で、求職者側は、

求職者の視点

  • 「過去の実績を基準に、自分をいくらで買ってもらえる会社か?」(過去 × 現時点の自分 × 値段)

という過去から現在を見る視点なので、この両者の間に流れるギャップは、想像以上に深くなりやすいのです。

今後、転職を考える方には、このギャップを上手に利用していただきたいと考えています。1件の求人に平均27人といわれるライバル候補者の多くが、上記の求職者視点を持って面接に臨んでいるとすると、求人企業視点に寄り添った形でアプローチできるだけで差別化できるということです。

その際、「もしも自分が自分を雇うなら、いったいいくらの給料で雇うだろうか?」というシミュレーションは有効かもしれません。

自分の銀行口座からお金をおろして給料を払うことを想像すると、それが自分自身であってもあまり多く払いたくないと思う人も多いのではないでしょうか。もらう側の立場にいると、いつのまにか甘くなりがちな自己評価ですが、報酬を支払う側の目線を想定することは、当たり前のことです。

また、同期との比較、同業他社との比較、異業種との比較という相対評価で、自分自身の価値を想定するのではなく、自分に対する「絶対評価」を意識して習慣づけておくことで、隣の芝生をうらやましがる「自分と誰かを比べる人生」に飲み込まれてしまうリスクも下がります。

自分自身のキャリアや価値を、相対的なものではなく、絶対的なものとしてオリジナルな価値を目指しながら生きていくことで、かけがえのない、より深い充足感を得ていただきたいと思います。

黒田真行氏

ルーセントドアーズ株式会社代表取締役

黒田 真行(くろだ まさゆき)

日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。1989年リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。14年ルーセントドアーズを設立。著書に本連載を書籍化した「転職に向いている人 転職してはいけない人」など。

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