「次世代経営リーダーサロン」レポート

2015年2月2日、様々なキャリアを積んでこられたローソン社長の玉塚元一氏と、カリスマヘッドハンターとして数多くの経営者を見続けてきた縄文アソシエイツ代表の古田英明氏によるトークセッションが開催されました。
今回のテーマは、次世代経営リーダーとして必要なキャリア形成について。玉塚氏からは、旭硝子入社から現職に至るまでキャリア形成などについて、古田氏からは、玉塚氏の話をもとに、プロ経営者として成功する人としない人の違いなどを語っていただきました。会場は、お二人の「プロ経営者になるための極意」を習得しようというビジネスパーソンで超満員、熱気にあふれたイベントとなりました。

2015年2月2日、様々なキャリアを積んでこられたローソン社長の玉塚元一氏と、カリスマヘッドハンターとして数多くの経営者を見続けてきた縄文アソシエイツ代表の古田英明氏によるトークセッションが開催されました。

今回のテーマは、次世代経営リーダーとして必要なキャリア形成について。玉塚氏からは、旭硝子入社から現職に至るまでキャリア形成などについて、古田氏からは、玉塚氏の話をもとに、プロ経営者として成功する人としない人の違いなどを語っていただきました。会場は、お二人の「プロ経営者になるための極意」を習得しようというビジネスパーソンで超満員、熱気にあふれたイベントとなりました。

ローソン社長玉塚氏×カリスマヘッドハンター古田氏 対談

古田:
今回のテーマでもある「プロの経営者」を思い浮かべたとき、真っ先に頭に浮かんだのが玉塚さんでした。その理由については、今後のやりとりの中で見えてくるのではないかと思っています。彼は現在に至るまでに様々なキャリアを築いていますが、ヘッドハンターの力を借りずに自分の力で切り開いている。願わくは、ヘッドハンターとして一度は玉塚さんのキャリアのお手伝いをしてからリタイアしたいと思っています。ではさっそく、玉塚さんに気持ちを少し昔に戻していただき、いつから経営者を目指していたのかお聞かせいただきましょう。まずは玉塚さんのキャリアについて、振り返っていただけますか?

玉塚:
大学卒業後に就職したのは、旭硝子です。旭硝子を選んだ理由は3つ。製造業は日本経済を支える根幹だと思ったことと、グローバル展開しているから海外で活躍できそうだと思ったこと、そして慶應ラグビー部のOBがいなかったことです。体育会系の学生は、いわゆる大手商社、大手銀行など、先輩がいる会社に進む傾向がありますが、私はもっといろいろな企業に分散して力を発揮しないともったいないと思ったのです。

対談の様子

古田:
経営者に興味を持ったのも、旭硝子の時ですか?

玉塚:
工場勤務後、4年目の1989年から93年まで赴任したシンガポール時代ですね。日本企業が東南アジアに構えた生産拠点に、原料となる化学品を売るのが私の仕事でしたが、新たに工場を建てたり、販売会社を買収するなど、営業だけでなく経営の中枢っぽい責任ある仕事も任されました。その中で、会社を経営することや、事業を通じて価値創造することは本当に面白いなと思うようになったのです。いつかは自分が経営をやりたいなと、ぼやっと思い始めるようになったのも、その頃です。

古田:
その後、アメリカの大学院に進み、MBAを取っていますね。

玉塚元一さん

玉塚:
はい。赴任して4年が経ち、そろそろ帰国という頃に、回ってきた回覧板に「経営学を学ぼう」という案内があったのがきっかけでした。今でいう「MBA留学」の案内です。見た瞬間、「これだ!」と思い、すぐに応募しましたね。その頃、経営に興味を持つようになった一方で、貸借対照表も見られないしキャッシュフローのしくみもわからない自分の、知識不足を痛感していたのです。幸い、シンガポールで実績を挙げていたので、何とか根性で合格。アメリカの大学院で2年間、勉強させてもらいました。大学院では、とにかく貪欲に経営学を学びました。乾いた砂が水を吸収するように、もっともっと!と心の底から勉強を欲していました。ハイパー興奮状態にあったので、本来とるべき単位の倍近くも取ってしまったほど(笑)。そして、大学院で出会った大学院OBの話が、大きな転機になりました。ジーパンにキャップを被った、40代前半ぐらいの男性。ずいぶんラフな服装だと思っていたら、実は2000~3000億円規模の会社を経営していると言うんです。そして、「うちの商品が世界を変える」「そのためにこんなチャレンジをするんだ」と目を輝かせて話すわけです。衝撃的でしたね。このままでは、日本の企業はグローバルマーケットで絶対に勝てない、自分も彼のようにチャレンジしなければと思い、転職を決意したのです。

古田:
気づいたときが動きどき、ということなのでしょうね。そして帰国後、旭硝子を退職して日本IBMに転職されたと。

玉塚:
小さくてもいいから事業を興せるようにならなければ…という想いが強まる一方で、旭硝子にはMBA留学させてもらっているので、辞めるなんてとんでもないという気持ちもありました。しかし、会社に自分自身が何としてもチャレンジしたい気持ちを率直に伝え、了承していただきました。そんなときにたまたま縁があって日本IBMに入社することに。ITを学びながら、今後の方向性を決めようと考えたのです。

古田:
このときに、ファーストリテイリングの柳井さんに出会ったのですよね。そして、後に同社に転職することになります。

玉塚:
そうです。IBMに入社して3カ月が経った頃、ファーストリテイリングにコンピュータシステムのプレゼンに行ったのが柳井さんとの出会いです。プレゼン後に柳井さんに呼び出され、「君はいったい何がしたいんだ」と聞かれ、「本当は商売や経営がやりたいんです」と打ち明けました。すると、コンサルタントをやっていては経営なんてできない、現場で苦労をしてこそ、お客様に受け入れていただける商売ができるのだと言われたのです。当時の私は素直に、心の底から反省しました。MBAを取ってちょっとコンサルタントをやっているだけで、経営を知っている気になっていたんですよね。柳井さんのもとで働けば何かが変わるかもしれないと思い、「丁稚奉公させて下さい」とお願いしました。

古田英明さん

古田:
皆さん、ビジネス誌のインタビュー記事の玉塚さんとは印象が違うでしょ?(笑)このように、生身の人に触れ、実際の現場を見るのが大切で、きれいごとだけ学んでも何の勉強にもならないんです。私は、これまでの玉塚さんの発言の中に、すでに10個ぐらいプロ経営者としてのヒントがあるような気がしますね。例えば、普通の考えでいけば、MBAを取って、IBMに移った後、ユニクロを選ばないでしょう。当時のユニクロは、まだ山口県本社の小さな会社ですからね。でも、玉塚さんは10人いれば9人が否定する方を選んで、今に至っていると感じます。これは大きなヒント。何かにチャレンジする時、あえて辛い道を選んだほうが、結果的には成功するということを示唆しているのではないでしょうか。実際、数々の経営者を見ていても、そのように思いますね。

玉塚:
実は今まで自分のキャリアプランなど全く考えたことはないんです。大きな壁にぶち当たり、それに必死になって向き合っていると、必ず誰かが見ていて、「今度はこれに向き合ってくれ」という。柳井さんに出会った時も、冷静に考えればチャレンジするのはリスクが大きいかもしれないですが、逃げずに向き合うと決めていたから、飛び込めました。

古田:
今の話を聞いて思いましたが、人って、歳を重ねるほど子供の頃の自分と違うことができなくなるものですよね。履歴書に書けることなんて、自分の中の「氷山の一角」。隠れている「氷山」の部分と縁もゆかりもないことをやり続けていると、人は疲弊してしまう。表に出ていない氷山の部分を、ぜひ大切にしてほしいですね。

対談の様子

玉塚:
基本的には人にはそんなに能力の差はなくて、日々仕事に向き合う姿勢や努力によって変わってくるのではないかと思っています。ユニクロ時代に実感しましたが、成長する人は皆「自立型」であり、そうでない人は「依存型」。当時のユニクロは急成長中で、人手が足りず、非常に厳しい環境下でした。そんな中でも成長する人は、商品の売れ行きも全て自分のこととして捉え、「陳列を変えればよかった」「チラシを配るエリアが狭かった」「社員教育が足りなかった」などと振り返って反省し、改善を繰り返していく。一方で成長しない人は、「商品が悪い」「トップがまた変なことを言っている」など常に他責です。

古田:
ここまでの話を振り返ると、玉塚さんはキャリアプランというものを考えたことはないけれど、キャリアの節目節目で自分に徹底的に向き合うことで、道を切り開いてきたという印象ですね。ビジネスパーソンの皆さんも、日々考える必要はないですが、一度ぐらいは、目の前の事や自分自身と向き合う時間を持ったほうがいいと思います。私自身は、キャリアアップという言葉よりも、「キャリアディベロップメント」と言うほうがよりしっくりくると思うのですが、文字通り自分のキャリアを掘り下げ、自分自身と向き合ってじっくり考える機会を持つことをお勧めしたいですね。

玉塚:
自分に徹底的に向き合うことは、本当に大切だと思います。よくラグビー部時代の後輩からキャリア相談を受けるのですが、今いる環境で自分がやるべきことをやり切ったのか?と聞くと、案外やり切れていない。仕事に、自分に徹底的に向き合い、とことんまでやり切ったと言い切れて、かつどうしても挑戦したいことができたら、次のステップに進めばいいと思います。

古田:
おっしゃる通り。やり切ったと言い切れないまま、隣の芝生がきれいに見えてふわっとした気持ちで転職しても、そこにはプロがいるから勝てるはずがない。「何をどう頑張っても、今の環境ではもうやるべきことがない」と言い切れるまで自分を追い込んでから、次の選択肢を考えるべきだと思います。

参加者の質疑応答

玉塚さん、古田さんのトークセッション終了後、参加者からの質疑応答の時間が設けられました。お二人の意見を直接聞ける場と会って、数多くの手が挙がり、積極的な質疑応答がなされました。

私自身もプロ経営者を目指したいと思っています。ユニクロとローソンではプロ経営者であり、一方のリヴァンプは自ら立ち上げた会社であり株主でもある。複数の会社の経営者として渡り歩く「プロ経営者」と、自分で会社を立ち上げる「創業者」では、何か意識が違う部分はありますか?

玉塚:
ユニクロを辞めた時、有り金を全てつぎ込んでリヴァンプを創業しました。リスクを取る経験をしないと、次に進めないと思ったからです。ただ、それとローソンの経営者としての意識が違うかと言えば、全くそんなことはありませんね。

古田:
経営者にはいろいろなタイプがいます。創業者もいれば、プロの経営者として活躍する人もいる。二代目、三代目の事業継承者もいます。私も、玉塚さんと同じ意見で、経営者としてやるべきことは創業者だろうが、他社からヘッドハントされたプロの経営者だろうが、社員から昇格した経営者だろうが、皆一緒だと考えます。どういうなり方でもいい、なったからにはプロとして行動する。それが経営者であるべきだし、従業員や株主もそういう考え方で経営者を見たほうがいいと思いますね。

次のキャリアにチャレンジしたいと思いつつも、今の会社にも恩があるし、迷っていました。どうやって旭硝子を辞めるという決断ができたのか、もう少し突っ込んで教えて下さい。

玉塚:
きっかけは、先ほどもお話しした大学院OBとの出会いでした。早く彼のようになりたいと思い、だったら小さくてもいいから、もがき苦しみながらも自分の手で全てをコントロールしながら商売をするという経験を、一刻も早くしたほうがいいと思ったのです。

古田:
転職も一つの選択肢ではありますが、まずは社長の位置を狙って、本気で頑張ってみたらどうでしょう。そういう気概を持って臨んだ人にこそ、次のステップがあるはず。もしかしたら、何代か後のローソン社長にだってなり得るかもしれませんよ。

お二人からのメッセージ

最後に、参加者の皆さんへ、お二人からメッセージをいただきました。

玉塚:
皆さん本当に真剣なまなざしで話を聞いて下さり、成長したい、チャレンジしたいという熱い想いを感じました。すばらしいことだと思います。皆さんそれぞれ役割は違うと思いますが、全員に無限の可能性があります。ここでお会いできたのも何かの縁。目の前のことにとことん向き合い、頑張ってほしいと思います。

古田:
玉塚さんの話には、さまざまな学び、ヒントがありましたが、その中の一つだけでも持って帰ってもらえたらと思いますね。今日の話中から、自分は何がゲットできたのか、考えてみてほしいですね。お互いのために貴重な1時間半になったのではないかと思います。

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