石橋善一郎氏が語るCFOのキャリアとマインドセット | CAREER CARVER(キャリアカーバー)

CFOとは、Chief Financial Officer、つまり「最高財務責任者」を指します。経理・財務データをもとに財務戦略を練ったり、キャッシュフローの管理、ファイナンスの実施、M&Aなどの投資戦略の立案などを行ったりと、企業経営を財務面から牽引するのがCFOの使命です。起業件数の増加に伴ってCFOの求人ニーズは拡大中で、将来のキャリアとしてCFOを目指す若手ビジネスパーソンも増えつつあるようです。そこで今回は、企業財務のプロフェッショナルを養成する「日本CFO協会」の会員であり、CFOとして第一線で活躍している石橋善一郎氏に、CFOになるために必要なマインドセット、石橋さん自身のキャリア、CFOの実際の仕事内容などについて伺いました。

CFOとは、Chief Financial Officer、つまり「最高財務責任者」を指します。経理・財務データをもとに財務戦略を練ったり、キャッシュフローの管理、ファイナンスの実施、M&Aなどの投資戦略の立案などを行ったりと、企業経営を財務面から牽引するのがCFOの使命です。起業件数の増加に伴ってCFOの求人ニーズは拡大中で、将来のキャリアとしてCFOを目指す若手ビジネスパーソンも増えつつあるようです。そこで今回は、企業財務のプロフェッショナルを養成する「日本CFO協会」の会員であり、CFOとして第一線で活躍している石橋善一郎氏に、CFOになるために必要なマインドセット、石橋さん自身のキャリア、CFOの実際の仕事内容などについて伺いました。

経営チームの一員として戦うのがCFOである

インテル日本法人、ディーアンドエムホールディングス(以下、D&M)、日本トイザらスでCFOを歴任されてきた石橋さんに、ズバリ伺います。CFOとはどのような仕事でしょうか。

CFOという役割は、米国企業で生まれました。米国企業のCFOは、企業の短期的な業績目標達成と長期的な株主価値の最大化という二つの目的を達成するために、CEOの最も重要なビジネスパートナーとして、企業の戦略的な意思決定と戦略の実行に携わる仕事です。しかし、同じCFOという肩書きを有していても、CFOの仕事の内容には企業によって大きな違いがあります。CFOの仕事の多様性を簡単に説明した上で、CFOのあるべき姿に関する私の意見を述べさせてください。

石橋善一郎さん

日本企業、特に日本の大企業において、近年、CFOという肩書きが徐々に広がってきました。社長がCEOという肩書きに変わるのとセットで、経理・財務部門の責任者である経理部長兼財務部長がCFOという肩書きになるパターンでした。日本企業の組織図の特徴は、社長が文鎮型組織の頂点に位置していて、文鎮の部分に横一線に職能部門、もしくは事業部門の責任者が社長に報告する形です。日本企業のCFOは、組織図上、経理部門と財務部門の責任者に留まり、企業の戦略立案や事業計画の作成に携わる経営企画部門には別の責任者がおり、CFOが経営企画の責任を負わないケースが多いのです。

米国企業のCFOの仕事は、CEOの最も重要なビジネスパートナーとして、企業の戦略的な意思決定と戦略の実行に携わる仕事であり、職務の一部に経営企画部門が含まれていないことは有り得ません。同じ理由で、大半の米国企業では、情報システム部門もCFOの責任分野の一つになっています。米国企業でのCFOの役割は、経理・財務部門の責任者という日本企業のCFOの役割よりも著しく大きいということが言えます。

もう一つ付け加えますと、米国企業であっても日本企業であっても、個々の企業のCFOの仕事には大きな違いがあります。大企業か中堅企業かベンチャー企業か、財閥系の歴史のある企業か創業者の率いる新興企業か、企業が上場しているか否か、企業の成長過程や直近の業績、企業の属する業種や企業のビジネス・モデルで、CFOの仕事の内容は大きく異なります。企業に関連した要因ではなく、CFOをされている方の個人の資質や経験、CEOとの関係性でも、CFOの仕事内容が大きく変わります。米国企業と日本企業の違い、そして個々の企業の違いから、CFOの仕事内容には大きな多様性があります。CFOの仕事を一言で定義するのは難しいです。

CFOの仕事について私の意見を申し上げますと、CFOの仕事の根幹は経理・財務の専門家としてチームにアドバイスをすることではありません。CFOは経営チームの一員として、経理や財務のスキルを活用して、目標を達成するためにチームと一緒に現場で行動すべきです。その意味で、経理と財務の専門知識は有用ですが、CFOの仕事を学ぶには、米国企業でFP&A(Finance Planning Analysis)と呼ばれる事業管理・支援の仕事を実践で経験することが非常に重要です。

では、CFOになりたい方はどうしたらよいのでしょうか。

CFOの仕事が①経理、②財務、③事業管理・支援の3つを含む米国企業のCFOを目指したいという前提で、お話をします。CFOを目指す方のキャリアの入口としては、①日本企業の経理・財務部門、②外資系日本法人のファイナンス部門、③監査法人などのプロフェッショナルファーム等の選択肢があると思います。大学在学中に何を勉強されたかはあまり重要ではないと思います。先に挙げたどの入口からCFOを目指すにせよ、社会人になって最初の10年間が勝負です。最初の10年間に社会人として現場での仕事を実践で学び、同時に経理や財務の専門知識や英語でのコミュニケーションスキルを学ぶためにCPAやMBA等の資格取得を目指すことが必要です。

CFOには、財務・経理・税務等の「ファイナンス・スキル」、情報システムやサプライチェーン等の「ファイナンス関連分野スキル」、戦略策定等の「経営計画スキル」、リーダーシップ能力やパートナーシップ、問題設定・解決等の「マネジメント・スキル」の4つのスキルが必要だと言われています。スキルには教室や本から学べる知識と、実践で経験しなければ習得できないスキルがあります。常に、5年後の自分、10年後の自分を見据えて、目的意識を高く持って、自分に欠けているスキルを学習し、自分に必要な経験を積まないといけません。自分の得意不得意、好き嫌いなどを考えつつ、優先順位を付けて4つのスキルを学んでいくことが重要です。

社会人としての最初の10年は実務で自分の得意分野を探しつつ、ファイナンス・スキルや経営計画スキルを学ぶことに注力し、次の10年は自分の不得意分野でも経験を積み、マネジメント・スキルを磨くことが重要になります。社会人としての最初の10年間の後半には、自分の実務経験を振り返って次を考えるべきです。日本企業にお勤めであれば、海外子会社への異動を働きかけるべきです。移動の機会が与えられなければ、社外への転職を検討すべきです。外資系日本企業であれば、経理の経験者は事業管理へ、事業管理の経験者は経理へ移動してより広範囲の実務経験を積むことを検討すべきです。日本企業で海外子会社への異動や米国企業で本社への移動は何事にも替えられない貴重な経験になります。現状に満足して同じところにいるのは、CFOのキャリアを目指す方には最悪の選択です。

外資系日本法人のファイナンス部門の方にお勧めしたいのは、経理、事業管理の両方の実務を経験して、「コントローラ」というポジションを目指すことです。米国企業ではコントローラは部門CFOとも呼ばれ、部門長や子会社社長や工場長のビジネスパートナーとして事業全体の戦略策定・実行を支援します。米国企業では、コントローラを経てCFOになるのが一般的なキャリアパスになっています。

CFOを目指すのであれば、経理・財務の専門家の道を進んではいけません。CFOは「実践」が欠かせない職種です。あえてビジネス現場のカオスに飛び込み、自らカオスを創り出すくらいの覚悟が必要なのです。CFOのキャリアについては、日本CFO協会でリーダーシップ部会が開催されており、現役CFOやCFO経験者のキャリア形成のお話を伺えます。リーダーシップ部会のテーマは、「組織に依存しない強いCFOを育てる」。是非、ご参加をお勧めいたします。

5年後、10年後の自分が今とは違うところ、より遠くへ行けるように、常に新しいことにチャレンジしたい。

CFOのキャリアの具体例として、石橋さんのこれまでのお話を伺えればと思います。

私は1982年に富士通株式会社に入社しました。事業管理部に配属され、3年間は海外子会社の管理を行っていました。米国企業のファイナンスアナリストに近い仕事です。その後、1985年から富士通の米国子会社に出向し、経営管理に携わりました。この頃、日本企業は大変な好景気で、私の働いていた企業も積極的なビジネス展開を見せていました。ここでいち早くM&Aを経験できたことは、大きな財産になりました。

その後、1988年から2年間、休職して自費でスタンフォード大学のビジネススクールに通い、MBAを取得しました。富士通株式会社を退職して日本に戻り、経営戦略のコンサルティング会社、コーポレート・ディレクションで経営コンサルタントに転身しました。そこでわかったのは、私が目指すプロフェッションは、コンサルティングではないということでした。

石橋善一郎さんと八尋弓枝

経営コンサルタントを辞めようと思ったとき、私は32歳になっていました。そろそろ自分のキャリアの方針を定めなくてはならないと思いました。そこで改めて自らのキャリアを振り返ったのです。自然と出てきた答えが「事業管理(FP&A)」でした。思えば、私が富士通株式会社の米国子会社で行っていたのは、まさしくFP&Aだったのです。経理・財務の観点から、業績向上のためにどうしたらよいのかを、経営者の視点で企画・分析し、進言していました。いくつかの外資系企業の門を叩きました。その結果、インテルに入社が決まり、ファイナンスアナリシスマネジャーになったのが1991年のことです。ちなみにこの転職活動の最中、ヘッドハンターの方から「石橋さんにはCFOになるという道があるのではないですか」と提案されたのです。しかし、そのときはまだ、自分のキャリアの先にCFOがあるとは考えていませんでした。

14年在籍したインテル時代のことを教えて下さい。

インテルに入って初めて、CFOになりたいと思うようになりました。そこで自ら希望して、ファイナンスアナリシスマネジャーの後で2年ほど、アカウンティングマネジャーを務めました。CFOに必要な経理の実務経験がなかったからです。米国公認会計士の資格取得の勉強も始め、数年後に取得しました。並行して、米国公認管理会計士や米国内部監査人資格も取得しました。

そして2000年、米国のインテル本社に駐在を許可され、モバイル・プラットフォームズ事業部(ノートブックPC向けマイクロプロセッサ部門)を担当するコントローラになりました。その頃はまだデスクトップPC向けマイクロプロセッサをノートブックPCに搭載していたのですが、電力消費量と発熱量が大きすぎるため、どうしてもノートブックPCの小型化が図れない状況にありました。そこで、ノートブックPC向けに独自のマイクロプロセッサを開発する必要があったのです。しかし、2000年にいわゆる「インテルショック」が起こり、レイオフが行われました。私がコントローラとして注力したのは、レイオフの中で、いかにエンジニアリングリソースを新しいノートブック向けマイクロプロセッサを開発するプロジェクトに多く配分するかということでした。ゼロベース予算やDCFの手法を使ってプロジェクト間の資源配分を行いました。結果的に、ノートブックPC向けマイクロプロセッサの開発がうまくいき、インテルの業績はV字回復を遂げました。この事例研究の詳細は、私が翻訳に関わった「インテルの戦略」という本にまとめられています。

その後、D&M、そして日本トイザらスのCFOになったのは、なぜでしょうか。

インテルでのキャリアの延長線上に、5年後の自分、10年後の自分に何か変わったものを見ることができなかったからです。簡単に言えば、いずれも「チャレンジ」がしたかったのです。多くの外資系企業の日本法人CFOは、海外子会社である日本法人という一部門のコントローラで、資金市場へのアクセスや銀行借入を含む財務分野を担う機会がありません。CFOとして必要な財務分野のスキルを高めるために、インテルの日本法人のCFOとして勤務しながら、一橋大学大学院国際企業戦略研究科の夜間MBA課程である金融戦略・経営財務コースに入学しました。コーポレートファイナンスを中心に、日本市場におけるM&A法制などを学びました。入学から6年後の2010年に二つ目のMBAを取得することができました。

D&Mはデノンとマランツを中心とする高級オーディオブランドの集合体です。多くの外資系企業の日本法人CFOは、海外子会社である日本法人という一部門のコントローラで、資金市場へのアクセスや銀行借入を含む財務分野を担う機会がありません。D&Mは、東証二部上場企業でもあり、またリップルウッドというPEファンドの投資先でもあり、CFOとして経理・財務・事業管理(FP&A)のすべてを担う必要がありました。私はそうした「上場企業のCFO」を経験したかったのです。入社前に2年間赤字が続いており、私のミッションは経営の立て直しでした。こうした逆境期のほうが、CFOの活躍するチャンスが大きい。やりがいのあるポジションだと感じました。就任後、大胆な資産リストラを行うとともに、業績不振事業からの撤退を決め、積極的に海外でのM&Aを行なうことで、東証一部への上場を実現することができました。

D&Mで東証一部上場企業のCFOになるという目的を果たした段階で、日本トイザらスからお話を戴きました。日本トイザらスは外資系企業の日本法人ですが、ジャスダック上場企業でもあり、資金市場へのアクセスや銀行借入等の財務を担当する機会がありました。米国親会社の株主がPEファンドで、入社前2年間赤字が続いていたことが共通していました。業種は初めての小売業ですが、単なるCFOではなく、副社長として執行責任を負えることが魅力でした。ファイナンス部門だけでなく、情報システム、サプライチェーン、物流、店舗開発、店舗運営、E-Commerce、法務、人事などの各部門の執行責任も担いました。

2016年7月に約9年間在籍した日本トイザラスを退社しました。まだ56歳なので、次のチャレンジに向けて充電中です。これからも5年後の自分、10年後の自分が今の自分とは違うところ、より遠いところへ行けるように、CFOとして常に新しいことにチャレンジしていきたいと考えております。

対談者

石橋善一郎氏

上智大学法学部卒業。スタンフォード大学と一橋大学大学院国際企業戦略研究科にてMBA取得。米国イリノイ州公認会計士、米国公認管理会計士、及び公認内部監査人。富士通、富士通アメリカ、コーポレート・ディレクションを経て、インテル日本法人及び米国本社で14年間勤務し、インテル米国本社でマイクロプロセッサを開発する製品事業部のコントローラ、インテル日本法人のCFOなどを経験。その後、株式会社D&M執行役CFO、日本トイザらス・副社長兼CFOを歴任。監訳書にロバート・A.バーゲルマン『インテルの戦略』(ダイヤモンド社)がある。

株式会社リクルートキャリア コンサルタント 八尋弓枝

1994年株式会社リクルート入社。新卒および中途採用、従業員教育の分野で小規模企業から大手企業までを担当。事業部内でのトップセールス半年間連続など、アワード受賞多数。その後、株式会社リクルートエグゼクティブエージェントにて、役員等マネジメントクラスのキャリアサポートおよびリクルーティング(コンサルタント)を経て、2009年より経理財務領域を担当している。

CFOは年々重要性が増しているがCFOとして活躍するためには、経営企画・財務・経理の知識を横断で知っていることが必要となる。しかしながら、全ての領域を理解している人は少ないのが現状だ。CFOを目指す人にとっては今後のキャリア形成が重要となる。経営企画・経理財務のキャリアを考えている方はぜひ相談してほしい。

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