リクルートダイレクトスカウトが提携する約3,700名のヘッドハンターの中から、専門職のハイクラス(年収800万円以上)転職決定人数部門ランキングで2021年にNo.1を獲得したヘッドハンター、テラソルコンサルティングの佐藤まゆみ氏にインタビュー。主に小売・流通業界における専門職の最新転職動向とともに年収やキャリアのポイントについて伺いました。最近担当されたケースで高年収や満足度の高い転職をかなえた事例もご紹介します。
目次
【専門職の転職トレンド】求人ニーズは総じて堅調。店舗→ECへのシフトでデジタル人材の採用が拡大
当社は国内外のラグジュアリーブランド、宝飾や化粧品ブランドなど小売・流通サービス領域を中心に、主に専門職(スペシャリスト職)、マネジメントポジションの求人を数多く取り扱っています。
例えば店舗のデザインやヴィジュアルマーチャンダイザー、バイヤー、リテールディレクター、リテールマネージャーなど、それぞれ職種ごとに特化した専門性が求められる点が特徴。店長や店舗スタッフも、そのブランドに関する知識や販売方法、客層にあった対応等業界全体の知見が高い水準で求められます。
この領域の企業はコロナ以前、インバウンドを中心に業績を伸ばしてきました。それに伴い求人ニーズも旺盛でしたが、コロナ禍でインバウンド需要が一気に引いた当初は各社の戦略も「業績をいかに伸ばすか」から「どうやって生き残るか」にシフトせざるを得ない状況でした。
ただ、求人ニーズ自体は堅調。例えば、コロナ禍でも購買意欲が旺盛な富裕層向けのセールスアソシエイト職や、実店舗からECへのシフトを担うデジタル人材のニーズは拡大しました。コロナ禍でも自分たちの顧客を理解し分析し、次の一手を考え動いているという印象です。
【転職市場の今後の見通し】一時ストップしていたバックオフィス部門や店長採用も復活の兆し
そして今、コロナとの共存を見据え、人材採用を再び積極化する企業が増え始めています。
前述のような、コロナ禍の業績を支えるポジションだけでなく、これまで採用を一時ストップしていたオフィス部門など、直接売り上げ・利益を生み出さないポジションの採用も動き出しており、ここにきて企業の体制を強化しビジネスそのものを取り戻そうとする「攻めの戦略」に転じてきたと感じます。今後は、再び新規出店や改装や増床等の動きも出始めますし、デジタルを強化していく事でより店頭での接客の重要性が増しますので、ストアマネージャーやセールスアソシエイトなどの求人も本格的に始動するとみています。
また、EC拡大に伴いECサイト運用やデジタルマーケティング等を採用する企業も増えています。
【決定年収の傾向】コロナ禍でも大きなダウンなし。外資系は高水準をキープ
決定年収に関しては大きな変動はありません。コロナ禍でも求人する体力のある企業は、「求める経験・スキルをクリアし、高い専門性を保有している人であれば、一定水準以上の給与を出しても来てほしい」と考えているため、ビジネス環境が厳しい時期であってもほとんど下がりませんでした。特に安定したビジネス状況の外資系ラグジュアリーブランドは、コロナ直後~現在を通して、比較的安定しています。
【企業が求める人材像とキャリアのポイント】求めるのは、募集職種での高い専門性。業界経験のハードルは多少下がる
ECに関する人材は引く手あまた。コロナ以前は特にラグジュアリーブランドでは実店舗が中心でしたが、客足激減で各社ともこれまで手薄だったECを強化する必要に迫られ、デジタル人材を外部から確保する動きが顕著になりました。デジタルマーケティング職やCRM領域の人材は、認知度向上や売り上げアップの戦略立案を担う為、即戦力であれば少し年収を上乗せしても欲しいという企業が多いという印象です。
求める人材は、各社とも「同業界出身者」。専門知識が活きる場面が多いため、ラグジュアリーブランドであれば、他のラグジュアリーブランド出身かつ職種経験者を第一に求めます。しかし、高い専門性を持ち合わせた同業界出身者は、転職市場においては希少。特にECやデジタル領域周辺は該当する経験者が極めて少ないため、職種経験は重視するものの業界経験は譲歩する企業が増えています。
例えばデジタルマーケティング職の募集であれば、その領域の経験やスキルがあれば、ネット通販や幅広い消費財企業(スポーツアパレル、カジュアルグッズ等)の出身者など多少関連性がある業界まで対象を広げて候補者を探す動きが出ています。
また、コロナ以前から見られる傾向ですが、ラグジュアリーブランドを中心に全職種において「カルチャーフィット」を重視する企業が多いです。選考においてはスキルや経験はもちろん、組織風土や文化に合うかどうか、企業理念やビジョンに共感できているかどうかを細かくチェックしています。
特に現場の最前線でお客様と触れ合うストアマネージャーやセールスアソシエイト等の富裕層営業はその商品知識は元よりブランドの歴史や文化まで理解し体現できることが何より重視されます。
【求職者側の動き】経験を活かしつつ、領域を変えて経験値を高めたいという意見が目立つ
この領域では「今すぐ転職したい」という方よりも、中長期的にキャリアを考え準備している方が多いという印象です。特にコロナ禍で自身の将来を考え、「自身のキャリアプランや仕事に対する思いにフィットした会社やポジションがあれば、転職を検討したい」というスタンスの方が目立ちます。
その結果、以前に比べると「今までとは異なる領域を経験し、自身の幅を広げ経験値を高めたい」と考える求職者が増えていると感じます。例えば、「GMSでデジタルマーケティングに関わってきたが、もっと長期的にお客様と深く関係性を築くラグジュアリーブランドなどで経験を活かしたい」など。
前述のように、専門性が高ければ出身業界の条件を広げる企業は増えており、このようなチャレンジも受け入れられる可能性は高まっています。全くの異業界だと厳しいかもしれませんが、例えばネット通販や一般消費財のEC部門やEC業界など多少なりとも関連性のある業界であれば、ラグジュアリー経験者でなくても挑戦できる環境になってきているように思います。
小売・流通系専門職の高年収&満足度の高い事例TOP3を紹介
2021年は、勤務先の業績悪化や方針転換などを機に、現職でのやりがいを見失った方々が、より経営が健全でチャレンジングな環境を求めて活動した結果、高年収転職を実現した例が目立ちました。実際の事例を紹介します。
【Case1:50代】ラグジュアリーブランドの経験を活かし、営業本部長として年収2000万円転職を実現
外資系ラグジュアリーブランドで営業責任者を務めていたAさん(50代)。現職に大きな不満はなかったものの、営業としてさらなるチャレンジをしたい、経験の幅を広げたいという思いで、「同じラグジュアリーブランドの、別の商材の営業職への転身」を志しておられました。
決定したのは、他の外資系のラグジュアリーブランドの営業本部長。Aさんの希望にピッタリ合う環境があるうえ、企業側もAさんがこの領域で長く経験を積んでいて実績も申し分ないこと、転職経験が少なく直近企業での経験が長かったことなどから「当社でも腰を据えて働いてくれそうだ」と信頼感を持ち、とんとん拍子で話が進みました。
この転職により、年収は1800万円から2000万円にアップ。現在Aさんは国内の営業戦略をすべて任されています。
【Case2:30代後半】通販会社デジタルマーケティング→大手小売業に年収1000万円で転職
大手通販会社でデジタルマーケティングを担当していたBさん(30代後半)。デジタル領域での経験・スキルを磨くべく、通販とは別の業界に移って知見を広げたいと相談に来られました。
ご紹介したのは、店舗をメインに事業展開している国内大手小売企業のデジタルマーケティング職。「経験を活かしつつも、現職とは違う筋肉が鍛えられそうだ」と興味を持ったBさんは、ネットで情報を集めたり店舗に出向いたりしてその会社のことを調べ尽くしました。そのうえで、自身の経験・スキルを棚卸して、店舗の現状と課題を踏まえ「自分が入社したらこのように貢献できる」と面接の場で具体的にアピール。指摘の正確さに加え、ここまで自社を調べ尽くしてくれた熱意に企業側も感激し、双方納得のマッチングが実現しました。
年収は約900万円から1000万円にアップ。現在はデジタルマーケティング領域の責任者として、部門全体を牽引しています。
【Case3:40代後半】地方に店舗のある外資系ラグジュアリーブランドの店長から都内の外資系ラグジュアリーブランドの店長職に転職
全国展開をしている外資系ラグジュアリーブランドの店長を長年経験していたCさん(40代後半)。単身赴任で地方勤務をしていたが、コロナ禍での親の介護の事もあり、都内に戻りたいと相談をいただきました。
Cさんの希望は同様の外資系ラグジュアリーブランドの店長ポジション。
ただし都内に戻る事が第一希望である事から若干年収がダウンしても構わないとおっしゃっておりました。単身赴任をする前は都内での勤務もあり、同様の価格帯の商材を扱っていた事、路面店と百貨店と両方の店舗での店長経験があった事から、マネジメントを強化したいという店長の案件で話が動き出しました。
顧客確保やVIP対応にも慣れていらっしゃった事や何より歴史ある海外のラグジュアリーブランドを長年扱っていらっしゃったことから何回かの面接を経て転職が決定しました。
最終的に年収は800万から850万にアップ(インセンティブ等別)。
年収など待遇のアップより都内に戻る事を第一に考えていらっしゃったので、希望通り転職できたことに大変満足されておりました。
【流通系専門職のハイクラス転職のポイント】まずは現職で目に見える実績を上げること。自身の強みを理解し、それを磨く姿勢も重要
どの職種にもいえることですが、現職での実績が次のステップへとつながります。転職を志す前に、まずは現職で具体的に示せる結果を残すことが、ハイクラス転職成功の最大のポイントです。
そしてハイクラス人材は特に、自分自身を理解し、キャリアの中でどういったものが評価されるスキル・経験なのか、市場価値が高いものは何かを把握してさらに強化する努力が重要です。
総花的なキャリアの積み方ではなく、自身の強みを理解しそれを軸にステップアップしてきた人は特に注目されます。ハイクラス採用では、「〇〇領域のこの経験が欲しい」とピンポイントで要望されることも多く、軸がはっきりしている求職者とはマッチングもしやすくなります。
高い経験やスキル、突出した実績だけでなく、「失敗を語れる」人も強いと感じています。ハイクラス人材の多くは、成功体験だけでなく失敗経験から学び、それを糧とすることでステップアップしています。
ずっと右肩上がりで成長し続けられる人はほとんどいません。躓いた経験があるほうが人としての厚みになり、トラブル耐性も期待できると評価する企業は少なくありません。当社に来られる際は、失敗や壁にぶつかったことなど、ご自身のターニングポイントになった経験もぜひお聞かせいただければ嬉しいです。
佐藤まゆみ氏
テラソルコンサルティング株式会社 代表取締役
ドイツ銀行東京支店を経て1989年ケンブリッジ・リサーチ研究所に入社し、業界・職種不問で多数の外資系企業へバイリンガル人材のプレイスメントを実施。外資系大手流通企業の日本立ち上げ、数多くの外資系企業立ち上げ時期の組織づくりに携わる。外資系のみならず日系企業の海外進出、事業強化案件も多数手がける。2015年5月テラソルコンサルティング株式会社を設立。外資系ラグジュアリーブランドを中心に業界のスペシャリストやマネジメントポジションのプレイスメントの他、外資系、日系企業不問で消費財、小売り企業の組織強化・改革に伴う案件を多く扱っている。