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この4〜5年ほど超加熱状態が続いていた転職市場も、令和に入りここ最近、少し引き締まってきた印象を持っています。
もちろん日本における人材不足は構造的な部分が大きいので、今後も転職市場の活況は続くものと思われますが、この数年に比べますと厳選採用度合いは強まると見ています。
さて、そのような中、スキルもご経験も申し分ないにも関わらず、なかなか内定オファーを得ることができないというミドルやシニアの方も少なくありません。これを市況や企業側の受け入れ方の問題と見ることは簡単ですが、必ずしも本質を突いているとは言い難く、活動状況を好転させる鍵にもなり得ません。
実は私たちエグゼクティブサーチコンサルタントから見て、そこには共通する嵌りどころがあるのです。今回は、幹部クラス、ミドルシニア世代の皆さんが転職活動で陥りやすい、3大「落とし穴」についてご紹介し、その攻略法を考えてみたいと思います。
落とし穴 その1=「スカウトされた」「今の会社に不満はないが、良い場があれば」というスタンス
「ヘッドハントされたんです」
「いまも数社からスカウトされています」
お会いするなり、こう自己アピールされる方がいらっしゃいます。
これ、ご本人は、何か効果的だと思われて当方にお伝えしていらっしゃるのでしょうか?
だとすると、まったくの逆効果であるということを、まず、ご認識いただいたほうがよいかと思います。
「ヘッドハントされたんです」というアピールに対して、相手側の社長や人事責任者は、こう思っていることに気がつかないのでしょうか?
(「はあ、すごいね。だったら、うちになんかに面接に来ずに、そのスカウト先に行けばいいじゃないか」)
私も世では「転職エージェント」と称される立場にありながら、こういうことを言うのに違和感をお感じになられるかもしれませんが、声掛けされてそれ自体を自慢される人、それで喜んでほいほいと職場を替えるような人は、30代以降の中核人材としては適格性に欠けると見なさざるを得ないのです。
スカウトされて動く人は、次の会社でもまたスカウトがあれば動くだろう。
金や役職でほだされて動く人は、自社から次へもまた金や役職を天秤に掛けて動くだろう。
私が著書や講演、セミナーなどで事あるごとにお話ししている、「一事が万事」。そういうことです。
それなりの筋で、しっかりとした幹部採用を行っている企業の経営者や人事は、こういう見立てで「ヘッドハントされてます」「幾つかのところからの話で条件をみて決めます」という人を、自社の中核人材として採用することはないのです。
面接の場での“スカウトされている自慢”は、百害あって一利なし、ですね。
真にキャリアの重要な転換期や次のステージを迎えてのスカウトを受けた方は、こうした自慢を外に対してすることは、まずありません。
ヘッドハントの提案はありがたいことだと受け止めながら、果たして今後、自社でさらに職務を極めていくことが自身にも会社にとっても望ましいのか、あるいはこの局面で図らずも受けた新天地の提案に移ることで、自身の未来に対してより大きな展望が持てるのか否か。その際、現職企業についてけじめはつくのか。
こうしたことをしっかり熟考され、「ヘッドハントを受けた」とかどうとかということではなく、関係者にも配慮しながら、次へのステップについて真摯に語り、動きます。
こういうことでの所作というのも、幹部クラス、ミドルシニアの仕事人生における皆さんの器を、問わず語りに表すものなのです。
同様の話で、「いまの職場に不満はありませんが、もっと良い話があれば」という転職活動ステータスについても、スカウトされてますと同じく、「だったら、いまの会社でしっかり頑張れよ」と応募先の社長や企業は内心思っていることに、気づかないでしょうか?
なにかこうしたことがかっこよさげに語られる風潮が、特にMBAホルダーや外資系人材の方に多く見られますが、個人的にどうかなぁと思います。
相手の社長や事業部長、人事は、こう思います。
(「うちに入社したとしても、仕事しながらこうやっていつもエージェントに「何か案件ないですか」とやるんだろうな。とんでもない奴だな」)
と。
転職というのは人生における非常に重要な局面ですが、あくまでも大きなキャリア上の転換点におけることであり、99%は現職においてひと山、ふた山、大きな役割とミッションをクリアしていっていただき、成長を遂げ続けていただくことこそが大事なのです。
(*当社の自慢のようになってしまいますが、当社はエグゼクティブサーチだけを事業としておらず、現職の経営者・リーダー諸氏が現任でご活躍されることをサポートするコンサルティング事業やセミナー事業・会員事業も行っています。そうした観点から私たちは当社の事業モデルを設計構築し、経営者・リーダーの皆様の育成・輩出をご支援しています。)
「転職エージェントはかかりつけ医のようなもの」とは、欧米が発祥で、いまや日本でも言われるようになりつつありますが、転職エージェントがいつも薬を処方していたり手術を繰り返しているようなことでは本末転倒でしょう。
落とし穴 その2=「短期離職・転職を繰り返している」「どの会社も会社都合退職」という職歴
転職回数が図らずも多くなっている人、入社しての条件が異なったなど不遇な理由で短期間での離職をした経歴をお持ちの人。
覆水盆に返らずではありますが、前を向き、未来に向かって進むしかありません。しっかりと、自身のこれまでの過去とは向き合い、事実を認め、反省すべき点は反省して、次に向かいましょう。
経歴について、読み手である応募先企業の人事や経営者は、どうやってもその転職回数の多さ、在籍期間の短さについて疑念を持たざるをえないのは、逃げられようの無い事実です。
次は長く、定年まで勤め上げたいと思っています。幾ら言葉でそう言っても、これまで2〜3年ごとに転職を繰り返してきているなら、応募先企業の社長や事業部長、人事部長は、「うちにきても2〜3年で辞める」と思います。これも先の通りの「一事が万事」。厳しい言い方になりますが、現時点では、百万遍あなたが「次は長く、定年まで」と言っても信じる根拠はないのです。
こうした人は、職務経歴書の各転職の間の部分で、「前の会社を辞めた理由、その当時、次の会社を選んだ理由」について、事実経緯をしっかり記載しましょう。
転職回数が多い人や在籍期間が短い人が、この転職経緯情報なく職歴を出すと、読み手は「要するに、転職を繰り返してしまう人」「1社で仕事をやり遂げる力や気持ちのない人」としか、あなたのことを思ってくれません。
ここを記載したからと言って、あなたを認めてくれるようになるわけではありませんが、事情によっては理解できること、斟酌できることもあります。当時の転職選択に自分の判断ミスがあったなら、そういうことも含めて真摯に記載しましょう。
過去の企業が明らかにブラック企業で職場環境や待遇がひどかったという人もいらっしゃるでしょう。その際、気をつけていただきたいのは、過去の企業を誹謗中傷してもしかたないということです。その企業を選んだのはあなただという事実もあるのですから。
ある意味努めて淡々と「ファクト(事実)&ナンバー(数字)&ロジック(論理)」で記載してください。事実ベースで、どのような不具合があったのか、劣悪など労働環境があったのか、何かあなたに対してのハラスメントなどがあったのか、など、決して感情的な形容詞記述はしてはいけません。
また、ときおり、5社、6社と、いく先々が倒産や会社都合で転職を繰り返している方がいらっしゃいます。
「自分のせいじゃない」と当人はおっしゃいますが、応募先の人はそうは見てくれません。これらを選び続けたのは、間違いなく、当のあなたなのですから。状況によっては、あなたがおっしゃるほど、本当は過去の企業はひどい状況ではなく、単にあなたが逃げ出しただけかもしれないと、応募先企業の読み手は類推するでしょう。そこは大丈夫でしょうか?
そうではなく、本当に会社都合で退職するしかないところまで追い込まれた企業に数社所属し続けてきたとしましょう。
その際、この経歴が語ることは、「あたなに、企業を見る目がない」ということなのです。そこをしっかり反省し、今後、そうした企業を選ばないような選択ポイントをいま持っているかを、しっかり応募企業に伝える必要があります。そこをしっかり職歴書に記述ください。
それなくして、次の会社はありえないでしょう。
落とし穴 その3=「表情・印象が疲れている」「身だしなみを整えていない」という姿
幹部クラス、ミドルやシニア世代ともなれば、仕事の自信も得て、職責も重くなり、それなりの風格を持つことも重要となってきます。
一方、外見の印象が徐々に年齢と必ずしも連動しなくなってくるのも30代以降のミドル、シニア、エグゼクティブ世代の特徴と言えるでしょう。
キャリアカーバーユーザーの皆さんにとって、面接時の印象として、風格勝負でいくのか、あるいは若々しさ勝負か。
これは、どちらがどうと断定することはできませんね。(すみません。)
ただし、「老け込んでいる」ことだけは、極力避けたいところです。
テーマとやりがいを持って職務にあたっている人は、共通してエネルギー、精気に溢れ、そういう意味では若々しく見えるものです。
一方、テーマを喪失してしまっている人、やる気のない人というのは、年齢よりもだいぶ老け込んで見えます。
気持ちからくる部分も大きいですが、単純に平素の身だしなみの問題という部分も少なくありません。
「身だしなみが汚い」「タバコ臭がきつい」などは、応募先企業の面接者たちに「一緒に働きたいと思えないなぁ」「職場が暗くなりそうだ…」という印象を知らず知らずのうちに与えていることがあります。これが選考合否の最終判断を左右することもありますので、やはり気は使いたいですね。
また、先の項でお話ししました「入社した先々が業績不振や倒産」という経歴の方も(そのこと自体は致し方ありませんが)、自分の姿勢や考え方には気をつけましょう。こうした経歴も相まって、気持ちや行動が消極的であったりネガテイブなものになってしまっていると、自社のツキを落とされるのではないかという印象を相手が持ってしまうものです。次に向かって気持ちをフレッシュに切り替えて面接に臨むことがとても大事です。
無用な若作りをする必要はありませんが、<人生100年時代・定年70歳時代・社会人人生50年時代>を、自分自身のテーマとやりがいを持って、楽しみながら走り続けるためには、気力も充実させる努力は当然必要ですし、その土台としての体力作り、健康維持は欠かせませんね。
適切な運動習慣、正しい食習慣、自分を高め養うための読書や旅行、芸術鑑賞やイベント参加などなど。いざという局面のためにも、幹部クラス、ミドルやシニア世代の私たちには、日頃の自己投資・自己修養が不可欠なのです。
真剣勝負の転職活動。転職希望先企業のことは一所懸命調べていても、相手企業から「ぜひ一緒に働きたい」と思われるか否かについては、案外、意識し対策することをされていない方は多いです。
職務専門性やご経験と同じか、それ以上に「一緒に働きたい」と思われることは重要です。“相手企業の皆さんが「ぜひ、○○さんと一緒に働きたいです。一緒の職場にいたいです」と思ってくれる”自分像にチューニング・セットアップをし、自己投資をしましょう。
ではまた、次回!
株式会社 経営者JP 代表取締役社長・CEO
井上 和幸(いのうえ かずゆき)
1989年早稲田大学卒業後、リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年よりリクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)。2010年に経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。 『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ずるいマネジメント』(SBクリエイティブ)『30代最後の転職を成功させる方法』(かんき出版)など著書多数。