「DX人材」の必要性は強く叫ばれていますが、人材の採用や育成に課題もあり、充足していないという企業も少なくありません。はたして「DX人材」を確保できた企業とそうでなかった企業では、何が違うのでしょうか。2021年に株式会社リクルートが実施した「人的資本経営と人材マネジメントに関する人事担当者調査」のうち、DXに関する調査結果からみえてきたことを、株式会社リクルートHR統括編集長の藤井薫が詳しく解説します。今後の転職時の企業選びの参考にお役立てください。
本編に入る前に、本資料の使用データを紹介します。
2020年度「DX⼈材」確保の必要状況(第1弾:2021年12⽉15⽇発表)、および2020年度「DX⼈材」の確保状況(第2弾2021年12⽉21⽇発表)より、「DX⼈材」確保が「必要だった」回答者の789⼈を対象に、「DX⼈材」が必要⼈数以上確保できたグループ(必要⼈数以上・計=「必要⼈数通り」+「多少多い」+「多い」)と、確保できなかったグループ(少ない・計=「必要⼈数より⼤幅に少ない」+「多少少ない」)とで⽐較を⾏いました。経済産業省の「DX推進指標※定性指標」より項⽬を抽出し、「わからない/把握していない」を追加して聴取しました。抽出した項⽬は、下記の3つとなります。
第1弾:2020年度「DX⼈材」確保の必要状況(全体/単⼀回答)
第2弾:2020年度「DX⼈材」の確保状況(「DX⼈材が必要だった」との回答者/単⼀回答)
調査結果からみえてきた4つの視点
DX推進を担うミッションをもつ部署・人員の役割の明確さ、必要権限の付与状況
2020年度において「DX⼈材」が必要である回答者に、「DX推進がミッションとなっている部署や⼈員とその役割の明確さおよび必要な権限の付与状況」について聞きました。
「DX⼈材」が必要との回答者では、「明確になっていない」(レベル0)が約2割で、全社的に取り組みが⾒られるレベル3以上は3割近くとなりました。これを、DX⼈材の確保状況で⾒ると、⼈材が必要⼈数以上確保できたグループは、レベル3以上は43.2%であった⼀⽅、確保できなかったグループ(少ない・計)では、レベル3以上は23.1%と2割台にとどまりました。
「DX⼈材」確保ができたグループとできなかったグループとでは、レベル3以上の割合は20.1ポイントの差があり、確保できなかったグループの52.4%がレベル1以下で、DX推進部署の予算や役割が不明確であることが分かりました。
DX推進に必要な⼈材の育成・確保に向けた取り組みの実施状況
2020年度にDX⼈材が必要との回答者に、「DX推進に必要な⼈材の育成・確保に向けた取り組みの実施状況」について聞きました。
その結果、「⾏われていない」(レベル0)が15.1%で、全社的な取り組みが⾒られるレベル3以上は、36.4%となりました。これをDX⼈材の確保状況で⾒ると、⼈材が必要⼈数以上確保できたグループは、レベル3以上は53.9%と半数以上であった⼀⽅、確保できなかったグループ(少ない・計)は、レベル3以上は31.0%と3割台にとどまりました。
上記の結果から、「DX⼈材」確保ができた企業は、レベル3以上の全社的な取り組みを半数以上が実施していたことが分かりました。
DX推進のデジタル技術やデータ活⽤に精通した⼈材育成・確保に向けた取り組み状況
2020年度にDX⼈材が必要との回答者に、「DX推進のために、デジタル技術やデータ活⽤に精通した⼈材の育成・確保に向けた取り組み」が実施されているかどうかを聞きました。
その結果、「取組が⾏われていない」(レベル0)は16.0%で、「全社戦略に基づき、⼈材プロファイルが定義され、⽬標数値をもって、⼀部の部⾨で取り組んでいる」が24.3%で最も⾼く、「部署ごとでバラバラに⾏っている」が19.3%で続きました。また、全社的の取り組み以上が⾒られるレベル3以上は、36.5%でした。
これをDX⼈材の確保状況で⾒ると、⼈材の確保ができなかったグループ(少ない・計)は「取り組みが⾏われていない」が17.5%と、確保できたグループの9.2%より⾼く、レベル3以上を⾒ると、確保できたグループは56.8%と半数以上であるのに対して、確保できなかったグループは30.6%と⼤きく下回っていました。
今回行った取り組み状況に関する調査項目において、「DX⼈材」確保ができたグループとできなかったグループの差が最も顕著に表れており、レベル3以上の差は26.2ポイントとなりました。
「DX⼈材」の確保状況から⾒た「DX」に伴う『リスキリング』の実施状況
⼈事担当者に「DX」に伴う『リスキリング』の実施状況を2020年度にDX⼈材が必要との回答者で⾒ると、64.3%が実施していることが分かりました。これを「DX⼈材」の確保状況から⾒ると、必要⼈数以上確保できたグループは「実施・計」は72.8%だった⼀⽅、確保できなかったグループは64.0%でした。
【まとめ】DX⼈材を確保できる企業と、そうでない企業の差は、DX推進の実⾏⼒
DX人材を確保できる企業の特徴は
「DXに関する⼈事担当者調査」第3弾では、「DX⼈材を確保できているグループと、そうでないグループの差はどこにあるのか?」「DX推進をするための⼈材マネジメントは、どのレベルまで実⾏すべきなのか?」という問いを⽴て、「DX⼈材」確保が必要だった回答者789⼈の声からそのヒントを探りました。
今回の調査の結果、確保できる企業とそうでない企業には、下記の3つの項⽬において差があることが⾒えてきました。
1. DX推進がミッションとなっている部署、⼈員、その役割の明確さ、必要な権限の付与状況
× 確保できてない企業: 部署・⼈員・役割が不明確(他部署との関係も不明確)
◯ 確保できている企業: 部署・⼈員・役割が明確、権限付与、全社的取組
2. DX推進に必要な⼈材の育成・確保に向けた取り組みの実施状況
× 確保できてない企業: 不実施、部署毎でバラバラ
◯ 確保できている企業: 育成と調達の戦略的計画、全社的取組、評価・報酬・キャリアパス
3. DX推進のために、デジタル技術やデータ活⽤に精通した⼈材の育成・確保に向けた取り組み状況
× 確保できてない企業: 不実施、部署毎でバラバラ
◯ 確保できている企業: 全社戦略、⼈材定義、⽬標数値、全社的取組、評価・報酬・キャリアパス
DX推進における明確性と実行体制の差が人材確保に大きな影響を
DX⼈材を確保できているグループと、そうでないグループとの差には、明らかに共通項と分⽔嶺があることが分かります。
- DX推進における経営戦略から⼈材施策までの明確さ(⽬的・役割・評価・育成)
- DX推進における全社的な実⾏体制(推進部署への権限付与、全社を牽引・⽀援
また、レベル3(※)以上の明確性や実⾏体制が、⼈材確保への⼤きな⼒となっていることが見てとれます。
※レベル3:経済産業省「DX推進指標※定性指標」より定義されたレベルを指します
業務のデジタル化・効率化を超え、顧客の体験価値の向上、そして、事業構造の変⾰へ。「明確で全社的な経営戦略と⼈材マネジメントの透徹」こそ、優秀な⼈材の求⼼⼒、ひいては、企業変⾰の差に直結していくでしょう。
<調査概要>
■⼈的資本経営と⼈材マネジメントに関する⼈事担当者調査(2021)
調査⽬的:⼈的資本経営や⼈材マネジメント等に関する実態を明らかにする
調査⽅法:インターネット調査
調査対象:全国の⼈事業務関与者(担当業務2年以上)
調査期間:2021年10⽉29⽇〜11⽉12⽇
調査回答数:3,007⼈
≪調査結果を⾒る際の注意点≫
○%を表⽰する際に⼩数点第2位で四捨五⼊しているため、%の合計値と計算値が⼀致しない場合があります。
○n数が50未満の場合、参考値として掲載しています。
○主勤務先業種別では、「その他」は割愛しています。
≪⽤語の定義≫
○DX=デジタルトランスフォーメーションの略。経済産業省「DX推進指標とそのガイダンス」より、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活⽤して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変化するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業⽂化・⾵⼟を変⾰し、競争上の優位性を確⽴すること
○DX⼈材=この調査では「DXを推進するために必要な⼈材」としています
○リスキリング=新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの⼤幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得したりさせたりすること
株式会社リクルート HR*統括編集長
藤井 薫(ふじい・かおる)
1988年、株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)に入社。以来、人と組織、テクノロジーと事業、今と未来の編集に従事。『B-ing』、『TECH B-ing』、『Digital B-ing(現『リクナビNEXT』)』、『Works』、『Tech総研』の編集、商品企画を担当。『TECH B-ing』編集長、『Tech総研』編集長、『アントレ』編集長・ゼネラルマネジャーを歴任。
2016年、『リクナビNEXT』編集長に就任(現職)、2019年にはHR統括編集長を兼任(現職)。*HR=Human Resources(人的資源・人材)
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