転職にベストタイミングはあるのか?
先日発表された2018年5月の有効求人倍率は1.60倍で、44年4カ月ぶりの高水準ということでした。特に正社員は過去最高を更新、働く意思のある人なら働ける「完全雇用」の売り手市場の状況が続いています。
人手不足感が強いため、転職を考える人には強い追い風が吹いているといってもいいかもしれません。しかし、だからといって転職にとってのベストタイミングとは言い切れません。
特に35歳を超えたミドル世代にとっては、残りの仕事人生が充実したものになるかどうかがかかった重要な意思決定になるため、会社を辞めるかどうかの見極めはきわめて慎重に判断する必要があります。
今回は、自分に合った退職の判断基準について探っていきたいと思います。
「なぜ辞めるのか?」という動機に合理性があるか?
「この会社にもういられないかもしれない」と、退職を考え始めるきっかけは、人によってさまざまですが、TOP3は「収入不満」「人間関係不満」「会社の将来不安」です。
「子育てや介護などの負担を考えると、現在の収入ではやっていけない」
「上司との関係性が悪化して、これ以上続けるとメンタルを病んでしまう」
「衰退期に入った事業の下降トレンドが止まらず先行きが見えない」
3種類のうちどの理由も、転職を検討せざるをえなくなった理由として当たり前のものばかりです。ただ、どんな会社でも100%満足できる状態はあり得ないというのも一方の事実です。
感情が先走って判断がひとりよがりになっていないか、「あの時、こうしていれば状況が改善していたかもしれない」と後悔することがないか、という側面は自分なりにできる限り冷静に判断していただけたらと思います。
退職を決断する際の3つの判断基準
転職は、長い仕事人生をより楽しく、意義あるものにするための手段の一つです。しかし、一歩判断を間違えると、あなた自身を大きく傷つけることにもなりかねません。逆に、手遅れになりすぎて、自分らしいキャリアを失ってしまう恐れもあります。
それだけに意思決定が難しいのですが、どうしても迷ったときに、判断のモノサシになる基準値はいくつかあります。
① 「自分らしさ」を損なう場所かどうか?
特に、それほど規模が大きくない会社や、社内異動が難しい職場などで人間関係がこじれてしまうと、会社に残ること自体が精神面でのストレスとなり、自分らしさを失ってしまう、という可能性があります。
そんな場合は、一刻も早く退職をして、心機一転できる場所を探す方法をお勧めしています。働くことはは生活のために不可欠ですが、健康を損なってまで頑張るのは、本末転倒です。
自ら努力したうえで改善の可能性がなければ、速やかに退職して、離職後に転職先を探すという方法を考えるべきだと思います。
② 「働き続けて得られるもの」は、本当にないのか?
年収やポジションなどに不満がある場合、条件に魅力がある仕事と出会うと、どうしても心を動かされるのはやむを得ないことだと思います。
しかし、世の中に流通する求人情報の条件やポジションは、ほとんどの場合、「入社初年度」のワンショットの情報です。
条件だけに振り回されるのではなく、今の仕事をこれ以上続けていった場合に、「自分のキャリアプラン」、特に実現したいことが成し遂げられるのか?それが難しいのか?自らの付加価値をまだ高めていける余地が本当にないのかどうか、ということをじっくり考えて判断いただければと思います。
③ 「自分が変えられること」はないのかどうか?
会社の将来が見えないから辞めたい、という方は大勢おられます。
業界や職種によっては、どれだけ戦略を磨き、努力を重ねても、時代の流れにあらがえず復活が難しい性質のものもあります。
逆に、工夫や戦略一つで、まだまだ世の中に必要とされる余地があるものもあります。
関わってきた経験が長い業界や仕事であればあるほど、実は辞めようと思っている本人が、V字回復のカギを握っているということもあり得ます。
自分の裁量でできること、経営者に覚悟をもって提言すること、など、会社任せ・経営者任せではなく、少しでも自分自身に変えられる可能性があることがあれば、悔いの残らないように挑んでみてください。
ルーセントドアーズ株式会社代表取締役
黒田 真行(くろだ まさゆき)
日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。1989年リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。14年ルーセントドアーズを設立。著書に本連載を書籍化した「転職に向いている人 転職してはいけない人」など。