ビジネスシーンで耳にする「アーキテクト」とはどのような職種なのでしょうか。もともとは主に建築分野で使われていた言葉ですが、現代ではIT用語として一般的になっています。アーキテクトの役割・仕事内容・専門分野・目指し方などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
「アーキテクト」とは?
まず、「アーキテクト(architect)」とはどのような職種を示すのかをお伝えします。主には、IT業界・建築業界で活躍しています。
IT業界におけるアーキテクト
IT業界では、企業経営に関わるIT戦略の設計・構築を担う職種を「ITアーキテクト」と呼んでいます。
SIerやコンサルティングファームに所属している場合はクライアント企業に対して、事業会社のシステム部門に所属している場合は自社に対して、経営戦略や事業方針を踏まえ、最新技術をキャッチアップしながらシステム構築のあるべき姿を描きます。
建築業界におけるアーキテクト
建築業界におけるアーキテクトとは「建築士」「設計士」を指します。建築士資格を持ち、建築に際して設計・工事監理をはじめとする関連業務を担います。都市計画を手がける「マスター・アーキテクト」、構造技術者を指す「エンジニア・アーキテクト」、造園を行う「ランドスケープ・アーキテクト」などの専門職もあります。
アーキテクトとアーキテクチャとの違い
IT業界では「アーキテクチャ」という言葉もありますが、これは「情報システム全体の構造や設計思想」を意味します。アーキテクチャを設計する人が「アーキテクト」と呼ばれます。
企業におけるITアーキテクトの役割と仕事内容
ITアーキテクトが担う役割、仕事内容は以下のとおりです。
ITアーキテクトの役割
経済産業省の指定試験機関である独立行政法人情報処理推進機構(IPA)では、ITアーキテクトの役割を次のように定義しています(※1)。
「ビジネスおよびIT上の課題を分析し、ソリューションを構成する情報システム化要件として再構成する。ハードウェア、ソフトウェア関連技術を活用し、ビジネス戦略を実現するために情報システム全体の品質を保ったITアーキテクチャを設計する」
IPAではITアーキテクトに必要な知識・スキルを認定する「システムアーキテクト試験(SA)」を実施しており、その概要では「業務とITのグランドデザイナー」として、次のように解説しています。
「システム開発の上流工程を主導する立場で、豊富な業務知識に基づいて的確な分析を行い、業務ニーズに適した情報システムのグランドデザインを設計し完成に導く、上級エンジニア」
出典(※1):経済産業省、指定試験機関「独立行政法人情報処理推進機構(IPA)」『職種の概要と達成度指標(4)ITアーキテクト』
ITアーキテクトの仕事内容
ITアーキテクトの具体的な仕事内容は所属する企業によっても異なりますが、システム全体に責任を持ち、立案から実装までを統括します。IPAの「システムアーキテクト試験(※2)」では、業務内容として以下を挙げています。
- 情報システム戦略を具体化するために、全体最適の観点から、対象とする情報システムの構造を設計する
- 全体システム化計画及び個別システム化構想・計画を具体化するために、対象とする情報システムの開発に必要となる要件を分析、整理し、取りまとめる
- 対象とする情報システムの要件を実現し、情報セキュリティを確保できる、最適なシステム方式を設計する。
- 要件及び設計されたシステム方式に基づいて、要求された品質及び情報セキュリティを確保できるソフトウェアの設計・開発、テスト、運用及び保守についての検討を行い、対象とする情報システムを開発する。なお、ネットワーク、データベース、セキュリティなどの固有技術については、必要に応じて専門家の支援を受ける
- 対象とする情報システム及びその効果を評価する
出典(※2):経済産業省、指定試験機関「独立行政法人情報処理推進機構(IPA)」『システムアーキテクト試験』
ITアーキテクトの3つの専門分野
ITアーキテクトの専門分野は以下の3つに分類されています。
アプリケーションアーキテクチャ
アプリケーションコンポネント構造、論理データ構造などを設計。ユーザーのニーズに応じてシステムをデザインします。
インテグレーションアーキテクチャ
フレームワーク構造およびインタオペラビリティ(相互運用性)などを設計。複数のシステムやアプリケーションの連携・統合に携わります。
インフラストラクチャアーキテクチャ
システムマネジメント、セキュリティ、ネットワーク、プラットフォームなどを設計。システムの基盤となる構造を手がけます。
ITアーキテクトの将来性
幅広いIT職種の中でも、ITアーキテクトはAIやIoTをはじめ先端技術を活用して企業の課題解決を図る「経営に近い」ITスペシャリストです。あらゆる業種がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しており、経営戦略とITが切り離せなくなっている現在、ニーズはますます高まっていきます。ITアーキテクトの経験を積むことで、市場価値を高めていける環境といえるでしょう。
先々のキャリアとしては、より経営に近いポジションを目指し、ベンチャー企業などのCTO(最高技術責任者)に就く道が考えられます。「最先端の技術を取り入れたい」「さまざまな企業の経営に携わりたい」という志向の人はコンサルティングファームに、SIerやコンサルティングファームから事業会社に移る事例もあります。幅広いキャリアの選択肢が広がっています。
ITアーキテクトになるには
まずはシステムエンジニアとして経験を積み、プロジェクトリーダーやプロジェクトマネジャーを経てITアーキテクトのポジションに就くのが一般的な道筋です。業界知識やビジネスの視点も重視されます。IT人材が不足している現在、ITアーキテクトの採用においては、システム開発の上流工程経験と「経営志向」を持つ若手層が、ポテンシャルに期待して受け入れられるケースも見られます。
ITアーキテクトになるために、必ずしも資格は必要とされません。しかしながら、先に挙げた「システムアーキテクト試験」を取得しておくと、この仕事に必要な要素を体系的に理解している証明となるため、プラス評価につながる可能性もあるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。