有給が取れない場合の対処法は?「取れない理由」別に解説【社労士監修】

有給 取れない

有給休暇(以下、有給)を取ることは労働者の正当な権利です。にもかかわらず、人手不足などを理由に有給が取れない・取りにくいというケースも見られるようです。ここでは、有給取得に関する法的な知識と、有給が取れない理由、有給が取れないときの対処法について、社会保険労務士の岡佳伸氏監修のもと、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。

有給とはどのような制度か

「有給という制度について、詳しくは理解していない」という方や、転職を検討していて「改めて有給について詳しく知りたい」と思っている方もいるかもしれません。まずは、有給とはどのような制度かを解説しましょう。

労働基準法で付与が義務づけられている

有給とは、正式名称を「年次有給休暇」といい、労働基準法39条に規定された制度です。一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障する目的で与えられ、取得しても賃金が減額されない休暇のことです。

有給は労働者の権利であり、企業は条件を満たした従業員に対して、有給を付与する義務があります。また、労働者が有給を取得する時期や理由に一切の制限はなく、取得したいという申請があった場合、基本的に企業はそれを拒否することができません。

2019年4月には労働基準法が改正され、企業は有給が10日以上付与される従業員に対して、年5日の有給を確実に取得させることが義務付けられています。労働基準法120条では、企業が従業員の有給取得を拒否した場合、従業員1人当たり30万円以下の罰金が科されることになっています。

有給が付与される条件

労働者に有給が付与される条件は、次の2つです。

1.雇い入れの日から6カ月経過していること
2.その期間の全労働日の8割以上出勤していること

これら2つの条件を満たしている労働者には、10日の年次有給休暇が付与されます。さらに、最初に年次有給休暇が付与された日(入社6カ月)から1年経過し、上の2.の条件を満たしていると、11日の年次有給休暇が付与されます。

通常の労働者(パートタイマー以外)の、勤続期間による付与日数は表の通りです。

勤続期間6カ月1年6カ月2年6カ月3年6カ月4年6カ月5年6カ月6年6カ月以上
休暇日数10日11日12日14日16日18日20日

なお、有給は発生日から2年間で時効により消滅します。従って、長期にわたって勤続している方でも、有給の保有日数は最大で40日間となります。

会社の対応で違法に当たるケースとは

上述のように、企業は従業員に有給を付与することが労働基準法で義務づけられています。従って、会社が次のような対応をした場合は、違法に当たる可能性があります。

「うちの会社に有給はない」と上司に言われた

有給は就業規則で定められるものではなく、労働基準法に基づき、一定の条件を満たせば付与されるものです。従って「有給はない」という発言は違法に当たります。

有給を取る理由を言わなければ取得させない

有給を取る理由を聞くこと自体は、明確な違法行為ではありませんが、本人が答えたくないにも関わらず執拗に確認することは、ハラスメントに当たる可能性があります。
また労働基準法では、有給取得に理由は要らないことになっているため、企業が「理由を言わなければ有給を取らせない」「理由によっては取得させない」という判断をすることは違法となります。

「シフト制なので有給は取れない」と言われた

希望シフト制の職場の場合、「そもそも希望日に勤務しているのだから有給は取れない」と言われるケースもあるようです。しかしシフト制であっても、原則的に企業は従業員が希望すれば有給を付与しなければいけません。

「会社が忙しいから」と有給を取得させてもらえない

「繁忙期だから」という理由のみで従業員の有給申請を拒否することは、違法の可能性があります。そうした場合は、代替要員の確保ができないか十分に検討し、企業と労働者とで協議する必要があります(次項参照)。

企業側には時季変更権が認められている

企業側には「事業の正常な運営を妨げる」と判断される場合に限り、労働者が請求する有給取得日を変更できる権利「時季変更権」が認められています。

時季変更権を行使するには、従業員に休暇を与える努力をした上で、「やむを得ず人員確保・業務調整ができなかった」という合理的な理由がなければいけません。その場合は、状況を従業員に説明し、協議のうえ、替わりの休暇日を決定する必要があります。

なお、従業員が退職する前に残っている有給消化を希望するケースでは、ほかに変更できる時期が残っていないため、企業は時季変更権を行使できず、請求通りに有給を付与しなければなりません。

有給の買い取りは例外を除いて原則不可

もし有給が取れない場合、労働者が会社に有給を買い取ってもらうことは可能でしょうか。

結論から言うと、有給の目的は労働者が心身を休めることであるため、たとえ労働者が同意していたとしても、原則的に買い取りは違法となります。ただし、下記のケースは例外とされ、企業によっては買い取りに応じてもらえる可能性もあります。

1.退職までに消化しきれず余った有給
2.付与から2年が経過して時効消滅した有給
3.企業の規定により、法定(労働基準法)よりも多く与えられている有給

しかし、これはあくまでも双方の合意によるもので、労働者から企業に買取りを要求することはできません。また、企業が労働者から一方的に有給を買い上げることも禁止されています。

有給が取れない場合によくある理由とは

「有給が取れない」「取りにくい」というケースでは、主に会社側に理由がある場合と、自分自身に理由がある場合、あるいはその両方があることも考えられます。

会社や組織側の理由

有給を取れない理由として多いのが、人手不足の常態化です。普段から残業や休日返上で業務に当たることが当たり前になっている職場では、上司が有給取得を認めなかったり、「有給を取ると評価に影響する」と圧力をかけたりするケースも見られます。また、企業は従業員に対し、有給に関して積極的にアナウンスをする義務はありません。そのため従業員の多くが、自分が有給を使えることを認識していないというケースもあります。

また、「職場に有給を取る習慣がない」「誰も有給を取得しない」など、組織の雰囲気や社風が有給の取りづらさにつながっていたり、「怪我や病気の欠勤時の補填とする」「身内の不幸があったときだけ有給を認める」などの独自ルールで、有給取得に制限を設けていたりするケースもあるようです。

もちろん、これらはいずれも、従業員が自由に有給を取れない正当な理由にはなりません。

自分側の理由

自分側の理由としては、スキル不足や業務量が多すぎることが原因で「有給を取りたくても取る余裕がない」というケースが多く見られます。休み中の不在に備えて各方面の調整をしたり、休み明けにたまった仕事を片付けたりするのに骨が折れ、「休んでも自分の首を絞めるだけ」と思ってしまうと、有給を取ろうという気持ちになれないかもしれません。

また、上司や先輩が休みを取らなかったり、チームで進める業務に従事していたりする場合は、「休むのは申し訳ない」「周りに迷惑がかかる」と考えて、有給を取ることを遠慮してしまうケースもあります。

会社や組織側の理由で有給が取れない場合の対処法

有給が取れない理由や、取りにくい理由が会社や組織側にある場合は、どのように対処すればいいかをご紹介しましょう。

上司に相談する

「休みづらい」と感じるのは、自分の思い込みや誤解である可能性もあります。有給は労働者の権利であるという前提で、まずは、決められた手続きを踏んで有給取得を申請しましょう。
その場合は、就業規則に記載された申請期日に関わらず、なるべく早めに直属の上司に相談することをおすすめします。そうすれば、上司も代わりの人員の手配や調整がしやすくなる可能性があります。

申請を出しても有給が認められない場合は、その理由を聞きます。業務上やむを得ず認められない、正当な理由があるというのであれば、替わりに有給が取得できる明確な日程を確認するようにしましょう。

人事や社内の窓口に相談する

上司に取り合ってもらえない場合や、納得できる回答が得られなかった場合は、会社の労務や人事部門、コンプライアンス窓口などに相談して、対応の改善をお願いしてみましょう。上司の対応に問題があり、会社として有給取得を進める姿勢があるのなら、すぐに何らかの対応をしてくれるはずです。
まずはできるだけ社内で相談のうえ、解決できるように動いてみましょう。

労働組合に相談する

会社がなかなか動いてくれない場合、会社に労働組合があれば相談してみましょう。労働組合は、憲法で団体交渉権が保証されているため、会社側と対等な交渉が行えます。会社に労働組合がない場合は、個人で加入できる外部の合同労働組合を利用する方法もあります。

労働基準監督署に相談する

社内で動いて状況が改善されない場合は、労働基準監督署に相談するのも1つの方法です。
労働基準監督署で対応できるのは、実際に労働基準法に違反している事実があったケースに限られるため、事前に有給の申請記録や、拒否された証拠を揃えておくことが必要です。違法性が認められれば、指導や是正勧告に動いてもらうことができるでしょう。

ただし、労働基準監督署へ報告すれば会社と対立することになる可能性もあるため、あくまでも最終手段と考えることをおすすめします。なお、実名で相談しても労働基準監督者から会社に名前を伝えないようにお願いすることもできます。また匿名で電話やメール相談をすることも可能です。

自分側の理由で有給が取れない場合の対処法

「忙しくて休みを取る余裕がない」「周りの目が気になって取れない」という方に、有給を取りやすくするためにはどうすればいいかをご紹介します。

自分の仕事のやり方を見直す

休みを取れないほど忙しい状況を変えるには、まず仕事のやり方を見直してみましょう。
仕事効率化の基本としては、優先順位を明確にすることがあります。To Doリストを作成して抱えている仕事を見える化し、場当たり的ではなく、重要度や期日に合わせて進めていきましょう。さらに、自分の中での「小目標」と「締め切り」を設定し、「今日は〇時までに終わらせて必ず帰宅する」と仕事の時間を区切ることも大切です。

また、自分1人で仕事を抱えすぎてはいないでしょうか。期日に間に合わないときは他の人に仕事を振る、手一杯のときに新たな仕事を頼まれたらはっきりと断る、といった勇気も必要です。

上司と仕事量などについて相談をする

任されている業務がキャパオーバーだと感じるなら、上司に仕事の量と質を適正化してもらえるよう、相談するのも一案です。完璧を求めすぎてアウトプットの質が過剰に高くなっていないかも確認し、仕事のやり方を見直すアドバイスをしてもらうといいでしょう。また、組織の業務フロー効率化のために改善すべき点があれば、合わせて提案することをおすすめします。

日頃から周囲とコミュニケーションを密にする

有給を取りやすくするためには、日頃から仕事の進捗を周囲と共有し、結果を出し続けて信頼を得ることも大切です。休みたいときも早めに周囲と予定を共有すれば、メンバーもストレスを感じることなく「あの人ならちゃんとケアしてくれるだろう」と受け止めてもらえるでしょう。
また、同僚が仕事で困っているときはできるだけサポートをすること。お互いに助け合うのが当たり前になれば、全員が遠慮せず有給を取れる雰囲気もできていくでしょう。

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監修

岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

アドバイザー

組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。