大手からベンチャーへ。キャリアチェンジの壁と準備しておくこと―「越境経験がキャリアを強くする」イベントレポート前編

一定の評価、役職、年収を得ているビジネスパーソンは、安易に転職に踏み切りにくいもの。一方で、企業・ビジネスの寿命が短くなってきている昨今、同じ企業、同じ仕事に留まり続けることで、知らずにキャリアの次の発展が見えにくくなってしまう可能性もあります。

そこで、キャリアカーバーでは2019年11月7日(木)に「大手企業からベンチャー企業へ 越境経験が、キャリアを強くする」と題したイベントを開催しました。“越境経験”という言葉は広く使われています。国内外、異業界・異企業ステージ、有償無償…様々な体験を包括しつつ共通していることは、「現職とは遥かに異なる環境で、多様な人々・価値観とともに働く経験を積むこと、そこから自身への気付き・フィードバックを得ること」とCAREER CARVERは捉えています。

今回は、大手からベンチャー企業に“越境”したご登壇者のパネルディスカッションを通じて、大手企業に在籍していた頃には想像もつかなかったベンチャーの実態や立ちはだかる壁、そして得られた成長体験などをざっくばらんに語っていただきました。前編では、パネルディスカッションで語られた「大手からベンチャーへの転職」についてご紹介します。

登壇者プロフィール

モデレーター

細野 真悟氏/株式会社ローンディール
リクルートに中途入社し、企画担当を経てリクナビNEXT編集長、執行役員に。自ら実践を通じてイノベーションを起こすためのマネジメントスタイルの開発に取り組む。2017年から株式会社ローンディールのCSOとして参画。音楽SNSを手掛ける株式会社nana musicのCOOも兼任。

ご登壇者

鶴 征二氏/シタテル株式会社
2007年株式会社リクルートエージェント(現:株式会社リクルートキャリア)入社。2015年より営業企画責任者に就任。2016年4月、衣服の生産プラットフォームを運営するシタテル株式会社に入社。2017年8月、取締役就任。

菅原 聡氏/ミニット・アジア・パシフィック株式会社
2008年株式会社リクルートに入社し、営業に従事。2014年、株式会社リクルートホールディングスに異動。2017年に総合リペアサービス「ミスターミニット」を展開するMinit Asia Pacific Co.,Ltd.にCSOとして就任。メディアコミュニケーションや事業提携、新規事業立ち上げに従事。

山田 健児氏/freee株式会社
2009年、株式会社リコーにて財務会計から管理会計まで幅広い会計業務に従事。2017年にクラウド会計ソフトを開発、運営するfreee株式会社に入社。マネジャーとして、カスタマーサクセス組織の立ち上げを実施。現在も同組織にてデータ・ドリブンなカスタマーサクセスに挑戦中。

前職で描いていた将来像と、転職のきっかけとは?

――現状に満足しているビジネスパーソンは多くはありません。どこかしらモヤモヤした気持ちを抱えながら働いている方も少なくないと思いますが、みなさんはどんなトリガーで「越境」に踏み込んだのでしょうか?

菅原さん:大学三年の時にNPO法人を作ったのですが運営があまりうまくいかず、「ビジネスを通じて社会課題を解決したい」と考えて新卒でリクルートに入社しました。友人から言われた「最良の状態の時に選択をした方がいい」という言葉がずっと心に残っていて。仕事で何の不満もない絶好調の時に現在のCEOにお声がけをいただき、「今なのかな?」と思って転職に至りました。

鶴さん:前職で営業から営業企画のマネジャーに異動したのですが、部長や役員クラスとやり取りするようになって、自分の力量不足を痛感し、逃げ出したくなりました。半年くらい経って仕事が回るようになり、逃げ出したいという気持ちは落ち着いてきましたが、今度は「全然追いつけない」という焦りが湧いてきて、ガラッと環境を変えたくなったんです。そんな時に、以前テレビで見た今の会社を思い出しました。熊本県でエクイティファイナンスを行う野心的な会社は珍しいですし、同郷でシンパシーも感じました。情報収集の一環で「会って話をしてみよう」と、差別化のために手紙を書いて投函しました。

山田さん:新卒でスタートしたのは静岡の事業所でしたが、本社への転勤希望を出して配属が叶いました。会社に愛情を持っていたので、より良い状態を目指すために孤軍奮闘していましたが、入社6年目の平社員が大企業を変えるのは難しい。もともとその会社で勤め上げると考えていて、社内にロールモデルとなる方もいましたが、「すでにキャリアが見えている人生を歩む」のと「異なる人生を作り出す」のでは、果たしてどちらが楽しいのか?を考えるようになりました。
また、会社を変えようと思って経営学を学ぶためにグロービスに通ったのですが、そこで様々な人に触発されました。年に一度、名だたる企業のCEOの話を聞けるカンファレンスがあるのですが、そこで「なんてちっぽけな世界に自分は生きているんだろう」と思ったのも、会社を飛び出すことにしたきっかけのひとつです。

鶴 征二氏、菅原 聡氏、山田 健児氏

▲ 今回の登壇者。左から鶴 征二氏/シタテル株式会社、菅原 聡氏/ミニット・アジア・パシフィック株式会社、山田 健児氏/freee株式会社

キャリアチェンジして感じた壁と、乗り越え方

――越境直後は思うように事が運ばないものです。新しい環境に入り込むきっかけが見つからずもがいてしまったり、自分の強みが発揮できないジレンマもあったりしたのではないでしょうか?

菅原さん:最初の1カ月は30店舗くらいの現場に入り、会話するようにしました。でも、外様の人間がいきなりポンと来ても、現場の方から「お前は誰だ?」とか「お手並み拝見」という対応をされます。初めは教えてももらえない状態でしたが、できることを手伝ったり価値を返したりすることで、だんだん風向きが変わっていきました。それから、「飲みに行くことで仲良くなる」という現場の特性を見つけたことも大きいです(笑)
現場を回った後は、早期に成果を出すために広報の仕事を任されました。必死で広報計画を立てて提案したら「予算はゼロ円だよ?」って言われて(笑) 前職の広報の方に助けてもらったり、社内調整したりとひたすら頑張って、価値換算で12億円くらいの広報活動をやりきることができました。多くの人の力を借りながら信頼を獲得できたのが、最初の壁を乗り越えた瞬間ですね。もちろん、うまくいかないことの方が多いのですが、CEOが描いている未来に共感し、同じ夢を見ているということが、壁を乗り越える力の源泉だと思います。

山田さん:越境直後は全部が大変。僕はそれこそ真逆の環境に飛び込んだので、最初の3カ月くらいは環境の変化に全くついていけませんでした。一番の原因は、分からないことがあっても人を頼ることができず、中途半端なアウトプットを出すことができないという、僕自身のちっぽけなプライドです。ベンチャーではデイリーでビジネス環境が変わっていくのに、僕は一日考えて翌日アウトプットを出していましたが、もうそれは使い物にならない。freeeはマネジャーがしっかりとメンバーの成長を図る文化があって、年下のマネジャーに「1分でアウトプットを出して下さい」と繰り返し言われました。もうこだわっていても仕方ないなと思って、プライドを捨てて中途半端でもアウトプットを出すことを優先しました。
また、分からないことは頼ることにして、1週間に5人くらいのマネジャーに1on1ミーティングを入れて、「今の僕の課題についてどう思いますか?ざっくばらんにフィードバックください」とお願いしました。突き刺さるような言葉がどんどん返ってきますが、「自分が変わらないとこの環境に飛び込んだ意味がない」と思って、プライドを捨てて愚直に受け止めることに徹底しました。これが本当に辛かったですね。

鶴さん:シタテルはBtoBの衣服生産プラットフォームで、国内外含めて全国の縫製工場をネットワークし、服を作りたい企業とのマッチングとディレクションを行うIT系のスタートアップです。僕はスタートアップもアパレル業界もITも知らないけれど、前職で培った営業経験と採用知識を拠り所にしようと心に秘めて入社しました。でも、実際に営業活動をしてみると、前職で通用した営業手法はほんの一部でしかなくて、「リード獲得」「ナーチャリング」などの聞いたこともない用語が飛び交っていました。採用も3日で退職する人が出るなどままならないことが続いて。
一方で、社内に正解を知っている人がいるかというと、当時のシタテルには7人しかおらず、社内には頼れないわけです。社外に情報を取りに行くしかないので、色んな人に会いに行って教えを請い、勉強しながら経験して自分のものにしていくことを繰り返しました。実際に通用しているかは別として、自分のやるべきことがはっきりした時点で、心の中のハードルを乗り越えることができました。

菅原 聡氏

壮絶な越境体験を経て「得られたこと」とは

――越境直後は、想像もしていなかった壮絶な体験をされたのですね。立ちはだかる困難の壁を越えて得られたのは、一体どんなことだったのでしょうか?

菅原さん:今の会社には「何かを得たい」のではなく「成し遂げたい」と思って入社したので、あまり意識したことがありませんでしたが、「自信がついた」ということでしょうか。前職で成果を出すことができたのは自分の実力ではなく、人や商品に恵まれていたからなのではないかという不安がどこかにありました。でも、予算も含めて十分とは言えない環境でも、自身がフィットして成果を出せることに手ごたえを感じましたね。

山田さん:自信がついたこと、やりがいを得ることができました。良い意味で仕事とプライベートの境界がなくなり、「自分の時間を投下してでも成し遂げたいミッション」が、明確に腹落ちしています。常に前向きな気持ちで仕事のことを考えていて、以前と比べると“180°人が変わった”というくらいの大きな変化です。

鶴さん:これまでは仕事を通じて自分の機能価値を高めてきました。もちろん力量のつく経験ではありますが、越境してからは事業家として「ビジネスを作り、育ててグロースさせる」という体験をしています。毎日大変なことばかりなので、逆にシンプルに、業界や顧客に価値を提供し、対価をいただいて事業を大きくするしかない。結果として、スコープが洗練されるようになりました。

山田 健児氏

キャリアチェンジする前に、今からできること

――越境体験は気軽にできるものではありません。いつかキャリアチェンジする際に、今からやっておくことはありますか?

菅原さん:大事なのは自分と向き合うこと。「将来自分がどうありたいのか」、「何をしたいのか」に向き合って、言語化しないまでも少しでもはっきりさせることが、将来の自分の幸せに繋がるのかなと思います。

山田さん:僕も「将来何をしたいのか」を明確にすることが重要だと思います。キャリアチェンジに悩んだ時に、最終的なゴールに照らし合わせて現在の選択肢の是非を判断する必要があるからです。もう一つ重要なのは、「働くモチベーションの源泉」を言語化することです。言語化して目に見えるところに置いておくことで、キャリアチェンジする時に条件面で目移りすることを防ぐことができます。

鶴さん:キャリアチェンジを決めたら、具体的にベンチャー・スタートアップ界隈の人たちに会って、生態系に身をゆだねるという方法もあると思います。それが副業という形かどうかはさておき、キャリアチェンジする前にベンチャーの雰囲気を体感することができるからです。

――なるほど、会社に在籍しながらベンチャーとの接点を持ち、越境体験の準備をしておくということですね。では、ベンチャーで副業しようと思ったら、どのように動いたらいいのでしょうか?具体的な方法と副業事例をお伺いしたいと思います。

※「大手企業からベンチャー企業へ越境経験が、キャリアを強くする」イベントレポート後編に続く

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