私たちの仕事は「3つの提供価値」から成り立っています。
「アウトソーシング」(仕事を代行するもの)、「教育」(知識や方法論を教えるもの)、「エンタテインメント」(楽しませるためのもの)。全ての仕事はこの3つのうちのいずれか、もしくは幾つかの組み合わせに分類されるのです。
営業代行・家事代行から経理や人事などの部門業務に至るまで、各種の業務を内部に代替わって支援・代行する「アウトソーシング」ビジネス。学校やスクールから研修会社まで、それぞれの対象者に「教育」を提供する事業。観せる(魅せる)仕事である音楽・映画・スポーツ・各種イベントなどの「エンタテインメント」業。
単一のものだけでなく掛け合わせになる業種・職種も多く存在します。
例えば農業や漁業は我々に代替わって食べ物を収穫してくれる「アウトソーシング」であり、豊かな食の提供、あるいはその農作業や漁獲行為自体を楽しむという観点では「エンタテインメント」に類するところもあります。食育の観点からは「教育」的な事業の側面もありえます。
自動車メーカー自体は利便性の提供という意味では「アウトソーシング」的でもありつつ、ドライブの楽しみを提供するという点で「エンタテインメント」業でもある。その中で働く工場のライン工は「アウトソーシング」、研究開発に従事する人たちの中には「教育」的側面のミッションを強く持つ人もいらっしゃれば、より実務的な部分で「アウトソーシング」に近い役割の人も存在します。
あなたが現在携わっている事業・商品・サービスは、この3つの提供価値のうち、どれに該当するでしょう?
あなた自身はどの職務に従事しているでしょう? どれが得意で、好きなことでしょう?
このことに自覚的であり、それを軸に今後の職務ニーズや業界展望などを加味してご自身のキャリア展開を考え動いていくことが、これからも求められ続けるための必勝法です。
転職活動に臨望むにあたり、あなたの「得意」「貢献」「差別化」ポイントは、この3つのうちのどれなのか、自覚して臨むとよいでしょう。
根強い「アウトソーシング」業務ニーズ
キャリアカーバーユーザーの皆さんであれば既にお気づきかもしれませんが、今やあらゆるビジネスがアウトソーシングの側面を持つようになっています。SaaS型ビジネスなどは、その最たるものですね。コンサルティング業界全般も、戦略系を含めて全般的に「教育」(知識の提供)ではなく業務支援の「アウトソーシング」側面で成り立つようになっています。逆にかつてのように戦略そのものの提供ではバリューは出せなくなっている(戦略フレーム自体は本やネット上で手に入ってしまうようになりました。完全にコモディティ化しています)のです。
クライアントに成り代わって専門業務を代行してあげる。クライアントよりも業務をうまく行ってあげることができる。
ここで「あなたの職務専門分野は何か」にスポットが当たります。法人営業、マーケティング、経理業務、財務戦略、人事企画、法務、システム、SCMやロジスティックス、あるいは海外関連での手続き・手順や特定の国に対する現地ネットワークや商習慣の知見・経験etc.
転職を考える際に、「アウトソーシング」業務ニーズの側面から見れば、あなたがここまで業務で経験し深掘ってきたものは何かを明確化し、そしてそれを絶対に手放さない方が良いでしょう。あなたがクライアントからぜひともと「アウトソーシング」してもらえる業務は何か。それをどう活かすか。徹底的に考え、それを武器にできる新天地を検討しましょう。
二極化する「教育」業務ニーズ
「教育」業務ニーズについては、一般論としては<受難の時代>と言えるでしょう。既にベーシックなものは全て、コモディティ化・無料化してしまいつつあります。受験産業や英語学習に関しては、皆さんもお子さんが触れていたりご自身でも利用されていらっしゃるかもしれませんが、かつてのような高額なスクールに代変わってオンラインでの格安かつハイレベルなサービスが多数存在しています。
先に述べた通り、コンサルティング業界ですら実体としては今や「教育」では稼げず、「アウトソーシング」ニーズを満たすことで成り立っています。
一方ではあなたがもし、これまでの業務経験で、まだ世の中には広く提供されていない専門知識や技術をお持ちであり、それに対するニーズが今後需要増加すると思われるならば、それは大きなチャンスです。
最近で言えば、コロナ禍も相まってオンラインでの営業や顧客対応がより強く求められるようになり、インサイドセールスやカスタマーサクセスについて先進的な取り組みをしてきた(外資系大手IT企業が多いですが)企業でそれらの部署を経験しノウハウを持つ方々が、これらを提供するソリューション会社やそれらの部門を立ち上げたい・強化したい企業でのヘッドハンティングを受け移籍し活躍されるケースが多くあります。
あなたが新しい技術や概念を提供できるならば、その価値は今後高まるでしょう 。ただし、それもいずれは一般化・陳腐化する宿命にあります。
「教育」業務ニーズ側面から見ますと、そのテーマや内容の「旬」を見極め、陳腐化と戦い続ける覚悟が必要です。
「エンタテインメント」業務ニーズは掛け算で
「エンタテインメント」業務は、単独では非常に難易度の高い天才芸です。クリエイター、ミュージシャン、アスリート、俳優、芸人、作家…その分野でトップの才能を発揮し(運にも恵まれ)た、ごくわずかなタレントだけが活躍する世界。
もちろん、その周辺でタレントをサポートする業務は色々あります。それは概ね、「アウトソーシング」業務でバリューを発揮することになるでしょう。
一方で、「エンタテインメント」業務は掛け算としては非常に汎用性が高いことにお気づきでしょうか。
あなたがもし、上記のようなトップタレントではない。しかし、一般的な人たちに比べると、エンタテインメント素養を発揮することが得意だ(楽しませるのが得意。着想が面白い。場を盛り上げるのが好きだ、など)という際は、ぜひそれを活かして頂きたいです。
私としては、これから転職をされるミドルやシニアの皆さんには、「アウトソーシング」×「エンタテインメント」、「教育」×「エンタテインメント」という構造で戦えるフィールドを個人的にはお勧めしたいです。あなたが関わることで、事業やサービスがワクワクするものになる。預かる組織が活性化する。そんなビジネスリーダーが、あらゆる業種・業態・職種で求められており、AI時代・自動化・無人化に代替されずに活躍し続けると思われるからです。
あなた自身にエンタメ力(楽しませる力)があると非常に心強いですね。
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私はエグゼクティブサーチ(幹部採用)や経営幹部育成・配置のコンサルティングという立場から、この「3つの提供価値」の観点から見た“既に起こりつつある未来”に日々触れており、図らずもいま起きているDX推進(あらゆる事業側面のデジタル化・AI化・自動化・無人化)によって、幹部クラスにおいても早晩、<DX(デジタルトランスフォーメーション)デバイド><DX格差>による大量の人材再配置が起こると見ています(既に起きつつあります)。
来るべき、いざという時のために、CX〜コーポレート・トランスフォーメーションならぬ、“キャリア・トランスフォーメーション”を、ぜひこの転職の機会を通じて図っていただきたいと思います。
ではまた、次回!
井上和幸
1989年早稲田大学卒業後、リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年よりリクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)。2010年に経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。 『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ずるいマネジメント』(SBクリエイティブ)『30代最後の転職を成功させる方法』(かんき出版)など著書多数。