課長から部長へ、部長から役員へ。その昇格の壁はなにか?

転職を機会に、あるいは転職先への期待値として、いまの職責よりもひとつ、ふたつ上の役割を与えてくれることを条件とされるミドルやシニアの方は多いです。いまキャリアカーバーを利用されている皆さんも、そうかもしれません。もちろん、より重要な役割、より大きな裁量を求めることは、リーダーである皆さんのやる気・本気の表現れで、とても良いことです。ではさて、いったいどうすればその職位アップは実現できるのでしょう?昇進・昇格の条件、壁は何なのでしょうか?

昇進の4つの壁=人材の4タイプ

そもそも人材のタイプは、企業・組織構造から見て、大きく次の4つに分類されます。

「原価人材」
「販売管理費人材」
「投資科目人材」
「事業利益連動型報酬人材」

PL(損益計算書)の構成をイメージしていただくと理解しやすいと思います。

一般職は「原価人材」、事業や会社運営のためのコストです。その中でのマネジャー・リーダー層(課長・主任・係長)は「販売管理費人材」=“稼ぐ”ことに貢献する業務を行っている人です。

「原価人材」とは「言われた作業をする人」を指します。PLの原価欄に該当する仕事をしている人ですね。
原価人材は「スキル・経験を磨くことで時間給が上がる」という働き方をしています。「作業に習熟したことで他の人より早く作業できるようになる」「ノウハウを得た分、作業の質が高まる」などです。
ところが、せっかく頑張っても、その仕事が永遠にあるという約束はまったくありません。そこに原価人材の悩みがあります。
社内で行っていた業務が外注されてしまうこともあります。昨今、よく起こっているのは、これまで人手で行っていた作業がRPAなどで機械化、自動化されてしまうことです。
そもそも、原価人材である限り、コストとしての仕事をしているので、どこまでいっても「安いほうがよい」という企業の理論から抜け出すことはできません。そこから脱するには「販売管理費人材」になる必要があります。

「販売管理費人材」とは、直接的には営業関連業務に従事している人。また、直接・間接に稼ぐ業務として、マーケティング業務や企画業務の人。管理部門系でも、会社運営を差配することに関わる経理財務や人事、総務、情報システムなどでの企画・統括的役割での業務はここに当てはまります。
その中でも、これらの各職の中でリーダーとして動ける人は、「販売管理費人材」の中での中核層です。企業が収益を上げることにしっかりコミットしている、付加価値業務を牽引している人ですね。

課長から部長への昇格の壁とは?

さて、今回のテーマである<課長から部長に昇進する人、そうでない人>の差は、「販売管理費人材」から「投資科目人材」へと転換できたか否かです。

「投資科目人材」とは「プロセスを創意工夫し、プロジェクトマネジメントができる人」を指します。業務設計をし、チームにやらせ、達成に導ける人です。

販売管理費人材は、その人が担当業務でしっかりとバリュー=成果・価値を出している限りにおいて、会社や組織から求められる人材です。
しかしここで気をつけたいのは、昨今は、原価人材のみならず、販売管理費人材の業務についても、機械化、自動化の波が押し寄せていることです。付加価値系の業務だからといって安穏としていると、営業支援システムやマーケティングオートメーション、あるいは会計やHRのTechサービスに業務が代替されてしまっているということが、気がついたらある日起こっていた、ということが頻発しているのです。

そういう意味でも、販売管理費人材に留まらず、業務を設計しリードする側の投資科目人材にまで自身を昇華させた方が良い。
肩書き云々のことではなく、あなたが仕事人生の後半戦を、求められ続ける状況の中でやりがいを持って働けるための必要条件だと理解しましょう。

部長から役員になれる人、そうでない人。

では、<部長から役員への昇格の壁>はなにか?それは、「投資科目人材」から「事業利益連動型報酬人材」へと自らを転換できるか否かです。

「事業利益連動型報酬人材」とは、事業がもたらした利益からの分配で報酬をもらう人材=事業部長・役員クラスです。
大手企業の幹部職の方々などでも案外理解していないのが、「販売管理費人材」「投資科目人材」と「事業利益連動型報酬人材」の根本的な違いです。
「販売管理費人材」「投資科目人材」=課長・部長クラスまでは、会社から言われたこと・求められたことを実行する人ですが、「事業利益連動型報酬人材」=事業部長・役員クラスとは、自身が何をすべきかを考え、決め、実行する人です。
事業利益連動型報酬人材とは、事業自体の仮説や方針を立て、その実現のために組織を動かせる人、つまり、事業リーダー人材・経営リーダー人材を指します。

事業責任、経営責任を取れる人、リスクを背負える人でなければなりませんが、その分のやりがいと挑戦、有形無形の見返り(報酬)を大きく得ることのできる立場です。

そもそも<出世>とは、この4タイプの間をまたぐことです。「原価人材」(一般社員)から「販売管理費人材」「投資科目人材」(幹部人材)へ、「販売管理費人材」「投資科目人材」(幹部人材)から「事業利益連動型報酬人材」(経営人材) へと転換していくことを意味します。
決して、一般社員→主任・係長→課長→部長→執行役員→取締役、と一直線に連続的に肩書きが上がっていくことではないのです。と言いますか、そう考えていると実際には階段を上がることができません。それは、4タイプの人材の、求められること、なすべきことがまったく異なるということから、ご理解いただけたと思います。

幹部クラスやリーダークラスの方々が「自分に上の役割を任せてくれない」という不平不満を口にされるのを、私も幹部転職支援の場面で拝見しますが、それは「販売管理費人材」レベルの仕事に留まっている人には「投資科目人材」レベルの役割は任せられないし、「投資科目人材」レベル止まりの仕事なら「事業利益連動型報酬人材」レベルの役割は任せることができないからです。

この転換を理解しているか否か。理解し、自らの考え方・視界・動き方を、キャリアの中で折々に転換できる人が、出世する人なのです。

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いま、私たちの雇用環境に起きている事象は、‟中抜き”現象です。
既に、これまで多くの企業でボリュームゾーンだった中間層=「販売管理費人材」が減り、「原価人材」(アウトソーシング企業、派遣雇用を含む)と「投資科目人材」「事業利益連動型報酬人材」の二極に分かれつつあります。これから、そのどちら側に属するかで、2020年代のあなたの働く景色、生活風景が大きく変わることは間違いありません。
キャリアカーバーユーザー各位にはぜひ、「事業利益連動型報酬人材」を目指し、なっていただきたいと思います。

ではまた、次回!

井上和幸氏

井上和幸

1989年早稲田大学卒業後、リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年よりリクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)。2010年に経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。 『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ずるいマネジメント』(SBクリエイティブ)『30代最後の転職を成功させる方法』(かんき出版)など著書多数。

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