さらなる成長や活躍を目指すうえで、選択肢のひとつになるのがベンチャー企業への転職です。ここでは、ベンチャー企業の分類や採用ポジションの傾向、転職を成功させるための転職エージェントの選び方について社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。
ベンチャー企業とは?
「ベンチャー企業」については、法的な定義や明確な基準はなく、様々な解釈があります。一般的には、設立から年数が経過していない、新しい技術やビジネスモデルを軸にした企業が、ベンチャー企業と呼ばれています。企業規模や成長ステージによって、求められるスキルや経験、入社後に得られるものも変わります。まずはベンチャー企業にはどんな種類があるのかを把握し、どのような職場で活躍したいのかを考えることが大切です。
ベンチャー企業の分類例
ベンチャー企業の分類の一例として「企業規模」が挙げられます。また、上場前の場合は「成長ステージ」でも分類できます。2つの分類をご紹介します。
企業規模による分類
ベンチャー企業の中でも、急速に成長して大手企業レベルの規模となった企業は「メガベンチャー」と呼ばれています。
●メガベンチャー
中小企業基本法第2条では、中小企業について以下のように定義されています。この定義の資本金または出資額・従業員数を超える規模のベンチャー企業が「メガベンチャー」と呼ばれ、上場しているケースもあります。
業種分類 | 中小企業基本法の定義 |
---|---|
1.製造業、建設業、運輸業、その他(2~4を除く) | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人 |
2.卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
3.サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
4.小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 |
●ベンチャー企業
メガベンチャー以外の、上記の条件に該当する企業がベンチャー企業と呼ばれています。
上場前の成長ステージによる分類
上場前のベンチャー企業は、成長段階に応じて「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」という4つのステージに分類されることが一般的です。
●シード
創業前や、まだサービスをリリースする前の段階です。市場調査などを実施してビジネスプランを策定したり、研究や開発、試作品を製作したりして、サービスの開始に向けて準備を進めている段階です。組織もごく少人数であるケースが多いでしょう。
●アーリー
創業直後や、サービスをリリースした後しばらくの期間を指します。顧客からの認知度が低いため、売上の規模が小さい一方、今後の成長のための設備投資や販売促進などに多くの資金を必要とします。
●ミドル
ビジネスが軌道に乗り始めた段階です。今後のさらなる成長に向け、追加の設備投資や人材の確保などが必要となる一方で、売上が急激に拡大し、少しずつ利益が出始めます。
●レイター
売上・利益ともに順調に拡大し、創業時からの累積の損失を一掃。経営が安定する時期です。さらなる成長を見据え、IPOを目標に掲げることも多いでしょう。
ステージ別の採用傾向
上場しているベンチャー企業は、人事戦略が整備され、採用においても中長期計画に基づいた新卒・中途採用を行うなど、基盤が整っている可能性が高くなります。事業拡大に伴う未経験者の積極採用や、新規事業や欠員募集による経験者・マネジメント層の採用など、企業や経営状態によって採用の傾向は様々です。
一方で、上場前のベンチャー企業の場合、シード期においては、資金面に余裕がなく、社会的な認知度や信用が低く採用ブランド力もないため、現社員の知人や友人といった、個人同士の紹介での採用が中心となります。その後、アーリー期、ミドル期へと進んでいくと、ヘッドハンティングやハイクラス層の転職支援を得意とする転職エージェントなどを活用しながら、役員や部長クラスを採用するケースが多くなります。
さらに成長ステージが上がり、ミドル期~レイター期では、部長・課長クラスの採用に加え、メンバークラスも一定数採用するようになります。また、職種においては、バックオフィス系や広報、マーケティングなどの採用も増えてくる、というのが一般的な流れです。
なお、アーリー期や、ミドル期の初期の頃は、人事戦略が整備されていないケースが少なくありません。成長スピードに人事戦略が追い付いておらず、ポジションや職種なども流動的です。逆にいえば、経験がない業務や職種にも社内で手を挙げやすく、ハイクラス層であっても、キャリアを変えたり、幅を広げたりするチャンスが多いといえるでしょう。
ベンチャー企業で働く魅力
上場しているメガベンチャーであれば、法定開示・適時開示が義務付けられているため、ホームページなどから経営状態を判断することが可能です。また、上場企業として適切なコーポレートガバナンス体制が取られています。「経営は安定しながらも、ベンチャー企業ならではの柔軟性やスピード感のある仕事をしたい」と考える方は、上場済みのベンチャー企業から選ぶという方法があります。
一方、シード期、アーリー期の企業は、企業自体が倒産してしまうリスクや、入社時の給与が低いといったマイナス面がある一方で、裁量権が大きく、上場した場合はストックオプションで大きく収入を得る可能性もあり、ハイリスク・ハイリターンの転職先といえるでしょう。
レイター期のベンチャー企業は、組織や制度もそれなりに整っているケースがほとんどで、シード期、アーリー期に比べるとローリスク・ローリターンの転職先。「過度なリスクを負いたくないが、企業とともに自分も成長したい」という方に向いているでしょう。
ベンチャー分類別:転職エージェントの選び方
ベンチャー企業は、それぞれの成長ステージによって採用方法が異なるため、どのようなステージの企業を志望しているかによって、転職活動の方法も変わってきます。ここでは、ベンチャー分類別の転職活動について解説します。
メガベンチャーを希望する場合
メガベンチャーは、これまでもたくさんの人材を採用しています。そのため、過去の転職支援実績が多い転職エージェントを選んだ方が、事情に精通している可能性が高く、転職を成功させる可能性が高まるでしょう。転職エージェントによっては、求人や転職支援実績などをサイト上で公開しているケースもあるので、気になる求人があれば相談してみましょう。
中規模のベンチャー企業を希望する場合
中規模のベンチャー企業の場合、経営や職場環境が安定していない可能性もあります。特に上場前のベンチャー企業では、財務や経営陣、マーケットのポジションや働き心地などに詳しい転職エージェントに相談できると安心です。興味を持った求人を掲載している転職エージェントには、積極的に相談してみましょう。
小規模のベンチャー企業を希望する場合
小規模のベンチャー企業の場合、採用にコストをかけられないため、転職エージェントを利用していない可能性があります。転職エージェントだけでなく、SNSや人脈、ハローワークなども活用した方が、理想の企業に巡り合える可能性が高くなるでしょう。
ベンチャー企業への転職を成功させるには?
ベンチャー企業の多くは変化が激しく、意思決定がスピーディで柔軟な傾向があります。そのため、入社することがゴールではなく、変化が早い組織でどのように活躍できるかが重要になります。
転職に迷っている場合は、企業間留学や副業といった、現在の会社に在籍しながらベンチャー体験ができる方法を活用してみるのも一案です。転職にこだわらず、さまざまな手段を探ってみるといいでしょう。
岡 佳伸(おか よしのぶ)氏
大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
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