近年、未経験業界・職種への転職事例が増加しています。企業はどのような理由・目的で未経験者採用を行っているのか、未経験転職を成功させるにはどのようなポイントを押さえておけばよいのか、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に解説いただきました。
【アドバイザー】
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
企業が未経験者を採用する背景
中途採用においては、多くの場合、「即戦力」を求めます。企業が未経験者にも門戸を開く場合、次のような理由が挙げられます。
職種未経験者を採用するケース
業界だけでなく、職種未経験でも採用するケースは、以下のような理由によるものです。主に、第二新卒~若手層が対象となります。
- 経験者の採用が難しいため、未経験者を採用して育成する
- 経験よりポテンシャルを重視し、社風に合う人材を迎えたい
- 前職の経験にとらわれることなく、自社の考え方・やり方を一から吸収してほしい
業界未経験者を採用するケース
職種経験(専門スキル)があれば、「業界未経験」でも歓迎する、あるいは「あえて業界未経験者を採用したい」とする求人も増えてきました。例えば、次のようなパターンです。このような採用の場合、リーダー・マネジャー以上の層を求める求人が多く、近年、このパターンが増加傾向にあります。
- スタートアップ企業が拡大フェーズへ進む際、経営陣が技術系ばかりなので、営業人材を迎えたい。営業組織を一から作れる人であれば、前職の業界は問わない
- スタートアップ企業がIPOを目指す際に、組織整備を担える人材を迎えたい。IPO準備経験がある管理部門人材であれば、前職の業界は問わない
- 事業会社がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するにあたり、デジタルの知見を持つ人材を迎えたい
- 大手企業や老舗企業などが時代の変化に対応するため、事業や組織の変革を図る。業界の固定観念に縛られていない業界未経験者を迎え、組織に新風を吹き込みたい
- 新規事業として異分野に進出するにあたり、その業界の経験者を迎えたい
経験を活かして転職する人の割合
リクルートエージェントを通じて転職が決定した人の分析調査(*1)によると、2009年度~2020年度の10年間で、「異業界×異職種」転職の割合は「24.2%」から「36.1%」へ増加。2017年度以降は「異業界×異職種」の転職パターンが最多となっています。
なお、30代・40歳以上では、2020年度、「異業界×同職種」の割合が最大となりました。
先ほどお伝えしたとおり、中堅以上のリーダー・マネジャー層が、職種経験を活かして未経験業界に転職を果たしている事実がデータに表れています。
※1:『リクルートエージェント』転職決定者データ分析 10年間で起きた中途採用市場の構造変化 「異業種×異職種」転職が約10年間で11.9pt増加、最多に 業界や職種を越えた「越境転職」が加速
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2021/0805_9201.html
【業界×職種】未経験転職の3つの種類と成功のポイント
未経験転職の3パターン「未経験業界」「未経験職種」「業界・職種ともに未経験」について、それぞれどのようなチャンスがあるかをご紹介します。
「未経験の業界」への転職
未経験転職の中でも比較的実現しやすいパターンであり、職種の経験を活かすことができます。管理部門職やIT系技術職などは、業界をまたいだ転職は一般的。営業やマーケティングなどでは「商品特性」「ターゲット顧客層」「手法・スタイル」などのいずれかが近ければ、未経験業界に迎えられることもあります。
マネジャーのポジションであれば、「マネジメント対象層」「マネジメントスタイル」が共通している異業界で、マネジメント経験を活かす道もあるでしょう。幅広い業界に顧客を持つ企業の営業職・コンサルタント職などであれば、「担当顧客の業界知識」を活かして転職するケースも多数あります。
他にも、異分野の新規事業に乗り出す企業が、その分野から経験者を採用するケースもあります。例えば、「健康食品事業に乗り出す化粧品メーカーが、食品やヘルスケア業界の商品企画職を採用」「ハード機器のリリースを目指すネット企業が、家電メーカーのエンジニアを採用」といったようにです。
「課題」が共通している場合も、その解決スキルを未経験業界で活かせるケースがあります。
ある不動産会社では、成長の踊り場を迎え、社員のモチベーションが低下していました。そこで、同じような状況から立て直しを成功させた物流企業出身者を部長職で迎えた事例があります。
「未経験の職種」への転職
「同業界で職種を変える」転職パターンは、業界の成長が著しく、多くの人材を必要としている業界で多く見られます。特にIT・ネット業界では、組織拡大に伴い、新しい役割やポジションも生まれてきています。職種経験者が少ないため、業界の事情を理解している業界経験者が、未経験職種に転換するケースは少なくありません。
例えば、IT企業の営業職からIT企業のマーケティング職へ転職する事例などがこれに当たります。この傾向は、人材業界や成長中のスタートアップ・ベンチャー企業における採用でも多く見られます。転職で職種チェンジを図るなら、これまでの経験の中から目指す職種と共通する要素を洗い出し、それを足がかりにするのが得策です。
なお、これまでの職種経験で培った知識・スキルを活かして異職種に転職する場合、次のようなパターンが多く見られます。
- 営業→マーケティング、商品企画、カスタマーサポート、コンサルタント
- 販売・サービス→営業、販促企画、カスタマーサポート、施設マネジャー
- 営業・マーケティング・企画→コンサルタント
- コンサルタント→マーケティング、企画
- エンジニア→営業、企画、カスタマーサポート
また、人数が少なく、1人が複数業務を兼務するのが当たり前の企業などを狙えば、「営業として入社し、マーケティングや企画などにも携わって経験を積み、その職種へ移行していく」など、段階を踏んでの職種チェンジのチャンスもあります。
「業界・職種とも未経験」の場合の転職
20代では異業界・異職種の転職事例は多く見られますが、30代以降でも、これまでの経験・スキルを転用できる異業界・異職種へ転職を果たす事例は多数あります。
「業界・職種とも未経験」の転職は、上記で挙げた「未経験の業界への転職」と「未経験の職種への転職」の要素の掛け合わせによって実現します。例を挙げてみましょう。
- コンサルティング会社のコンサルタント → 事業会社の経営企画・事業企画
- 小売業の店長職 → 介護施設などの運営マネジャー
- システムインテグレーターのプロジェクトマネジャー → ソフトウェアベンダーの開発部門管理職
- IT業界のアプリ開発エンジニア → 物流会社のDX推進企画
- メーカーの研究開発 → 金融機関の「サステナビリティ」推進企画
また、「新しい職種の登場」も、未経験転職を後押ししています。例えば、SaaS(クラウドを通じて利用できるサービスやアプリケーション)業界では、「カスタマーサクセス」のニーズが高まっています。
カスタマーサクセスとは、従来の「営業」「カスタマーサポート」とは異なり、既存顧客が商材をよりよく活用し、目的を実現させられるように支援する職種です。この職種の経験者が市場にあまりいないため、営業や接客の経験を持つ異業界・異職種出身者が採用され、活躍しています。
未経験転職は志望動機や自己PRが重要
未経験の業界・職種への転職を目指すにあたっては、職務経歴書や面接で「志望動機」「自己PR」をしっかり伝えることが大切です。以下のポイントを意識して準備し、志望動機・自己PRに盛り込んでください。
- 志望する業界・職種を研究し、特性やトレンドを理解する
- 志望する業界・職種と、自身の経験の共通ポイントを洗い出す
- 志望する業界・職種で、自身のスキルがどのように活かせるかを整理する
- 転職先の業界・職種で何を目指したいのか、将来ビジョンを描く
- 志望する業界・職種の関連資格があれば学び、体系を理解しておく(※資格取得に至らなくても、学ぶだけでもプラス評価につながることも)
- 自身の「ポータブルスキル(業界・職種問わず持ち運びできるスキル。コミュニケーション力・課題解決力・論理的思考力・交渉力など)」を整理し、これまでどのように発揮してきたか、それを転職先でどう活かせるかをイメージしておく
未経験領域への転職を迷っている場合は、転職エージェントに相談を
未経験転職の難易度は、職種や業界によって異なります。求人情報に「未経験可」「未経験歓迎」などと書かれていなくても、経験・スキルによっては応募できる求人もあります。また、「採用背景」でお伝えしたとおり、思いもよらなかった異業界・異職種で、自身の経験が求められているケースもあります。
自分1人で転職活動をしていると、そうした「思いがけないチャンス」を見過ごしてしまいがちです。異業界・異職種での活躍の可能性を探るためにも、幅広い業界・職種の採用トレンドをつかんでいる転職エージェントの情報を活用してはいかがでしょうか。
なお、年齢が上がるにつれて、ポテンシャルを重視する未経験転職のハードルは上がっていきます。キャリアチェンジを視野に入れているなら、なるべく早い段階から情報収集を開始しましょう。