【2021年10~12月調査】転職後の年収と転職市況は?

新型コロナウイルスの感染拡大は、引き続き社会全体に大きな影響を及ぼしています。さまざまな業界・企業にとっても大きな変化を促す契機となっています。ひとくちに変化といっても、ポジティブな変化もあれば、ネガティブな変化もあります。転職を検討している人のなかには、転職市場の最新の動向が気になるところでしょう。では、2021年10-12月に転職した人たちの年収は、前職と比べて、どのように変化したのでしょうか。 転職後の年収と転職市況を正しく知っておくために、株式会社リクルートが発表した2021年10-12月期の「転職時の賃金変動状況」調査を紹介します。本調査によると、賃金が1割以上増えた人の割合は31.5%という結果になり、過去最高値を更新しました。この記事では、調査全体の傾向と、業界別の動向について詳しくご紹介します。

<調査概要>2021年10-12月期 転職時の賃金変動状況
「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者数の割合」は31.5% 過去最高値を更新
(コロナ禍前/2019年同期差:+1.9pt、前年同期差:+5.1pt)
※ 当統計の始点である2002年4-6月期以降の値として最高値。

株式会社リクルート(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:北村 吉弘)が提供する転職支援サービス『リクルートエージェント』における2021年10-12月期の「転職時の賃金変動状況」を報告します。「転職時の賃金変動状況」では“転職者の賃金は転職前後でどのように変化しているのか”という点に着目し「前職と比べ賃金が明確に(1割以上)増加した転職者数の割合」の経年変化を観察していきます。

前職と比べ賃金が1割以上増加した転職者数の割合・算出式。(前職と比べ賃金が1割以上増加した転職者決定者数÷転職決定者数)×100(単位:%)

※前職(転職前)の賃金は時間外労働等の「変動する割増賃金」を含む一方、転職後の賃金にはそれらが含まれないため「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者数の割合」は実態よりも低めの値となる傾向があります。

※本文内では一般的な表現として「年収」と表現していますが、この調査は、税法上でいうところの「賃金(企業から支払われる金銭)」で算出しています。(税法上、たとえば給与には「現金以外のもの(ストックオプションや福利厚生など)も含まれる」とされますが、一般的な使われ方として、「年収」や「給与」は、ほぼ「賃金」に相当するという前提でご紹介します)

【全体傾向】過去最高値を更新

10-12月期の「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合」は31.5%

下記のグラフは、「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合」の推移です。新型コロナウイルスの感染が拡大を始めた2020年1-3月期を起点に、一時は大きく水準を切り下げましたが、翌年2021年1-3月期には概ね感染拡大前の水準近くに回復しました。足元の2021年10-12月期は、そこから更に伸長を続けており、過去最高値を更新しています(当統計の始点である2002年4-6月期以降の最高値)。

前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合(2002~2020年の年度推移と2012~2021年の四半期推移)

業況感と人員の過不足感

構造的な人手不足が、景況感の一層の過熱感に「寄与」している可能性も

下図は、「前職と比べ賃金が明確に(1割以上)増加した転職者の割合」(右軸)と、日本銀行公表の全国企業短期経済観測調査(通称:短観)における業況判断DI/雇用人員判断DI(左軸)を一枚のグラフにプロットしたものです。短観では、企業に対し、業況感や雇用人員の過不足感といった項目を問い、得られた回答を以下の定義に沿って、DI(Diffusion Index)という指標に仕立てています。

「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職者の割合」と「日本銀行公表の全国企業短期経済観測調査における業況判断DI/雇用人員判断DI」

※業況判断DI(%pt)=「良い」の回答社数構成比(%)-「悪い」の回答社数構成比(%)
業況の場合の回答選択肢は「良い」「さほど良くない」「悪い」、雇用人員では「過剰」「適正」「不足」

ここで注目すべきは、昨今の「業況判断DI」と「雇用人員判断DI」の乖離です。この2指標は、これまで長きにわたり「業況感が悪化すれば人員は過剰となり、改善すれば不足する」という、安定した関係性を示してきました。ところが、2013年頃を起点に両指標は乖離を始め、業況の過熱感以上に人員不足が深刻化している様子がうかがえます。2019年初頃の「業況感」は、リーマン・ショック前のピーク水準と概ね同水準(図中の点線参照)であるのに対し、同時期の「人員不足感」は、その水準を大きく上回っていました。2019年初頃の労働市場の過熱感には、いわゆる景気循環要因のみでなく、構造的な人手不足が“上乗せで”寄与していると考えられます。

新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年以降の動きとしては、全指標に共通して、明確な落ち込みと、その後の明確な改善がみられていますが、足許の水準感には大きなばらつきがあります。「業況感」はマイナス(悪い超)での推移が続いたなか、足許で僅かにプラス(良い超)に転じた状況である一方、「人員不足感」は、リーマン・ショック前のピーク水準付近で底を打ち、足許では、2016年頃の水準まで回復しています。そして、「前職と比べ賃金が明確に(1割以上)増加した転職者の割合」については、前述の通り、足許では過去最高値を更新するまでに至っています。次から職種ごとにみていきましょう。

IT系エンジニアの転職時賃金変動状況

10-12月期の「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合」は36.2%

2019年以降は幾分減速感がみられていましたが、2021年10-12月期は前年同期差+7.2ptと、このところ大幅な伸長が続いており、過去最高値を更新しています。(当統計の始点である2008年4-6月期以降の最高値)。

IT系エンジニアの転職時賃金変動状況(2008~2021年)

機械・電気・化学エンジニアの転職時賃金変動状況

10-12月期の「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合」は25.2%

2019年以降、下落基調が続いていたなか、2020年10-12月期を底として反発、以降は改善基調に復し、足元2021年10-12月期は、コロナ禍前の2019年10-12月期と同水準に回復しています。

機械・電気・化学エンジニアの転職時賃金変動状況(2008~2021年)

営業職の転職時賃金変動状況

10-12月期の「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合」は29.5%

新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年1-3月期を起点に大幅な落ち込みがみられましたが、2020年10-12月期頃より概ね感染拡大前の水準に回復し、以降は振れを伴いつつも、概ね横ばい圏内の動きが続いています。

営業職の転職時賃金変動状況(2008~2021年)

事務系専門職の転職時賃金変動状況

10-12月期の「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合」は31.4%

2017年以降、幾分弱めの動きが続いていたなか、新型コロナウイルスの感染拡大も重なり、2020年頃にかけては大きく水準を下げました。その後、2021年4-6月期以降は急激な改善基調に転じ、足許2021年10-12月期は、過去最高値を更新する結果となりました。(当統計の始点である2008年4-6月期以降の最高値)。

事務系専門職の転職時賃金変動状況(2008~2021年)

接客・販売・店⻑・コールセンターの転職時賃金変動状況

10-12月期の「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者の割合」は41.1%

新型コロナウイルスの感染が拡大を始めた2020年1-3月期を起点に大幅に水準を切り下げましたが、その後は2020年7-9月期を底として反発、以降は改善基調を続け、足元2021年10-12月期は、2年前同期差+2.7ptと、コロナ禍前の水準を超える高水準となっています。

接客・販売・店⻑・コールセンターの転職時賃金変動状況(2008~2021年)

解説者:株式会社リクルート 特任研究員
高田悠矢

2010年 ⼯学系修⼠課程修了後、⽇本銀⾏入⾏。経済指標の推計⼿法設計や景気判断など、マクロ経済・⾦融領域における統計分析業務に携わる。 2015年 株式会社リクルート(当時リクルートキャリア)⼊社。経営統括室、事業開発室、人事部、広報部を兼務し、戦略策定のための分析や、リコメンドエンジンの開発、⼈事課題に対する統計分析的なアプローチの展開、⾃社データを活用した経済指標の作成・発信など、データ起点の様々な取り組みに従事。 2021年 Re Data Science株式会社創業と同時に現職就任。 2018年より、総務省 統計委員会担当室 研究協力者。

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