これからの時代を切り開くスタートアップに参画したい。若い経営者を支えたい。そんな想いを持つ40代、50代の方が少なくありません。しかし一方で、実際の転職活動においては、その当人たちも「年齢的に難しいですよね」と最初から諦めモードも。40代、50代がスタートアップに参画するチャンスはあるのでしょうか、ないのでしょうか?
現在の経営陣から世代観を推測する
まず最初にお伝えしたいことは、「総論的に考える」ことをやめましょうということです。
ここからお伝えする通り、スタートアップといっても、創業者の世代から従業員の世代構成、また置かれている事業環境、従業員の世代幅についての考え・価値観まで企業によって千差万別です。
では40代、50代が参画するチャンスがありそうかどうかを推察するために、何からチェックしていくか。
やはり、最初に確認したいのは、経営陣の年齢です。創業社長は何歳か?他の経営陣は何歳の人たちか。役員構成で経営幹部陣・管理職層の世代イメージ、自社の構成世代に関する好みを類推することができます。
「同世代の同窓で固めているんだな。ちょっと入り込む余地なさそうだ」「かなりダイバーシティがあるぞ。シニアも参画している」「社長と他の役員は結構世代が開いてるんだな。なんでだろう?」そんなことが分かると思います。
この件はもちろん、企業担当のエージェントにストレートに聞いてみるのも良いですね。トップや経営陣とやりとりしているエージェントであれば、彼らがどう考えているかについて聞いているはず。優秀なエージェントであれば、そのスタートアップが世代についてなぜそう考えているかもクライアントから聞いているはずです。
現在は30代しかいないが、実は今後のために40代、50代の経営幹部陣や管理職を採用したいと考えているというような、現在の構成員からだけではうかがい知れない情報を得ることができれば活動初期のステップとして大成功、参画のチャンスGETです。
取り巻く市場、産業分野からチャンスが見える
次に、スタートアップが参入しようとしている市場、産業分野から、40代、50代の参画可能性を推察しましょう。
そのスタートアップの事業領域がレガシーな分野である場合、相手にする顧客やベンダーと世代を合わせる必要から、40代、50代が望ましいケースがあります。
自社のソリューションを導入する、サービス・商品を納入する先が、旧体質の男性社会・縦社会であるということはよくあります。スタートアップが事業立ち上げや拡大でつまずく要因の一つに、この現実への対応ができていないことも多くあります。
導入先の中堅中小メーカーから「何を、業界のこともロクに分かってない若造たちが」、納入先となる卸・問屋が「ポッと出てきたお兄ちゃんたちの物など、扱えるか」などということに直面し、業界の古い慣習を変えてやる!旧体質を打破してやる!という想いに対する予想以上の厚い壁に愕然とします。
そこから打開していけるスタートアップの経営者や経営陣は、自分たちの歩み寄りの努力と共に、業界を熟知してきたミドルやシニアの経験や人脈を借りる必要性に気がつきます。「ああ、この業界の先輩方の力を借りて、道を切り開かねば」と。
あなたの経験や人脈が、こうした既存の業界構造や慣習に対応できるものであれば、そのスタートアップでの貢献可能性、ゆえに参画可能性はかなり高いものとなるでしょう。
経験あるミドルやシニアを必要とする局面変化
スタートアップの多くが、IPOによる成長を志向します。
新興市場への上場〜今回の東証再編ではグロース市場への上場については、若いスタッフで乗り切るケースも多いですが、そこから更にプライムへの市場替えを狙う成長ベンチャーの場合、特に管理部門を中心に大手企業経験を持つミドルやシニアの経営幹部を求めることが少なくありません。
私もこれまで長らく、エグゼクティブサーチや経営体制・幹部体制の人材コンサルティングの立場で、多くの上場〜市場変更企業に関与、あるいは側で拝見してきましたが、新興市場留まりとなるベンチャーと、旧・一部に上がるベンチャーとの違いの一つが、「大人の参謀」を招聘できるか否かであることをまざまざと感じてきました。創業社長の場合、ある面、この点での腹の括りや度量が問われるなと感じています。
また、上場するか否かは別としても、事業の成長・拡大を果たし、ある局面までのサイズアップ、ステージアップを実現できたスタートアップが、その先を目指すために40代、50代のミドル、シニアの力を必要とすることがあります。
特にSaaS系などのB2B企業では、これまでの成長がデジタルマーケティングでのリード獲得主導できたベンチャーが、エンタープライズセールスの強化・深耕に重点テーマが移る局面が必ず来ます。その際、大手クライアントとの取引に精通しているミドルやシニアの力を借りたい状況が発生するのです。
先の業界構造や慣習の話と同様、大手企業との取引にまつわる各種の作法や根回し、また人脈による信用を伝っての入り込みなど、若い未経験ベンチャー経営陣では太刀打ちできない局面が多々発生します。
あなたが、応募先ベンチャーが拡販を狙っている先の大手企業や業界深耕でのご経験や人脈をお持ちであれば、ぜひ、そのアセットを持ち込んでいただきたいと思います。企業側からすれば、自社の成長のために絶対に欲しい戦力です。
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どのような状況、状態のスタートアップが40代、50代の皆さんにとって参画チャンスありなのか、見てきました。
フックやアセットをお持ちの方は、ぜひチャレンジしてみていただければと思いますが、前提として、40代、50代の皆さんが若い世代の集団に入り、彼らとともにエネルギーを持って未来に向かって走れる人であることが、ベースの人物要件として必須です。
そのための心技体の日々の研鑽が欠かせません。入社後のためにも、現在の生活スタイルや仕事のスタイル、また、情報感度や自己研鑽度合いについて、ぜひ確認とセットアップをいただければ幸いです。
ではまた、次回!
井上和幸
1989年早稲田大学卒業後、リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年よりリクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)。2010年に経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。 『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ずるいマネジメント』(SBクリエイティブ)『30代最後の転職を成功させる方法』(かんき出版)など著書多数。