「今の仕事にやりがいが感じられない」という理由で転職活動を始めたものの、面接で転職理由を聞かれた時に「正直に伝えて良いのだろうか?」「どう伝えたら良いのかわからない」と不安に思う方は多いかもしれません。「やりがいがない」「やりがいを求めて」を理由に転職する場合の、転職理由のまとめ方・伝え方のポイントと、ケース別の回答例について、組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏に伺いました。
企業が面接で「転職理由」を聞く目的とは?
企業が確認したいのは「定着・活躍」の可能性
中途採用の面接では、必ずと言っていいほど「なぜ会社を辞めて転職するのか」と転職理由を聞かれます。企業が面接で転職理由を聞く目的は、大きく分けて2つあります。
- 入社後の定着…入社しても、また同じ理由ですぐに辞めてしまわないかを見る
- 入社後の活躍…退職理由となった不満を解消し、希望通りの活躍ができるかを見る
今回の転職によって、応募者が転職理由を実現することができれば、モチベーションを維持し、長く活躍できる可能性が高くなります。逆に、入社しても解消されないような内容や、実現できない転職理由の場合は、入社後にまた同じ理由で早期退職してしまうかもしれません。そのため、転職理由は企業にとって重要な質問となっているのです。
転職理由は正直に答えて良いが表現を工夫しよう
もしもこの時、応募者がきれいな建前だけで転職理由を答えてしまうと、採用担当者は上記を判断する材料がないため、選考通過を見送ってしまうかもしれません。また、仮に建前の転職理由で内定を得られたとしても、入社後にミスマッチが起きて早期退職に繋がる可能性があるでしょう。
従って転職理由は、あくまで事実ベースで語ることが基本です。ですから「やりがい」が転職理由だった場合も、企業に素直に伝えて問題はありません。ただし、ネガティブな表現や、あまりにストレートな表現では企業に不安を与える可能性もあります。次にご紹介するように、前向きな印象を与えるよう伝え方を工夫することが大切です。
転職理由に「やりがいを求めて」はあり?企業はどう受け止める?
転職理由と退職理由の違い
「(転職理由は)今の仕事にやりがいがないから」というのは、つまり現状に不満があったり、「このままでいいのか?」と不安になっていたりするということです。「そんなネガティブな転職理由をそのまま伝えて大丈夫?」と悩む方も多いことでしょう。そうした方にまず知って欲しいのが「転職理由」と「退職理由」の違いです。
- 「退職理由」…退職を決意したきっかけや理由(過去のこと)
- 「転職理由」…退職理由を受けて、転職によって実現したいこと(未来のこと)
「仕事にやりがいがない」というのは「退職理由」であり、正確には転職理由ではありません。面接で転職理由を質問された時は「転職を決意したきっかけ(退職理由)」だけでなく「転職によって何を実現したいか(転職理由)」という目的をあわせて伝えることで、前向きな意欲を見せることが大切です。
漠然とした「やりがいがない」はNG
ただ、ここで注意したいのは、転職理由に「やりがい」という言葉を多用しないことです。
その理由のひとつは「やりがい」という表現が抽象的すぎることです。応募者が「自分にとってやりがいとは何か」をブレイクダウンし、具体的な言葉に落とし込めていなければ、採用担当者は「キャリアについての考えが浅いのでは?」と受け止めるでしょう。
もうひとつは「受け身」「モチベーション維持ができない」と思われるリスクがあることです。本来、仕事のやりがいとは自分で見出していくもので、会社が与えてくれるものではありません。また、会社組織ではさまざまな新しい仕事に挑戦することを求められます。それに対して、やりがいありき一辺倒のアピールをすれば「興味のない仕事を任せたら、この人はすぐ辞めてしまうのでは?」と企業は警戒するでしょう。
従って転職理由を整理する際は「やりがいがない」という今の状況を分析し「(やりがいを得るために)自分が何を実現したいのか」を具体化することが重要になります。
何が自分にとっての「やりがい」なのかを明確化しよう
それでは、自分にとってのやりがいを明確にし、「やりがいがない」というネガティブな転職(退職)理由を前向きな方向に言い換えるコツをご紹介しましょう。
1.退職したい理由を書き出す
まず、今の仕事にやりがいを感じない理由として、現状に対する不満をリストアップします。「成果を出しても給与が上がらない」「昇進が望めない」「人間関係が悪い」「残業や休日出勤が多い」など、思いつく限り書き出してみましょう。
2.不満の背景を整理する
次に、それらの不満にはどのような背景があるか、なぜそうなるのかを考えてみます。その際は次の4つの観点で考えると整理しやすいでしょう。
- 事業・商品・仕事(価値が低いと感じる、容易すぎる、達成できない、成長性がない)
- 報酬・働き方・福利厚生(年収、時間労力と見合わない、制度が不十分)
- 組織・人(社風が好きになれない、価値観が合わない)
- 会社のビジョン・戦略(方向性が合わない、共感できない)
例えば、「成果を出しても給与が上がらない」という場合は「会社の人事制度が年功序列」という組織の問題かもしれませんし、「業界自体が伸び悩み、業績が頭打ちになっている」と事業そのものが原因である場合もあります。「やりがいがない」という不満で終わらせず、その中身を深掘りしてみましょう。
3.「不満が解消したらどのような状況になるか」を考える
背景を明らかにし、どのような状況になれば不満が解消され、やりがいを感じられるか考えることで「自分が転職で実現したいこと」が明確になります。例えば「年功序列で給料が安い」→「成果に応じて給料が上がる会社で働きたい」、「業績が頭打ちで給料が安い」→「成長業界でモチベーション高く働いて成果を残したい」と、具体的な転職理由に繋げることができるでしょう。
転職理由で「やりがい」を伝える際のポイント
面接で転職理由を答えるための準備をする際は、次の点を意識して整理しましょう。
退職理由2割+実現したいこと8割で構成
前述のように、面接で「なぜ転職したいのか」と聞かれた時に「やりがいがないから」という退職理由だけ伝えて終わったり、今の会社への不満を長々と述べたりするのはお勧めできません。退職理由の多くは不満や不安が発端となっているため、それだけでは「どのような環境でも不平不満を持ちそう」「発想がネガティブな人だな」というマイナス印象を与えてしまうからです。
そこで、転職理由をまとめる時は「退職理由:2割」+「転職で実現したいこと:8割」の強さを意識して構成するのが理想です。退職理由はあくまで「きっかけ」程度に留め、転職で実現したいことを中心に構成すると、より前向きな内容になるでしょう。
実現可能な目的を設定し、志望動機に繋げる
たとえ「実現したいこと」を前向きに伝えても、内容が応募企業での仕事や社風とかけ離れていては「うちの会社でそれをやるのは無理」と思われ、評価されません。事前に企業情報や求人内容を読み込み、応募企業の事業戦略や求める人物像を掴んだ上で、自分がやりたいことと照らし合わせ、実現可能な転職理由を選ぶようにしましょう。
また、面接では転職理由とともに「志望動機」も聞かれるのが一般的です。その場合、志望動機が転職理由と矛盾していては、企業の納得が得られません。従って「転職で○○○(というやりがい)を実現したい」→「御社であれば○○○ができると考えて志望した」というように、志望動機との整合性、一貫性を持たせることも重要になります。
具体的なエピソードを交え「言わないこと」も決めておく
転職理由を考える際は、具体的なエピソードを交えて、事実ベースでまとめるようにしましょう。その際に、残業時間が多いことを「月○時間」と数字で表したり、やりがいを求めて具体的に行動したことがあれば、それを伝えたりするなど、相手が客観的に判断できる事実を提供すると説得力が増すでしょう。
同時に「これ以上は言わない」ことを決めておくのも大切です。中には、問われるままに現職への不満をもらしてしまう方もいますが、採用担当者には、応募者の話す不満が真実かどうかを確かめる術はありません。そのため「物事に対して批判的な人」「不満を持つとすぐに辞めてしまう人」と印象づけるだけで、良い結果に結びつくとは考えにくいからです。
【ケース別】転職理由で「やりがい」を伝える回答例
ケース別に転職理由の回答例をご紹介しますので、面接対策の参考にしてください。
【ケース1】正当に評価してもらえる会社で働きたい
「働きに見合うだけの評価・報酬が得られず、やりがいが少ない」
↓
「SEとして○年間に○つのプロジェクトに参加し、新規顧客との折衝の中から継続的な受注を獲得するなど、会社の売上に貢献してきました。しかし現職は大手システム開発会社から開発フェーズの案件を請け負っているため、成果に見合った評価や報酬を得ることが難しく、もっと上流で主体的にシステム開発に携わりたいと考えるようになりました。クライアントと仕様やプロジェクトの進め方について折衝しながら開発を行ない、これまで培ってきた技術力とPM力をさらに発揮していきたいと考えて、転職を決意しました」
【解説】
主な退職理由が報酬の低さであっても「年収を上げたい」ではなく「強みを活かしたい=会社に貢献したい」と言い換えることがポイントです。
【ケース2】ワークライフバランスを整えたい
「ハードな就業環境を変え、今までと違うやりがいを求めたい」
↓
「ITコンサルタントとして年間○件の案件に全力で取り組んで来ましたが、複数のプロジェクトを同時並行し、月○時間ほどの残業もあり、家庭生活とのバランスも取りづらい状態でした。加えて、改善提案のみで成果まで見届けられないことに物足りなさを感じるようになり『当事者としてビジネスの主体でありたい』という思いが強くなりました。そこで、現職のコンサル業務における新規事業開発や、事業の立て直し支援の知見を生かして、事業会社へ転職したいと考えました」
【解説】
ハードな働き方を見直すことが目的でも「ワークライフバランス」を前面に押し出すのは避けた方が無難。それによって仕事上で何が実現できるかにフォーカスしましょう。
【ケース3】社会にインパクトを与える仕事がしたい
「大企業の歯車として働くことにやりがいを見いだせなくなった」
↓
「現職では、同年代と比べても順調に課長職まで昇進してきましたが、役職が上がるほど、大企業ゆえの社内調整業務の大変さや、組織的な制限を感じることが増え『このまま会社の歯車でいて良いのか』という疑問が生まれました。近年、仕事を通じて資源関連プロジェクトに複数関わる中で、地球資源の問題に興味を持ったことから、環境負荷の低い新素材の開発事業に関わりたい思いが強くなり、転職活動に踏み切りました。小規模でもミッション・ビジョン・バリューに共感できる会社で、社会全体にインパクトを与える取り組みをしていきたいと考えています」
【解説】
「社会貢献をしたい」と語ること自体はかまいませんが、そのままでは抽象的。社会貢献の中身や方向性を明確にすることが大切です。
【ケース4】もっと仕事で裁量権を持ちたい
「昇進できるポジションがなくなってしまったが、上を目指したい」
↓
「現職では管理職のポジションが減少し、さらに外部から人材を招聘したことで、上司には頑張っても5年以内の昇進はないと言われました。しかし、私には新規事業の立ち上げで○万円の利益を出し、毎年○%の売上増を達成してきた実績があり、それを活かしてより経営に近いポジションで、裁量権を持って働きたいという希望があります。そこで、経験年次に関係なく高い役職・大きな裁量を任される環境に移るために転職を決意しました」
【解説】
単に「上の役職に就けないから」では「本人の働きが足りないだけではないか」と受け取られる可能性もあります。現職(前職)で昇進できない理由を事実に基づいて伝えた方が、応募企業の納得感が高くなるでしょう。
「やりがい」回答NG例
「現在の役職に就いてから業務が固定化し、やりがいが感じられません。もっと挑戦できる環境の中で、さらなるキャリアアップを実現したいと考えて転職を決意しました」
【解説】
転職理由を「キャリアアップ」「スキルアップ」と抽象的な言葉でしか表現できないと「本当の理由は他にあるのでは?」と疑われる可能性も。便利な言葉を安易に使うのではなく、自分だけのやりがいの定義を見つけることが大切です。
「課せられるノルマが現実的ではなく、目標達成が困難なため、やりがいを持って取り組むことができません。もっと適正な目標が設定される会社で働きたいと考えました」
【解説】
「ノルマが非現実的」の根拠がないと「それはあなただけで、他の人は達成できるのでは?」と追及されることも。部署としての達成率など数字を交えて伝えるようにしましょう。
「この5年間○○業務に携わってきましたが、成長感を得ることができなかったため、これまでの経験を活かして新たな分野に挑戦するために転職を決意しました」
【解説】
自ら成長感を得るための工夫をしてこなかったように感じられ、「受け身な人」と思われても仕方がありません。自分が実現したかったことや、何が原因で成長感を得られなかったのかを具体的に掘り下げましょう。
【アドバイザー】
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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