メーカー営業のチームリーダーに抜擢された30代後半の男性。チームメンバーと親睦を深めようと飲みに誘ったら「パワハラ」だと言われてしまったのだとか。どうすれば若いスタッフと距離を縮めることができるのか。相談者の悩みにコミュニケーション研究家の藤田尚弓先生が答えます。
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メーカー営業のチームリーダーに抜擢された30代後半の男性。チームメンバーと親睦を深めようと飲みに誘ったら「パワハラ」だと言われてしまったのだとか。どうすれば若いスタッフと距離を縮めることができるのか。相談者の悩みにコミュニケーション研究家の藤田尚弓先生が答えます。
飲みに誘うのはパワハラ!? 部下との親睦の深め方とは
38歳営業さんからの相談内容
この春にチームリーダーになったばかりの新人管理職です。職場がギクシャクしているわけではありませんが、メンバーと親睦を深めたいと思っています。
しかし飲み会に誘っても日程が合わないと断られること多いので、みんなが参加できる日に調整しようとしたら「参加は強制ですか?」と訊かれてしまいました。「自由時間に飲み会に付き合わせるのはパワハラ」と言っている部下もいるそうです。
20代のスタッフたちとどのように親睦を深めたらいいでしょうか。若い世代とコミュニケーションをとるのは、やはり難しいのでしょうか。
人が一番楽しくないと感じるのは「上司と一緒の時間」
チームリーダーへの昇進おめでとうございます。部下の皆さんと親睦を深めたいと思うのはいいことですね。
最近の若い人たちは職場の飲み会を苦痛に思うらしい」というのは、ネットなどでまことしやかに囁かれていることですが、事実とはちょっと違います。
研究者の調査によると、人が一番楽しくないと感じるのは「上司と一緒の時間」。若い世代だから飲み会がイヤなのではなく、他の世代でも上司といる時間は不快なのです。その不快さは、友達といる時間の2~4倍! 面倒な家事をやっているときよりも不快と感じるそうです。
「じゃあ部下とはコミュニケーションなんかとらないほうがいいのか」と思うかも知れませんが、それもまたリスキーです。アメリカの会社の調査によると、仕事に対する熱意を最も失いやすいのは「自分の上司が部下である自分に関心を持っていない」と感じる時だそう。あなたに関心を持っていますよと伝えることは大切なのです。
解決策は誰にでもできる「挨拶プラスワン」
部下は上司と一緒の時間が苦痛。とはいえ関心を持たれない場合、熱意を失いやすい。マネジメント初心者にとっては「どうすればいいんだ!?」という状況ですよね。オススメの解決策は、ズバリ「挨拶プラスワン」の短い会話をすること。
「おはよう! 最近すっかり秋だな。毎朝着るもので迷ってるんだけどさ、○○さんはどう?」「お疲れ! 今日のお客さんは結構難しい人だったけど、よく頑張ってたじゃないか。何かあったのか?」など、いつもの挨拶にちょっとした一言をプラスするだけでOKです。コツは会話の最後を質問文にすること。これによって会話のキャッチボールが可能になります。
そんなことで状況がよくなるの? と不安に思うでしょうか。実は職場のコミュニケーションで大切なのは、コミュニケーションの量でも質でもないのです。
大事なのはコミュニケーションの量よりも回数! タイプ別の会話例
職場でのコミュニケーションで大切なのは回数。職場での助け合いは、コミュニケーションの回数に比例するという調査もあります。長い時間話さなくても、たわいもない雑談でもいいので、まずはスタッフの方たちに自分から話しかけるようにしてみてください。参考として、部下のタイプ別に会話例をご紹介しておきます。
仕事に意欲があるタイプ
社内の立場に関わらず、仕事が好きで意欲を持っている人。承認欲求が高い人、目立ちたい欲求が強い人などもこのカテゴリーに分類する。
<このタイプにオススメの会話例>
・「お疲れさま! ○○さんってお客さん受けがすごくいいよね。何か気をつけていることってあるの?」
・「おはよう! 昨日のお客さんからお礼のメール来てたよ。なんであの提案をしようと思ったの?」
なるべくいいところを探して、それを口に出してあげてください。その後、努力している部分について質問するといいですね。褒めたとおりの行動を今後しやすくなる効果(ラベリング効果)も期待できますし「あなたの努力を見ていますよ」ということも伝えられる会話です。
仕事より大事なことがあるタイプ
家計のために働いている人、仕事より休日の趣味などに重きをおく人など。
<このタイプにオススメの会話例>
・「おはよう! 今週末はどこか行ったの? ◯◯さん詳しいから最近行って良かったところがあったら教えてよ」
・「お疲れさま! 疲れてるみたいだけど、仕事で何か困ってたりする?」
このタイプを褒めるときには、その人の好みに合わせた方が無難です。モチベーションの低下を早めに察知して対処できるよう、困っていることがないか聞くのもいいでしょう。説教じみた話や余計なアドバイスは厳禁です。
親しくなっておきたい右腕タイプ
右腕として頑張ってほしい人、できるだけ親しくなっておきたい人など。成長させたい人材などもこのタイプに入ります。
<このタイプにオススメの会話例>
・「おはよう。実は今日出がけに妻とケンカしちゃってさ。○○さんならどうする? 先に謝る?」
・「お疲れ! 昨日は接待帰りに電車で寝過ごしてえらい目にあったから今日は早く帰ろうと思って。○○さんは寝過ごしたこととかある?」
人は相手の意外な一面を見たときに好意を持ちやすいと言われます。普段仕事にキッチリしている人が、奥さんとケンカしてドキドキしたり、電車を寝過ごしていたりというのは好感に繋がりやすいでしょう。コミュニケーションでは自己開示といって、自分のプライベートなことを少し話すのは定番テクニック。相手も自分のことを開示しやすくなり、心の距離が縮まりやすくなります。
トーク&ゴーから始まる本当の関係
挨拶プラスワンの会話も、まだ親しくなっていない部下の人たちには抵抗があるかもしれません。心理的負担が軽くなるよう、会話をした後すぐにその場を離れる「トーク&ゴー」からはじめてみてください。
表面上のコミュニケーションだと感じるかも知れませんが、こういったことからコツコツ距離を縮め、関心があることを伝えることが、反発されずに親睦を深める近道です。
部下との距離が一気に縮まる魔法のような方法はありません。飲み会に誘って喜んでくれる人もいるかも知れませんが、多くの場合それは上司へのサービスだと思っておいた方が無難です。サービスだと気づかずに、武勇伝など披露してしまわないよう気をつけましょう。
どうしても仕事以外で集まる機会を設けたいのであれば、ランチに誘うなど心理的負担、時間的負担が少ないことからはじめましょう。
親睦を深めたいという気持ちがあるのは管理職として素晴らしいこと。相談者さんの温かい気持ちが、いい形で部下の方々に伝わりますように。