「年功序列」とはどのようなことを指すのでしょうか。よく比較される「成果主義」との違いや、働くビジネスパーソンに与えるメリット・デメリットなどについて、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏が解説します。「年功序列」の会社への転職事例も粟野氏の経験をもとにご紹介します。
目次
年功序列とは?
年功序列とは、企業において勤続年数や年齢などに応じて役職や賃金を決定する制度を意味する言葉。一つの会社で長く働くほど役職や賃金が上がるため、社員が定着しやすく人材を安定的に確保できるなどの理由から高度経済成長期に広がりました。
時代の変化に合わせて、今後は年功序列を見直すことも求められる
2022年9月に政府が「年功序列的な職能給をジョブ型の職務給中心に見直す」姿勢を打ち出したことに代表されるように、近年ではジョブ型雇用(以降、ジョブ型)の増加傾向が見られます。これには、従業員の専門的なスキルなどを給与に反映しやすくして業務を円滑にし、日本全体の生産性向上や賃上げにつなげるなどという狙いがあります。
ジョブ型とは、一般的に特定の業務に対応できる人材を採用する雇用手法を言います。原則、業務内容や報酬、勤務地などが採用時点で決まっており、決められた業務以外を担当することは基本的にはないケースがほとんどです。ジョブ型を採り入れる場合、相性の良い評価制度として「成果主義(後述)」も合わせて採り入れる企業も見受けられます。
また職務給とは、個人の専門性や業務の難易度に合わせて給与が決まることが一般的です。一方で、職能給は年齢や勤続年数、職務の遂行能力に合わせて給与が決まるケースが見られます。
このような時代の流れに合わせて、最近は年功序列的な制度を採り入れている場合は、見直しが求められるタイミングとも考えられるでしょう。
年功序列と成果主義との違いとは?
成果主義とは、個人の成果や実績の評価を役職や賃金に反映することを言います。年功序列と対で語られることが多く、勤続年数や年齢などに関係なく、成果が上がれば役職や報酬などの処遇を受けることができます。その反面、社歴に関わらず、成果を上げなければ役職が上がらなかったり、給与が増えなかったりなどするケースも少なくありません。
勤続年数や年齢などによって役職や給与が上がる年功序列は、社員の高年齢化や社員数の増加などにより人件費負担が増す一方で、人事評価が非常にシンプルであり上司や人事の負担が少ないというメリットがあります。ベテラン社員が定着することで、若手社員への技術やノウハウ継承が容易になるという点も利点と言えます。
また、成果主義を徹底しすぎると、事務部門など成果が見えづらい仕事に就く場合の評価基準の設定が難しかったり、チャレンジングな業務や、すぐに成果が出にくい中長期的な案件を任せづらくなったりする可能性もあり、苦慮する企業もあるようです。
したがって今後は、年功序列の良いところを残しつつも、コストや成果面で課題のある仕事に成果主義を柔軟に取り入れるなど、年功序列と成果主義をミックスした人事評価制度を取り入れる企業が増える可能性があると予想されています。
年功序列の会社で働くメリット・デメリット
年功序列にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
メリットは「安定性が高く腰を据えて働ける」「キャリアプランが立てやすい」
年功序列は終身雇用が前提であるケースが多く、勤続年数や年齢などが上がるにつれて着実に役職も賃金も上がるので、将来設計をしやすいというメリットがあります。
また、人事評価制度がシンプルなので、キャリアプランが立てやすいという点もメリットと言えます。社内にロールモデルとなり得る人も多く、キャリアの参考にできるでしょう。
デメリットは「頑張っても昇進・昇給に影響しないケースが見られる」「新しい挑戦がしにくい」
まず挙げられるのは、高い成果を出しても、昇進・昇給に影響しづらいということです。そのため、仕事へのモチベーションが削がれる場面があるかもしれません。また、このような環境下では、新しい事柄への挑戦などにあまり積極的ではないケースも考えられます。
年功序列の会社に向いている人・向いていない人の特徴、傾向
安定感のある組織風土の中でじっくり働けるので、腰を据えて1つの会社で経験を積みたい、安定的な生活設計をしたい、長期視点で仕事をしていきたいという人には年功序列の会社に馴染みやすい傾向にあるでしょう。
一方で、早く成長してキャリアアップしたい、若くして裁量権を得たい、成果を挙げた分を正当に評価してほしいなどという思いが強い人にとっては、会社の文化やルールと自身の希望が合わないかもしれません。チャレンジングな環境で刺激を受けながら働きたいと考える人も、慎重な検討が必要と言えます。
年功序列の会社に転職する際の確認ポイント
まず確認してほしいのは、転職先企業の給与水準です。年功序列の会社では勤続年数・年齢などによって給与テーブルが明確に決まっていることが一般的なので、前職の給与や実績は反映されにくい傾向にあります。例えば、前職で高い成果を上げていて給与水準も高いという場合、年功序列の会社に移ると年収が下がる可能性も考えられます。
また、仕事の進め方も確認ポイントの一つです。例えば、新しいことに挑戦したい場合、現職ではすぐに実践できたことでも、会社によってはすぐ上の上司の合意だけでなく、さらに上の上司やほかの部署との合意形成までも必要とされるケースが見られます。その会社の文化や社風、ルールなどを十分に理解し、納得の上で転職することが重要です。
例えば、識者が転職に関わったAさんは、コンサルティング会社から自動車メーカーに転職しました。入社した当初は、個人の裁量で業務を進めることが許されず、何事もチームで考え行動する点に驚かされたのだそうです。また終業後にみんなで飲みに行くなどの慣習も残っており、強いカルチャーギャップを感じたそうです。ただ、その自動車メーカーは大学時代からの憧れの会社であり、そこに身を置いて働けることがAさんにとっての最大のメリット。働く環境や文化、待遇が大幅に変わることも理解した上で覚悟を決めて転職を決めたので、新しい環境で経験を活かしながら、中長期視点でのプロジェクトにイキイキと取り組んでいます。
年功序列の会社に転職する場合は、年功序列ならではの安定感をメリットと捉えることが大切です。そして、Aさんのように長期的な視点で仕事に取り組む姿勢や、独特の文化・風土を楽しむ姿勢を大切にしてほしいと思います。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。