転職にも昇進にも役立つ「キャリアの棚卸し」とは?メリットや具体的な方法、注意点を解説

オフィスにてノートパソコンを操作する人

終身雇用が当たり前ではなくなった現代、一人ひとりが「キャリアビジョン」や「キャリアプラン」を自身のものとして捉えることが不可欠になりました。キャリアの転機である転職活動でもキャリアの棚卸しは重要とされており、特にハイクラス人材が転職する場合は、キャリアの棚卸しによって自己PRの武器を手に入れることが肝要でしょう。転職や昇進などで、自身にとって最適なキャリアを歩むために効果的なキャリアの棚卸しについて、組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏に解説していただきました。

キャリアの棚卸しとは

キャリアの棚卸しとは、これまで自分が積み重ねてきたキャリアを振り返り、どのような経験や成長があったのかを確認する作業のことです。その際、自分にとって特別だった仕事や大きな成果だけでなく、普段から取り組んで来た業務や経験を含めて、洗い出していくことが大切です。

キャリアの棚卸しを行う目的

キャリアの棚卸しをすると、一つひとつの仕事が成功した要因や、自分が成長したと感じる要因、モチベーションの源泉などが可視化されます。それにより、自分自身のビジネスパースンとしての行動特性を理解することができます。

特にキャリアが長い方ほど、これまでに多くの転機を経験しています。異動・昇進・転勤・転職などの仕事面だけでなく、プライベート面やライフステージにも環境の変化があったでしょう。また、組織での立ち位置や求められる役割も変わっているはずです。そうした変化を把握し、自分がどう乗り越えてきたかを言語化することで、今後のキャリア展開や転職活動での自己PRに活かすことができるでしょう。

これまでキャリアの棚卸しをしたことがない場合は、ぜひこの機会にキャリアの棚卸しにチャレンジしてみましょう。

キャリアの棚卸しを行うメリット

キャリアの棚卸しを行うメリットは、大きく分けて以下の5点です。

転職活動における自己PRが明確になる

転職活動では、自分の能力や、応募企業で活躍する可能性を示すために、何度も自己PRをする機会があります。特にハイクラス人材が転職する場合、実績や経験が豊富なビジネスパーソンと競合するため、適切な自己PRによってライバルに差をつけることが転職を実現させるためのポイントになります。

この時、キャリアの棚卸しをしっかり行えば、自分の思考や行動特性について自分自身が理解できるようになり、論理的な自己PRにつなげることができます。このことは、転職活動で大きな武器になるでしょう。

転職の応募書類の完成度が上がる

特にキャリアの長い方が応募書類を作る場合、経歴を長々と書き連ねるだけでは、枚数が増える一方で、アピールポイントがどこなのかが伝わりにくくなってしまいます。事前にキャリアの棚卸しを行い、自身の経歴のハイライトや、アピールしたいスキルが明らかになっていれば、ポイントを絞り込んだ、読み手に伝わりやすい応募書類作りができるでしょう。

面接対策に活かせる

転職の面接では、職務経歴書の内容を深掘りされるだけでなく、書類に書かれていないことに対して質問されることもあります。キャリアの棚卸しで自身の経験や成長を振り返り、一旦整理をしておくことで、そうした質問にも自信を持って答えられるようになるでしょう。

今後のキャリアの課題が明確になる

過去の自分の経験を振り返ることで、何が足りないのか、これから成長するためにどんな経験やスキルが必要になるのかが明確になります。

例えば、将来的に管理職や経営陣を目指したいと考える方が、キャリアの棚卸しをしてみると、チームで協働する機会が少なく、個人の成果を重視する組織にいたため、1人で仕事をすることが多かったというケースを想定しましょう。このような場合、「自分の課題はチームで仕事に取り組む経験の不足だ」と気づくことができます。

すると、今後はチームで物事を進める働き方を意識するようになり、「マネジメントの経験が必要」という認識からマネジメントを学び、管理職として必要な資質を主体的に身につけていこうというように、意識が変わっていくでしょう。

キャリアビジョン・キャリアプランを描くための土台になる

自身にとってより良いキャリアを歩むためには、将来の理想像である「キャリアビジョン」と、その実現に向けた行動計画である「キャリアプラン」を描くことが大切です。キャリアの棚卸しは、それらを作成するために最初に行うべきステップであり、土台になるものだといえるでしょう。

キャリアビジョンやキャリアプランを作成すると、自分が歩むべきキャリアや、取り組むべき仕事が明確になります。日々の仕事にも目的意識を持つことができるようになり、主体的に取り組めることから、成果が上がりやすくなります。

特にミドル層やシニア層など経験豊富なビジネスパーソンを募集する企業の場合、これまでのキャリアをどう設計してきたのか、今後はどうすべきかを考えているかが評価のポイントとなります。計画的にキャリアを積み重ねてきたと説得力を持ってアピールするためにも、ぜひキャリアビジョンとキャリアプランを作成しておきましょう。

キャリアプランの作成方法はこちらの記事で詳しく紹介しています。ぜひご一読ください。

「キャリアの棚卸し」のプロセスと具体的なやり方

ここでは、キャリアの棚卸しの具体的なやり方について解説します。

1)経験や実績、習得した能力やスキルを書き出す
2)自分の成功パターンを分析する
3)自分の強みと、これから伸ばしたい点を書き出す
4)自分を表す「キーワード」を抽出する

これら4つのプロセス順にそれぞれの方法を見ていきましょう。

経験や実績、習得した能力やスキルを書き出す

最初に、これまでのキャリアについて書き出していきましょう。紙やExcelシートなどに、「年齢」「所属」「業務内容」「実績」「表彰・資格・スキル」「成長内容」「課題」「プライベートの出来事」と、棚卸しする項目を記載していきます。

そして社会人のスタートから順に、いつ、どのような仕事をして、どのような結果や成長があったのかを1つずつ書き出していきましょう。

基本的には所属や業務内容が変化したタイミングを一区切りとし、所属や業務が同じ時期にどのような実績を上げ、経験・スキルを身につけたかを記入します。また、自分が成長したと感じる内容や課題についても記入するなど、より深く振り返るといいでしょう。

自分の成功パターンを分析する

新入社員から現在までの項目を書き出したら、実績が上がった時期や、成長したと感じた時期に何があったのかを分析していきます。

それぞれの時期で「なぜうまくいったのか」「その時にどんな働き方をしていたか」「心がけていたことは何か」「周囲との人間関係はどうだったか」など、成功した要因を書き出していきます。実績が上がった時期や成長した時期が多ければ多いほど、強いアピールポイントになるので、しっかりと分析していきましょう。

時期ごとの要因を書き出せたら、次は全体を見渡して、成功した時に共通する項目がないかを探し出していきます。例えば「徹底的にリサーチした」「上司との連携を気にしていた」「頻繁に客先に通った」など、実績が上がったときに共通している項目があれば、それが自分の成功パターンだといえるでしょう。

自分の成功パターンを理解しておくことは、仕事においても重要です。しっかりと成功パターンを分析して、日々の仕事にも取り入れていきましょう。

自分の強みと、これから伸ばしたい点を書き出す

自分の成功パターンが把握できたら、これを「強み」として文章化します。自分の強みを作成する場合には「キーワード(箇条書きにした成功要因)」と「その理由」をセットにして文章を作成していきます。

強みが多ければ多いほど、自己PRの引き出しが増えます。応募企業のニーズにマッチした自己PRを選択することができるため、転職活動を効果的に進めることができるでしょう。

強みを文章化する一方で、「ここは失敗だったな」「この経験が足りていないな」「スキルが無くて困ったな」と感じた場面を振り返る機会もあるでしょう。このように、今の自分に備わっていない経験・スキルを理解するのも、キャリアの棚卸しの重要なポイントです。

強みの文章化が終わったら、次は「今後伸ばしていきたい点」と、「そう感じる理由」を書き出していきます。書類選考や面接で使うものではありませんが、キャリアビジョンを達成するためには今の自分に足りていない分野を重点的に鍛えることも重要です。ぜひ、課題も含めて自己理解を深めておきましょう。

ここで作成した文章は、次の段落で紹介するキーワードと合わせて自己PRで使用します。重要な項目なので、ぜひ転職活動の前に完成させておきましょう。

自分を表す「キーワード」を抽出する

自分の強みや今後の課題を文章にしたら、最終的に「自分は◯◯な人間です」と一言でまとめられるキーワードを抽出します。このキーワードは自己PRの冒頭部分で使用する文言になるので特に重要です。

キーワードは、これまでの自分の強みや今後伸ばしたいと考える点から抽出するので、無理に良い言葉を選ぶ必要ありません。大切なのは、自分がどんな人間であるかを伝える際に、「なぜそう主張できるか」「どんな経験からそう言えるのか」という根拠をしっかりと持っておくことです。

キャリアの棚卸しを行う際のコツと注意点

キャリアの棚卸しを効果的に行うための、コツや注意点についてお伝えしましょう。

思い出したことから大まかに書き出していく

キャリアの棚卸しでは、全期間の経験をアウトプットすることが大切ですが、時系列で書き出すと記憶が曖昧なことが多いものです。最初から正確に書こうとすると作業が進まないので、まず思い出したことからザッと書き出し、抜け漏れがあれば後から追加すれば良いでしょう。あくまで自己認識を深めるための作業であり、人に見せるものではないので、言葉遣いや体裁はあまり気にせず、自分に正直に書き出していくのもポイントです。

経験の整理にはツールの活用がおすすめ

書き出した経験を俯瞰し、自身の成功パターンや課題を探すときは、それぞれの出来事やその時の思考の共通点を見つけてグループ化するとわかりやすくなります。その際は、仕事のアイデア出しの要領で、ツールを活用すると便利です。例えば、何度も貼ったり剥がしたりできる付せん紙や、アイデアマップ作成用のアプリを使うのもおすすめ。また、会社のキャリアデザイン研修などで使用した資料やツールがあれば、活用しても良いでしょう。

キャリアの棚卸しは定期的に行うのも大切

組織での立ち位置や役割の変化、ライフステージの変化、DX化に代表される市場の変化など、さまざまな環境の変化に伴い、目指すキャリアは変わるものです。キャリアは経験を積み重ねるほどに長くなり、自律的に構築する領域が広がっていきます。そのため、定期的に棚卸しを行い、その都度これまでの自分はどうであったか、今後はどうしていくべきかを見直していくことは大切です。

キャリアの棚卸しはハイクラス転職だけでなく、成果を出せるビジネスパーソンとしての習慣づくりにも繋がります。振り返りによって自身の変化や成長を実感でき、仕事での自信やモチベーションにつながることもあります。定期的にキャリアの棚卸しをすることで、自らキャリアアップできる可能性を高めることもできるでしょう。

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粟野友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。