「キャリア自律」が求められる昨今、自身のキャリアビジョンを描き、その実現を目指すにあたっては「スキルアップ」が欠かせません。スキルアップとキャリアアップの違い、スキルアップのメリット、効果的な方法などについて、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
「スキルアップ」とは?キャリアアップとの違い
まずは「スキルアップ」の定義、スキルの種類、キャリアアップとの違いについて認識しておきましょう。
スキルアップとは
英語で「スキル(skill)」といえば「技能」「技術」などの意味を持ちます。もともと備えている天性の能力というよりも、経験・訓練・学習などを通じて得る能力という意味合いがあります。
「スキルアップ」とは、日々の仕事、研修、訓練、学習などを通じて、個人の能力を高めることを指します。
スキルアップの種類
ビジネスシーンで活用するスキルは、大きく2つの種類に分けられます。「テクニカルスキル」と「ポータブルスキル」です。いずれか一方だけでなく、両軸で磨いていくことが重要といえます。
テクニカルスキル
特定の業務を遂行するために必要な知識・技術・能力が「テクニカルスキル」です。例えば、ITエンジニアであればプログラミングスキル、マーケティング職であればデータ収集・分析力など、専門的なスキルがこれに当たります。
ポータブルスキル
ポータブルスキルとは、その名のとおり「持ち運びできるスキル」です。業種や職種に関わらず、どのような職場でも活用できる汎用的なスキルを指します。「仕事の進め方」「人との関わり方」などに分類され、一例を挙げると「論理的思考力」「コミュニケーション能力」「交渉力」「調整力」といったスキルが挙げられます。
キャリアアップとの違い
スキルアップと混同されやすい言葉に「キャリアアップ」があります。
キャリアアップの一般的な定義は、「より専門的な知識や高い能力を身につけ、できることの幅を広げ、人材としての市場価値を高めること」です。しかしながら、何をもって「キャリアアップ」とするかは、人によって異なります。「専門分野を極める」「より大規模なプロジェクトを手がける」「年収を上げる」「高いポジションに就く」といったことをキャリアアップと捉える人もいます。
スキルアップのメリット
スキルアップすることにはさまざまなメリットがあります。以下に一例をご紹介します。
社内評価が上がり仕事の幅が広がる
スキルが高まれば業務遂行能力が上がり、より難易度が高い仕事や多様な役割を担うことができます。業務効率を上げることで、生産性も向上するでしょう。それによって成果をあげれば高く評価され、昇給・昇格、報酬アップにつながります。社内外からの信頼も得て、任せられる仕事の幅も広がります。
キャリアの選択肢が広がる
スキルが評価されれば、新たな仕事にチャレンジする機会も得やすくなります。例えば、企画力や分析力を磨いて営業職から営業企画職やマーケティング職に転換するなど、スキルを磨くことでキャリアの幅が広がるでしょう。こうして多様な経験を積めば、その掛け合わせによって将来のキャリアの選択肢が増える可能性があります。
人材としての市場価値が高まる
スキルアップに伴って高度な経験や多様な経験を積めば、転職市場における人材価値評価も高まります。転職先での年収アップ、ポジションアップなど、高待遇を得やすくなるでしょう。
自身のモチベーションが上がる
スキルアップによって「できること」が増えれば、自信がつき、仕事をより楽しめるようになる効果も期待できます。
キャリアに「好循環」が生まれる
スキルアップする→仕事の質が高まる→評価される→意欲が高まる→さらにスキルアップを図る……といったように、好循環が生まれ、継続的に成長していくことができます。
効果的なスキルアップのポイント
スキルアップを図るなら、「戦略的」な視点を持つことが大切です。自身が置かれている立場や環境を踏まえ、「自分に何が求められているか」「今、自分にはどのようなスキルが必要か」「どうすればそれを身につけられるのか」などについて考えましょう。具体的には、次のようなステップを踏むことをお勧めします。
スキルを整理し方向性を決める
まずは、自身が現在持っているスキルとそのレベル(習熟度)を洗い出し、整理してみましょう。スキルアップの計画を立てるにあたって、目標・目的を明確にすることが大切です。目指すキャリアを実現するために、どのスキルを伸ばしていくか、新たにどのようなスキルを身につけるか、方向性を決めてください。
身につけたいスキルに合わせて方法を探る
身につけたいスキルを獲得するには、どのような手段が効果的なのかを考えます。スキルアップの手段としては、次のようなものが挙げられます。
日常業務の中で意識する
現在手がけている領域でスキルアップを図るなら、日常業務において強く意識しながら取り組んだり、率先して新たな業務や役割を担ったりするといいでしょう。経験を積めば積むほど熟練していきます。
異動・職種転換する
新たなスキルを身につけたい場合は、 部門異動や職種転換を申し出るのも一つの手です。社内公募制度などがあれば活用してみるのも一案です。
率先してリーダーを務める
プロジェクト推進のスキルやマネジメントスキルを磨きたいなら、新たなプロジェクトが持ち上がったときなどに自らリーダーに立候補するという方法も有効です。新規プロジェクトがなくても、自ら起案することでプロジェクト化され、リーダーを担える可能性があります。
研修プログラムやスクールを受講する
自社内で、従業員が自由に選択して受講できる研修プログラムが用意されている場合は、それを活用するといいでしょう。あるいは外部のスクールに通学する方法もあります。近年はオンラインで学べるプログラムも充実していますので、空き時間をうまく活用してください。
勉強会・セミナー・ワークショップに参加する
講師の話を聴くスタイルの勉強会やセミナー、参加者が課題に取り組んだりディスカッションを行ったりするワークショップなどが開催されています。同業他社や異業種の人と交流することで、視野も広がるでしょう。
資格を取得する
資格取得を目指して学習すると、特定領域の知識や技術について体系的に理解できます。資格を取得すれば、客観的に評価されやすいというメリットもあります。
副業をする
自社で副業が認められていれば、空いた時間を使って副業をするのも有効です。自社ではできない経験ができる副業を選ぶといいでしょう。
転職する
身につけたいスキルを現職で磨くことが難しい状況であれば、それが可能な企業に転職するのも一つの手といえます。
目標設定と振り返りを意識する
漠然と学習や経験を積み重ねるのではなく、「いつまでに」「どのレベルまで」といった目標設定をすることも大切です。それによって、実際の行動に落とし込むことができます。そして、折に触れて自身の成長度合いを振り返ってみましょう。必要に応じて手段を変えたり、目標設定をし直したりすることで、着実なスキルアップにつながっていきます。
方向性に迷ったら転職エージェントに相談を
スキルアップの方向性に迷ったら、転職エージェントに相談してみることも有効です。現状のスキルを客観的視点で診断してもらうことで、自身の「強み」「弱み」を把握することができるでしょう。今すぐ転職をしたいと思っていない場合でも、転職エージェントを利用することは問題ありません。
また、人材市場の動向を踏まえ、「今、どのようなスキルを身につければ市場価値が高められるか」などについて、アドバイスを受けられることもあるので、ぜひ活用してみましょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。