プロサッカークラブ「川崎フロンターレ」のオフィシャルパートナーであるリクルートダイレクトスカウトは先日、川崎フロンターレFRO(Frontale Relations Organizer)の中村憲剛氏によるビジネスセミナーを開催しました。
応募総数370名の中から抽選で選ばれた50名のビジネスパーソンに対し、普段の仕事のシーンで活用できる「コミュニケーション論」&「リーダー論」、また組織作りにおけるチームファースト精神の重要性などについて、熱く語っていただきました。
目次
サッカーのチームと会社組織は非常に似ている
現役を引退して3年8カ月、この7月にS級コーチライセンス(※)を取得しました。取得にあたり、国内でのさまざまなカリキュラムや2週間半にわたる海外インターンシップを経験しましたが、年齢もバックグラウンドもバラバラな参加者と何度もチーム分析や指導実践などのグループワークを行いました。
(※)日本サッカー協会(JFA)公認の指導者免許制度(日本サッカー協会指導者ライセンス)における最高位の指導者資格のこと。
監督が何を志向しているのかコーチは確認しなければならないし、それを踏まえてトレーニング内容などを考え、自分の意見を伝えなければなりません。なぜこのトレーニングが必要なのか、この指導をしなければならないのか、細部まで決めておかないとチームが先に進めないので、カリキュラム中は参加者と密にコミュニケーションを取り、成果を出すにはどうすればいいか話し合いました。
そしてカナダでの研修では、臨時コーチとしてパシフィックFCに参加しましたが、大変ながら本当に楽しかったですね。現地の監督、コーチとコミュニケーションを取りながらチームの目標を聞き、自身のチームと相手チームを分析してどんなプレーをすべきか考え、トレーニング内容を考えました。滞在中は、チームでのすべてのミーティングに参加させてもらえたので、とても刺激になりました。
この経験を通して、「サッカーチームと会社組織は似ている」と改めて感じましたね。
例えば、日本の選手はミーティングの場であまり意見を言いませんが、海外の選手は意見をどんどん言います。試合の映像を見ながら、監督に「これはどういう意図だったのか」などと質問し、それに対して監督も選手が納得できるまでじっくり説明する--このように意見を言い合いながらコミュニケーションを取ると、どんどん「自分ごと」になるんです。監督の話をただ一方的に聞いているだけでは、こうはいかない。試合に勝つためには何をすべきか、皆が真剣に語り合っている姿には圧倒されました。
その中、私が意識したのは、皆の話をしっかり聞くこと。そのうえで、意見を求められたら自分の考えを述べるようにしました。意見を言うことも大切ですが、相手からすれば日本からいきなりきた人に、急に指導やアドバイスをされても抵抗感を覚えるはず。まずは自分から質問し話を聞いて、情報収集しました。
そのうえで、チーム一人ひとりの動きをしっかり見て、伝えたほうがいいと思うことを自分なりに分析。相手の目を見て真剣に伝えることで、信頼感を持ってもらえるようになりました。新しい環境、慣れない環境に飛び込んでも、相手をリスペクトして臨めば、リスペクトしてもらえるのだと、改めて実感しました。
自分の立ち位置を知ることで、組織がうまく回るようになる
私が普段から大切にしているのは、「自分の立ち位置を知る」ことです。
自分以外のスタッフの役割をそれぞれ把握し、自分がどの位置で何をすればこの組織がよりうまく回るようになるのか、考えて行動するよう努めています。
例えば、昨年までの3年間、U-17日本代表のロールモデルコーチを務めましたが、このときは 森山佳郎監督と選手の間に入り、監督のトレーニング内容を見ながら自身の経験をもとに選手にアドバイスするなど、コミュニケーションを密に取り何かあったらすぐサポートできるようにしていました。
ここでは「中村憲剛は何ができるのか」も見られていると感じたので、自分らしさを出すことにも注力し、トレーニングでも練習中でも、思ったことを選手にどんどん伝え、声を掛け続けるようにしました。
新しい組織に入る際には、周りを見れば「自分はどの位置にはまればいいのか」自ずと立ち位置がわかります。自分の立ち位置は何か、何を求められているのかを感じ取る努力は、どの組織においても大事だと思います。
自分が先頭に立って努力することで、発言の説得力が増す
私が初めてチームのゲームキャプテンになったのは、プロ5年目の2007年のこと。それまでも、フロンターレのボランチとしてチームを引っ張っていこうという意識を持っていましたが、キャプテンマークを腕に巻いたことで、より強くプレッシャーを感じるようになりました。「チームの勝利は自分の勝利、チームの敗北は自分の責任」というぐらいの責任感を持つようになりました。
その前年の2006年に川崎フロンターレが準優勝したことで、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)にも挑戦し、個人的には日本代表にも入っていたので、すでに3足の草鞋を履いている状態。そこにキャプテンマークが加わったので、「どれだけ負荷をかけるんだ!」と思いましたね。ただ、関さん(関塚隆監督・当時)は負荷をかけることでさらなる成長を促したいと考えたのだと思います。
当時キャプテンとして心掛けていたのは、チームの勝利のために全力で戦うということ。まずはピッチ上のプレーで、皆を引っ張らないといけないと思っていました。
そして、チーム全体をいい方向に引っ張るためにはコミュニケーションが重要だと考えていました。監督、コーチングスタッフはもちろん、チームメイトとのコミュニケーションは特に意識していましたね。
チームメイトには、レギュラー選手もいれば、ベンチが多い選手もいるし、負傷している選手もいます。うまく行っているときは極端な話、放っておいてもいいのですが、うまく行っていないとき、何か失敗してしまったときは必ず誰かが声を掛けて前を向いてもらわなければならない。それがキャプテンの役割だと思っています。
サッカーに限った話ではないと思いますが、自分が戦力にならないと、発言力も説得力も何もない。結果を出していない選手が意見したところで、聞いてくれるわけがありません。
だからこそ、泥臭いかもしれませんが、チームのために先頭を切ってすべての力を出し切り、背中を見せることを徹底しました。
キャプテンは辛いとき、厳しいときこそ全力を尽くして背中を見せる
「背中を見せる」では、2017年のルヴァンカップでの敗退と、リーグ戦の優勝が心に残っています。
ルヴァンカップはACL、天皇杯で敗退した後だったので、決勝戦でセレッソ大阪に負けたときは本当に落胆しました。
当時リーグ戦の真っ只中でもありましたが、首位の鹿島アントラーズに残り3試合で勝ち点差4をつけられていて、鹿島が2勝したらそこで終わり。他力本願の状態にあったため、「ルヴァンカップでタイトルを取ろう」という機運が高まっていました。実際、調子は良かったし下馬評もまずまずでしたが、結果は敗退。
この時のロッカールームはひどい状態でしたね。大一番だったのに、いいところなく負けてしまった。当時のキャプテンは小林悠で、私は前キャプテンの立場でしたが、「自分のせいで負けたのだ」と落ち込みました。
ただ、リーグ戦は残り3試合ある。鹿島が勝ったら終わりだけれど、残り3試合ベストを尽くそうと悠と話し合い、背中を見せるべく全力でのプレーを徹底。このままでは終われない、最後まで走り切ろうという気持ちを伝えました。
その後はサポーターの皆さんならご存知でしょうが、リーグ戦で初優勝することができました。「チーム全員が気持ちを切り替えられたからこそ、優勝をつかみ取ることができたと思っています。
悩んだり壁にぶつかったりしたら「目的を再確認する」「ベストな立ち位置を考える」
――イベントの最後には、参加者から事前にいただいた、仕事や職場に関する質問についてもご回答いただきました。その中からいくつかご紹介します。
Q:「会社の業績が悪くなると、組織の雰囲気も悪くなります。サッカーでもチームの順位が落ちたときにどうしてもチームの雰囲気が落ち込むと思うのですが、どのように対処すればいいですか?」
自分たちは何を目指しているのか、そしてそれぞれがどのような役割を担っているのか、目的を再確認することだと思います。
皆さんそれぞれ、いち社会人としてやらなければならないことを抱えていると思いますが、それに立ち返るといいのではないでしょうか。
僕たちは、いちサッカー選手としてシンプルに、目の前の試合に簡単に負けてはいけない、全力を尽くすというマインドでやっています。職種にもよるとは思いますが、自分が何を期待されているのか理解したうえで、全力を尽くす。基本的にはそれしかないのではと思います。
Q:「スタッフと管理職の間に挟まれた中間管理職は、どのようなコミュニケーションや立ち居振る舞いをすればいいのでしょうか?」
自分がどの立ち位置にいればベストなのか、それをまず考えることだと思います。
そのうえで、できれば誰もやっていない仕事、誰もやりたがらない仕事を見つけて、率先してやる。そういうことができる人は、上にも下にも信頼されます。たとえうまくいかなくても「その仕事に気づき、自らやってくれる」ことが評価されると思います。
例えば、僕がキャプテンだったときは、ひどい負け方をしたときにも先頭に立って下を向かずに歩くようにしていました。そして、試合後のインタビューでは、反省しつつも前向きに振り返ることを意識していました。
皆に背中を見せるという意味もありますが、前を向いて歩くだけでもサポーターの方々に「きっとまだやれる」と期待してもらえると思っているからです。もちろんしんどかったですが、応援しようと思ってもらえるような立ち居振る舞いが大事だと思っていたので、しっかり話すことを心がけていました。
Q:「組織の中で一人ひとりのスキルの差があったり、目標が異なったりする場合、高い目標を共有しづらくなると思います。その場合はどこから手を付ければいいでしょうか」
組織の中で、何らかの基準を設けることだと思います。
優勝した年は、「この基準に到達した人が試合に出られる」というラインを設けて共有していました。明確な基準を作ったことで、不平不満が生まれにくくなりました。
基準に達していない選手は出られないから、もっと練習して技術を磨く。基準に達している人はさらに自分を磨いて基準を上げる努力をする。いい循環が生まれたと思います。
もちろん、基準に達していない選手を置いてけぼりにはしません。監督やコーチングスタッフ、先輩後輩・・・皆でサポートします。皆で一丸となって自分たちのチームの基準を上げに行く努力をすることで、組織全体の力が上がります。
リクルートダイレクトスカウトでは、さまざまなコンテンツを公開予定
2024年10月より、『リクルートダイレクトスカウト』は、キャリアの新たな選択を後押しするWebサイト「働くをひらくDAYS!」をオープンしました。順次さまざまなテーマのコンテンツを公開します。またリアルでも企業のエグゼクティブやロールモデルとなるトップランナーによるセミナーや、トップキャリアアドバイザーへ直接キャリア相談できる機会などを提供していきます。
現在開催中のイベントの申し込みはこちらから↓
https://career.directscout.recruit.co.jp/event
中村憲剛
1980年10月31日生まれ。東京都出身。中央大学卒業後、2003年に川崎フロンターレに加入し、同年Jリーグ初出場。
以降、現役生活18年をすべて川崎で過ごし、Jリーグ通算546試合出場83得点を記録。司令塔として3度のJ1優勝に貢献し、Jリーグベストイレブンに8度選出、2016年にはJリーグ最優秀選手賞を受賞した。日本代表では68試合出場6得点。2010年ワールドカップ南アフリカ大会出場。2020年限りで現役を引退後、サッカー指導や解説業など多分野で活躍をしている。
MC 高木聖佳
フリーアナウンサー 大阪府出身
関西で情報番組リポーターやスポーツ番組MCとして活動を開始。2003年関東に拠点を移すとJリーグ中継やサッカー番組MCなどスポーツアナウンサーとして活躍。2007年にフロンターレ担当中継リポーターになったことを機に、応援番組MCやインタビュアー、チームイベントなどフロンターレ関連の媒体に数多く出演している。
・Jリーグ公式映像リポーター
・FMサルース「ミュージックフロンティア」(フロンターレ応援)MC
・iTSCOM「sukr sukiフロンターレ」コーナーMC