【鹿島アントラーズ・リクルート共催ビジネスセミナー】コーポレートサイドから語る、プロフットボールクラブ経営の裏側

J1リーグ所属のプロサッカークラブ・鹿島アントラーズはこのほど、株式会社リクルートとクラブパートナーシップを締結。ビジネス人材採用における協業など、戦略的HRパートナーシップのもと、連携を強化しています。そして去る11月15日、両社がビジネスパーソンを対象に、スポーツビジネスコーポレートナイトを開催。MC守口香織氏のもと、第1部では、鹿島アントラーズ代表取締役社長である小泉文明氏を始めとする同社の経営陣が、経営の裏側をコーポレートの視点から語り、続く第2部ではクラブアドバイザーのジーコ氏が「人生100年時代のプロフェッショナル論」というテーマで講演を行いました。今回は、第1部の鹿島アントラーズの経営陣によるトークセッションの模様をレポートします。

登壇者

株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー 代表取締役社長 小泉文明氏
株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー 取締役アドミンDirector 金子有輔氏
株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー 取締役(非常勤) 石渡進介氏

モデレーター

株式会社リクルート プロダクト統括本部 HRエージェント プロダクトマネジメントユニット Vice President リクルートエージェント / リクルートダイレクトスカウト プロダクト責任者
藤原暢夫

全社員が「すべては勝利のために」をモットーに働いている

――初めに簡単に自己紹介をお願いします。

小泉:
私は大学卒業後に証券会社に入社し、ネット企業のIPO支援を行っていました。それを機にミクシィに転職し、20代はミクシィの経営に関わりました。その後、2年間ほどいろいろなスタートアップ企業を手伝い、メルカリにジョイン。そして2019年から鹿島アントラーズの社長を務めています。実は父の実家がカシマサッカースタジアムから車で10分ぐらいのところで、以前は私もいちサポーターでした。それが今ではチームの経営に関わっている…夢みたいな感じです。

鹿島アントラーズ11/15実施イベント

金子:
私はコンサルティングファームからITベンチャー数社を経て、ミクシィに入社しました。そこで小泉さんのもと内部監査や社内システムなどを経験した後、教育ベンチャーを2社経験。その後、メルカリに入社し、鹿島アントラーズの買収に関わって、今は鹿島アントラーズのコーポレートサイドの取締役を務めています。

石渡:
私のキャリアは弁護士なのですが、2004年のプロ野球再編騒動に関わったのを機にIT業界と近しくなりました。楽天やソフトバンクが球界に参入したことで、IT業界の仕事をするようになり、クックパッドの執行役やみんなのウェディングの社長などを経験しました。そして社長退任の翌々日に小泉さんから連絡があって「鹿島アントラーズを買収しようと思っているので一緒にやりませんか?」と連絡があったのですが、実は三度の飯よりサッカーが好きで、自分でもサッカーをやっているぐらい。ぜひやりたい!となり、今に至ります。

――鹿島アントラーズは、どのような組織体の会社なのでしょうか?

金子:
鹿島アントラーズは民間企業なので、フットボールディビジョン以外はほぼ普通の組織体系だと思います。
私が所属するのは、総務人事や財務経理などを管掌するアドミンディビジョン。よく「バックオフィス部門」などと呼ばれるディビジョンですが、当社では会社全体を前向きに引っ張っていってほしいとの思いからバックオフィスとは言わず、アドミンディビジョンと名付けています。
そのほかは、主にBtoC施策を行うマーケティングディビジョン、ユニフォームやスタジアムなどの広告営業を行うセールスディビジョンなどを有し、正社員で約70名、選手やコーチといった個人事業主を含めて約200名の組織を運営しています。

小泉:
今年は残念ながら逃がしましたが、鹿島アントラーズは歴代では一番タイトルを獲得しているチームです。特に2018年はアジアチャンピオンにもなりました。
茨城県鹿嶋市は人口約6万5千人の小さな町ですが、そこに4万人収容可能なホームスタジアムがあり、今シーズンは1試合平均2万3千人の方に来ていただいています。設立当初からジーコさんに参画いただいたことで、勝利のメンタリティが植えつき、タイトルを獲得し続けてこられたという歴史があると思っています。

クラブのミッションは「すべては勝利のために」。選手だけでなくビジネス部門も、良い選手を獲得し良い環境を整備することが勝利に直結するのだと信じて、「勝つためにこの組織がある」と信じて働くことを大事にしています。

現在、クラブが2041年に創設50周年を迎えるまでの経営ビジョン「VISION KA41」を進めていますが、その中で2030年に新しいスタジアムの建設を予定しています。
まだ計画の初期段階であり、これからスタジアムプランを作ることになりますが、その際には次の30年、50年を見据え、自分たちの地域の未来をイメージしながら必要な機能を考えていく必要があります。もちろん、自分たちだけの体力では作れないので、パートナー企業のソリューションを加えながら、面白いスタジアムを作っていきたいと思っています。このチャレンジが今のBig Issueになっています。

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スタジアムというアセットを中心に「三方良し、四方良し」のビジネスを生み出す

――鹿島アントラーズの、企業としての強みや特徴を教えてください。

小泉:
クラブ集客については、おかげさまでたくさんのお客様に来ていただいており、今年は過去最高になりそうです。
ただ、収益としてはパートナー企業からいただく収益が最も大きいのが特徴。外から見ると、サッカーチームやチケットやグッズ販売など一般のお客様からいただく収益が大きく見えると思いますが、実は多くのパートナー企業とのアライアンスで経営が成り立っています。そして現在は、新スタジアム建設に向けてより多くの企業様にパートナーになってもらうべく注力しています。

パートナー企業からいただく収益については、もちろんユニフォームやスタジアムで露出する広告のセールスもありますが、企業様の経営を分析したうえで各社が持っているアセットをうまく活用しながら、地域やスタジアムに還元する形で協業できればと考えています。共に新たなビジネスを立ち上げるようなパートナーシップが増えています。

鹿島アントラーズの強みは、カシマサッカースタジアムを指定管理(地方公共団体に代わって民間事業者がスタジアムの管理や運営を行うこと)で保有しているという点。これにより、スタジアムを使ったソリューション提供ができ、アライアンスを組みやすいのが特徴です。
Jリーグで指定管理をしているチームは多くはなく、特に大都市型のチームは本拠地がいろいろな競技で使われています。一方カシマサッカースタジアムでは、たとえばスポーツクリニックなどさまざまな事業を行っており、サッカー以外でも収益を上げています。このクリニックではシーメンスやオムロンにパートナーになっていただくなど、スタジアムとの掛け算でさまざまなパートナー企業と事業を一緒に作っています。
鹿嶋市は小さな町で、行政も近しい場所にあるので、地方でありながらさまざまなステークホルダーが集まり、アントラーズを中心に未来を作りながらビジネスを進めていきたいと考えています。

現在、鹿島アントラーズのパートナー企業は70社超で、地域の事業者のパートナーは200社を超えています。ファンやサポーターも、SNSでは100万人のフォロワーがいて、ファンクラブのIDを持つお客様は約40万人に上ります。スタジアムだけでなく企業やファン、サポーターというアセットも豊富であり、この中心にアントラーズがあることで我々が地域の課題や描いている未来をもとに、「このパートナー企業に来ていただきたい」「この事業者同士をつなげたい」と行動することで、クラブも地域も発展すると考えています。「三方良し、四方良し」を考えながらビジネスを作ることが発展型のサッカークラブの在り方ではないかと考えています。

よく「地域との共創」などと言いますが、ただ地域とつながるだけでなく、その先にビジネスもしっかり入れていくことでレバレッジが利く企業にしていかなければなりません。鹿嶋市は小さな町なので、企業がトライアルする場所としての価値も大きいはず。我々が未来を描き、ステークホルダー同士をどうつなげるかを考え続けることで、皆がハッピーになれると思っています。

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自分たちの力で社会課題に取り組み、未来をデザインできる面白さ

――皆さんネット企業を中心にさまざまな企業の経営に関わって来られていますが、「プロサッカークラブ経営ならでは」の面白さはありますか?

小泉:
これまでインターネットサービスの会社をいくつか経営してきました。ミクシィとメルカリは多くのユーザーに利用いただき、すでにプラットフォームになっていますが、サービスの幅がどうしてもネットに閉じてしまうという特徴がありました。一方、サッカークラブの場合はそれがリアルにも紐づいていて、実際の社会を一つ先に進めることができると感じています。

さらにいえば、メルカリではミッションである「循環型社会の実現」をアプリやウェブでどう実現するか?を考えてきましたが、鹿島アントラーズではパートナー企業を巻き込み、リアルな社会を変えながら循環型社会にどう変革していくのかを考えています。つまり、目標への「のぼり方」が違うんですね。行政やパートナーの力を借りながら、リアルを変え、未来を自分たちでデザインできる点が面白いと思います。
このようなことを一民間企業が言うと「スケールが大きすぎる」と思われがちですが、プロスポーツチームは社会性を帯びているので、社会的なビッグイシューを掲げてもあまり驚かれないですね。「30年後、50年後も鹿島アントラーズが元気であり続けるには、今ある社会課題を解決しないと」というと、皆さんストンと腹落ちしてくれるのも特徴的だと思います。

金子:
小泉が大きな絵を描き、僕が想像できないプランをバンバン持ってくるのは、実行側から言えばめちゃくちゃ面白いし楽しいですね。そして、ファンの方、ステークホルダーの方、パートナー企業の方の思いの矢印がすべて我々に向かっていると感じられるのは、とてもエモいというか、やりがいを覚えます。
もちろん、皆さんの思いを受け止める大変さもありますが、その思いがかみ合わさったときの爆発力はものすごい。大きな醍醐味を感じながら仕事ができています。
もちろん、我々が先々の未来を考えて行動しなければ、クラブも強化できないし、パートナー企業にも好影響を与えることができません。責任も感じながら、日々運営しています。

鹿島アントラーズ11/15実施イベント

小泉:
一般的にはアドミンは稼ぐ部門ではないイメージかもしれませんが、当社の場合はクラウドファンディングを行っているのはアドミンですし、実は自ら稼いでいるんですよね。行政連携でも、行政ごとで集客レベルなどのKPIを持っていて、予算も持たされています。

石渡:
会社経営では、利益を増やすことが最終的には株主への還元になりますが、プロクラブ経営の難しい点は、いい選手は海外に取られてしまう一方で弱くなるとどんどん下部リーグに落ちてしまうという構造にあります。なので利益を出すことを至上命題に掲げて経営するのは難しい。利益を出せるぐらいならば良い選手を獲得して勝てる方を選んだほうがいいから。投資をして、強くなり、人気も増やして、新しいスポンサーについていただくという構造にして、経済圏を拡大していくことを考えないと、チームとして存在し続けられないんですね。

一方、鹿島アントラーズはこういう常識にとらわれない、奇跡のようなチームだと実感しています。関われば関わるほど、まじですごいなあと(笑)。
世界を見渡すと、各国で最もタイトルを獲得しているチームはスペインならレアル・マドリードやバルセロナ、イングランドならマンチェスター・ユナイテッド、ドイツならバイエルンなどが挙げられますが、いずれも本拠地の人口は国内でも上位3位以内という、経済圏が大きい町なんですね。ところが我が鹿島アントラーズは、日本の小さな町のクラブ。そんなクラブがこの30年間で最もタイトルを獲得していて、2位のクラブに比べても倍違うなんて、こんなことありますか?

なぜこのようなことができるかというと、皆が「勝ち続けないと、鹿島アントラーズはなくなってしまうかもしれない」という危機感を感じながら働いているから。チームとしてお金を稼ぎ、経済圏を増やし、チームを強くするサイクルを回し続ける重要さを知っているからだと思っています。

弱くなって、1回でもサポーターの皆さんやパートナー企業が離れてしまったら、チームとして二度と立ち上がれないのではないか。この危機意識はほかのクラブに比べると圧倒的に強い。だからこそ、「すべては勝利のために」というビジョナリーなものが貫かれています。

小泉:
おっしゃる通り、力を抜けば潰れるとみんな本気で思っているので、鹿島アントラーズの社風はベンチャーっぽいかもしれません。メルカリの立ち上げ期のような雰囲気もありますね。
地方で小さな町で、ファイナンスもない。いろいろな不備がある中、頭をフル回転させなければならない。都心にあるパートナー企業を引っ張ってくるために、重要なアセットであるスタジアムを活用しながら、知恵を絞って勝っていくことに力を入れています。

例えば、ネット企業が親会社だからこそ、コミュニケーションも最新のチャットツールを活用していますし、責任をもって回してくれれば働き方も自由。選手だけでなく、社員もプロとして捉えています。

――先ほどアドミンディビジョンはKPIを持ち、実際に収益も上げていると伺いましたが、だからこその面白さや大変さはありますか?

金子:
特徴的なのは、売り上げの40~45%が選手の人件費、チーム人件費である点ですね。面白い半面、ファイナンス面で見れば震えます(笑)。
会社のお金の大半を、勝負の世界に預ける不安はプロサッカークラブならではですが、逆に言えば売上を上げて、コストをコントロールしてどれだけ利益を出して選手に割けるようにできるか?を考えるのは醍醐味でもあります。我々の頑張りがチームのためになると強く実感しながら働けるのは、大きなやりがいですね。

小泉:
チームの1勝が経営に大きくかかわるので、本気で抱き合って喜んだり怒ったりすることも。喜怒哀楽と共にビジネスを考えられるのは面白いですね。スポーツという、商売の予見性が難しいものを扱うのは、企業経営の経験を積んだ我々でさえも震えるし、SNSも荒れるし(笑)。でも、そこが面白さなのだとも思いますね。

鹿島アントラーズ11/15実施イベント

社内の情報はほぼすべてオープン。経営を学びたい人にも向いている環境

――地域や企業に対してプロアクティブに連携を提案し、企画などを仕掛けていく仕事も楽しそうですね。

小泉:
行政と連携してパートナーセールスを行うこともあります。当社は小さな組織なので、横の連携も多いですね。チャットツール上ではいろいろなチャンネルが動いているから、「ここがこう動いているなら、こことつなげられるのではないか?」などと発想し、どんどんコラボが広がっています。社内では、できるだけチャットはオープンにするように伝えていて、皆が同じ情報を共有し合うと勝手にシンクロしてビジネスが生まれ、ファン層も広がると思っています。

ちなみに、チャットは一部の経営情報以外は基本的にすべてオープンです。どのチャンネルに入るかは自分次第で、やろうと思えば経営陣とほぼ同じ情報量が得られます。経営者になりたい人にも、いい環境ではないかと思いますね。

石渡:
コーポレート部門にいようがどの部署にいようが、「チームのために働いているんだ」と感じやすい組織風土ですね。それを刺激にしながら、皆が「どうすればチームに貢献できるのか」をとにかく考えている。

小泉:
試合日は、全社員が運営に入ります。経理や財務であっても、店舗の運営やキッズエリアの管理などをやっていますね。以前はここまでではありませんでしたが、社員が徐々に増える中で、一体感を作るために「皆でチームを運営し、試合日は勝利のために集中しよう」と決めました。J1で、ここまで全社員が運営に参加しているケースはないと思います。

――ここまでのお話を聞いて、鹿島アントラーズで働いてみたいと思った人も多いと思います。どのようなことを意識して飛び込めばいいか、アドバイスをお願いできますか?

金子:
鹿島アントラーズでは「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(すべては成功のために)」そして「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という3つのバリューを掲げています。いずれも大切にしているバリューですが、少人数の組織なので特に「Be a Pro」な人材に来てほしいですね。
そして、「All for One」のためには、横連携を意識できることも大切です。「自分の仕事はここまで」とテリトリーを決めてしまう人は、当社では厳しいと思います。いろいろなことに興味を持ち「はみ出る」ことができる方にぜひ来てほしいと思います。

石渡:
自分の仕事とは関係なくても、たとえば「今日のイベントなんかでも、ここでチケット売れるんじゃない?」「今日ここにグッズ持って来ていたら売れたなあ」などと考えられる人ですね。「鹿島アントラーズとしてのビジネスチャンス」を常に意識できるかどうか。鹿島アントラーズが勝つために、自分で考え行動できる人が向いていると思います。

小泉:
前提として、スポーツ業界はもっと多様であるべきだと思います。性別はもちろん、さまざまなバックグラウンドの方に来てもらいたいですね。
これまでスポーツ業界は、採用も俗人的で、縁故採用が大半でした。その中、鹿島アントラーズではいろいろな求人サービスを使い、さまざまな職種の募集をかけています。その結果、多種多様な業界から採用できて、社内が多様になったなと感じます。

多様な人材が集まり、各々が持っている専門性を発揮してもらうことで、これまでにないソリューションが生まれます。一度当社に応募してもらえたら、「こんなこともできるかも?」などと入社後をよりリアルに思い浮かべてもらえるかもしれません。

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