デジタルマーケティングの広がりに伴い、マーケティング経験者を積極採用する企業が増加しています。そこで、マーケティング職の転職に詳しいリクルートのコンサルタントが、マーケティング職採用の動向や、マーケティング職に求められるスキルについて解説します。
目次
マーケティング職の仕事と役割
マーケティングとは、広義では、市場動向を調査し、そのデータを分析して、商品・サービスの開発や販売戦略に活かす活動を指します。しかし、「マーケティング」と一口に言っても、仕事内容や役割は多様です。代表的な種類をご紹介します。
- ブランディング
- 商品企画
- 広告・宣伝
- PR
- 市場調査・リサーチ
- ダイレクトマーケティング
- 販売促進
※時代の変化や業界特性により上記以外の業務が含まれるケースもあります
マーケティング活動の種類は上記が挙げられますが、マーケティング業務はBtoB、BtoCの業界により求められる役割が変わってきます。企業に在籍するマーケティング職の数は、BtoBよりもBtoCの方が多く、ブランディング、商品企画、広告・宣伝など、役割分担が細分化される傾向があります。一方、BtoBはマーケティング職の役割が販売促進や商品企画、営業企画などを兼ねるケースが多くなります。
BtoBとBtoCマーケティングの違い
一般消費者が対象となるBtoCは、オンライン・オフラインともに幅広いユーザー層にマーケティングを行うケースもありますが、法人が対象となるBtoBは、BtoCよりもターゲットが限られます。そのため、マーケティング手法にも大きな違いがあります。
また、BtoBでは、マーケティング職が受注までカバーするケースは少なく、獲得したリード(見込客)を営業にパスアップし、提案やクロージングを営業が行うケースが一般的です。法人の場合は、窓口の担当者の他に社内責任者の決裁が必要なので、マーケティングから受注までの検討期間が長いのが特徴です。一方、BtoCにもラグジュアリー商品や不動産など、検討期間が長い商材もありますが、オンラインで顧客にアプローチして、そのまま購買に至るといったケースもあります。
マーケティング職の採用ニーズと求められる経験・スキル
マーケティング職が活躍する企業を大きく分けると、事業会社、広告代理店、コンサルティングファームが挙げられます。この3つの採用動向を解説します。
事業会社
BtoB領域では、3つの観点でマーケティング職のニーズが高まっています。
1つ目はデジタル化やCRMを実現できる人材へのニーズ。
2つ目はプロダクトマーケティング経験者のニーズです。BtoB企業の多くが、これまでは営業主導でプロダクトの販売促進を行ってきましたが、マーケティングに注力しようとする企業の求人がコンスタントに増えています。そのため、商品企画の求人でプロダクトマネジメント経験が求められることもあります。
3つ目は事業開発の求人で、マーケティング経験が評価されるケースです。事業開発が商流構築の過程で、市場のニーズをつかむマーケティングやリサーチの力が必要となるからです。
一方BtoC領域も、マーケティング職には3つの観点が重視されます。
1つ目は、BtoB同様に、デジタルマーケティングの観点。デジタル・DX戦略を考えられるスキルは、業界問わず重要視されています。
2つ目は、顧客体験、顧客インサイトの観点です。以前は、「商品を作ってから販売戦略を考える」といったプロダクトアウトの考えが主流でしたが、現在は、顧客のニーズに合わせて商品開発を行う「マーケットイン」にシフトしています。そのため、市場を捉えることができる力が重視されています。
3つ目は、ブランディング、商品企画、広告・宣伝など、個別の視点ではなく、ブランド戦略から一貫して自社商品・サービスのマーケティングを考えられる力が求められています。
広告代理店
広告代理店の場合は、企業によってマーケティングの得意領域は異なりますが、顧客に合わせてBtoC、BtoBのどちらのマーケティングも行います。
広告代理店でマーケティングに携わるのは、クライアントを直接担当するアカウントプランナー、調査設計やマーケティング戦略を考えるストラテジックプランナー、マスやデジタルの媒体選定や運用を行うメディアプランナー(デジタルプランナー)などが挙げられますが、特に求人が多いのはアカウントプランナーです。事業会社同様に、広告代理店でもデジタル人材へのニーズが非常に高まっています。
最近では、大手総合広告代理店を中心に、クライアントに対して「広告提案を行う」という従来の立場ではなく、DXを含めた経営や事業の課題をマーケティング観点で解決する、コンサルタントのような動きが活発化しています。そのため、デジタル知見を持った人材や、経営視点に立ってクライアントワークができる人材のニーズが高まっています。
コンサルティング会社
ブランディングや商品企画、CRMなど、プロダクトによって強化したいマーケティング活動は異なりますが、それらを体系的に提案できるのが大手コンサルティングファームの強みです。大手総合代理店と同様に、大手コンサルティングファームでも、マーケティング観点で経営・事業課題を解決できる人材を積極的に採用する動きがあります。
BtoB・BtoC経験者が異なる領域に採用されるケースとは?
経験者採用が主流にはなりますが、経験業界や手掛けた商流が重視されるケースは少ないです。
BtoB企業がBtoC経験者を採用するケース
出身業界を問わない採用で一番多いケースは、「デジタルに強い人材を採用したい」というニーズです。BtoB の販売チャネルをECに変えることは、BtoCのEC化に比べると難易度が高くなります。ただし、リアルでの顧客接点を減らして、デジタルでのリード獲得や海外展開での決済を推進するなど、デジタル化の必要性はとても高くなっています。自社にデジタルの知見を取り入れるために、BtoCのデジタルマーケティング経験者が採用されているのです。
また、BtoB企業が一般消費者にもターゲットを広げたり、BtoBtoCの事業を強化したりする際に、BtoC経験者を採用するケースもあります。例えば、自動車メーカー向けに内装用品を提供する企業が、自社商品にマッチするドライバー層を拡大したり、ドクター向けに美容医療を提供する企業が、一般消費者に向けて美容医療技術の認知度を高めたりするために、BtoCのマーケティングを行うケースが挙げられます。
なお、BtoC経験者がBtoB企業を志向する理由ですが、BtoBは一般消費者視点を持ったマーケティング事例が少ないために「消費者インサイトをとらえたマーケティング経験を展開できる」「経験者が少ないためキャリアアップを目指せる」「ビジネスの土台となるため市場へのインパクトが大きい」と考えたり、「業務の役割を広げたい」「社会的なインフラを目指して」といった観点でBtoB企業に魅力を感じたりするケースが多いようです。
BtoC企業がBtoB経験者を採用するケース
BtoC企業がBtoB経験者を採用するケースは、あまり多くはありません。もちろん転職は可能ですが、自身の経験と応募企業のマーケティング手法に共通点があることが前提となります。例えば、一点ものの特注商品と量産型商品では、マーケティング手法も観点も異なります。そのため、BtoB企業で特注商品を扱っていた経験を活かして、BtoC企業の高級ブランドのマーケティングポジションに応募するなど、その企業の目的達成に結び付けられるポータブルなスキルや経験があると評価に結びつきます。
なお、BtoB経験者がBtoC企業を志向する理由は、BtoCは一般消費者の目につきやすく、プロダクトサイクルが短いケースが多いことでPDCAを回しやすい点に魅力を感じるケースが多いようです。
経験者としてマーケティングに転職するポイント
経験を活かしてマーケティング職のポジションに転職する場合は、「転職で何を実現したいのか」を持つことを大前提として、自身の経験が応募企業の案件に活かせるかどうか、業務内容がマッチしているかどうかが大切です。業界や仕事内容を始めとして、商品・サービスの認知度やリピート度、予算規模、プロダクトライフサイクルなど、できる限り応募企業との接点を見つけましょう。
また、職務経歴書に実績を数多く提示されるケースをよく目にしますが、実績を並べるだけでは企業は前提となる課題や注力したポイントが分かりません。簡単で構わないので、実績の前に前提や根拠を伝えておきましょう。そうすることで、実績に対する採用担当者の評価が大きく変わります。
未経験からマーケティング職に転職するポイント
ハイクラス向けの求人の場合は、即戦力としてのマーケティングスキルが求められます。そのため未経験の場合は、段階的にマーケティング職にチャレンジする必要があります。未経験でマーケティング職を目指す場合の、キャリア形成のヒントをご紹介します。
「営業」として転職し、徐々にマーケティング領域へ踏み込む
少人数の組織で、一人が複数業務を兼務しなければならないスタートアップやベンチャー企業などであれば、採用機会の多い「営業」として入社し、徐々にマーケティング業務にも関わっていける可能性があります。会社が成長を遂げ、組織規模が拡大すれば、マーケティング職専任となれるかもしれません。
あるいは、一部でもマーケティングに携った経験を活かして、「マーケティング経験者」対象の求人にチャレンジするという方法もあります。なお、「代理店向け営業」であれば、業務にマーケティングの要素も含まれているため、マーケティング領域に踏み込んでいける可能性があります。
未経験でも転職できる、マーケティング職に近い職種で経験を積む
未経験でマーケティング職に近い職種経験を積むためには、大きく2つのケースが考えられます。
採用ニーズが高くマーケティング職に近い「カスタマーサクセス」を経験する
SaaS企業では、「カスタマーサクセス」のニーズが高く、採用が活発です。カスタマーサクセスとは、既存顧客が商材の活用度を高め、解約を防止する職種。顧客の認知やマインドシェアを高めて、利用促進を行うという点で、マーケティングに近い役割と言えます。カスタマーサクセスは、顧客接点の経験を活かし、未経験からの転職も可能です。まずはこの職種を経験することで、マーケティング職に近づくチャンスを得られる可能性があります。
採用ニーズが高く経験者の少ない「デジタルマーケティング」を経験する
デジタルマーケティングとは、アドテクノロジーを活用しインターネット上に広告配信する手法です。
ただし、デジタルマーケティングの概念は変わりつつあります。アドテクノロジーやリスティング、バナー広告の活用だった言葉から、仕組みとしてリードや認知向上に向けたCRMの運用や整備に重要性が変わってきています。
この点では、従来のマスマーケティングに比べると歴史が浅く経験者が少ないため、転職市場での価値が延びるものと考えられます。クライアントのDX支援やデジタルマーケティング支援のニーズに応えることができるコンサルティング会社やインターネット広告代理店に転職し、経験を積んで将来的にマーケティング職を目指すという方法も有効でしょう。
大竹 芳菜
大学卒業後、サービス業、化粧品業界、人材業界など複数業界にて個人向けインストラクターやアドバイザーとして就業。2006年株式会社リクルートキャリア(現:リクルート)入社。コンシューマー領域の提案営業を経て、ハイキャリア領域のコンサルタントとして転職支援を行う。
浅田裕史
新卒で入社した通信系企業で営業、営業企画として従事した後、広告代理店に転職。現在は、株式会社リクルートにてインターネット業界、広告業界のハイキャリア領域のコンサルタントとして転職支援を行っている。
那須紘文
新卒にて、企業の信用情報を主としたリサーチに従事し約1,000社のスコアリングを行う。2014年の株式会社リクルートキャリア(現:リクルート)入社以降、現在はハイキャリア領域のコンサルタントとして、大手製造業、ITを担当。
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