「年齢が高くなるにつれて、転職が難しくなる」――そんな不安を抱いている方もいるのではないでしょうか。役職定年の制度を持つ企業に勤めている場合、役職定年の対象となる割合が増える55歳を機に転職を考え、可能性を探っている方も多いようです。55歳以上の転職事情、転職成功事例、転職成功のポイントについて、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に解説いただきました。
55歳以上で転職は可能?
前提として、転職に成功するかどうかは年齢よりも経験・スキルによるところが大きく、30~40代でも転職に苦戦することがある一方で、50代~60代で希望どおりの転職を実現している事例も多数あります。
専門性を極めていたり、幅広い経験を積んでいたりする55歳以上だからこそ、ぴったりマッチするポジションに出会うことができれば、すぐに決まる傾向があります。ただし、40代以下に比べると求人の選択肢はかなり少なくなるため、マッチする求人に出会えるまでに時間がかかるケースが多いでしょう。
少子高齢化によって中高年層にも門戸が広がっている
厚生労働省からは、平均寿命の伸長により、就業期間も長期化していくことが見込まれるデータが公表されています。少子高齢化に伴って労働人口が減少している現在、シニア層を積極的に活用する企業も増えています。一昔前に比べて、55歳以上での転職チャンスは広がっているといえるでしょう。
50代・ハイクラス層の転職事例
ハイクラス層の方々の場合、役職定年を迎える可能性が高まる55歳前後でセカンドキャリアへ踏み出す転職、マネジメント経験を活かして経営に携わる転職事例が多く見られます。一例を挙げてみましょう。
- オーナー経営者が30代~40代の子息に経営を引き継ぐにあたり、まだ経営経験が浅い次期社長のサポート役・指南役として、50代以上の経営幹部経験者を採用
- 中堅・中小企業のオーナー経営者が高齢により引退。プライベートエクイティファンドがM&Aによって承継し、50代の人材を採用して社長や経営幹部に据える
- 中堅・中小メーカーが製造現場を効率化するための仕組みづくり、風土改革などを図るため、大手メーカーで生産関連部門長を経験した50代の人材を工場長として採用
- 経営陣が若いスタートアップ企業がIPOを目指すにあたり、50代以上のCFOや社外取締役などを招聘
具体的な例として、Aさん(60歳)の転職事例をご紹介します。前職で国内外の複数事業のトップを経験されたAさんは、ある企業の海外事業統括責任者のポジションで転職されました。転職先企業の経営陣は40代が中心なのですが、Aさんは15~20歳年下の人たちにも謙虚な姿勢で接する方だったので、スムーズに受け入れられました。「行き詰まったときには、どのように打開すればいいのか」など、経営陣の「メンター」「コーチ」的な役割を期待されたようです。
50代の方々には、経営陣が若いスタートアップに対し、「受け入れられないだろうし、なじめないだろう」という思い込みがあるようです。しかし実際には、方向性に迷ったり誤った道を進みそうになったりしたときのメンターとして、50代以上の方々のサポートを求めているケースもあります。そして、「顧問」「社外取締役」などとして迎えるケースも少なくありません。
「役職定年」に向け、転職活動はいつ始めるべきか
55歳といえば、「役職定年」を迎える方も多数。役職定年を区切りとして転職を検討する場合、いつ頃から動き始めればいいのでしょうか。
役職定年前に転職するメリット
「まだまだ第一線で活躍したい」「子どもの教育費などのために収入を落としたくない」…といった方は、役職定年を迎える前に転職したほうがいいケースもあります。企業の中途採用においては、基本的に「前職の年収」をベースに給与額が決定されます。例えば、役職定年を境に年収1000万円→600万円などに下がった場合、役職定年後に転職活動をすると「600万」をベースに給与額が決定される可能性が高いでしょう。
また、役職定年後に転職活動を始めると、「裁量権や収入を失った不満を解消することが目的なのでは」など、ネガティブな印象を持たれてしまうこともあり得ます。役職定年前の転職活動のほうが、「新たなチャレンジをする覚悟・意欲」がより強く感じられ、前向きな印象を与えるかもしれません。
役職定年後に転職するメリット
役職定年は決してネガティブなものではなく、役職定年を迎え、「プレッシャーから解放され、時間の自由度も高まった」など、ポジティブな変化を感じる方も多いようです。「これからはプライベートも大切にしながら、自分がやりたいことを無理のないペースでしたい」という志向の方であれば、役職定年後から今後のプランをじっくり考えてもいいでしょう。
そのまま会社にとどまる、正社員や契約社員として転職する、フリーランスとして「業務委託」の形で活動する…など、さまざまな方法があります。役職定年後の転職は、じっくりとその先のキャリアを考える余裕を持つことができる点がメリットです。
役職定年前後の転職の注意点
55歳前後の転職は、早い時期から業界・企業・職種についてのリサーチを進めておくことが重要です。特に1社経験で出向なども経験したことがない場合、異なる社風で働くのは初めての経験になります。社風や仕事の進め方などに想定以上のギャップを感じてしまう可能性もあるため、働く環境を調べずに転職を決めてしまうのは注意が必要です。
具体的な例として、Bさん(50代半ば)の転職事例をご紹介します。Bさんは、役職定年後に「好きな仕事をしたい」と、金融関連企業からレジャー関連企業に転職した結果、3カ月で退職してしまいました。カルチャーが大きく異なることを認識せず、入社後にギャップを感じてしまったのです。
転職するにあたって希望を叶えることはとても重要ですが、「入社後に馴染むことができるか」「成果を出せるか」などの「働く環境」にも留意して、応募企業についてしっかりと調べておきましょう。
転職成功のためのヒント
55歳以上の求職者の方が転職を成功させるためのヒントをお伝えします。
会社を辞めずに長期的視点で臨む
55歳以上となると、経験・スキルや希望に合致する求人の数が限られます。転職を急ぐ事情がなければ、半年~1年程度の長期戦を想定し、会社を辞めずに腰を据えて求人の収集を続けるという方法も。転職情報サイトや転職エージェントを活用する、あるいは知人や過去に仕事で関わったことがある人とも交流するなどして、継続的に情報が入ってくる体制を作っておくといいでしょう。
雇用形態に固執しない
「正社員」「長期雇用」にこだわらず、「契約社員」あるいは「業務委託」などの案件も候補に含めることで、選択肢が格段に広がります。例えば、拡大中のスタートアップが「組織整備を強化する2~3年の間、経験・スキルを提供してほしい」といったニーズもあります。
「これが最後の転職」と捉えるのではなく、「自身の経験・スキルを活かしながら、新たな経験を積み、それを次の転職・独立に活かす」という意識に切り替えると選択肢が広がります。例えば、「顧問」「社外取締役」などとして、複数企業と契約するセカンドキャリアを選択する方も増えています。
マネジメント経験を活かす
55歳以上となると、「専門性」のほか「マネジメントスキル」に期待される求人も多く見られます。このとき、自身が得意とするマネジメントと、求人企業が求めるマネジメントの性質がマッチするかどうかに注目してください。例えば、「売上を拡大するためのチームマネジメント」が得意な方もいれば、「人材を育成するためのチームマネジメント」が得意な方もいます。
具体的な例として、Cさん(50代半ば)の転職事例をご紹介します。Cさんは、大手メーカーの営業部長から成長途上の人材サービス会社の営業部長に転職しました。大手メーカーから人材サービス会社と業種・規模は異なりますが、前職で培ってきた「部下との距離を縮め、人間関係を築く」スキルが評価され、採用に至っています。自身のマネジメントのスキルやスタンスが、求人企業のフェーズや課題にマッチするかどうかを見極めましょう。
働く年齢が伸びており、55歳で転職も珍しくない時代へ
高年齢者雇用安定法が改正され、政府も「現役延長」を支援しています。60歳が定年だった頃は、55歳で転職するケースは少なかったのですが、定年が70歳まで引き上げられた場合、55歳で転職したとしてもあと15年働くことになります。「まだまだ長く活躍してもらえる」と考え、55歳の方を採用対象とする企業も増える可能性があるため、幅広く情報収集を続けた方が良さそうです。
そしてまず、ご自身のマインドセットを変えることが大切です。「人生100年時代」という言葉が登場し、今までは中距離レースを走っていたつもりが、いつの間にかマラソンになっていて、ゴールがさらに先となりました。「走るペースを変える」「走り方を変える」ことを意識し、さまざまな働き方に目を向けることが大切です。
リクルートマネジメントソリューションズが役職定年を迎えた方を対象に行った調査「ポストオフ経験に関する意識調査(※)」によると、仕事において大切にしたいものが、以前は「達成感を得る」「十分な賃金を得る、良い生活をする」だったところ、「社会への貢献」「自身が楽しめること」に変化する傾向が表れているそうです。ご自身が何を大切にしたいのかを見つめ直し、それが実現できる働き方を探ってみてください。
関連リンク
【アドバイザー】
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
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