転職の「軸」とは?軸を決める方法や活動プロセス別の活用法を解説

転職活動において耳にする「転職の“軸”」。転職の軸があることで、応募企業や入社企業を選びやすくなります。軸とはいったい何なのか、どのように決めるとよいものなのか、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に解説いただきました。

転職の「軸」とは?なぜ軸が必要なのか

転職の「軸」について絶対的な定義はありません。あえて説明するならば、転職する際にその人が「大事にしたいこと」と言えるでしょう。「転職する目的を実現するために大事にしたいこと」と考えるとより整理しやすいかもしれません。

例えば、転職する理由・目的が「○億円を超える規模の新規事業を生み出す力をつけたい」で、それを実現するために大事にしたいことは「新規事業の立ち上げ経験ができる企業で働く」「成長している領域の20〜50名規模のスタートアップ企業で働く」であると考えたとすると、この2つが転職の軸と言えます。そして、この軸をもとに、企業選びの優先順位をより細かく決めていくというイメージです。以下に一例を紹介します。

●転職の目的:
○億円を超える規模の新規事業を生み出す力をつける
●目的を実現するために大事にしたいこと(転職の軸):
(1)新規事業の立ち上げ経験を積める企業で働く
(2)成長している領域の20〜50名規模のスタートアップ企業で働く
●軸に基づく、企業選びの際の具体的な優先順位:
業界、企業規模、成長性、企業理念、社風や経営陣と相性が合うこと>年収、役職 (業界、企業規模、成長性、企業理念、社風や経営陣との相性が自分と合っていることを優先し、年収や役職は一旦劣後させる)

「転職の目的を実現するために何を大事にするのか?」は、応募企業を選ぶ上でも、選考に臨む際にも、入社企業を選ぶ際にも重要な判断基準となるため、転職活動を進める際にはぜひ考えておきたいことです。その理由や、各活動プロセスに軸がどう生きてくるかについて、次に説明します。

【活動プロセス別】転職の軸の活用法

転職の軸はなぜ重要なのか、また、応募企業を決めるときや面接を受けるとき、入社企業を決めるときといった活動プロセスに軸がどのように生きてくるのかを説明します。

応募企業を決めるとき

数多くある求人の中から自分に合う企業を見つけ、応募企業を絞っていくには、年収や勤務地といった最低限求める条件だけでは絞りきれません。「何を大事にするのか」という軸があることで、より自分に合った企業を絞り込むことができます。

例えば「新規事業の立ち上げ経験を積める企業で働く」を軸にしていたなら、「新規事業」などのキーワードで企業を探すこともできますし、転職エージェントのキャリアアドバイザーにもそのキーワードで希望を伝えられるでしょう。

ただし、軸を決めたらぶれずにその軸だけで企業選びをしなければいけないわけではありません。様々な企業について調べていくうちに軸そのものや、複数ある軸の優先順位が変わることはよくあることですし、問題もありません。

選考を受けるとき

応募書類をつくるときや面接を受けるときも、軸があると、何をアピールするか、また、志望動機として何を伝えるかがクリアになります。

例えば、「新規事業の立ち上げ経験を積める企業で働く」を軸にしていたなら、新規事業をつくることができる(または、つくることができる可能性のある)人材であることが伝わるよう、自己PRとして何かしら新しいものを作った経験や、新しいものを積極的に吸収していく姿勢、挑戦をいとわない姿勢などをアピールしたり、志望理由として軸を伝えたりする方向で面接でアピールする内容を組み立てることができるでしょう。

また、企業側も、応募者に転職の軸があると、応募者の理解が進み、自社での定着性や活躍可能性を判断しやすくなります。応募者に転職の軸がない場合、何を大事にして転職しようとしているのかがよくわからず、企業の応募者に対する理解が深まりません。理解できないと評価もできないため、採用にもつながりません。

なお、軸そのものが、企業には評価されづらいものの場合があります。例えば、「今より年収が上がること」「(ワークライフバランスを向上させるため)フルフレックス勤務ができて、平均残業時間も少ないこと」などが軸の場合、面接での伝え方を工夫したり、企業に対して自分がどのような貢献ができるかという観点でアピール内容や志望動機を考えたりすることが必要になります。

入社企業を決めるとき(複数の内定で迷ったとき)

入社企業を決めるとき、特に、複数の内定で迷ったときは、転職の軸があることで、自分の目指すキャリアの方向性と合致する企業かどうかを判断しやすくなります。

例えば、内定が出た企業に入社すべきかどうかは、軸に合った企業かどうかという観点で、また、複数の内定で迷ったときは、軸に最も合っている企業はどれかという観点で判断するとよいでしょう。

では、転職の軸はどのようにして決めていくとよいのでしょうか。3つの方法をご紹介します。

【転職の軸の決め方-1】4つの観点で軸を可視化する

1つ目は、「人が企業に期待する項目」を大きく次の4つに分けて整理する方法です。

・目的への共感
――例)企業理念に共感できる・経営陣の思いやビジョンを聞いてワクワクする
・活動内容の魅力
――例)扱う商品やサービスが好きである・仕事内容が魅力的である
・構成員の魅力
――例)風通しの良い社風である・優秀な社員が多い
・特権の魅力
――例)給与、福利厚生、勤務場所、評価、教育制度などに満足できる

転職の軸の作り方の4つの観点

まず、現在の職場・仕事について、4つの項目ごとに点数をつけてみてください。合計は何点になっても構いません。その次に、転職後に目指したい状態について、4つの項目ごとに点数をつけます。このとき、合計点数は「現在」でつけた合計点数と同じとします。

この表を作成することで、「現在」と、転職で実現したい「理想」のギャップが浮き彫りとなります。このギャップをふまえて、今後働く上で自分が大切にしたい項目はどれなのか、あるいは、どの項目のギャップを埋めたいのかなどを考え、優先順位を付けることで、大事にしたいこと(転職の軸)がクリアになっていきます。

【転職の優先順位のつけ方 参考例】

現在の仕事と転職後に目指したい状態の優先順位の付け方

【転職の軸の決め方-2】条件項目をMUSTとWANTに分けてみる

2つ目は、転職先を選ぶ際に検討する項目全てを「MUST」と「WANT」に分類する方法です。

「MUST」――どうしても譲れない必須条件
「WANT」――必須ではないが「あれば尚良い」条件

【優先順位を検討する項目例】

・企業理念
・ビジョン
・事業戦略
・事業・商品の特徴
・仕事内容
・社風
・経営者
・社員
・評価・教育制度
・給与
・設備
・勤務場所

分類した結果、「MUST」に入ったものが、軸と言えます。「MUST」「WANT」を区別しておかないと、全ての項目に「MUST」レベルの要求をしてしまい、欠点が目に留まりやすくなります。結果、応募したい企業が見つからず、転職活動が長引くことにもなります。候補の企業が複数ある場合にも「MUST」を指標とすることで、比較検討がしやすくなるでしょう。

【転職の軸の決め方-3】モチベーショングラフを作成してみる

3つ目は、「モチベーショングラフ」を作成して、「自分はどのようなことに対してモチベーションが上がるのか」「どのような場面でやりがいや楽しさを感じるのか」を明確にし、それを軸とする方法です。

「モチベーショングラフ」は、社会人になってから現在に至るまで、「仕事でモチベーションが上がったとき・下がったとき」を曲線で描くものです。曲線を描いたら「なぜモチベーションが上がったのか/下がったのか」の理由も考えてみましょう。そうすることで、自身の志向や価値観が整理で、大事にしたいこと(就職の軸)も見えてきます。

【モチベーショングラフの作成例】

モチベーショングラフの作成例

軸に迷ったら、転職エージェントやスカウトサービスで相談するのも一案

転職の軸を決める作業は、自身の志向や価値観と向き合う作業です。自分一人で考えていても、答えが出ずに迷路に入り込むこともあります。そんなときは、客観的な視点を持った第三者と対話し、一緒に経験の振り返りを行うことで気付きを得られることもあります。軸を作る際のサポーターとしても、転職エージェントやスカウトサービスを活用してみてはいかがでしょうか。

粟野 友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

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