例えば、仕事上で目指すキャリアを諦めずに家族との時間も大切にしたい時、その両方を実現するためのワークライフバランス重視の転職は可能なのでしょうか。ワークライフバランスとは何か、ワークライフバランスを重視した転職を成功させる秘訣と注意点など、組織人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏に伺いました。
ワークライフバランスとは?
ひとことで「ワークライフバランス」と言っても、その解釈は人によってさまざまです。休日日数、労働時間、働き方、福利厚生・制度など、何をどのくらい重視するかは、個々のライフステージや考え方によって少しずつ異なってくるからです。まれに「ライフ(生活)」を重視することだけをワークライフバランスだと誤解されている方がいますが、あくまでも「ワーク(仕事)」と「ライフ(生活)」とのバランスをとることが「ワークライフバランス」だということを認識しておきましょう。
なお、2007年に内閣府が定めた「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」(※)では、ワークライフバランスが実現した社会について下記の定義がされています。
国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会
※参考:内閣府「仕事と生活の調和」推進サイト:『仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)』『憲章仕事と生活の調和とは(定義)』
ワークライフバランス重視の転職を成功させる秘訣
自分が求めるワークライフバランスを重視した転職を成功させるためのポイントを、いくつかご紹介しますので参考にしてみてください。
自分が求めるワークライフバランスを決める
まずは、自分が求めるワークライフバランスを定義します。その際のポイントは、自分にとって理想のワークライフバランスはこれしかないと決めすぎないことです。人によってワークライフバランスの解釈は違ってきますが、同一人物でもライフステージが変われば、重視することが変わってくるものです。10年後、20年後もこういう働き方をしたいと決めていても、まわりの変化にともなって思いもよらない変化が自分にも訪れるかもしれません。また、かつて自分が憧れていたライフスタイルを目指したり、メディアで紹介されていた人のワークライフバランスをそのまま真似したりするのが、ベストなワークライフバランスになるとも限りません。近い将来を前提に、家族やパートナーと自分自身がどうありたいかを考え、ワークライフバランスの定義は暫定的にしておきましょう。
何が叶うとワークライフバランスを実現できるか整理する
転職先に求める希望条件は多くなりがちですが、すべての希望が叶う仕事はなかなかありません。何が叶えば自分が求めるワークライフバランスを実現できるのか、整理してから転職活動にのぞむといいでしょう。例えば、「今後数年間は仕事に集中して取り組みたいので一定時間の残業はあってもいいけれど、リモートワークやサテライトオフィスなど働く場所は選べるようにしたい」「社会人大学院や資格取得のための専門学校に行きたいのでフレックスタイム制度など、可能であれば勤務時間を自分で選択したい」「子どもと一緒にいる時間を大切にしたいので完全週休二日制で土日祝が休みの会社がいい」「生活を安定させたいので社員の勤続年数が長い会社がいい」など、何が叶えば自分の求めるワークライフバランスが実現できるのか、優先順位をつけます。
キャリアチェンジも視野に入れる
整理して優先順位をつけた結果、業界や職種を変えるキャリアチェンジという選択肢が見えてくることがあります。働き方の自由度を優先して製造業の営業職からリモートワーク対応のあるIT業界の営業職への業界チェンジ、年収よりも労働時間短縮を優先してコンサルティング会社から事業会社の企画職へのキャリアチェンジなどはよく見られる例です。職種や業界を限定せずに柔軟にとらえれば、転職先の幅は広がってきます。
ワークライフバランスが取れる企業の見つけ方
自分が求めるワークライフバランスとは何かによりますが、経済産業省や厚生労働省が主体となって集計、発表している従業員の働きやすさに関する認定制度などはひとつの目安となります。ただし、認定されている企業の数はそう多くはないため、転職エージェントのキャリアアドバイザーに相談するのが、ワークライフバランスが取れる企業を見つける近道でしょう。
従業員の安全や健康に配慮している企業を見つけたい時は
安全衛生優良企業認定ホワイトマーク
ホワイトマーク(安全衛生優良企業)は、労働者の安全や健康を確保する対策に積極的に取り組み、高い水準を維持している企業を厚生労働省が認定する制度。認定を受けるためには、過重労働防止対策やメンタルヘルス対策など約80の認定基準を満たす必要があります。
参考:「安全衛生優良企業認定 ホワイトマーク」 ~厚生労働省が認定するホワイト企業の証~
健康経営優良法人認定制度
「健康経営」とは、従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。優良な健康経営を実践している企業等を「健康経営優良法人」として顕彰する制度で、経済産業省が制度設計を行い、日本健康会議が認定。健康経営に取り組む企業は離職率が低いと言われています。
子育てサポートが充実している企業を見つけたい時は
くるみんマーク、プラチナくるみんマーク、トライくるみんマーク
子育てサポート企業として厚生労働大臣の認定を受けている証。より高い水準を満たしている企業は「プラチナくるみん」の認定を受けています。
参考:くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて
業界ごとの就労実態を知りたい時は
就労条件総合調査
厚生労働省が実施している調査で、業界別の就労実態(年度ごと)を確認することができます。
毎月勤労統計調査
厚生労働省が実施している調査で、業界別の就労実態(月ごと)を確認することができます。
リモート・在宅勤務など多様な働き方ができる企業を見つけたい時は
転職サイトの「こだわり検索」を利用
ワークライフバランス重視の転職をする際の注意点
ワークライフバランスをあまりに重視しすぎると転職に失敗することも。転職先を探す際、面接時や転職後に感じがちなギャップについてなど、転職活動での注意点をお伝えします。
ミスマッチの可能性
ワークライフバランスを考えると条件面だけに焦点をあてて考えがちです。しかし、たとえ条件の合う会社に転職できたとしても、社風やビジョンが合わないことでパフォーマンスがあがらず、ストレスとなってワークライフバランスに影響を及ぼすこともあります。もしくは社風も労働時間を減らすという目的もマッチしていたものの、収入が大幅ダウンして生活面での満足度が下がってしまったというケースもあります。入社を決める前に、下記の4つの軸について、自分や家族が納得いくかどうかも検討しましょう。
- 「目的への共感」:企業理念に共感できる、ビジョンに胸が高鳴る
- 「活動内容の魅力」:扱う商品が好きである、仕事内容が魅力的である
- 「構成員の魅力」:社風がマッチする、魅力的な社員がいる
- 「特権の魅力」:給与や福利厚生、勤務場所、評価、教育制度などが希望に合致する
選択肢が限られる
ワークライフバランス重視のために条件を設定する際、あまりにも設定する条件数が多いと転職先候補が限定される可能性が高くなります。例えば、先述したホワイトマーク認定を持つ企業はそもそも認定企業数が少ないため、選択肢が限定されてしまいます。また、多くの条件をクリアした企業は求職者から人気があり、競争倍率が高くなることが想定されます。ホワイトマーク認定を受けるためには過去3年間の実績を証明する必要があり、創業から間もない企業は認定の対象となっていないこともありますから、一度、転職エージェントのキャリアアドバイザーに相談してみてもいいでしょう。
面接時の注意点
言葉の受け止め方は個々で違うため、「ワークライフバランスを重視したい」という抽象的なことだけを企業の採用担当者に伝えるのでは、仕事への熱意がないという誤解を与えてしまう可能性があります。自分なりに整理したワークライフバランスの定義に基づいて、自分が大事にしたいのは何か具体的に伝える必要があります。例えば、子どもの保育園の送迎があるため、週の半分はリモートワークが可能なところを探しているなど、ワークライフバランスを重視したい目的が明確に伝わるように説明しましょう。
こちらから働き方などについて質問する場合は、自分が求めるワークライフバランスを実践している社員がいるかどうか、または自分と同じような境遇の社員はどのようにワークライフバランスをとっているのかを聞いてみるのもいいでしょう。
転職後の注意点
希望通りの条件で入社できたとしても、会社に慣れるまでの期間は希望通りの勤務スタイルができないことがあります。例えば、リモートワークが前提のワークスタイルでも最初の1ヶ月は研修のための出社が必要だったり、慣れない業務に時間がかかり残業をしなければならなくなったり、フレックス勤務で他の社員とのコミュニケーションがうまくとれなかったり。入社後数ヶ月は求人票とのギャップが発生する可能性も理解しておきましょう。
【アドバイザー】
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。