キャリアの「棚卸し」をしていくことが、いい転職の出発点。
私のヘッドハンターとしてのこだわりの一つは、その人材の可能性を最大限まで掘り下げてキャリアを考えていくということ。それは求職者ご自身が、自分のキャリアを「棚おろし」できるかどうかにかかっています。「棚卸し」とは、いかにレジュメを整備していただくか、ということ。レジュメの整備が出来ていない方は、ご自身がやってこられたことを整理出来ていません。ご自身のキャリアや可能性を理解していらっしゃらないんですね。
まず私は「レジュメの整備」の意味を十分にご説明し、まずはご自身で整備していただいた後、私の方で企業の人事という目線で大胆にカットしたり、付け加えたりと体裁を整えていきます。そうして作っていったレジュメといういわば客観的データを元に、ご本人が気づいていない可能性や選択肢をご提示していくのです。
そして、もう一つのこだわりはタイムリーでクイックな対応。これは対クライアントも、対求職者に対しても同じなんですが、信頼関係を築くうえで、タイムリーでクイックな対応に勝るものはありません。ネガティブな結果であれ、ポジティブな結果であれ、昼であれ、夜であれ、わかった時点ですぐにご連絡を差し上げるということが信頼関係構築の全てだと思います。
私はメディカル業界でキャリアを積んだ後、キャリアコンサルタントになりました。この仕事は、エンドレスだとつくづく感じています。ただエンドレスがストレスになったことは一度もありません。今まで仕事で感じたエンドレスとは種類が全く違います。その方の可能性を最大限まで掘り下げることは、その方に、どれだけ可能性のあるポジションを紹介できるかということ。そのためにはクライアントを開拓して案件を獲得することも必要ですが、常に、その方のことを頭に置いて、ずっと考える。本当に食事をしている時も、お風呂に入ってる時も「○○さんに提示できる他の案件はないか?」ずっと考えています。その時間はとても楽しいですね。ふっとした時に「そうか、○○さんには、あの案件がいいんじゃないか?」と思うことが何度もあります。求職者ご自身に自分の可能性を理解していただくこともそうなんですが、私自身が「この方には、もっと他に何かあるんじゃないか?」ということを、ずっと考え続ける。それがエンドレスなのですが、全くストレスを感じません。
ご縁ができて入社が決まり「ありがとう」と言われた時、言葉にはできない達成感があります。今までの仕事でも達成感はありましたが、人から感謝されることのモチベーションというのはこんなに高いのかと、毎回感じています。そして求職者からいただく「感謝の言葉」は、私が仕事を続けるエネルギーとなっているのです。
何気ない会話からニーズを掴み、ネットワークを使って理想の転職を実現。
いちばん記憶に残ってるのは、日系の大手製薬メーカーに、その企業には今までいなかった異質な人材であるAさんを紹介したことです。きっかけは採用担当との何気ない会話。「海外経験が豊富な方が社長になり、海外展開が加速していくし、採用の方向性も変わりそうだ」というお話でした。 Aさんは外資系の医療機器メーカーからキャリアをスタートし、ベンチャーの役員を経て、大手製薬メーカー系の新規事業の部門長を経験された方。製薬でキャリアを積んで来た方ではありませんが、豊富な海外駐在経験をお持ちで、英語力もグローバルマーケティングセンスも極めて高い方でした。Aさんこそ、この製薬メーカーの将来にとって必要となる人材だと惚れ込んだ私は、古くからの知人だったその企業の取締役を通じて紹介しましたが書類審査はNGという返事。理由は医薬の経験がないということでした。ところが2週間くらい経ってから再度その役員から連絡があり、専務にその方のレジュメを見せたところ、「一度、面接させてもらえないか?」という話になり、面接後はとんとん拍子で話が進み内定がでました。丁度その頃、Aさんは他の2社からも内定がでていました。
私はAさんのキャリア展開にとって、いま私がご紹介しているルートがベストだという気持ちが揺らぎませんでした。ですから絶対こちらのほうがいいということを誠心誠意お伝えしたところ、受諾してくださいました。ただ伝統のある企業に入社され最初はご苦労はされるだろうと感じていましたので、入社後もフォローし励ましながら寄り添っていたところ、1年後にある部門の海外事業のヘッドに異例の昇格。Aさんからは「入社を迷っている時の安川さんの説得は、心に沁みました。本当にいいところを紹介していただいたと思っています。その後のフォローも大変ありがたく、今回このような立場になれたことに心から感謝しています」とコンサルタント冥利に尽きる言葉をいただきました。
「メディカルサイエンスリエゾン」と「品質管理・品質保証」に注目
いま、私がメディカルでホットな領域だと思っているのが「メディカルサイエンスリエゾン」というポジション。もう一つが「品質管理・品質保証」。この二つのポジションは求人も多くなっていますね。
「メディカルサイエンスリエゾン」は、今までステータスがハッキリしてなかったポジションですが、ここ数年は非常にホットになってきました。リエゾンというポジションがまだ10年経っていないくらいですから、リエゾンの方が別会社のリエゾンに転職するケースはまだまだ少なく、リエゾンのプロフェッショナルという方もそれほど多くはありません。どんな方がリエゾンのポジションになれる可能性があるかというと、まずサイエンスベースがしっかりした方、もう一つはドクターとのコミュニケーションが円滑にできる方。そしてあくまでも客観的なエビデンスの話をするポジションですから、最も大切なのは論理性です。理想的なのは、基礎研究から臨床開発、あるいは 臨床開発からマーケティングを経験されたような方。ぜひ積極的にこのポジションに挑戦していただきたいと思っていますし、そのお手伝いをしていきたいですね。
また、承認制度が「製造承認制」から「製造販売承認制」となるに伴い、企業側で製造のアウトソーシングが進み、品質管理・品質保証のエキスパートの流出が進んだ一方で、当局から企業側における品質保証体制の整備を強く要請されてきた現状から、これらの専門職を緊急に補強する動きがでてきています。企業も非常に切迫感があり、明らかにこのポジションは求人も増えてます。ところが、人の動きが鈍い。私はいま、「リエゾン」と「品質管理・品質保証」に力を入れてるところです。難しいポジションだけに、エージェントの腕の見せどころですね。
株式会社インテグリティ エグゼクティブコンサルタント
安川 浩さん
1982年大阪府立大学大学院(修士課程)修了後、山之内製薬(現アステラス製薬)に入社。25年半に渡り、基礎研究(分子生物学・遺伝子工学)、臨床開発、プロジェクトリーダー、ライセンス/事業開発等、幅広い業務に従事。医師主導臨床研究を支援する2社のCRO(開発業務受託機関)にて取締役本部長を歴任後、審美歯科医療(歯科インプラント)の外資系グローバルカンパニーにて日本を含むアジア・パシフィックの臨床研究を統括後、インテグリティへ。