「この方のスキルは、あの仕事ならもっと活かせる」を発見し、新たな仕事をご紹介するのが、私の仕事です

東北大学大学院修了後、松下電工株式会社(現:パナソニック株式会社)に入社。商品開発、事業企画、R&Dマネジメントなどを経験後、外資系メディア、コンサルティング会社で様々なプロジェクトに従事。2003年より人材サービス業界に転じ、人材サーチ、キャリアコンサルティングを始め、2012年にアンサーバックコンサルティング入社。得意分野は、コンサルティング会社(戦略、会計、IT)、監査法人、税理士法人、金融サービス(投資会社、M&Aアドバイザリー、アセットマネジメント)、事業会社、ベンチャー企業のキーとなるポジション。

先日、製薬会社のR&Dプロフェッショナルを、戦略コンサルティングファームにご紹介した

いま、私が担当するなかで採用が盛んなのは、やはりコンサルティングファームです。ただ最近は、コンサルティングファームの採用に少し変化が出てきています。「ニーズの細分化」が進んでいるのです。特定業界のスペシャリスト、M&Aのスペシャリスト、CRMのスペシャリストなど、採用要件を絞り込んだ求人案件が増えています。さらに、アグリビジネスの専門家、エネルギービジネスの専門家など、そもそも日本にまだ少数しかいない方を求める募集もあります。どちらにしても、マッチングの難しい案件ばかりです。

しかし、見方を変えると、これらの募集は、コンサルタントとはまったく縁がなかった方、コンサルタントになるなどとは考えたこともなかった方が、戦略コンサルタントになるチャンスと捉えることもできます。例えば、先日、私は製薬会社のR&DのスペシャリストのAさんを、ある戦略コンサルティングファームにご紹介しました。Aさんは、他の製薬メーカーへの転職を希望して求人サイトに登録しており、最初に私がメールで「戦略コンサルタントに興味をお持ちではありませんか」とお声がけしたときは、本当に驚いた様子でした。戦略コンサルタントという選択肢がまったく頭になかったからです。しかし、一度面接していただいたところ、トントン拍子に採用が決定。なぜなら、採用先の戦略コンサルティングファームが創薬領域のコンサルティングに注力しており、製薬R&Dの深い知識をぜひとも必要としていたためです。Aさんも非常に前向きに転職されていきました。同様の求人は製薬に限らず、自動車R&Dなどの領域でも増えています。また、エネルギービジネスの専門家を求める募集では、私はエネルギー関連企業に加えて、商社やエンジニアリング会社の方々にコンサルタントの案件を提案しています。興味を持たれる方は、私の想像以上に多くいらっしゃいます。

ヘッドハンターとして私が重視しているのは、「この方のスキルは、あの仕事ならもっと活かせる」を発見し、両者をつなぐこと。製薬R&D経験、自動車R&D経験、商社経験などが戦略コンサルタントとして活かせることを知っているのは、私を含めたごく少数です。私が気づかなければ、誰も気づかない可能性が高い。その発見と橋渡しこそ、私の大事な役割だと考えています。

パーソナリティや社風などの「ソフトな情報」でマッチングできることが、ヘッドハンターの存在意義

別の事例では、メガバンクで働き始めて2年ほどの20代半ばのBさんを、クロスボーダーM&Aを手掛けるコンサルティングファームにご紹介したことがあります。そのクライアントは、最初は「もう少し社会人経験のある方がよい」とBさんの採用にネガティブでしたが、面接で評価が逆転して、内定が決まりました。採用の決め手となったのは、Bさんのネイティブレベルの英語力と、日常会話レベルの中国語力。長く海外で暮らしていただけあって、グローバルな組織への順応性も高そうだと、クライアントは嬉しそうにおっしゃっていました。

そもそも私は、求人サイトにあったBさんのレジュメを拝見して、「スキルがもったいない」と思ったのです。メガバンクでは、いつまでたっても高度な英語力、中国語力を活かせないかもしれない。グローバル企業なら、いますぐに活かすことができ、磨きをかけることができる。そこで、こちらからお声がけしたのです。

もう一つだけ、事例をお話しします。コンサルティングファームや監査法人での経験が豊かな公認会計士のCさんを、アパレル会社の経営幹部としてご紹介したケースです。Cさんのご要望は、「仕事の幅を広げたい」「海外と接点のある仕事をしたい」というもの。そこで、ニューヨーク、香港など、グローバルに展開するデザイナーズブランドの管理本部執行役員のポジションをお勧めしました。数多くの面接を経て、経営幹部の方々とレストランで会食も行った上で、Cさんはめでたく採用となりました。

このご紹介は、ある意味では「冒険」でした。Cさんは特別ファッションが好きというわけではなく、社風に合わないかもしれないですし、デザイナーズブランドの経済感覚についていけないかもしれない。お互いに少々リスクがあるのです。しかし、Cさんの働きによって、クライアントの経営状況がより良くなる可能性、Cさんがこの会社でキャリアの幅を大いに広げる可能性は、リスクよりもずっと大きいと考え、私はご紹介を決めました。面接の多さはクライアントがリスクを感じてのことでしょうし、採用という結果は、クライアントがプラス効果を十分に感じた証でしょう。この採用が、両者にとって私の想定以上のプラスに働くことを願っています。

二つの事例でもそうですが、私はマッチングの際、パーソナリティや社風といった「ソフトな情報」をいつも重視するようにしています。レジュメのスペックだけで決まるのなら、ヘッドハンターは必要ありません。ソフトな情報によるマッチングこそ、両者をつなぐ最大のポイントであり、ヘッドハンターの腕の見せ所なのです。実際、採用要件をすべて満たしていなくても、他にクライアントが魅力に感じる長所があれば、採用が決まるケースはよくあります。むしろ採用要件より、ソフトな情報が採用のカギを握っているケースも珍しくありません。

面談では、ざっくばらんにホンネをお話しいただく

候補者の方々のソフトな情報をできるだけ多く知るために、私が気をつけているのは「面談でざっくばらんにお話しすること」です。仕事の話だけでなく、プライベートや趣味のこと、最近の出来事なども積極的にお聞きして、肩の力を抜いてホンネを語っていただくようにしています。「ご自身が気づいていない長所」を発見するには、日常のワークスタイル、生活スタイルを詳しくお聞きする必要があるのです。当然、面接前にどのような準備をしたほうが良いかといったアドバイスなどもしますし、将来どのように働きたいかを明確にすることも重視していますが、それだけではマッチングはうまくいかないと考えています。

実は、世のなかには、採用要件が高すぎるためにいつまでも採用が決まらず、クライアントが困るケースがあります。そういった場合、私からクライアントに向けて要件変更のご提案をすることが少なくありません。そこで、「例えば、このような方はいかがでしょうか。すべての要件を満たしているわけではありませんが、実は●●という長所、魅力がある方です」と、ソフトな情報をベースに長所を伝えると、興味をもっていただけることがよくあります。採用要件から外れていても、クライアントが長所を魅力に捉えることは意外と多いのです。

最後に、ヘッドハンターを活用するコツを少しだけお伝えします。転職の意向がなくても、何年かに一度、ヘッドハンターと定期的にお話しする時間を設けることをお勧めしたいと思います。ヘッドハンターとのコミュニケーションに慣れることができますし、何よりも業界動向、業界内でのご自身の立ち位置を明確に知ることができます。転職の機会は、突然訪れることもあります。時折ヘッドハンターと会っていれば、そのときに慌てなくて済むはず。ぜひ私たちを上手にご活用ください。