富山県の就業を望んでいたスペイン出身の航空機エンジニアの希望と課題に寄り添い、全力で転職活動をサポート。30代後半で日本での就業経験がなく、ビジネス面での日本語に苦戦、航空機業界という狭い領域での経験・スキルを活かせる仕事を、愚直に企業にヒアリングを続けたことで、求人票にはなかった潜在ニーズを引き出すことに成功。企業のグローバル採用実績を作り、日本で就業経験のない海外人材の採用を支援した「GOOD AGENT AWARD 2022 DEI部門賞」のマッチング事例を紹介したい。
目次
日本での就業経験のない外国人エンジニアの転職をサポート
スペインで航空機のエンジニアとして活躍してきたG氏は、妻の実家である富山県での就業を望んでいた。子どもが小さいうちに移住し、日本で育てたいと考えていたからである。G氏の転職サポートは小島氏が担当した。
「G氏は大学時代から、ものづくり大国である日本でエンジニアとして活躍したいという思いがありました。そこでスペインの大学を卒業後、東京の日本語学校に留学し、1年間勉強。しかし当時は日本語を習得しきれず、欧米の大手エンジニアリング企業に就職したそうです」(小島氏)
そして、G氏の日本での転職活動は困難を極めた。まず大きな理由としては、ビジネスの場での日本語スキルである。
「奥様が日本人であること、1年間学校にも通われていたこともあり、日常会話や意思疎通に関しては特に問題はありませんでした。しかし、日本での就業経験がなく、ご自身のご経歴やビジネスに関しては、日本語で表現することが難しかったようです」(小島氏)
小島氏はG氏に対し、ボディーランゲージや英語を織り交ぜたコミュニケーション、会話スピードの調整にも留意。奥様に通訳の協力をしてもらいながらも、会話の中で齟齬が生じないように、最後に必ず本人に確認を行うようにした。
「Gさんの経歴を把握するために、開発の仕事は機体のどこを設計していたのか、2択で示して答えていただくなど、ヒアリングや言い換えの表現などを工夫しながら進めていきました」(小島氏)
また、G氏には長年携わってきた航空機関連の仕事に就きたいという気持ちがあったが、富山県での募集案件は少ない。そのため、ものづくり業界全体に視野を広げて探すこととした。企業へのアプローチを行ったのは、富山県エリアを担当する鍛治氏である。
「富山県はものづくりの会社自体は多いのですが、G氏が持つ航空機の上流設計スキルをそのまま活かせる会社は少なく、オーバースペックとなっていました。その状況をG氏にも理解・納得していただいた上で、製造や生産技術、品質管理など、ぴったりというよりは少しずらした仕事も含めて、紹介していくことになりました」(鍛治氏)
業界や職種を絞りすぎては難しいということは理解していたG氏だが、やはり懸念していたのは収入面だ。前職での年収額を実現することは、富山県の相場観としては難しい。
「生活する国も変わる中で、これからどのくらいお金がかかるか不安に思われていました。前職から下がってしまう可能性があることはお伝えしつつ、本人の意思も尊重しながら、強引にならないように進めていくことにしました」(小島氏)
小島氏のサポートはそれだけではない。初面接の際は、ヒルストンの企業側担当者が同席し、G氏が日本語で伝えきれない部分を代わりに伝えてフォローした。
「G氏は、当時手続きの都合でまだ運転ができなかったので、義父に頼んで送迎してもらいました。鍛治に協力してもらい、G氏と企業との面談に同席してフォローすることもありました」(小島氏)
さらに、通勤方法や諸条件に関する不安を払拭することにも努めた。G氏からは、自分で探してきた求人についても「ヒルストン経由で応募したい」という相談をもちかけられるなど、次第に厚い信頼を得ていった。
求人票にはなかった人材ニーズを引き出すことに成功
面談後、大手製造業の生産技術や品質管理、化学系メーカーの設備管理などの求人案件に応募。だが、日本語の壁に加えて、30代後半で未経験分野だったこともあり、選考に通過しない状況が続くこととなった。そこで、G氏の経験が活かせるポジションがないか、鍛治氏は求人案件がない企業にもアプローチを行ったのである。
「G氏と会話を続ける中で挙がってきたのが、産業機器メーカーです。産業機械や工作機械を作っている会社であれば、G氏の経験が活かせるのではないかと考えました」(鍛治氏)
鍛治氏のアプローチに対し、富山県屈指の産業機器メーカーS社から、「G氏と面談して、具体的なスキルや経験を確認したい」という連絡が入る。なんとS社には、航空分野での知識・経験があり、海外の顧客との折衝やテスト業務も任せられる人材のニーズがあったのだ。
「G氏をご紹介してみてわかったことですが、S社では今後の事業展開として強化したいと計画をしていた航空機業界の経験者を求めていたのです。人事の方が各部門に確認したところ、『ぜひ、お会いしたい』というお返事があったそうです」(鍛治氏)
航空機産業には特殊な基準やルールがあるため、業界経験者をピンポイントで採用することは非常に難しい。しかも、富山県という限られたエリアでは極めて困難であった。そのため、明確な求人票は出ておらず、顕在化はされていなかった。だが、鍛治氏の提案によって、案件は一気に動き出したのだ。
グローバル人材採用をチーム一丸となってサポート
S社の潜在的なニーズを引き出した鍛治氏は、さらにニーズの詳細な要件定義と、G氏のスキルをすり合わせ、専用の求人票を獲得。両者の意欲は高まっていく。G氏は航空機開発における独自の厳しさや品質基準を知っているという点も評価され、面接まで進むことができた。
「S社の人事担当者様は、G氏に日本語がどのくらい通じるのか心配されていました。『この内容であれば、スピードを落としていただければ通じます』『平易な言葉でお話いただければ大丈夫です』とお伝えすることで、安心していただけました」(鍛治氏)
そういった事前の工夫が奏功して、面接後にはG氏からも「仕事内容に関してもよく理解できました」と、明るい声での感想をもらえたという。
「面接には担当部署の役員クラスの方も参加してくださり、直接じっくりお話をされたようです。そこは企業様にもご協力いただけた部分だったと思います」(鍛治氏)
「懸念していた給与額についても丁寧に対応していただき、ご希望通りとはなりませんでしたが、G氏も納得して進めることができました」(小島氏)
企業や求職者との信頼関係が高まり、介在価値を実感できた
一方で、選考中に決裁者の海外出張が入ってしまったことで、最終面接と適性検査をしてから内定通知が出るまで、約3週間という時間を要した。前職はすでに退職しており、複数社落ちていたこともあり、「G氏との会話からは不安や焦りが感じられました」と小島氏は振り返る。
「実際の声色も面接後の明るい声ではなくなっていたのですが、正直に事情をこまめにお伝えしながら、安心して待っていただけるように配慮しました。その後、内定の知らせが届いたときは、夫婦で喜びを分かち合ったとのこと。入社後も、意欲高く仕事に取り組んでいるそうです」(小島氏)
S社としてもG氏を採用したことで、グローバル採用の実績を作り出すことができた。多様な人材を受け入れる体制、すなわちダイバーシティな環境作りを考えるきっかけにもなった。「人事担当者との連携もより密になった」と鍛治氏は微笑む。
「愚直ながらも、G氏の要望やスキルを企業に伝え続けたことで、自分の介在価値を感じることができましたし、企業からの信頼も得られたと思います」(鍛治氏)
転職者・企業へのメッセージ
【転職者の方へ】
今回のようにもともと求人票がなかった企業や、ぴったりではなくても経験やスキルを活かせる仕事とのご縁を作ることが可能です。転職してやりたいことやお悩みなど、ぜひお気軽にご相談してください。
【企業様へ】
これまでとは違う職種や業務内容での採用、顕在化できていない求人案件など、ご担当者様の要望とお悩みに寄り添ってお手伝いします。お気軽にお声がけください。
鍛治紗千氏
株式会社ヒルストン
1986年茨城県生まれ。関西の大学に進学し、関西の人材派遣会社に就職。結婚を機に夫の故郷・富山県に移住。北陸で転職活動を行う中、株式会社ヒルストンと出会う。自分と同じように北陸で転職を考える方々の役に立ちたいという思いを持ち、日々多くの企業への提案を行う。休日はドライブに行き、福井・石川・富山の自然を満喫。
小島 淳氏
株式会社ヒルストン
1992年長野県生まれ。関東の大学を卒業後、インテリアチェーン企業に入社し全国6部署を回る。販売した商品によってお客様の生活をより豊かにするため、不満・不便を解消する提案を意識し売場に立つ。全国転勤をする中で着任した北陸の、人・自然・食に魅せられ転職と定住を決意。企業様と求職者様の良縁をたくさん生み出し、大好きになった北陸地域の発展に、「人」の面から貢献したいと思い、ヒルストンに入社。北陸の美味しいものを食べ尽くしたい、元高校球児。