「報告」「連絡」「相談」ができない部下に対して悩みを持つ40代マネージャーの相談者。もしかしたら指導方法を少し変えるだけで報告ができるようになるかもしれません。部下タイプ別の正しい指導を行い、マネージャーとしてスキルアップしましょう。
大手企業で課長を務める40代男性。最近、部下が言うことを聞かないだけでなく、無視されることもあると嘆いている様子。それはいったい何故なのか? 相談者の悩みにコミュニケーション研究家の藤田尚弓氏が答えます。
何度言っても報告・連絡・相談ができない部下
相談内容
報告・連絡・相談ができない部下に困っています。「事前に相談してくれればトラブルにならなかったのに」ということがあり、厳しく注意しました。しかし、その後も同じようなミスがありました。大きなトラブルが起こる前にペナルティを設けるべきでしょうか。部下は入社7年目。真面目な性格ですし、どちらかというと空気も読める男です。 (メーカー勤務47歳)
緊急処置が必要です!あなたの指導の方法に
厳しく注意した際、どのような指導をしたのか内容が気になりますね。もし報告・連絡・相談をしなかったことへの批判と「今後はするように」と伝えただけであればマネジメント力は100点中20点といったところでしょうか。報告・連絡・相談の重要性について部下が理解できるよう説明したのであれば、40点といったところだと思います。
安心してください。伸びしろは大きいので、このケースは指導の方法を変えれば改善できるでしょう。
社会人であれば報告・連絡・相談が重要なことくらい誰でも知っています。なのになぜ抜け漏れが生じるのでしょうか。まずは筆者が10年間様々な業種の企業に研修に入って感じた、報告・連絡・相談ができない理由のベスト3をご紹介します。
報告・連絡・相談が抜けてしまう理由ベスト3
3位 報告・連絡・相談の軽視。「このくらいはいいだろう」という判断をしている
この場合、上司は「今後は徹底しろ」といった注意をしただけでマネジメントをしているつもりになりがちです。しかし本当に必要なのは、報告・連絡・相談を怠ったときのリスクを理解してもらう指導です。
2位 報告・連絡・相談をする側の心理的負担によるもの
「今話しかけて大丈夫だろうか」
「こんなことで時間をとって悪いのではないだろうか」
「このタイミングではなく後で報告しよう」
部下にはこういった心の葛藤があります。
威圧的な態度をとっていないつもりでも、パワーバランスがあるところに心理的負担は発生しやすいものです。
筆者が2009年にとったアンケートによると「部下には話しかけやすく接している」と回答した上司が7割を超えたのに対し、「話しかけにくいときがある」と回答した部下は実に9割近く。
今回の相談者さんの部下は、空気が読める方だそうですから、忙しそうにしているあなたに気を遣って相談をする機会をのがしていることも考えられます。
残念ですが、管理職の皆さんに話しかけやすい雰囲気作りをしてもらっても、このケースは改善しにくいという特徴があります。それよりも、報告・連絡・相談の機会を一日の業務に組み込んだほうが良いでしょう。実際に導入してもらった企業でも効果を実感できたようです。
1位 どんなときに報告・連絡・相談をするべきかという判断基準が曖昧なこと
ただ単に「相談をしろ」と言っても、判断基準が違えば「この件は大丈夫だろう」と一人で片付けてしまうこともあります。いくら厳しく注意しても悪気のないミスが繰り返されるパターンです。
今回相談いただいたケースの場合も、部下の方と「どんなときに相談をするのか」という判断基準にギャップがありそうなため、具体的な判断基準の刷りあわせをすることが必要です。
「そのくらいわかるだろう」という傲慢
「上司が細かく指示しなくても、そのくらい自分で判断できなくてどうする」「俺たちの若い頃はそうやって仕事を覚えた」「わざわざ基準を明確にしなくても、このくらいわかるだろう」管理職の方々のそんな気持ちもよくわかります。筆者も上司の指示の背景や行間を自分で考え、試行錯誤してきました。若い世代の人たちにもそれを期待する気持ちもあります。
しかし考え方や経験値が違う人に、ざっくりとした指示しかしないのは管理職の怠慢かもしれません。どんな相手にもわかるように指示する努力を怠っているのに、できない部下を責めるのは傲慢だったと筆者も反省しています。
上司が求める水準を推測できる人ばかりが優秀な人材ではありません。具体的にわかりやすい指示をすることで才能を発揮できる部下もいます。指示して行動が改善しないのであれば、指示の仕方を変える。工夫をしながら部下の力を引き出すのがいいマネージャーではないでしょうか。勢いのある会社、いいリーダーは共通してこのあたりが上手いです。
部下のタイプ別!報告・連絡・相談の指導方法
① 判断軸のないタイプ
報告・連絡・相談をするかどうかを、ケースごとに勘で判断している人。上司や同僚と判断基準の刷りあわせをしたことがない人は、よっぽど観察力がない限りこのタイプになりがち。
≪このタイプの部下への指導法≫
具体的にどんなときに報告・連絡・相談をしてほしいのかを、実際の例を出しながら明確に示しておく必要があります。業種によっては見やすい資料を作るなど視覚化しておくのも有効。「今回はどうだろう?」と迷ったときに見られるよう明文化しておくことで、上司の期待に近い反応が返ってくるようになります。後は案件ごとに、フィードバックをして調整すればOK。このタイプの部下の報告・連絡・相談は比較的短期間に改善できます。
② 自己擁護タイプ
「忙しそうだから」「こんなことを相談したら悪い」「自分で考えよう」と気を遣っているかのように見えるが、実は話しかける勇気のなさ、面倒を乗り越えられないタイプ。
≪このタイプの部下への指導法≫
管理職研修、新人研修などを行ってきた経験で、最も改善に時間がかかると感じるのがこのタイプです。無意識に自分の選択を正当化する癖がついているので「こういったケースは相談して」と指導しても「このケースは○○だった」「その日は時間がなかった」など、何かと例外の理由をつけてしまう傾向があります。
思考の癖を矯正するのは、想像以上に時間とエネルギーを必要とします。まずは報告・連絡・相談をしなければいけない仕組み(例:毎日17時には報告・連絡・相談を行うルールにする)を取り入れてはいかがでしょうか。習慣化することで、思考の癖が緩和されるケースもあります。
③ 重要性軽視タイプ
社会人経験の浅い新人によく見られる。特に新人研修を行っていない会社に勤めている人はこのタイプになりがち。仕事に慣れてきた中堅社員にも見られます。
≪このタイプの部下への指導法≫
報告・連絡・相談の重要性を説明するよりも、それを怠ったときのリスクを理解させたほうが効果的です。実際に起きた事例を見せながら、自分に関係のあることだと思ってもらえるように指導します。報告・連絡・相談に慣れていない人も多いので、具体的なやり方も提示してください。
どの方法もマネージャーにとって多少は面倒かもしれませんが、今スグ取り組めることばかり。「これくらい自分で解決してくれよ」という気持ちにさえ勝てれば、問題の半分は解決したようなものです。感情よりも実をとりましょう。
マネージャーとしてのスキルアップは有形無形の報酬をあなたにもたらしてくれるはずです。
藤田 尚弓 氏
警察で防犯のコミュニケーションデザインを担当したのち留学。
一般企業で管理職を経験し独立。
コミュニケーション研究家としてテレビや雑誌などでコメントを行う他、企業研修や大学などに講師として登壇している。
著書に「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)などがある。