景気や雇用の動きを表す指標として、報道でもよく目にする「有効求人倍率」。どのように算出され、そこから具体的に何がわかるのでしょうか。また、私たちが転職するタイミングや転職先を検討する際に、有効求人倍率は活用できるのでしょうか。組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏に解説いただきました。
目次
有効求人倍率とは
まず有効求人倍率の定義と算出方法、数字が表す意味について確認しておきましょう。
有効求人倍率の定義
「有効求人倍率」とは、厚生労働省が全国のハローワークにおける有効求人数・有効求職者数を集計して算出した「求職者1人に対して何件の求人があるか」を示す数値です。月ごとに結果が公表され(※1)、わが国の雇用動向を示す指標のひとつとなっています。
出典(※1)
有効求人倍率の計算方法
有効求人倍率は、企業がハローワークにエントリーしている「有効求人数」を、ハローワークに求職登録している「有効求職者数」で割ることで算出されます。
有効求人倍率=有効求人数(件) /有効求職者数(人)
この場合の「有効」とは、「ハローワークでの有効期間中」という意味です。
ハローワークでは求人・求職ともに、登録した月の翌々月末までが有効期間となっており、「有効求人数」とは、前月から繰り越された求人数と当月の「新規求人数」の合計。「有効求職者数」も同様に、前月から繰り越された求職者数と当月の「新規求職申し込み数」の合計を指しています。なお、どちらも前月に充足したもの(採用が決まった求人や、就職した求職者)は除かれています。
例えば、ある月の有効求人数が100件、有効求職者数が200人とすると、有効求人倍率は0.5倍。有効求人数が100件、有効求職者数が80人とすれば、有効求人倍率は1.25倍ということになります。
有効求人倍率の読み解き方
有効求人倍率が「1.3倍」など、「1」を上回る場合は、企業の求人数に対して求職者が不足している状態で、企業にとっては人材の確保が難しくなり、求職者にとっては就職先を探しやすい「売り手市場」の状況となります。
逆に「0.8倍」など「1」を下回る場合は、企業の求人よりも求職者の方が多いため、求職者はなかなか希望の仕事を見つけることが難しく、採用する企業側にとっては有利な「買い手市場」であると言えるでしょう。
有効求人倍率の推移からわかること
有効求人倍率の推移から何が読み取れるかを解説しましょう。
雇用の動向
上述したように、有効求人倍率は月ごとに公表されるため、その推移から雇用の動きを読み取ることができます。例えば、前月や前年の同じ時期に比べて有効求人倍率が上がった場合、求職者にとっては「選択肢が広がる」「企業が提示する条件がより良くなる」など、就職先を見つけやすい状況になったと言えるでしょう。逆に、有効求人倍率が低くなれば、求職者の競争が激しくなり、就職の難易度が上がりますが、企業にとってはより採用活動がしやすくなり、優秀な人材を確保できる可能性が高まります。
景気の動向
有効求人倍率は、内閣府が毎月公表する「景気動向指数」(※2)の算出に使われる30項目の指標のひとつで、景気の現状にほぼ一致する「一致指数」とされています。企業の業績が伸びれば、事業拡大や市場開拓のために人材を積極的に雇用しようとするため、求人数が増加します。前月や前年の同じ時期に比べて有効求人倍率が上がった場合は、より景気が良くなったことを示し、逆に有効求人倍率が下がれば、景気が悪くなったということになります。
出典(※2)
有効求人倍率と新規求人倍率の違い
有効求人倍率と同じく厚生労働省が毎月公表しているものに、「新規求人倍率」があります。新規求人倍率とは、全国のハローワークで当月にエントリーした新規求人数を、その月に新しく登録された新規求職申し込み数で割ったものです。そのため、前月の繰り越し分を含めた有効求人倍率よりも、さらに直近の動きが表れます。
有効求人倍率が景気の現状に一致するのに対して、新規求人倍率は景気の動きに先んじて動く先行指標とされ、今後の雇用や景気がどうなるかを予測する判断材料となるでしょう。
近年の有効求人倍率の推移と解説
実際に近年の有効求人倍率について見てみましょう。
年度別有効求人倍率の推移
厚生労働省によると(※3)、近年の有効求人倍率の推移は以下のようになっています。
年度別で右肩上がりだった有効求人倍率は(左)、平成30年度をピークに下がり始め、令和2年度は、前年度より0.45ポイントと大幅に落ち込んでいます。令和2年からハローワークの求人の記載項目が拡充され、一部に求人の提出を見送る動きがあったと同時に、新型コロナウイルス感染症流行による影響も表れているようです。令和5年5月の有効求人倍率は1.31倍で(右)、前月に比べて0.01ポイント低下しましたが、直近1年はおおむね1.3倍ほどで推移していることがわかります。
出典(※3)
地域別、都道府県別の有効求人倍率
有効求人倍率は、都道府県別でも公表されています。令和5年5月の有効求人倍率が高い5都道府県と、低い5都道府県は以下になります(※4)。
■都道府県別・有効求人倍率上位5
1位 福井県 1.84
2位 東京都 1.76
3位 石川県 1.62
4位 岐阜県 1.58
5位 新潟県、島根県、岡山県 1.55
■都道府県別・有効求人倍率下位5
1位 神奈川県 0.92
2位 兵庫県 1.01
3位 千葉県 1.03
4位 北海道 1.04
5位 埼玉県、沖縄県 1.08
職業別の有効求人倍率
有効求人倍率は職業別でも公表されています。令和5年5月の職業別有効求人倍率の上位5職種と、下位5職種は以下になります(※5)。
■職業別・有効求人倍率上位5
1位 建設躯体工事従事者 9.56
2位 保安職業従事者 5.86
3位 土木作業従事者 5.50
4位 建設・採掘従事者 4.95
5位 建築・土木・測量従事者 4.86
■職業別・有効求人倍率下位5
1位 美術家、デザイナー、写真家 0.20
2位 その他の運搬・清掃・包装等 0.32
3位 一般事務従事者 0.33
4位 事務用機器操作員 0.39
5位 事務従事者 0.42
有効求人倍率を見る時の注意点
有効求人倍率は、必ずしも雇用や景気の動向を全て反映するものではありません。その理由は以下です。
ハローワーク以外での数値は反映されない
有効求人倍率には、ハローワーク以外での求人や求職者のデータが含まれていません。
例えば、令和3年の雇用動向調査(※6)を元に計算すると、この年ハローワーク(インターネットサービス含む)で職に就いた人の割合は全体の約17%に過ぎず、それ以外の人は、民間の求人サイトや職業紹介事業者、縁故などを通じて職に就いています。従って、有効求人倍率が労働市場全体の需給の実態を表しているとは言いにくいでしょう。
正社員の求人だけではない
もうひとつは、有効求人倍率では正規と非正規の求人は区別されておらず、全ての雇用形態の求人が含まれていることです。パート・アルバイトを除いて集計したデータもありますが、こちらも派遣社員や契約社員が含まれ、正社員だけを対象としたものではありません。非正規雇用は一時的な需要でも募集が増えることがあるため、有効求人倍率が正確に景気の動向を反映しているとは言い切れない部分もあります。
有効求人倍率は転職に活用できるのか
転職のタイミングや転職先の業界・職種を検討する際に、有効求人倍率を参考にすべきでしょうか。
結論から言うと、あくまで有効求人倍率は、労働市場全体の概要を大まかに把握するためのものです。したがって、参考情報として確認はするものの、有効求人倍率だけを指標として転職時期を決めたり、転職先を選んだりすることは避けた方がいいでしょう。
職種別の求人動向もある程度はわかりますが、自身の経験・スキルや希望条件に合致する求人の最新動向や、企業の募集ニーズの強弱、選考状況までは読み取ることはできません。
また、全体の景気が後退して有効求人倍率が下がっていたとしても、成長している産業や企業には強い採用ニーズがあったり、特定の領域や職種に関しては積極採用をしたりする可能性もあります。特にハイクラス求人は、非公開で募集することが多いため、有効求人倍率の数値には反映されづらいものです。
とはいえ、有効求人倍率が高く、売り手市場であるほど、転職先の選択肢が増えたり、企業がより良い条件を提示したりする可能性もあり、転職活動の先行きを見通す際の参考にはなるかもしれません。
具体的な求人動向は転職エージェントやスカウトサービスに相談を
自分の経験・スキルに合致した具体的な求人の動向を知るには、転職エージェントや、スカウトサービスの利用も一案です。
転職エージェントやスカウトサービスの担当者は、特定の業界・職種に精通していることが多く、それらの最新トレンドを掴んでいます。企業が中途採用を行う背景や理由も含めて、業界や個々の企業の動きについて情報を得ることができます。さらに、自身の経験・スキルに合致した非公開求人の情報も得られるため、より多くの選択肢を持って転職活動を進めることができるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野 友樹(あわの ともき)氏
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