2018.7.27記事で「幹部人材」と「経営人材」についてご紹介しましたところ、各方面から大きな反響を頂きました。そんな中、「より詳しく幹部人材と経営人材の違い、差を知りたい」という声を多く頂いておりますので、今回は「幹部人材」と「経営人材」は何が違うのか?この2つを分けるものについて、前回ご紹介できなかった点をご紹介してみます。
明確なテーマ、志、覚悟がある
2018.7.27記事で、
幹部人材:経営や事業の「目的」「目標」「課題」に応える人 VS 経営人材:経営や事業の「目的」「目標」「課題」は何かを設定する人
幹部人材:会社の「問い」に答える人 経営人材:会社の「問い」を立てる人
と言いました。
会社の「問い」を立てられる、経営や事業の「目的」「目標」「課題」は何かを設定できる。これらができるのはなぜかと言えば、その人自身に明確なテーマや志、あるいは覚悟があるからです。
転職ご相談で我々は、候補者である経営者や幹部の方に「今後(転職後)、どのようなことをやっていかれたいですか」と必ずと言っていい程、尋ねます。
その回答は皆さん千差万別ですが、一つ種あかしをしてしまえば、ここで「あまりこだわりはありません」「求められることをやりたいと思います」と答える方は、経営人材ではありません。
幹部人材としては、経営や事業が求めてくることに対してご自身の専門力を発揮し応えていくことでも悪くはないでしょう。
しかし、もしあなたが経営人材として今後、事業や部門を率いていかれたいのであれば、「私は、こういうビジネステーマを持っている」「自分は、これまでの業界経験からその業界についてこれこれの課題意識を持っている。それをこのような形で解決していきたい」「私は今後、この分野で第一人者になる決意をしている」といったものを、可能であれば転職活動開始前に、あるいは少なくとも転職活動を通じて明確化させて新天地の選択を進める必要があるのです。
市場からのリファレンス(複数からの信頼、期待、人望)を獲得している
経営人材クラスのポジションでは、概ね「リファレンスチェック」を取られると思っておきましょう。
「リファレンスチェック(Reference check)」とは「身元照会」「経歴照会」を指し、採用企業が候補者の信用調査として第三者に経歴などの照会を行うことです。
過去の在籍企業における在籍期間や実績が応募書類の内容と相違ないか、また書類選考や採用面接だけではわからない候補者の人物像や、前職での仕事ぶりを確認することで、採用側のリスクや入社後のミスマッチ、トラブルを軽減することを目的として実施されます。
外資系企業では以前から一定のレイヤー以上の候補者には概ね実施されてきましたが、最近は日系企業でも上級職やタレント専門職ではかなりの割合で実施されるようになってきました。
私もエグゼクティブサーチ業界での活動歴も長くなってきているせいか、主要な幹部職や経営職クラスのお話であれば、どの業界においても概ね直接間接を問わず、どなたがどこで活躍されていたか、あるいは何らかの問題を起こしていたかという情報が入ってきます。
もちろん個人情報の取り扱いには最大留意をしておりますから、許諾なしにクライアントに開示するなどはいたしませんが、候補者レビューにおいては、実は裏側で良い評判も悪い評判もかなりの割合で参照されているということは、幹部上位職〜経営人材層の方なら気に留めておいたほうが良いでしょう。
良いリファレンスを築いてきている人は、自分が知らないところで関係者があなたの評価をぐんと引き上げてくれているものですし、逆に良からぬ関係性をあちらこちらにばらまいてきている人は、面接では高評価なのに最終判断の際に「そうか、実はこんな人だったのか…」と落とされるケースも少なくありません。
もし、スキルや専門性での評価は高いのになぜかオファーが出ない、いつも最終面接まではトントン拍子で進むのに最終でNGになる、とお悩みの方がいらっしゃったら、リファレンスチェックで引っかかっている可能性があるのではないかとご自身のこれまでの人間関係を念のため確認頂いたほうが良いかもしれません。
当たり前の話ですが、平素からどんな場所でもどのような関係者に対しても良好な人間関係を築きながら仕事をしてきていることが大事なのです。
「世間は狭い」「悪いことはできない」というのは、本当です。
冷静な目と心(俯瞰した視点、レジリエンス)を持つ
経営人材に求められるメンタリティとしては、「得意淡然、失意泰然」です。
物事がうまくいっている時(順境の時)には、驕り高ぶることなく淡々と。
物事がうまくいかない時(逆境の時)は、落ち込んだりせず悠然と構えて取り乱さないこと。レジリエンス(回復力)というキーワードはすっかり浸透定着した感がありますが、精神的な安定性、メンタルタフネスは経営人材に求められるOSです。
もちろんメンバー達やお客様、あるいはパートナーベンダー各位と共に、喜怒哀楽を露わにして時には盛り上がり、時には落胆し、時には怒りを爆発させるということは、仲間と共にビジネスを進めていく上でのエンジンでもありアクセルでもありますので、とても大事なことです。
しかし、幹部人材は時に感情の赴くままにでも良いですが、経営人材の立場としては「常に頭の一部は冷めている」ことが大事。いかなる局面でも、実は内心、「よし、今こういう状況だな」「ここはこの辺りでモードチェンジしなければ」などのクールな目と心を常時オンにして働かせていることが必要です。
3つご紹介いたしましたが、これらを通じて「この人であればマーケットや企業、組織へのコミットメント、アカウンタビリティを果たしてくれる」と周囲から思われる、期待される人が経営人材です。 これらの要件を満たす人が経営人材になるのであって、「社長になりたい」「経営陣になりたい」という人が経営人材になるのではありません。
「社長になりたい」「経営陣になりたい」軸で肩書きやポジションを得た人というものは、平時は優秀な人であっても「いざ会社や事業が大変なことに」というような状況になったら、誰よりも先に逃げ出す人です。残念ながら、そういう”ニセ経営人材”の方からも折々転職登録を頂かざるを得ないのが当社のようなファームの立ち位置、宿命であるのも事実ですが、だからこそなおさら、そうした人が経営職に就いてしまうことを極力回避させることも我々の大きなミッションだと考えています。
会社や事業がタフな局面を迎えた際にこそ、自らのテーマ、志、覚悟を持ってメンバーと共にその局面を乗り越えようと奮闘し、「いかにすれば、この局面を打破できるだろうか」という問いを立てられる人こそが、真の経営人材。
そうした姿勢で幾つかの局面を乗り越えてきたご経験を持つ経営人材にこそ、次の企業から「ぜひあなたに、この事業、経営をお任せしたい」というオファーが舞い込むのです。
ではまた、次回!
井上和幸
1989年早稲田大学卒業後、リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年よりリクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)。2010年に経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。 『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ずるいマネジメント』(SBクリエイティブ)『30代最後の転職を成功させる方法』(かんき出版)など著書多数。