住宅手当とは?支給条件や相場、税金、近年の傾向など解説【社労士監修】

引っ越しをする人たちの様子

企業が社員の住居費を補助し、生活費の負担を軽減してくれる「住宅手当」。転職先企業に希望する福利厚生として、住宅手当を考えている方も少なくはないでしょう。住宅手当とはどのような制度で、一般的な相場はどのくらいなのか、また税制面を始めとするメリット・デメリットを含めた、住宅手当の基礎知識について、社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。

住宅手当とは

まず、住宅手当とはどのような制度なのかを解説します。

住まいに関する費用を企業が補助する制度

住宅手当とは、企業が社員の生活費負担を軽減する目的で行う福利厚生の一つで、従業員の住宅費用を補助するために支給される手当です。

国家公務員や地方公務員の「住居手当」をモデルにして設計されていることが多く、本来は、賃貸住宅で発生する家賃を対象としたものです。支給する基準や支給額は企業によって異なりますが、例えば「自ら居住する賃貸物件の家賃を負担する従業員に対して、一律〇万円支給する」「○万円を上限として、月額家賃の〇%を支給する」といった形で規定されています。
さらに企業によっては、持ち家の住宅ローン等も住宅手当として補助するケースがあります。

なお、住宅手当は法定外の福利厚生であり、各企業が任意で導入しているものです。従って、そもそも住宅手当の制度がない企業も多く存在しています。

住宅手当と家賃補助の違い

企業によっては、「住宅手当」ではなく「家賃補助」という制度を導入しているところもありますが、これらの間に法律上の明確な区別はありません。「社員が借りた賃貸物件の家賃の一部を会社が支給する」という目的が同じであれば、呼び名が異なるだけで、基本的に「住宅手当」=「家賃補助」と考えていいでしょう。

一方で、企業が社員に「社宅」を提供している場合に、家賃の企業負担分を指して「家賃補助」と称するケースもあります。この場合は、前述した住宅手当とは異なる制度となります(社宅については後述)。

住宅手当の支給状況や相場

近年、住宅手当はどのくらいの企業で支給されているか、また相場はいくらぐらいなのかを、データで見てみましょう。

住宅手当を支給している企業の割合

令和2年の厚生労働省の統計によると、「住宅手当など」を支給している企業は、全体の47.2%。また、規模が大きいほど支給する企業の割合が高くなっています(※1)。

全体企業規模30〜99人企業規模100人〜299人企業規模300〜999人企業規模1000人以上
47.2%43.0%54.1%60.9%61.7%

出典(※1):厚生労働省「令和2年労働条件総合調査の概要」第18表「諸手当の種類別支給企業割合」

住宅手当の相場

住宅手当の月当たりの支給額はどのくらいでしょうか。令和2年の厚生労働省の統計によると、全国の企業の「住宅手当など」の平均支給額は1万7,800円でした(※2)。

また、令和4年に東京都産業労働局が中小企業に行った調査によると、住宅手当の平均支給額は、一律で支給される企業の場合、扶養家族ありで1万7,696円、扶養家族なしで1万5,211円。さらに賃貸と持ち家の形態別に支給される企業では、賃貸の方が持ち家よりも高い傾向にありました(下表 ※3)。

一律支給
扶養家族あり1万7696円
扶養家族なし1万5211円
賃貸持ち家
扶養家族あり2万8480円2万2556円
扶養家族なし1万9669円1万6083円

出典(※2):厚生労働省「令和2年労働条件総合調査の概要」第19表「諸手当の種類別支給された労働者1人平均支給額」(令和元年11月分)
出典(※3):東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」第2表-⑧「住宅手当の支給金額」

支給する企業や金額は減少傾向 

近年、住宅手当を支給する企業の割合や支給額は、少しずつ減少する傾向にあります。

例えば、東京都産業労働局が中小企業を対象に実施した調査で、「住宅手当制度あり」と回答した企業は、平成24年度が43.6%だったのに対し(※4)、令和2年度に「住宅手当の支給あり」と答えた企業は39.7%となり、3.9%減少しています(※5)。
また、日本経済団体連合会の調査によると、住宅関連費用の平均金額は、2000年度が1カ月あたり約1.4万円でピークでしたが、それ以降は減少し、2019年度には1カ月あたり約1.1万円に下がっています(※6)。

要因としては、働き方改革によって「同一労働同一賃金」の実現が求められていることがあります。住宅手当による社員間の待遇差をなくすため、その分を給与に置き換えて支払う動きも出てきました。また、テレワークの浸透で住宅手当を見直し、在宅勤務手当の支給に切り替える企業も出てきたようです。

出典(※4):東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(平成24年版)」第2表-⑥「住宅手当制度」
出典(※5):東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年度版)」第2表-⑦「住宅手当の支給状況」
出典(※6):経団連「第64回 福利厚生費調査結果報告」(3)法定外福利費(項目別)の推移① 住宅関連費用の推移[図表16]

住宅手当と社宅との違い

住宅手当以外にも、社員の住居費負担を軽減してくれるものに「社宅」があります。同じ住宅関連の福利厚生でも、税制上の扱いが変わってくるため、これらの違いを知っておくといいでしょう。

住宅手当は課税対象となる

住宅手当は、企業の規定に基づいた金額を現金で支給されるのが一般的です。そのため、給与の一部と見なされ、所得税や住民税の課税対象となり、社会保険の算定根拠にも入ります。従って、住宅手当の支給を受けると、税金や社会保険料の負担もそれだけ増えることになります。

社宅は一定の条件で非課税になる

社宅には、企業が保有している物件を社員に貸し出す「社有社宅」と、一般の賃貸住宅を企業が借り上げて社員に貸し出す「借り上げ社宅」があります。借り上げ社宅では、社員自身が物件を選び、企業に契約してもらうこともあります。住宅手当は現金支給ですが、社宅は現物支給に近いと言えるでしょう。

社宅の場合、原則として家賃の半分以上の金額を社員が負担すれば、残りの家賃の企業負担分は給与に含まれず、非課税扱いとなり、所得税はかかりません。同様に社会保険料負担も軽減されます。社宅は物件を選べないことも多く、退職時には退去しなければなりませんが、相場より家賃負担を安く抑えられ、節税にもなるという経済的メリットは大きいと言えます。

住宅手当がもらえる条件とは

企業に住宅手当の制度があっても、必ず全員に支給されるわけではありません。住宅手当の支給条件には以下のようなものがあり、企業によっても異なるため、自身が支給の対象になるかどうかについては就業規則などで詳細を確認する必要があります。

正規雇用の従業員か 

正社員であることを住宅手当の支給条件としている企業は多いようです。正社員であれば、転勤や単身赴任のために、新たに賃貸住宅を借りるケースもあるためです。ただ、業務内容や労働環境が変わらないにも関わらず、正社員のみが支給対象になっていれば、「同一労働同一賃金」の考え方に合わなくなるため、今後は見直しが進んでいくかもしれません。

賃貸か持ち家か

住宅手当は基本的に、賃貸住宅に住んでいる社員が支給の対象となります。
持ち家の住宅ローンを補助することは、企業が社員の資産形成をサポートすることになります。そうなれば賃貸住宅に住む社員との間に不公平感が生じ、企業にとってもあまりメリットがありません。
持ち家に対して手当を支給する企業もありますが、賃貸とは支給額や上限額で差を付けたり、申請の基準を厳密にしていることも多いようです。

世帯主であるか

住宅手当は「家賃を負担している世帯主」に限り、支給されるケースがほとんどです。例えば、実家で世帯主である父母等と同居している場合は、住宅手当の支給対象にならないのが一般的です。

扶養家族の有無

一般的には一人暮らしであっても、社宅や独身寮に居住していなければ、住宅手当の支給対象になりますが、中には扶養家族の有無で支給対象を定めている企業もあります。また、扶養家族がいる社員を主要な生計維持者と考えて、支給額の設定に差を付けているケースもあります。
扶養家族に関する規定が特になくても、家族が多いほど住居面積が広く、家賃も高くなる傾向があることから、結果的に扶養家族がいない社員よりも支給額が高くなることもあります。

会社からの距離

住居費の高い都心に所在する企業などでは、職場の近くに住む際の経済的負担が大きいことへの配慮から、「自宅から勤務先までの距離が○キロメートル以内」など、一定の条件に当てはまる場合に住宅手当を支給することがあります。なお、住宅手当を支給する社員には交通費を支給しないという企業もあります。

住宅手当をもらう場合の注意点

住宅手当をもらうメリットとしては、当然ながら生活に余裕が出ることです。特に、転職のために実家を離れたり、引っ越したりする必要がある場合、住宅手当の有無を転職先選びの条件として重視する方も多いでしょう。

半面、下のような注意点についても知っておく必要があります。

  • 前述したように、住宅手当は課税の対象となるため、税金や社会保険の負担が増える
  • 住宅手当込みで生計を考えていると、手当が整理されたり、廃止されたりしたときに生活が苦しくなる可能性がある。また、住宅手当制度に慣れてしまうと、制度のない企業に転職しづらくなる
  • 住宅ローンを補助する制度がない企業では、家を購入すると手当がなくなる可能性が高い
  • 支給対象として年齢制限を設けている企業もあり、在籍中ずっと支給されるとは限らない

転職活動で住宅関連の福利厚生を重視する方は、各企業の制度や支給条件を確認し、メリット・デメリットを把握した上で企業選びをすることをお勧めします。転職エージェントを利用している場合は、担当キャリアアドバイザーを通じて、応募企業の制度を確認してもらうのも一つの方法でしょう。

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監修

岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。