企業の求人情報や公式サイトで目にすることがある「資本金」。転職を考えている場合、資本金からどのような情報が読み取れるのでしょうか?そもそも資本金とは何か、企業選びの際にどのように役立てる情報なのかなど、「資本金」に関する情報について、日本総合研究所・高津輝章氏が解説します。
資本金とは?
資本金とは、その企業の株主が拠出した出資金、つまり事業運営の元手です。会社を設立した当初の資本金に加えて、事業を大きくする際に資本金を増やすこと(増資という)も一般的です。
資本金は原則として株主に払い戻すことはないため、企業にとって安定した財産であるとみなされることがあります。株主(投資家)は、資本金を元手に会社が稼いだ利益から配当を得たり、株主としての権利(株式)を第三者へ譲渡したりすることで、リターンを得るからです。
なお、資本金と類似項目に、資本準備金などの資本剰余金と呼ばれるものがあります。これらは、株主との取引(資本取引)によって発生するという意味で資本金と同じ性格を有しますが、資本金よりは株主に払い戻す際の制約(手続き)が緩やかであるなど、資本金よりはその拘束性は低いという特徴があります。
求人情報に資本金が書かれているのはなぜ?
求人情報には、仕事内容や勤務地、福利厚生などの「募集要項」に加えて、「会社概要」を記載することが一般的です。
会社概要には、社名や代表者名、設立年、本社・事業所の所在地などに加えて、従業員数や資本金、売上高などを記載して企業の規模感を伝えるケースが少なくありません。資本金の金額は、事業運営の元手として株主から払い込まれた金額であるため、会社の資産規模を表す重要な指標のひとつであるといえます。
とはいえ、必ずしも資本金が大きければ、資産規模や事業規模が大きいというわけではありません。資本金は「事業運営の元手」としての情報に過ぎず、事業運営の結果としての状況を示すことはできないため、あくまで備考的な情報であるといえるでしょう。
資本金からどんな情報が読み解ける?
これまで見てきたように、資本金自体には、「株主が拠出した金額」という以上の意味はありません。実際には、資本金(および資本準備金)を元手として事業運営を行うことで、利益が蓄積されていき、その利益から株主に配当を行うことになります。
その過去の利益の蓄積は「利益剰余金」と呼ばれ、利益剰余金が潤沢にある企業は、借入金などの「他人資本」とは異なり、会社が有している自己資本が手厚い会社であるといえるでしょう。
そのため、資本金が大きい会社は、「元手が多い」という意味で手厚い自己資本を持っており、企業として安定性が高いと考えられます。しかし、それはあくまで「可能性」であるということを知っておきましょう。
なお、資本金が1億円を超えると、法人税法上の会社区分が変わり、中小企業に対する特例を受けられなくなります(一般的には税金が増えることになる)。そのため、事業規模はある程度大きいにも関わらず、資本金は1億円以下としているケースもあります。
同様に、資本金5億円以上となると会社法上の大会社となり、会計監査人(公認会計士または監査法人)の設置が義務付けられるなどの対応が必要となるため、事業規模にかかわらず資本金を5億円未満としている例なども見られます。
また、事業が好調で利益から再投資ができ、株主から資金を調達する必要がない場合や、資金は必要であっても、銀行などの債権者から負債として資金調達可能な場合は、資本金(元手)は必ずしも大きくなくても良いため、いわゆる大企業であってもその事業規模に比して資本金自体は小さいというケースもしばしば見受けられます。
企業選びの情報として、資本金と合わせて確認しておきたいこと
資本金の大きさは、会社の規模を示す一つの指標ではありますが、毎期の企業の経済活動によって変動するものではありません。転職先企業を検討する際には、資本金に加えて、以下のような情報もあわせて確認するとよいでしょう。
・売上高(収益):企業の事業規模・収入規模を示す指標で、売上高(収益)が安定している企業は、経営基盤も安定している可能性が高いです。
・営業利益:営業利益は企業の本業(事業活動)から得られる利益です。営業利益が安定している企業は、優れたビジネスモデルを構築している可能性が高いです。
・当期純利益:当期純利益は支払利息や特別損益、法人税などを差し引いた利益額のことを言い、最終利益とも呼ばれます。営業外の収支を含めて利益を創出できているか確認するうえでは有益ですが、構造改革を行った際などは一時的に当期純利益が赤字になることもある(その逆で特別利益を計上した際に大きく利益が膨らむこともある)ので留意が必要です。
・自己資本比率:自己資本比率は企業の総資産に占める自己資本の割合です。負債が多くあると自己資本比率は低くなります。自己資本比率を確認し、健全な財務状態の企業を選ぶことも大切です。
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 高津輝章氏
2008年、一橋大学大学院商学研究科経営学修士課程修了後、日本総合研究所に入社。現在に至る。企業を「経営企画」「経営管理」「財務」の観点から支援するプロジェクトを多数手がけている。また、企業がグループ本社機能・グループガバナンスの高度化を目指す際の支援も行っている。公認会計士。