試用期間とは?期間中の待遇や退職・解雇についての基礎知識【社労士監修】

オフィスで働く人々の様子

転職して新しい会社に入社する際に、業務に携わるための知識や能力を持っているかどうか、社風に馴染めるかどうかなどを会社が見極める「試用期間」が設けられることがあります。ここでは、試用期間中の待遇はどうなるのか、退職や解雇についてはどのように扱われるのか、さらに、試用期間中に起きがちなトラブルとその対処法について、特定社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。

試用期間とは

試用期間とは、企業が社員を採用する際に仮採用という形で、その人材が自社の業務を行えるだけの能力や適性を備えているかを確認する期間です。企業が試用期間を設けるためには、就業規則や雇用契約書に、期間の長さや労働条件などについて明記する必要があります。
試用期間が終了した後は、企業側と社員側が双方合意のうえで、本採用となるのが一般的です。

試用期間を設ける目的とメリット

企業は書類選考や面接を経て社員を採用しますが、それだけでは本当に自社で活躍できるかどうかが判断しきれないこともあります。試用期間の目的は、性格や能力、適性を見極めてから本採用に至ることによって、双方にとってのミスマッチを防ぐことにあります。

企業にとってのメリットは、雇用契約の「解約権」が、比較的広い範囲で留保されていることです。
例えば、中途採用時に必要なスキルを明示していたが、試用期間内に実際の業務を進めるにあたり、スキルが不足していることがわかった場合や、本採用に進めるためには試用期間の出勤率を95%必要としているにもかかわらず達成できていない場合など、やむを得ない理由があるケースを除いて「正社員として働き続けられる見込みがない」と判断した場合、企業は就業規則に基づき社員を解雇したり、本採用を見送ったり、就業規則に基づき自然退職とすることができます。

一方で、仮採用された社員にとっても、試用期間は仕事内容や働きやすさ、職場の雰囲気などを確認できる機会と言えます。しかし、試用期間中であっても簡単に辞められるわけではないため(後述)、企業側に比べると実質的なメリットは少ないかもしれません。

試用期間の長さ

試用期間の長さは、一般的には3カ月以内、長くても6カ月〜1年程度というケースがほとんどです。労働基準法に明確な定めはないものの、社員にとって仮採用の不安定な状態があまり長く続くことは、公序良俗上望ましくないとされているからです。

試用期間中の労働契約と待遇

試用期間中であっても、企業と社員の雇用契約は成立しています。従って、基本的には本採用された場合と同じ待遇を受けることになります。残業、休日出勤などの手当は必ず支払われなければいけませんし、一部の短時間労働者を除いて、社会保険(健康保険、労災保険、雇用保険、厚生年金)への加入も義務化されています。

ただし、給与額に関しては、試用期間中の条件として、本採用後よりも低い金額を提示されることがあります。この場合は、企業と社員の間で合意が必要であり、企業はその内容を示した書面を交付する義務があります。

試用期間と研修期間の違い

一般的に研修期間とは、業務に就くために必要な知識や能力を習得するための期間のことを言います。実施されるタイミングも入社直後だけでなく、職種や職務が変わったときなど、さまざまです。

それに対して試用期間とは、企業が解約権を留保した状態で、その社員を本採用するかどうかを判断する期間のことです。つまり、業務を遂行するための知識や能力を十分に備えている人材であっても、企業とのマッチングを確認するために試用期間が設定されることがあります。

試用期間中に解雇されることはあるか

試用期間中に解雇されることがあるか、またどのようなケースが考えられるかについて解説します。

正当な理由なく解雇・本採用拒否はできない

「試用期間中は、簡単に解雇されてしまうのでは?」と心配している方も中にはいるかもしれません。
しかし、企業と社員との間には正式な雇用契約が結ばれているため、試用期間中や試用期間終了後に、客観的ではない理由や、合理性がない理由で会社が社員を一方的に解雇したり、本採用を拒否したりすることはできません。

解雇や本採用拒否が認められるケース

試用期間中の社員を解雇するに当たり、合理的で正当であると認められる理由としては、次のようなものが挙げられます。

  • 勤務実績が良くない(規定以上に欠勤が多い、無断欠勤を繰り返すなど)
  • 心身の健康状態に問題があり、業務を遂行できない
  • 採用選考で確認していた経歴やスキルに相違があり、業務に差し障る

なお、試用期間中や試用期間終了時での解雇でも、企業は通常の解雇と同様、30日前に予告するか、もしくは解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払うことが義務づけられています。
ただし、試用期間を開始して14日以内に解雇する場合は、こうした義務もなく、即時解雇してもいいことになっています。

試用期間が延びるケースもある 

試用期間終了後も、企業が本採用するかどうか判断に迷う場合、試用期間が延長されるケースもあります。例えば、もう少し時間をかけてスキルや能力を見極めたかったり、傷病や労災によって多く欠勤してしまったりした場合などは、数カ月延長して様子を見ることもあります。
ただし、就業規則や雇用契約書に「延長する場合がある」と明記されていることや、延長する正当な理由があること、延長する事への合意が成立していることが条件となります。

試用期間中に退職することはできるか

社員の側からも、仕事内容や社風にミスマッチを感じたり、事情があって業務を継続できなくなったりした場合、試用期間中に退職することが可能です。ただし、退職のルールや手順については、本採用された場合と何ら変わりはありません。

就業規則に合わせて早めの告知が必要 

試用期間は「合わなかったらすぐに退職できる期間」と考えている方もいますが、それは誤りであり、原則として即日退職することはできません。退職を希望する場合は本採用の社員と同様、法的には退職日の2週間前までに申し出ることとされていますが、多くの企業で1~2カ月前に申し出ることを就業規則に明記しているケースが一般的です。従って退職の意思が固まっている場合は、できるだけ早めに伝えることが大切です。

退職するための手順

退職を申し出るときは、直属の上司に面談の時間をもらい、退職の旨と退職希望日を伝えます。退職理由を尋ねられるケースが多いですが、自身の判断で伝えられる範囲で構いません。
退職について承諾を得たら、会社の指示に従い、退職届を提出するなどの手続きを進めていきましょう。

退職理由の伝え方

退職したい理由が会社への不満である場合、改善することを条件に引き止められる可能性があります。
その場合は、「仕事内容が考えていたものと異なっていた」「社風や雰囲気がどうしても合わなかった」など、現在の職場では実現できない理由を選んで伝えるようにしましょう。また、短期間ではあっても、お世話になった感謝の気持ちを添えることも大切です。

試用期間中によくあるトラブルと対処法

試用期間中は労働契約が結ばれているにも関わらず、思わぬトラブルに合ってしまうこともあります。よくあるトラブルとその対処法について知っておきましょう。

【ケース1】本採用後の社員と待遇が大きく異なる 

試用期間中の社員を社会保険に加入させないケースも見られますが、これは違法です。試用期間中であっても雇用契約が結ばれているので、企業は条件を満たす社員を社会保険に加入させる義務があります。
給与についても、試用期間内の額を提示されることがありますが、その場合は各都道府県の最低賃金を下回ることはできません。また、試用期間中であっても残業代は支払われなければいけません。

【ケース2】一方的に期間を延長された

企業が試用期間を延長する場合は、「延長する場合がある」と就業規則や雇用契約書に定められていること、正当な理由があること、社員との合意が成立していることが条件となり、これらの要件を満たしていない場合は違法となる可能性があります。人事部門は、簡単に試用期間を延ばしてはいけないことを承知していたのに、現場がそれを知らず勝手に延長してしまうケースもあるようです。

【ケース3】不当な理由で突然解雇された 

「自社にキャラクターが合っていない」「期待していたほど活躍してくれない」などといった漠然とした理由で解雇することは、基本的に違法となります。試用期間であっても、合理性のない不当な理由で、社員を解雇することはできません。また、試用期間開始後14日を経過していれば、通常の解雇と同じく30日前に解雇通知をするか、その代わりに、30日分以上の平均賃金を支払うことが義務付けられています。

【ケース4】試用期間後に本採用を拒否された

試用期間終了後の本採用拒否は、労働契約の解約にあたり、上述した解雇と同じことになります。従って、解雇するための正当な理由が必要となります。社員が問題なく勤務してきたにも関わらず、企業が一方的に本採用を拒否することは、法的に認められません。

試用期間のトラブルへの対処法 

上記のようなトラブルに遭った場合は、もう一度就業規則や雇用契約書を確認した上で、まず社内での解決策を探しましょう。直属の上司に話をして、そこで解決できない場合は、人事部などの担当窓口に相談することをお勧めします。相談する際はあくまで事実ベースで、冷静に内容を伝えることが大切。書類を元に「労働条件について確認させていただきたいことがあります」などと切り出すといいでしょう。

社内での問題解決が難しい場合は、社外のしかるべき機関に相談しましょう。解雇や賃金に関しては労働基準監督署、雇用保険未加入はハローワーク、社会保険未加入は年金事務所が担当となります。また、都道府県の労働局でも、職場のトラブルに全般に関する相談や情報提供を実施しています。

厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」

試用期間中に退職した場合の転職活動の注意点

試用期間中に退職したり、また解雇されたりした場合も、履歴書には職歴として明記するようにしましょう。記載がなければ試用期間が空白期間となるため、応募企業が懸念を抱き、面接の際に指摘されるかもしれません。そのまま内定が出たとしても、社会保険の履歴などで発覚することもあります。やむを得ない事情などがあった場合は、退職理由を補足的に書き添えておくことも有効です。

面接で事情を聞かれた場合も、無理に取り繕ったりせず、事実ベースで伝えることが大切です。ただ、退職理由が会社への不満だった場合、そのまま伝えるとネガティブな印象になることも。前職の試用期間を経て自分なりに得られた収穫や、退職してしまった事への反省を交えながら、今後のキャリアについて前向きに考えていることを伝えましょう。

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社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。