前職を退職してから転職活動を始める場合、一定の条件を満たすと受給できる雇用保険の基本手当(失業保険)。受給中に次の仕事が決まった場合はどのような扱いになるのでしょうか?失業保険の概要と、受給する際の具体的な流れ、受給中に仕事が決まった場合の対応、再就職後にもらえる手当などについて、特定社会保険労務士の原 祐美子氏が解説します。
目次
失業保険(失業手当)とは
いわゆる失業保険(失業手当)とは、正式名称を「基本手当」といい、雇用保険制度のもと、求職者が安定した生活を送り、1日でも早く就職できるように支援する目的で支給される手当のことです。退職すれば必ず受給できるわけではなく、雇用保険の被保険者期間など、一定の要件を満たしている必要があります。
また、給付対象は64歳までで、65歳以上の場合、基本手当ではなく「高年齢求職者給付金」の対象となります。
雇用保険の基本手当(失業保険)の受給要件
基本手当を受給するには、次の1と2の両方にあてはまっていることが要件となります。
- ハローワークに来所し、求職の申し込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること
- 離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12カ月以上あること(※1)
(※1) 特定受給資格者(倒産・解雇等による離職の場合)と特定理由離職者(期間の定めのある労働契約が更新されなかった場合やその他止むを得ない理由による離職の場合)は、離職の日以前1年間に、通算して6カ月以上ある場合でも可。
したがって、仕事が決まった場合、就職する日以降は「失業の状態」ではなくなるため、基本手当の支給はなくなります。
雇用保険の基本手当(失業保険)の給付日数、受給金額、受給期間
基本手当の給付日数、受給金額、受給期間は、年齢などに応じて次のように定められています。
給付日数
基本手当の支給を受けることができる日数を「所定給付日数」といいます。所定給付日数は、離職した日の年齢や雇用保険の被保険者であった期間、離職理由などに応じて90日~360日の範囲で決定されます。所属企業の倒産や解雇などにより、再就職の準備をする余裕がなく離職したケースなどでは、一般の離職者に比べて手厚い給付日数が設定されています。
一般の離職者の基本手当の所定給付日数(※2)
被保険者であった期間 | |||||
1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
全年齢 | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
(※3) 所属企業の倒産や解雇などによる離職など「特定受給資格者」「特定理由離職者」、また「就職困難者」に該当する人は、別途期間が定められている。
受給金額
基本手当の1日あたりの給付額を「基本手当日額」といいます。基本手当日額は、原則として離職した日の直前の6カ月に支払われた月給の合計を180で割って算出した金額の50~80%(60歳~64歳には45~80%)で、賃金の低い人ほど高い率に設定されています。また、年齢区分ごとに上限額が定められています。
年齢区分ごとの基本手当日額上限(2023年8月1日現在)
30歳未満 | 6,945円 |
30歳以上45歳未満 | 7,715円 |
45歳以上60歳未満 | 8,490円 |
60歳以上65歳未満 | 7,294円 |
受給期間
基本手当の受給期間は、原則として、離職した日の翌日から1年間(※3)です。ただし、その間に病気やケガ、妊娠、出産、育児などの理由で、引き続き30日以上働くことができなくなった場合は、その日数分だけ、最大3年間まで受給期間を延長することが可能です。
(※3) 「特定受給資格者」、一部の「特定理由離職者」、または「就職困難者」で、所定給付日数が330日の人は1年と30日、360日の人は1年と60日となる。
雇用保険の基本手当(失業保険)を受給するまでの流れ
基本手当の受給手続きは、必要書類をハローワークに持参して求職の申し込みを行い、受給資格の決定を受けることから始まります。
ただし、受給資格の決定を受けた日から7日間は、基本手当は支給されません。この期間を「待期(たいき)」といいます。
退職理由による支給対象時期の違い
待期満了後は、退職理由が自己都合であるか会社都合であるかによって、次のように、給付制限期間が設けられる場合と、すぐに支給対象期間に入る場合があります。
自己都合退職の場合
自己都合で退職した場合、待期満了日の翌日から原則2カ月間(過去5年間にすでに2回以上自己都合で離職している場合は3カ月間)は、基本手当は支給されません。これを「給付制限」といいます。給付制限期間を終えた翌日以降、引き続き失業の状態にある場合に基本手当の支給が始まります。
また、重責解雇(労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇)により退職した場合も給付制限があり、待期満了の翌日から3カ月間は、基本手当は支給されません。
会社都合退職の場合
解雇、定年、契約期間満了(一定のものに限る)など、会社都合で退職した場合、待期満了日の翌日から支給対象となります。
受給の流れ【1】受給資格の決定を受ける(必要な持ち物)
基本手当の受給手続きを行う際は、以下の持ち物をハローワークに持参します。
- 雇用保険被保険者離職票-1
- 雇用保険被保険者離職票-2
- 個人番号確認書類:マイナンバーカード、通知カード、個人番号の記載のある住民票(住民票記載事項証明書)のうち1種類
- 身元確認書類:(1)のうち1種類、または、(2)のうち2種類。マイナンバーカードを持参する場合は不要
- (1)運転免許証、運転経歴証明書、官公署が発行した身分証明書・資格証明書(写真付き)など
- (2)公的医療保険の被保険者証、児童扶養手当証書など
- 写真2枚(縦3.0cm×横2.4cm):手続きごとにマイナンバーカードを提示することで省略可能
- 本人名義の預金通帳又はキャッシュカード
これらを持参して求職の申込みを行った上で、基本手当について「受給要件を満たしているか」「失業の状態ですぐに働けるかどうか」などが確認され、「受給資格の決定」がなされます。決定後、「受給資格者のしおり」が交付されます。
受給の流れ【2】雇用保険説明会に参加する
次に、受給資格が決定したおよそ1週間後に開催される「雇用保険説明会」に参加します。「受給資格者のしおり」に基づいて、2時間ほどにわたって受給期間中の手続きや、失業認定申告書(4週間に1回の失業認定日に提出する書類)の書き方などの説明を受けます。また、「雇用保険受給資格者証」など、今後、雇用保険の手当を受給する際に必要な書類も交付されます。
受給の流れ【3】失業認定日にハローワークに行く
受給資格決定からおよそ1カ月後に、初回の「失業認定日」が設定されます。失業認定日は、原則、4週間に1回設定され、その都度ハローワークに行き、前回の認定日から今回の認定日の前日までの期間、失業の状態であったことの認定を受けます。
具体的には、前回の認定日から今回の認定日の前日までの期間の状況(「求職活動を行っているか」「就労や内職をした日があるか」など)を失業認定申告書に記入し、提出します。この失業認定申告書の内容をもとに、ハローワークは前回の認定日から今回の認定日の前日までの期間の基本手当を支給する手続きを行います。
受給の流れ【4】求職活動を行う
次の失業認定日までに、原則2回以上の求職活動を行う必要があります。具体的には、求人への応募、ハローワークが行う職業相談、職業紹介、各種講習への参加などが該当します。
雇用保険の基本手当(失業保険)の受給中に仕事が決まったときに必要な手続き
基本手当の受給中に仕事が決まった場合、ハローワークに必要書類を持参し、「就職の届け出」を行います。就職の届け出を行う日は認定日や就職する日によって異なるため、次の手順でハローワークに確認しながら手続きを進めましょう。
【1】ハローワークに連絡する
まずは、仕事が決まった段階でハローワークに一報を入れます。連絡方法は電話で構いません。その際、就職の内容・状況についてのヒアリングや、ハローワークに就職の届け出に行く日の指示などを受けることがあります。
就職の届け出を行う日は、一般的には以下とされていますが、ハローワークの指示に従いましょう。
- 就職日が次回認定日より後の場合…次回認定日
- 就職日が次回認定日より前の場合…原則として、就職日の前日(土日祝日の場合、その前の開庁日)
【2】就職先に「採用証明書」を記入してもらう
次に、就職の届け出を行う際に必要となる「採用証明書」を就職先に記入してもらいます。採用証明書は、「受給資格者のしおり」の巻末に添付されています。もしくは、居住地のハローワークや労働局のホームページからダウンロードすることも可能です。
【3】必要書類をハローワークに持参し、就職の届け出を行う
次の書類を、ハローワークから指示を受けた日に持参し、就職の届け出を行います。
- 雇用保険受給資格者証(雇用保険説明会などで交付されたもの)
- 失業認定申告書
- 採用証明書(次の就職先に記入してもらったもの)
仕事が決まったあとに受給できる手当
基本手当は、就職する日の前日分まで支給され、就職した日以降は支給対象外となります。ただし、基本手当以外の手当で、所定の要件を満たしていれば就職後などに受給できるものがあります。次の要件に該当する可能性がある場合、ハローワークに相談してみましょう。
再就職手当
再就職手当は、基本手当の所定給付日数が3分の1以上残っている状況で、1年を超えて勤務することが確実な仕事に就いた人が、所定の要件を満たしている場合に受給できる手当です。受給条件は、次の8つすべてを満たしていることです。
- 基本手当の受給手続き後、7日間の待期満了後の就職であること
- 基本手当の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上あること
- 離職前の事業主に再び雇用されたものでないこと(資本・資金・人事・取引等の状況からみて、離職前の事業主と密接な関係にある事業主も含む)
- 離職理由による給付制限を受けた場合は、待期満了後1カ月間は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介により就職したものであること
- 1年を超えて勤務することが確実であると認められること
- 原則として、雇用保険の被保険者になっていること
- 過去3年以内の就職について、再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けていないこと
- 受給資格決定(求職申し込み)前から採用が内定していた事業主に雇用されたものでないこと
就業促進定着手当
就業促進定着手当は、再就職手当の支給を受けた人が、再就職先で6カ月以上働き続けていて、かつ、再就職先で6カ月間に支払われた賃金が基本手当の支給を受ける前の仕事での賃金に比べて低下している場合に受給できる手当です。受給要件は、次の3つすべてを満たしていることです。
- 再就職手当の支給を受けていること
- 再就職手当の支給を受けた再就職の日から、同じ事業主に引き続き6カ月以上雇用されていること
- 再就職手当の支給を受けた再就職の日から6カ月間に支払われた賃金額の1日分の額が、離職前の賃金日額(基本手当の給付を受ける前の仕事における賃金の1日分の額)を下回ること
就業手当
就業手当は、基本手当の所定給付日数が3分の1以上かつ45日以上残っている状況で、アルバイトなど1年を超える見込みのない職業に就いた場合に、就業日ごとに受給できる手当です。受給要件は、次の6つすべてを満たしていることです。
- 職業に就いた日の前日における基本手当の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上かつ 45 日以上であること
- 再就職手当の支給対象とならない職業に就いたこと
- 待期満了日後の就業であること
- 離職理由による給付制限を受けた場合には、待期満了後1カ月間についてはハローワーク等、または許可・届け出のある職業紹介事業者等の紹介による就業であること
- 離職前の事業主に再び雇用されたものでないこと(資本・資金・人事・取引等の状況からみて、離職前の事業主と密接な関係にある事業主も含む)
- 受給資格決定(求職申し込み)前から採用が内定していた事業主に雇用されたものでないこと
基本手当(失業保険)に関するQ&A
基本手当に関する「よくある質問」をピックアップして紹介します。
基本手当の受給中に業務委託で働くことは可能です。その場合、1日の労働時間や収入額などによって「就職または就労」または「内職または手伝い」に分類され、働いた日は、基本手当が支給されなかったり、減額されたりする場合があります。いずれにしても、申告せずに基本手当を受給した場合は不正受給となる可能性があるため、失業認定日に提出する失業認定申告書に必ず記載し、報告しましょう。
給付制限期間中であっても、就職が決まった場合は、就職の届け出を行います。まずはハローワークに連絡し、就職の届け出を行う日などを確認しましょう。
社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズ 特定社会保険労務士 原 祐美子(はら ゆみこ)氏
大学卒業後、外資系計測器メーカーに勤務。参議院議員の事務所に勤務時に、社会保険労務士試験に合格。2005年、なぎさ社会保険労務士事務所を開業。2016年、社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズ東京事務所長に就任。顧問先の労務相談・諸規程の作成、労働保険・社会保険関係手続き・給与計算にかかわるほか、上場準備企業の労務監査や支援も行う。「聞いてもらえてよかった。この人がいてくれてよかった」と思われる対応を心がけている。産業カウンセラー、第一種衛生管理者の資格も保有。
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