雇用保険とは?転職する場合の雇用保険被保険者証の手続き【社労士監修】

失業や休業をした際に、生活や雇用の安定を図るために手当を受け取ることができる制度が「雇用保険」です。在職時には意識していないかもしれませんが、会社を辞めたり転職活動をしたりする際にとても頼りになる存在です。そこで、雇用保険の種類や転職時に必要となる雇用保険の手続きについて解説します。

雇用保険とは?

雇用保険とは、公的な保険制度の一つです。労働者の生活や雇用の安定化を図り、再就職を促進することを目的としています。失業している、あるいは教育訓練を受ける場合などを対象に基本手当(失業保険)が給付されるほか、育児休業・介護休業をしている方などに対しても、雇用の継続を支援する目的で給付が行われます。

雇用保険の加入条件

以下の条件に該当した場合、雇用保険の被保険者となります。企業は雇用保険の被保険者に該当する従業員を雇った場合、雇用保険の加入手続きをしなければなりません。入社の翌月10日までに企業が「資格取得届」をハローワークに提出し、「雇用保険被保険者証」と「雇用保険資格取得等確認通知書(被保険者通知用)」が交付されます。

  • 雇用期間が31日以上
  • 1週間の所定労働時間が 20 時間以上

雇用保険の確認方法

自身が雇用保険に加入しているか知りたい場合は、以下の3つの方法で確認することができます。

  • 給与明細に「雇用保険料の控除」の記載があるか確認する
  • 雇用保険被保険者証(後述)または雇用保険資格取得等確認通知書を確認する(所属企業が保管しているケースもあるので、手元にない場合は企業に確認する)
  • ハローワークの「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」に必要事項を記載し、訪問または郵送で提出する

雇用保険の給付の種類

雇用保険制度では、さまざまな支援が設けられていますが、大きく分けると「失業等給付」「育児休業給付」「雇用保険二事業」の3つがあります。

■失業等給付
求職者給付
就職促進給付
教育訓練給付
雇用継続給付

■育児休業給付
育児休業給付金

■雇用保険二事業
雇用安定事業
能力開発事業

失業等給付

「失業等給付」は「求職者給付」「就職促進給付」「教育訓練給付」「雇用継続給付」の4つに分類されます。

求職者給付

求職者給付は対象者によって大きく4つに分類され、「一般被保険者に対する給付」「高年齢被保険者に対する給付」「短期雇用特例被保険者に対する給付」「日雇労働被保険者に対する給付」があります。

一般被保険者に対する給付

「一般被保険者に対する給付」には、4つの手当があります。

基本手当

一般的に「失業保険」「失業手当」と言われているのが、「基本手当(失業給付)」です。失業や教育訓練を受ける際に、安定した生活を送りながら早く就職できるように、離職前の給与金額に基づいて一定額の手当を支給しています。

「失業していれば必ずもらえる」と考えている方もいるかもしれませんが、給付を受けるためには雇用保険に定められた期間以上加入していなければならないなど、一定の条件をクリアする必要があります。

技能習得手当

受給資格者が、公共職業安定所長または地方運輸局長の指示により公共職業訓練等を受講する場合に、基本手当とは別に技能習得手当を受けることができます。

寄宿手当

受給資格者が公共職業安定所長の指示した公共職業訓練等を受けるために、家族と別居して寄宿した場合に受給することができます。

傷病手当

受給資格者がハローワークで求職の申し込みをした後に、15日以上疾病または負傷で就職できない場合に、受給することができます。

高年齢被保険者に対する給付

高年齢被保険者に対する給付は、以下の通りです。

高年齢求職者給付金

65歳以上の被保険者で、かつ短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者に当てはまらない求職者が高年齢被保険者に該当します。高年齢被保険者が失業した場合、被保険者期間に応じて基本手当日額の30日分または50日分に相当する給付を受けることができます。

短期雇用特例被保険者に対する給付

短期雇用特例被保険者に対する給付は、以下の通りです。

特例一時金

一般的な被保険者と異なり、季節雇用されている方(短期雇用特例被保険者)を対象とした給付です。受給するには、一定の要件を満たす必要があります。

日雇労働被保険者に対する給付

日雇労働被保険者に対する給付は、以下の通りです。

日雇労働求職者給付金

日雇労働者とは、日ごとに雇用される、または30日以内の期間を定めて雇用される方を指します。日雇労働被保険者の場合は、雇用形態に即した給付を受けることができます。

就職促進給付

就職促進給付とは、失業者に少しでも早く再就職をしてもらうことを目的とした給付制度です。「再就職手当」「就業促進定着手当」「就業手当」などがあります。

就業促進手当

「就業促進手当」は早期就業を目的とした各種給付で、大きく4つに分けられます。

再就職手当

再就職手当とは、基本手当の受給資格を持つ方が、基本手当の受給決定を受けた後、早い段階で安定した職業に就いたり、自身で事業を開始したりした場合に支給される手当のことです。基本手当の支給日数が3分の1以上残っていて、一定の要件に該当する場合に支給されます。

就業促進定着手当

就業促進定着手当とは、新たな就職先の賃金が以前勤めていた会社の賃金よりも低下した場合に支給される制度です。再就職手当の支給を受けた方が、新たに就職した会社で6カ月以上働き続けており、なおかつその再就職先で6カ月間に支払われた賃金の1日分の額が、以前勤めていた会社の賃金に比べて低い場合に給付を受けることができます。

就業手当

就業手当は、基本手当の受給資格を持つ方が、再就職手当の支給対象ではない常用雇用等以外の形態で就業した場合に支給される手当のことです。基本手当の所定の支給日数が3分の1以上かつ45日以上残っており、一定の要件に該当する場合に給付を受けることが可能です。

常用就職支度手当

基本手当の受給資格を持つ方や、高年齢受給資格者、特例受給資格者または日雇受給資格者のうち、障害のある方などが安定した仕事に就いた場合に、給付を受けることができます。受給するには、一定の要件に該当している必要があります。

移転費

ハローワークや特定地方公共団体、職業紹介事業者の紹介によって、就職や職業訓練の受講のために住所を変更する場合に給付を受けることができます。移転費は通勤(所)時間が往復4時間以上、または通勤(所)が著しく困難な場所、または事業所や訓練施設の要望で移転を余儀なくされる場合など、一定の要件に該当する場合に給付を受けることが可能です。

求職活動支援費

求職活動支援費は、主にUIJターンなどを希望する雇用保険の受給資格者を対象にした給付です。求職活動支援費は3つに分類されます。

広域求職活動費

広域求職活動費は、雇用保険の受給資格者がハローワークの紹介で遠方の事業所を訪問して面接した場合に給付を受けることができます。広域求職活動費は、雇用保険の受給手続を行っているハローワークから、訪問する求人事業所の地域を管轄するハローワーク間の距離(往復)が200キロメートル以上あるなど、一定の条件を満たした場合に支給されます。

短期訓練受講費

雇用保険の受給資格者がハローワークの指導で1カ月未満の教育訓練を修了した場合に、支払った教育訓練経費の2割(上限10万円、下限なし)が支給されます。一定の要件に該当する場合に給付を受けることが可能です。

求職活動関係役務利用費

雇用保険の受給資格者等が面接をしたり教育訓練を受講したりするために、認可保育所や認可幼稚園、認定子ども園や一時預かりなどのサービスを利用した場合、負担した費用の一部が支給されます。支給対象となる面接や教育訓練など、一定の要件が定められています。

教育訓練給付

教育訓練給付については、以下の通りです。

教育訓練給付金

厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際、その教育訓練の受講費用の一部が支給される制度です。労働者のスキルアップやキャリアチェンジなどを支援するための制度で、正社員はもちろん、パート・アルバイト、派遣労働者なども給付金の支給対象となっています。

雇用継続給付

雇用継続給付とは、職業生活の円滑な継続を援助することを目的とした制度です。「高年齢雇用継続給付」「育児休業給付」「介護休業給付」の3種類があります。

高年齢雇用継続給付

高年齢雇用継続給付には、「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2種類があります。

高年齢雇用継続基本給付金

基本手当を受給していない60歳以上65歳未満の方を対象として、一定の要件を満たした被保険者が受給することができます。

高年齢再就職給付金

基本手当を受給し再就職した60歳以上65歳未満の方を対象として、一定の要件を満たした被保険者が受給することができます。

介護休業給付

介護休業給付金とは、家族を介護するために休業をした雇用保険の被保険者が受けることが可能な給付制度です。この給付金は、支給対象となる同じ家族について、93日を限度に最大3回まで受け取ることができます。

ただし、対象家族は、被保険者の「配偶者」「父母(養父母を含む)」「子(養子を含む)」「配偶者の父母(養父母を含む)」「祖父母」「兄弟姉妹」「孫」です。家族が2週間以上にわたって常時介護が必要な場合、かつ休業期間を明らかにして事業主に申し出を行っていることが条件となります。

育児休業給付

育児休業給付については、以下の通りです。

育児休業給付金

育児休業給付金とは、育児休業終了後の職場復帰を前提とした給付金です。雇用保険の被保険者が育児休業を取得した場合、一定の受給資格を満たせば、育児休業期間中に給付金を受け取ることができます。男性も育児休業給付の対象となります。

雇用保険二事業

雇用保険二事業は、失業の予防や雇用機会の拡大、求職者の能力開発などを推進する事業を指します。二事業は「雇用安定事業」と「能力開発事業」があります。

雇用安定事業

雇用を促進するための、事業主に対する助成金や求職者に対する再就職支援、若者や子育て女性に対する就労支援などを行っています。再就職支援は、特に中高年で再就職の緊急度が高い求職者に対して、就職相談や職業紹介を行っています。

能力開発事業

能力開発施設の設置や職業訓練の推進、職業能力評価制度の整備などを行っています。一人ひとりが最適なキャリア形成を行うために、事業主に対してキャリア形成促進のための助成金を行うなど、求職者に限らず在職者に対しても能力開発を推進しています。

雇用保険被保険者証とは?転職する場合の手続き

雇用保険被保険者証とは、雇用保険資格取得等確認通知書とともに雇用保険に加入した際にハローワークから発行される証明書です。自身が雇用保険に加入していることを証明するために必要となります。発行された雇用保険被保険者証は、なくさないように退職まで企業が保管するケースも多いようです。

転職する際は、前職で加入していた雇用保険の引き継ぎをしなくてはなりません。この引き継ぎの際に必要となるのが、雇用保険被保険者証に記載されている「被保険者番号」です。雇用保険は転職先の企業が手続きを行うため、被保険者本人が対応することはありませんが、手続きのために転職先から雇用保険被保険者証の提出、または被保険者番号を求められます。

なお、企業によっては、原本を提出せず雇用保険被保険者証のコピーで対応してもらえることもあるようです。その場合は、原本をなくさないように保管しておきましょう。

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社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡 佳伸(おか よしのぶ)氏

アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。