累計発行部数400万部を超える空前の大ヒットを飛ばし、2003年の新語・流行語大賞も受賞したベストセラー『バカの壁』。 「バカの壁」とは「人間の持つ思考の限界」だとし、「バカの壁」が立ちはだかるために、人と人との話が通じないことがあると著者の養老孟司氏は指摘しています。「話せばわかる」なんて真っ赤な嘘。この世にはびこる知への誤解と欺瞞に、養老氏が物申す1冊です。
書名:バカの壁/出版元:新潮新書/著者名:養老 孟司
累計発行部数400万部を超える空前の大ヒットを飛ばし、2003年の新語・流行語大賞も受賞したベストセラー『バカの壁』。 「バカの壁」とは「人間の持つ思考の限界」だとし、「バカの壁」が立ちはだかるために、人と人との話が通じないことがあると著者の養老孟司氏は指摘しています。「話せばわかる」なんて真っ赤な嘘。この世にはびこる知への誤解と欺瞞に、養老氏が物申す1冊です。
要約
テレビの情報だけで「わかっている」と思い込む人々。そして人間は刻々と変わるものなのに、ありもしない「個性」を伸ばそうと躍起になる社会は「バカの壁」によって生み出されるのです。「バカの壁」とは、人間ひとりひとりが何かを理解しようとする時にぶつかる限界を指します。「話せばわかる」と信じてコミュニケーションを取り続けても上手くいかない場合、この「バカの壁」を誰しも持っているということを念頭に置くと、楽になれるかもしれません。
読み応えのあるポイント
本書のポイントは大きく分けて5つあります。本書が執筆されたのは10年以上前のことですが、取り扱われているテーマは10年経っても色褪せるどころか、さらに根深い問題になっているのではないでしょうか。
「わかっているつもり」は恐ろしい
養老氏は、ある夫婦の妊娠から出産までを追ったドキュメンタリーを学生に見せた際のエピソードを挙げています。出産の映像を目の当たりにした女子学生が「新しい発見がたくさんありました」と感想を述べた一方、男子学生は「こんなことはすでに保健の授業で知っていることばかりだ」と言うのです。同じものを見ているはずなのに、とらえ方がまるで違う。このことについて養老氏は、前提となる常識についてスタンスが異なることに気づかず、「わかっている」と思い込んでいるのだと喝破します。
私たち人間は自分にとって興味のある情報しか見ようとせず、かつニュースなどの情報を鵜呑みにして「わかったつもり」になっている人が多いと養老氏は指摘します。 一日に触れる情報量が爆発的に増え、情報の取捨選択を強いられる現代人にとっては重大な問題ではないでしょうか。
「個性」と「共通了解」を求める社会がマニュアル人間を生む
本書では、多くの人が共通の情報を与えられ、それを了解することで、共通認識が高まり社会が発展していく一方、個性や独創性を重視するという傾向が強まってきた経緯が説明されています。
たとえば、職場などでは「身だしなみを整えろ」「飲み会には付き合うものだ」「新入社員は先輩よりも早く出社しろ」など、特定のルールに従うことを強要するのに、「オリジナリティを発揮しろ」「イノベーションを起こせ」とも求めます。コミュニティの規定に従わないといけない。一方で、個性もアピールしないといけない……。そんなジレンマに陥った結果、生まれたのがマニュアル人間だと養老氏は述べます。「本当は他人と違うのですが、マニュアルをくれれば何でもこなしてみせます」という態度で、お茶を濁しているのです。
最近のゆとり世代、さとり世代は指示待ち型だと言われますが、もしかしたら、それは矛盾した振る舞いを求められる彼らの苦肉の防衛策なのかもしれません。
「私らしさ」など、どこにも存在しない
近年「自分らしく生きる」ことをテーマにした映画がヒットを飛ばしていますが、それは「自分らしく生きることができていない」と息苦しさを覚えている人が多いことの裏返しでもあります。
しかし、本書では「私らしさ」など存在しない、特定の「個性」などないと断じています。多くの人は、一生変わることのない自分が存在すると考えていますが、万物流転、諸行無常の言葉通り、人間は常に変化していくものです。ある日を境に、自分自身が根底から覆されることは、往々にしてあるのです。
現代人は「身体」を忘れてきた
人は知識をインプット、つまり脳への「入力」と、身体を使って実際に行動する、つまり脳からの「出力」を繰り返すことによって学習していきます。しかし、最近の人々は「出力」=身体活動 をおろそかにしており、知識のインプットだけで全てを理解しているかのように振る舞っています。それが、「わかったつもり」にも繋がっているのです。
「唯一無二の真実」を信じることが人としての基盤を弱くする
この世に「絶対的な真実」など存在しません。しかし、都市化や近代化を通じて、かつてのような拠り所となる基盤を失ってきた現代人は、唯一無二の考え方にすがろうとします。そのほうが頭を働かせなくて済むからです。 しかし、まるで一神教を信奉するかのように「絶対的な真実」の存在を信じている限り、他人と話は通じないと養老氏は一蹴します。それは、ただひとつの正解(のようなもの)だけを正とし、他の考えを受け入れないということだからです。
働き方も、人生におけるロールモデルも多様化している今こそ、「バカの壁」に妨げられないよう、強く意識する必要があるのではないでしょうか。
こんな人に読んでもらいたい
メディアの情報をついつい鵜呑みにしがちな人や、家庭・職場でコミュニケーションを上手くとれない人。「どうして自分の言うことをわかってくれないんだ!」とイライラしがちな人。
併せて読んでほしい本
「~壁」シリーズのうち、『自分の壁』『超バカの壁』は、本書の内容に深く関連しています。また、身体活動を通じて意志や脳の働きが鍛え上げられていく、という点では、『脳には妙なクセがある』など、池谷裕二氏の著作もおすすめです。