本連載で過去2回、「幹部人材」(ミドルマネジメント層)と「経営人材」(経営陣・事業責任者・部門責任者層)との違いについてご紹介しました。「幹部人材」と「経営人材」、その間にある大きなキャズム(溝)とは?「幹部人材」と「経営人材」を分けるもの。大変ご好評いただき、今回はその3回目として、「幹部人材」と「経営人材」とで実際の転職活動時に、どのような違いがあるかについてご紹介してみたいと思います。
目次
本連載で過去2回、「幹部人材」(ミドルマネジメント層)と「経営人材」(経営陣・事業責任者・部門責任者層)との違いについてご紹介しました。
「幹部人材」と「経営人材」、その間にある大きなキャズム(溝)とは?
「幹部人材」と「経営人材」を分けるもの。
大変ご好評いただき、今回はその3回目として、「幹部人材」と「経営人材」とで実際の転職活動時に、どのような違いがあるかについてご紹介してみたいと思います。
幹部人材=<整った場を求める> vs 経営人材=<宿題のある場を求める>
そもそも転職をする理由が何なのかによって、皆さんが転職先に求めるものは当然異なってきます。
職務のレベルや幅を広げたい、もっと裁量権を持ちたい、異なる職務にチャレンジしたいなどの職務要件にまつわることから、給与などの雇用条件を改善したい、人間関係の折り合いが悪くリセットしたい、親の介護などの事情により実家近くに勤務地と居住地を移したいなどの付帯条件での希望や事項もあるでしょう。
もちろん転職には、不満要素の解消が含まれる場合がほとんどですから、それを解消してくれる「整った場」を求めるのは当然と言えます。
しかし、経営人材の方の転職では、これらの要素が含まれていたとしても、本筋としては、次の場に「自分が解決すべき宿題」が存在していることが求められます。あるいはそれを求める姿勢と気概のある方が、経営人材として採用されるのです。
「コーポレートガバナンスが充分に機能していない」「効果的なマーケティング施策が実行できていない」「キャッシュフローマネジメントに問題がある」「従業員エンゲージメントをなんとか向上させたい」
こうした転職先企業の課題に対して、「それはなかなか厳しい会社だな(、やめておこう…)」という判断をするのか、「なるほど、その宿題をぜひ自分の経験と専門で解決してやろう」という判断をするのか。ここにまず、「幹部人材」と「経営人材」との大きな境界線が存在します。
逆に「経営人材」にとっては、転職先に自分がダイナミックに着手し片付けるべき宿題のない案件は、選択に値しないものなのです。
シンプルに言えば、「課題解決型思考・行動ではない人が、経営人材であることはない」のです。
幹部人材=<環境不満で転職> vs 経営人材=<成功を引っ提げて転職>
最近、別の連載でも書いたのですが、どうも昨今の転職ブームの中で、もしかしたら根本的な勘違いが増えているのではないか?と感じているのが、本来、転職とは「成功を引っ提げて」おこなうものだということです。特にエグゼクティブ層においては、これは当然のことだったはず。しかし「環境不満や現場逃避」の転職が一般的になっているように感じることに残念さと一抹の寂しさを感じざるを得ません。
「経営人材」の方々は等しく、ここまでのご自身のご実績、成功を携えて、「次に、このようなチャレンジをしたい。それで成果を出し、マーケットや自社・自組織に貢献したい」と転職します。
そもそもここまでで事業成果を挙げていない人、任されたミッションを完遂してきていない人に、経営層のポジションをお任せするわけにはいきませんよね。
現職で充分にパフォーマンスできていないから、うまく成果を出せていないから、転職して経営職に就きたい、独立や起業しようと思っている。
そんな方がいらっしゃいますが、非常に危険です。この場合は、転職検討の前に、まず現職でしっかりやり切ること、なにがしかの成果を出すことに集中すべきでしょう。
よしんば独立や起業というならば、「社内外の誰もが認める圧倒的な成果を出した人」以外が成功するということはありません。勢いで飛び出して、最初はがむしゃらにやるのはまあ良いとして、少し時間が立って厳しい現実に突き当たる人たちを、私も数え切れないくらい見てきました。冷静にご自身の状況やいま持っているものを見つめ直してみて欲しいです。
逆に「機は熟した」という方は、ぜひ、足踏みせずに次のチャレンジへ踏み出しましょう。成功からのジャンプほど高く跳べるものはありませんから。
幹部人材=<意思決定のサポートを求める>vs 経営人材=<情報を得られれば、自分で決める>
私たちエグゼクティブサーチ・コンサルタント、人材エージェントからして、「経営人材」ほどお付き合いするのにありがたい方はありません。
なぜかというと、彼らはご自身で明確な判断軸をお持ちだからです。私たちが彼らにすること(できること)は、素材提供、情報提供のみと言ってもいいかもしれません。
企業や案件の吟味、取捨選択、検討はご自身の持つ判断軸によります。「井上さん、なるほど、これこれの理由で、この件で進めたい」、そんな会話となります。
語弊を恐れず、言葉を選ばず言えば、「楽」なんですよね(笑)。
対して「幹部人材」の方々には、我々がすべきことは非常に多くなります。そもそもどのように考えるべきか、ご自身が大切にされていることは何なのか、検討されている各案件はそれぞれどのような意味を持つか、どの観点ではどのポジションが向いていると思われるか…これらのことに逐一ディスカッションしながら活動を進めることになります。それが我々の介在価値でもあり、お役に立てている実感を非常に持てるのですが、注意しなければいけないのは、全てにおいて、本来、選択し決めるのは転職活動をされている幹部人材のあなた自身である、ということです。
時折、選択自体をエージェントに委ねてしまう方がいらっしゃいますが、危険です。万が一、それで転職後にフィットしていなかったというようなことがあったら、エージェントを責めても一旦転職したという事実は消えませんから。
念のため、ご経歴やご志向、ご人物タイプなどにもより、「幹部人材スタンス」で転職活動をされることを全否定するものではありません。
ただし、キャリアカーバーユーザーの皆さまに多くいらっしゃる、「経営の一翼を担いたい」というご志向で現在・未来に役割を得るための転職活動をされるならば、肩書き如何を問わず、「経営人材スタンス」での転職活動をぜひ実現、実行いただければと思います。
ではまた、次回!
井上和幸
1989年早稲田大学卒業後、リクルート入社。2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年よりリクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)。2010年に経営者JPを設立、代表取締役社長・CEOに就任。 『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ずるいマネジメント』(SBクリエイティブ)『30代最後の転職を成功させる方法』(かんき出版)など著書多数。