悩むミドル。希望退職に応募すべきかどうか?
日本ハム、約3,850万円。協和発酵キリン、約1,723万円。富士通、約1,618万円。過去3年以内に希望退職を実施した企業の「一人あたりの特別損失」から算出した割増退職金の想定金額です。3年前に希望退職を実施した三越伊勢丹HDでは、最大5000万円の退職金増額がニュースとなりました。続々と発表される希望退職を前に、応募すべきかどうかを悩む40代の方からの相談が増えています。
先日、転職相談でお会いした44歳の男性は、早期希望退職に応募して、会社を辞め、転職活動をしている方でした。国立大学を卒業後、大手電機メーカーに就職、当初技術部門で設計などを経験した後、本部で人事、総務、経営企画など後半は管理部門で活躍してこられた方でした。
「できれば、近い業界の管理部門で、経営企画などのポジションがあれば紹介してほしい」というのがご依頼の内容でした。
「希望年収は前職と同程度の1,200万円以上。下がるとしても1,000万円以上は確保したい」というのが希望条件。
しかし、履歴書と職務経歴書を見ると、退職からすでに10カ月以上経過していました。理由を聞くと、「退職後は少しゆっくりしようと思い、昨年末までは転職活動もスローペースで求人サイトに登録した程度。年明けから、何社かの転職エージェントに登録して本格的に活動を始めました」という回答。
具体的に退職金や貯金額をお聞きしませんでしたが、「一生それで暮らせるほどの金額ではない」ということだったので、本来はあまり悠長にしていられる状況ではありません。新型コロナ感染症問題で採用活動が止まっている企業があるにしても、ペースが遅すぎる状況でした。
リタイアまでの最低必要コストを試算しているか?
早期希望退職の最大のリスクは、金額の大きな割増退職金が一気に入金されることで余裕を感じてしまうことにあります。一般的には早期希望退職時の退職金割増分の金額は「年収の2倍」というのが相場のようです。経団連が2019年1月に発表した定期賃金調査結果によると、大卒45歳(総合職)の平均年収は528万円ですから、約1,000万円が、通常の退職金に加算されることになります。
昨今は45歳以上をターゲットにした早期希望退職が増えていますが、例えば45歳だと年金受給開始の65歳まで20年間もあります。ただでさえ年金だけでは生活できないという不安なニュースが流れているのですから、一時的な割増退職金に安心しているわけにはいかないという方が大半だと思います。
また中途採用に関して言えば、合理的な理由がないまま長く無業期間が続くことを、非常にネガティブにとらえる企業が多く、転職活動そのものにマイナス影響を及ぼしかねません。早期退職を検討される方には、やはり、前職の就業中に転職先を決めることを理想の状態と置いて、退職後3カ月以内、長くても半年以内には新天地を決める覚悟で臨んでいただければと思います。
もう一つ重要なことは、リタイアするまでのコストと老後の必要コストの見立てです。
老後生活に必要とされる貯蓄額は「3,000万円」とも「1億円」ともいわれています。平均的な家計像として、総務省の家計調査から平均支出額を見てみると高齢無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の消費支出は月平均約24万円。
この24万円の支出を、年金だけで賄っている世帯は少数派で不足分は貯蓄を取り崩すか、何かしらの収入で補てんして生活していく必要があります。
必要とされる老後のための貯蓄額として巷で言われている「3,000万円」は、60歳で定年退職してから年金受給開始年齢の65歳までの5年間の生活費と、65歳以降の毎年の赤字額の合計から算出されているそうです。これらの支出を頭に入れて、将来のライフプランを設計しておく必要があります。
人生100年時代と言われますが、「言うは易く行うは難し」です。就職してからの数十年に、自分のアタマの中に積もった既成概念を落として、自分の中にある価値の本質を確認し、また、人材市場が求めている能力や経験の本質を探りながら、活躍できる場所を探していただけたらと思います。
本質的なるものは、以下の性質で表現されることがあります。
●普遍性がある(応用がきくものは幅広い)
●不変性がある(時が経っても変わらないことは価値がある)
●明快性がある(シンプルであることが強い)
また、本質性が高いものを発見するには、
●長期的目線でモノを見る
●多面的な角度でモノを見る
●根本的な視点でモノを見る
という視点が役に立ちそうです。
抽象的な表現ではありますが、これらを意識するだけで「木を見て森を見ず」な状況を回避できるなら、それに越したことはありません。与えられた能力を生かして、長く生き生きと働き続けるために、少しでも多くの自分の中の可能性を引っ張り出していただければ幸いです。
ルーセントドアーズ株式会社代表取締役
黒田 真行(くろだ まさゆき)
日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。1989年リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。14年ルーセントドアーズを設立。著書に「転職に向いている人 転職してはいけない人」など。2019年、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を開始。
「CanWill」https://canwill.jp/
「Career Release40」http://lucentdoors.co.jp/cr40/