給与交渉はいつ?どう進める?タイミングと注意点を解説

転職活動を進める際、条件面で重視する要素の一つが「給与」です。とりわけ30代後半以降の転職の場合、結婚や育児、介護などの事情により、仕事内容に魅力を感じていても給与面がネックとなるケースもあるでしょう。そこで、転職活動での与交渉のタイミングと伝え方の注意点について、組織人事コンサルティングSegurosの粟野友樹氏に解説いただきました。

転職活動で給与交渉は行ってもいい?

転職活動において給与交渉をすることは問題ありません。むしろ、提示された給与に違和感があるのなら、交渉をしないのは機会損失になります。

ただし、交渉が必ず成立するわけではないことや、交渉するタイミングや交渉の仕方によっては選考結果に影響が出る場合もあることには留意しておきましょう。

給与交渉に影響を与える「企業からの評価」

給与交渉が成立するかどうかに、応募者に対する企業側の評価が影響することがあります。例えば、応募者の評価が高ければ、希望を聞き入れてもらえる可能性は高まります。反対に、評価がさほど高くない場合、経験やスキルなどの求める条件に足りていない、もしくは経験やスキルはある程度はあるものの、企業の想定額を上回ってまで採用したいと思わないといった考えから、聞き入れてもらえないケースがあります。

また、「他社から年収1000万円を提示してもらっているので、御社にも年収1000万円を希望します」などと待遇の良い他社と同額を迫るような場合、評価が高くても志望意欲に懸念を抱かれ、採用を見送られる可能性が出てきます。このあと紹介する「給与交渉の言い方・伝え方の注意点」を参考に、交渉の仕方に注意しましょう。

転職で給与がアップしている人の割合と年収交渉の相場

では、実際に転職して年収が上がった人はどのくらいいるのでしょうか?年収の決まり方などとあわせて解説します。

転職で年収がアップしている人の割合は約35%

厚生労働省による「令和3年雇用動向調査」(※1)によると、2021年の1年間の転職入職者449万9400人のうち、前職の賃金に比べて「増加」した割合は34.6%、「減少」した割合は 35.2%、「変わらない」割合は29.0%となっており、転職時に年収がアップするケースよりも、減少するケースの方が若干多いことが分かります。

なお、「増加」のうち「1割以上の増加」は 23.7%、「1割未満の増加」は11.0%、「減少」のうち「1割以上の減少」は 26.3%、「1割未満の減少」は9.0%でした。

(※1)出典:厚生労働省 令和3年雇用動向調査 転職入職者の状況「転職入職者の賃金変動状況別割合」

応募者の年収の決まり方

企業が応募者の給与を決める際には、現職での年収や市場価値、企業側の採用意欲、他社からのオファー状況、現職での昇給可能性などを考慮した上で、その企業の給与テーブルのどこに当てはめるかを判断します。

例えば、長らく採用できていないポジションなど、緊急性や重要度の高い求人であれば給与が高めに設定されたり、「給与交渉に応じるのも止むを得ない」と判断してもらえたりすることがあります。他方で、応募者多数の求人であれば、企業が設定した給与水準で採用する方針がとられる場合もあります。

なお、企業が応募者の希望に応じて給与を増額する場合、「その企業の給与テーブルの中でグレードを上げて支給額を上げる」「調整手当や入社時ボーナスなどの一時的な支給で応じる」などの方法をとることが多いようです。

年収交渉の相場感は?

年収交渉の相場として、「○万円UPを相場と考えよう」といった目安はありません。ただ、厚生労働省の雇用動向調査においては「年収が1割以上上がったかどうか」が調査項目に入れられているため、「1割の増額」を目安に、現職での年収や自身の生活水準などを加味して交渉額を検討するのは1つの方法かもしれません。

給与交渉をしやすい3つのタイミング

給与交渉は、内定が出る前に行うのが基本です。というのは、企業は給与などの希望条件を含めて内定を出しているからです。交渉を切り出すタイミングは、主に次の3つです。

1.応募企業側から「希望給与」を聞かれた時

企業から希望する給与額について聞かれた時が、給与交渉を切り出す絶好のタイミングです。面接の最後に聞かれることが多いですが、いつ質問されてもすぐに返答できるよう、希望給与額だけでなく、その理由も事前に準備しておくようにしましょう。

2.内定前の「条件面談」が設定された時

条件面談とは、内定前後に実施される場合がある、条件を相談するための面談機会を指します。内定前に条件面談が設定された場合、給与を含めた諸条件はまだ確定していないため、希望する給与額がある場合は、条件面談の場で交渉しましょう。選考が目的の面接とは違い、条件面談はあくまでも条件を相談する場であり、失礼な態度をとらない限り、選考に影響することはありません。ただし、企業によっては、条件面談を実施しないところもあります。

一方、内定後の条件面談の場合は、「年収額(給与)」が内定通知書に記載されていることが多く、この段階で給与交渉を行っても調整が難しいケースがあるようです。

  • 内定前:希望条件のヒアリングやすり合わせ
  • 内定後:労働条件等の説明とすり合わせ

3.面接の最後に「質問はありますか?」と聞かれたとき(逆質問)

面接の最後に行われる「逆質問」も給与交渉のタイミングのひとつです。ただし、一次面接の時点で給与の話を出すことに対して、抵抗感を抱く採用担当者もいます。相互理解が進んできた選考の中盤から後半のタイミングか、企業から条件について質問をされたタイミングで交渉するとよいでしょう。

給与交渉の言い方・伝え方の注意点

給与交渉はどのように進めたらいいのでしょうか。適切な伝え方を解説します。

給与額は求人に記載された額の範囲で

給与交渉は、採用担当者に納得感のある水準で行うために、求人に記載された給与額の範囲内を目安にしましょう。企業の多くは、経験や成果に合わせた給与テーブルがあるため、水準を考慮せずに自身の希望額のみを伝えると、希望が通る可能性は低く、また、企業から「求人票に記載された額と大幅に異なるが、みていないのだろうか?」と疑問を持たれることも考えられます。「求人では○○~○○万円となっていましたが…」といった形で、まずは提示されている条件の確認から話を進めていきましょう。

希望金額と、最低希望金額を伝える

「少なくとも900万円以上、できれば1000万が希望です」など、本来希望している金額と、最低でも得たい金額の2つを、理由とともに伝えるとよいでしょう。複数の選択肢を企業に示すことで、「この金額でしか内定は受けません」などと伝えるよりも企業に選択・検討の余地が生まれますし、交渉における印象もよくなり、何かしら善処してくれる場合があります。

給与の話ばかりしすぎない

給与交渉を行うといっても、給与の話ばかりしすぎるのは印象がよくありません。お互いに理解が深まっていない段階から、「○○万円を希望します」と一方的に話し始めるのも控えましょう。まずは自身の経験やスキルを十分にアピールし、魅力ある人材だと理解してもらってから、給与の話を切り出すことを意識しましょう。営業の値上げ交渉などと同様に、相手との駆け引きが重要です。

根拠を元に具体的に伝える

希望する給与額の根拠をきちんと示すことも大事です。前職の給与、業界相場、期待される成果などを元に、納得感のある数字を伝えましょう。家庭の事情が理由となる場合も、伝えれば考慮してもらえるケースもあります。また、前職の給与を元にして伝える場合には、基本給や各種手当、ボーナスについても事前に確認しておきましょう。

給与交渉をする際の伝え方(例文)

給与交渉をする際の伝え方の例を、場面別に紹介します。

企業から「希望給与」を聞かれたとき/内定前の「条件面談」の場

例文

「現職の年収が900万円であるため、1000万円を希望します。あるいは、最低希望金額として、現職の年収と同額を希望します」

企業から尋ねられた場合も、内定前の条件面談の場でも、理由を伝えた上で、希望する金額と、最低希望額の2つを伝えるとよいでしょう。

なお、「内定前に条件面談が設定される=ほぼ内定」と受け止める人がいますが、あくまで条件面談ですから、まだ内定は確定していない可能性があり、横柄な態度をとるなど強気の交渉は選考結果に影響を与える場合があります。気を抜かず、失礼のないように要望を伝えるようにしましょう。

面接の最後に「質問はありますか?」と聞かれたとき

例文

「(他の質問を終えたあとに)、給与についてもお話しさせてください。求人には年収700〜900万円と書かれておりましたので、少なくとも現職と同額の820万円以上、できれば900万円を希望します。御社では事業の中核を担う○○部の管理職として今までの経験をもとに貢献していく所存です。そのため、このような希望額を提示させていただきました。ご検討いただければと思います」

注意点は、逆質問を給与交渉からスタートするのはできるだけ避けることです。逆質問の機会に給与の話ばかりしていると、志望意欲に疑問をもたれる可能性があります。仕事内容や組織・事業戦略などに関する質問など、給与以外の質問をした上で、給与の希望を伝えましょう。

メールで給与交渉をする場合

例文

「二次面接の場でお伝えすることができませんでしたので、メールにて失礼いたします。給与の希望についてお伝えできればと存じます。求人には年収800〜1000万円と記載されていましたが、1100万円か、あるいは、最低でも現職と同額の1000万円を希望しております。現職で昇格の可能性があったことに加えて、今後、2人の子どもたちの高校・大学進学を控えていることが理由です。どうかご検討いただけると幸いです。次回〇月○日の最終面接の場でも、説明させていただければと存じます。」

メールで給与交渉を行うことも、NGではありません。最終面接の前や、最終面接後で結果が出る前などに、交渉理由と希望金額、最低希望金額を伝えましょう。

注意点は、できるだけ丁寧に、意図や背景も伝わるように書くことです。文字だけのやりとりになるため、書き方や内容によっては意図が十分に伝わらずに、企業の心証を悪くする可能性があるため、注意しましょう。次の面談や面接等、顔を合わせる機会に改めて説明したいことも付記すると、丁寧な印象が増します。

給与交渉が不安な場合は転職エージェントの活用を

転職エージェントは、応募企業の給与や、業界・職種の給与水準を把握しています。転職エージェントで応募する場合は、まずは転職エージェントの担当者に希望する給与額を伝えて、その金額が妥当なのかどうかを知ったうえで、給与交渉を行うかを判断することができます。

また、転職エージェントの担当者に依頼をして、企業の採用担当者に希望の給与額を事前に伝えてもらうこともできるので、面接などで給与交渉が切り出しやすくなるでしょう。

不満を残さないため、希望年収額はしっかりと検討する

30代後半以降になると、家族にかかる費用やライフスタイルを維持したいなどの理由から、「この金額は譲れない」といった強い希望が出てくるケースが増加します。金額を妥協して転職先を決めると、働いているうちに年収面で不満が出始めて、早期離職する可能性もあります。そのため、自分や家族が具体的にどの程度の年収であれば納得できるのかをしっかり考えることが大切です。

粟野友樹(あわの ともき)氏

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。

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